109 / 122
決戦
VSザトー ※ロウ視点
しおりを挟む
えっと……浜辺で昆布?を並べてる魚人が居るって事はここ、翡翠さんと出会ったルルイの近くか?
何でこんな所に居るのかは……まあクティの仕業で間違いないとして、何でルルイなんだ?
忍者のザトーと戦うんなら森か山、見通しの悪い岩場辺りかと思ってたんだが……
「あ、ロウお兄ちゃーん!」
「ミャー!」
「ナクア……一緒に来てたのか」
そういえば頭が軽いと思ったらトウカはナクアと一緒に居たんだな。
ってトウカ、早速頭に乗ろうとするのはいいけど爪を立てるな。
「ここに来たのは俺達だけか……そろそろ出てきたらどうだ?」
「……待ってた」
やっぱり俺の相手はザトーだったか……ってオイ!?
「何で紐水着なんだよ!?」
確かに目の前は海だけど、忍者なら黒装束を着ろよ!
「童貞には、これが効果的、理由、童貞だから」
いや、それは例え童貞でなくても大抵の男に効果があるから!
とはいえ俺が直視出来ないのは確かだが……キュアに知られたら絶対殴られるぞこれ。
「……お姉ちゃん、だあれ?」
「グハァッ!?」
あ、やっぱりか……
話を聞く限りだとザトーが最後にナクアと会ったのは7年前……当時3か4歳だったナクアが覚えている可能性は低いよなぁ。
ましてや契約した時に一部の記憶が消えてたから更に低くなるだろうし。
ぶっちゃけナクアはクティの事も覚えてなかったからな、仕方ないだろう。
というかザトー、コカの魔法でもほぼ無傷だったのにナクアの一言が血を吐く程に効いたのか?
気持ちは解らんでもないけどな……俺もキュアに同じ事を言われたら絶対に血反吐を吐く自信がある。
「おのれ童貞、よくもナクアを……絶対殺す!」
酷い言いがかりだな!
まあいい、俺のやるべき事は変わらないし。
「1つだけ聞かせろ……お前、俺を殺した後はどうするつもりだ?」
「ザトーは、最後の鍵……水晶となって、トゥグアの元、向かう」
予想通りか。
アトラさん、ナクアと契約した時に2つの内1つの水晶から感じた何か……
正直最初は気のせいかと思ってたがザトーに再会した時はその何かをより強く感じたし、何かしらあると思ってた。
……自分で言ってて良く解らん説明になったがそうとしか言い様がないんだから仕方ない。
多分、幻獣使いになった事で感じられる様になったんだろうけど……命を狙われるのは予想外だったが、ナクアとアトラさんを救えたから結果的になって良かったと思うよ。
だからって死ぬ訳にはいかないし、あいつは絶対に倒す訳にはいかない。
「お前はトゥグア様の元には行けないぞ……俺が契約するからな」
「童貞……アトラ姉さまと、ナクアだけでなく、ザトーまで、辱しめるつもり?」
俺=性欲の塊、みたいな扱いをするんじゃねぇ!
もしそうならこの世界に来てすぐに童貞を卒業してるわ!
というか、アトラさんを辱しめた覚えはねーよ!?
「ロウお兄ちゃん、どーてーって何?」
「……ナクアがそれを知るのは5年ぐらい早い物だぞ?」
まだお子様のナクアに言える訳がない。
言ったらアトラさんにアプさん、コカとキュアから何をされるか解った物じゃないし……今なら兄貴の折檻まで付いてくるからな。
「……トウカにリコッタ、お前達も教えるんじゃないぞ?」
「ミャッ!」
「ピー!」
本当に頼むぞ?
怒られて殴られるのは俺なんだからな?
「無駄話、ここまで……殺す!」
さて、と……まずはどうにかしてあいつに触る必要があるんだがどうした物か。
「ロウお兄ちゃん苛めちゃダメーっ!?」
「グッ……ナクア、ちょっと、退いて」
ナクア……ザトーがナクアに危害を加えるとは思わないけど、危ないから下がってような?
それと今は一応シリアスな場面だから緊張感を崩す様な事は控えて欲しい。
「ロウお兄ちゃん殺そうとするお姉ちゃんなんてキライ!」
「ガハァッ!?」
おいザトー……今の一言が血反吐に加えて血の涙を流すぐらい効いたのか?
