あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ

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決戦

ヤギミルクは繊細です

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ハイドラ様からの言伝を聞いてから4日……やっとの思いで路金が溜まりました。

もしかしたらサーグァ様は合流するまでの時間稼ぎに……いえ、あれは単に食べたかっただけですね。

それとライコに渡すレシピも完成したので、翡翠さんに預けておきましたがお返しと言わんばかりにニガリの作り方を教わりましたよ。

ロウが合流した時に翡翠さんに渡していた樽の中身って海水だったんですね……ここまで来るのに腐らなかったんでしょうか?

まあそれはいいとして、次に海辺の村に行った時にでも作っておきましょう。

この世界の塩で作る豆腐もそのままで食べるには美味しいのですが、ニガリで作った方が色んな料理に使えますからね。

出立は明後日に決まりましたし、神界に向かうという事はあたし達の精神だけでしょうからそれまでに人やモンスターが寄り付かない場所に居る必要がありますが……

ハイドラ様曰く「その辺りの手配はお任せ下さい」だそうなので安心して良いでしょう。

ですがその前に……折角だからヤギミルクを口にせねばなりません。

何故かヤギはこの村にしか居ないらしいし、美味しいと聞いては見過ごせる筈がありませんから。

……あたしにサーグァ様の食い気が伝染うつったなんて事はないですよね?




「これがそのヤギミルクですか……僅かに獣臭いというか何というか」

確かに牛乳より飲みやすいとは思いますが美味しいかと聞かれると……微妙?

「んー……ちょっと、青臭い?」

「ナクアのは生臭い感じがするよ?」

「俺のは酸っぱい様な気がするんだが?」

はて?味覚は人それぞれとはいえここまで評価が違うのはおかしいですね。

……試しにそれぞれのヤギミルクをシェアしつつ飲んでみると、確かに全員の言い分も納得出来ました。

入っている瓶によって青臭かったり生臭かったり、やけに酸っぱかったり。

これは一体?

「おや、ヤギミルクを買ったのかい?」

おや、アプさんもヤギミルクを……買ってませんね。

「先に言っときゃ良かったねぇ……ヤギミルクは餌や搾る環境なんかで大きく味が変わっちまうらしくて、そこら辺で売ってるのはほぼ家畜やペット用なんだよ」

それは先に言っておいて欲しかったのですが……そういえば日本でもヤギミルクは主にペット用でしたね。

「因みにこのヤギミルクは美容液の材料にもなるんだよ」

ほほう、あの噂の美容液の材料ですか……それなら味は余り関係なさそうですね。

残った分はアプさんに渡しておきます。



そんなこんなでロウとナクアちゃん、コカちゃんは宿に戻って……

何故かあたしだけがアプさんと一緒に、案内されつつ向かったのは……郊外の一軒家?

郊外というか……村がギリギリ見えるぐらいに離れているんですが?

「こんな離れた所に住んでて不便じゃないんでしょうか?」

「ここが見えるって事は、やっぱりキュアには資格があったみたいだねぇ」

資格?

「以前コカとデストも連れて来た事があったんだが、2人にはこの家が見えなかったらしくてねぇ……多分、あたいが強いと認めた奴じゃないと入れないんだろうよ」

ふむ、アプさんが強いと認めた相手となるとクティや翡翠さんも入れそうではありますね。

クティはイケボスライムに教育して翡翠さんは製薬をしてるから来てませんけど。

「村のヤギミルクはほぼ全てが家畜やペット用、美味いのが欲しいならここが確実なのさ」

成程……何で強さが必要なのかは気になりますがアプさんが言うなら本当に美味しいのでしょう。




「邪魔するよ」

「……ああ、アプさんでしたかってその子は?」

「あ、どうも……キュアといいます」

はて、薄暗いせいか足元しか見えませんけどパッと見た所鍛えている訳でもなさそうだし……

感じる気や魔力も精々人並で余り強そうには見えませんが。

「……アプさんが認めた相手ならば問題はないですね、ですが初対面で人の強さを値踏みするのは関心しない」

あたしの心が読まれてる!?

「……自己紹介は必要でしたね、私はイゴール、世間の言う所の……デュラハンをしている」

デュラハン……って確か斬首された騎士の怨念がそう呼ばれていましたね。

それにイゴールって……イゴールナク?

確かイゴールナクも首がない邪神とか言われていましたが……

「……ああ、君は外来人ですか、初めて見ました……一応言っておく、私はまだ死んでいない」

デュラハンってアンデットの名前だと思いましたが生きてるって……どういう事なんでしょう?

よく見たら確かにイゴールさんには首がありますね、これは失礼しました。

「確かに首のない騎士の怨念はデュラハンって呼ぶけどねぇ……他にも闇属性の魔法を使える騎士をそう呼んだりもするのさ」

あー……あたしの心を読んだりこの家を見えない様にしているのもその闇属性の魔法って事ですか。

でも何でまたこんな所に?

「……私の妻はいわゆるサキュバスだし、個人的にも余り他人とは接したくない」

貴方、結婚してたんですか……しかも相手はサキュバス。

「……誤解のない様に言うが私と妻は恋愛結婚だし、私以外の生気は吸わない……だから見逃してはくれないか?」

「安心して下さい、トゥグア様ならば愛さえあれば全て許してくれますから」

確認もせずに言ってしまいましたが……まあトゥグア様なら例えスケルトンとゾンビの夫婦であろうとラブコメさえあれば許すでしょうし、問題はないでしょう。

いざとなっても干物をお供えすれば何とかなるとは思いますが。

「ってもしかしてイゴールさんに生気が感じられないのはその奥さんの?」

「……いや、この見た目と性格は元からだ」

貴方よく結婚できましたね!?

「……そういえば、アプさんは何時ものですか?」

「ああ、頼むよ……それと来年からはこのキュアが受け取りに来る場合があると思ってくれるかい?」

「……解りました、クィスにも言っておきましょう」

クィスって……ああ、奥さんの名前ですね。

そういえば奥さんを見掛けませんが……

「……妻は今、出産の為に里帰りをしている」

あ、お産でしたか……それはおめでとうございます。




あの一軒家を出た帰り道……ヤギミルクと引き換えに山盛りの食料を渡してましたけど、お金じゃなくていいんでしょうか?

「イゴールは悪い奴じゃないんだが、コミュ障な上に人間不信な所があってねぇ……あの結界も他人と関わりたくないっていう願望の現れなんだよ」

人間不信……何があったのかは気になりますが追求は止めておきます。

コミュ障まで患っているとなれば下手に触れていい話でもなさそうですし。

「そんな訳であいつに金を持たせたって買い物なんざ出来やしないよ……ま、クィスに出会ってからは大分マシにはなったが」

それでお金ではなく食料で払ったんですね……

というかアレでマシになったって、昔はどんなだったんですか?

「……所でアプさんはどうやってイゴールさんと出会ったのですか?」

「あいつがクィスに出会う前に村の畑で泥棒が出たって話を聞いてねぇ、捕まえようと探してる時にたまたま会ったんだよ……ま、犯人はイゴールじゃなくてイノシシだったんだが」

まあ人間不信であの性格じゃ疑われ易いのは解りますけど……

というかアプさんはイゴールさんの奥さんに会った事があるんですね。

「2度目に会った時は人間とサキュバスが結婚した、なんて言われてねぇ……何だか他人に思えなくなっちまったのさ」

アプさんも普通の人間と結婚していましたからね……

それでこうやって会いに行っている、と。

「……キュアなら大丈夫だとは思うが、イレムではあいつの事は口外しないでやってくれないかい?で、会う時は食料を多目に渡してやって欲しいんだよ」

まあ人間不信のイゴールさんにサキュバスの奥さんとなれば迫害されかねませんからね……

それはトゥグア様の望む事ではないでしょうし。

「それとキュア、ボリアでデストの式が終わったら最低でも1年はあたいに同行して貰うが……既にジェネにも許可は貰ってあるよ」

え、コカちゃんは王様の子の教育係になるしナクアちゃんはアトラさんの元でメイド修行、ロウもナクアちゃんの側に居なくてはならないから……

丸1年は皆と離れ離れになるって事ですか!?

「どの道結婚は5年後だろう?それまでにキュアには……イゴールみたいにコカと会わせる事が出来ない、でも旅を続ける上で絶対に必要となる、あたいがパクと共に築いてきた人脈の全てを引き継いで貰うよ」

成程……確かにそれは必要な事ですね。

可能であれば子供達にも教えなくてはならない、となれば覚えるしかありません。

「解りました」

次にイゴールさんと会う時は奥さんも居るだろうし、食料と一緒に何か料理でも差し入れてあげましょう。



なお、イゴールさんに頂いたヤギミルクは微かな甘味もあって非常に美味しいミルクでした。
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