まあ気持ちは解るんだけど……解ってしまう俺もどうかとは思うが。
……あ、そういう事か。
ザトーと戦うと覚悟してからずっと感じていた何とかなるって自信……ようやく理解した。
こいつ、俺の同類なんだな。
それならやり様は幾らでもある。
「おーい、大丈夫か?」
「ナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに……」
こえーよ、でもチャンスだし今の内に触っておこう。
で、肩に触れても反応ないし……どんだけショックだったんだ?
最初はザトーの攻撃を避けつつ隙を見て触れて、そこから10分逃げ回るつもりだったんだけど……
ナクアのお陰で苦労する事なく時間を稼げちまったな。
というか、ザトーはナクア1人で倒せるんじゃないかって気がしてきたんだが?
っと、いつ正気に戻るか解らないし……
「ナクア、【粘糸】」
「はーい!」
「トウカ、【水縛】」
「ミャッ!」
で、青の矢で水縛を氷らせて……これで良し。
仮に正気に戻ってもこれなら更に時間を稼げるだろ。
……本当に緊張感の欠片すらない戦いになっちまったなぁ。
これを戦いと呼んでいいのかは疑問だけど。
とりあえず暇だからナクアと遊んでいたら……ザトーが氷の檻と粘糸を燃やして脱出しやがった。
やっぱりあの糸は火に弱いんだな……知ってたけど。
ってザトーが着てた水着まで燃えてあられもない事になってやがる。
「ゼー、ゼー……やっと、出れた」
「うん、まあ何だ……ナクアの教育に悪いから服は着ておけよ?」
「……ナクアの為、それなら、仕方ない」
お前、ナクアが絡めば素直だな。
っと、大体5割って所か……もう少しかかるな。
「今度こそ……殺す!」
もう着替え終わったのか。
流石に同じ手は通じないだろうし……次はアレで行くか。
「トウカ、ナクアの所に行ってくれ」
「ミャッ」
「ナクア、【融合・トウカ、リコッタ】」
「はーい!」
これぞナクアの戦闘形態、猫耳天使モード(命名・キュア)だ。
ザトーもこの技能については知らなかっただろ。
普通ならビックリはしても惑わされる事はないだろうが……
「ナクアが……余りの可愛さに、天使に、なった?」
俺の同類なザトーになら通じるよな。
これで更に時間を稼げる。
「ナクア、暫く辺りを飛んで回ってくれ」
「解ったー!」
さて、これで6割ぐらいか……後4~5分って所だな。
ピーニャとロシンが居れば確実に戦わず稼げた時間だが……まあ居ない物は仕方ない。
これでナクアの技能は打ち止めだし、後は俺自身で何とかしないとな。
「ナクアの、余りの可愛さに、我を忘れた……でももう、惑わされない、覚悟して」
鼻血を出しながら言ってもなぁ……全然締まらないぞ?
とりあえずナクアにはそのまま飛んでて貰ってるし、ようやくシリアスになりそうだ。
ナクアはおよそ7分も稼いでくれたからな、後3分ぐらいは真面目に付き合ってやるよ。
「【忍術・火遁】!」
やっぱり忍術は使えるのか……粘糸を燃やしたのもあの火遁だろう。
「俺に火は通じないぞ、【水壁】!」
よし、相変わらずナクアの技能は疎通以外が使えないけどトウカの技能なら一通り使える。
付き合いはナクアの方が長いんだけど何でだろうな……まあ俺がトウカと融合したって需要ないだろうし、粘糸は便利そうだけど造るのは生態に関係があるのかもしれん。
「火が通じないのは、知ってる、火遁は囮……【忍術・雷遁】!」
こいつ、電流も使えるのかよ!
電流を避けるなら緑の矢……って、砂浜じゃ植物は育たない!
なら鉄の矢を避雷針代わりに……よし、上手くいった!
「む……なら、【影縛り】!」
影縛り……って確か相手の足を止める術か!?
「そのまま、ジッとしてて……大丈夫、一瞬で、首をはねる」
全然大丈夫じゃねーよ!
えっと確か影縛りの弱点は……黄色の矢!
こいつを俺の影に射てば光で拘束が解ける筈だ!
「……躱された」
危ねぇぇ……後少し遅かったら首と胴体が永遠にお別れする所だったぞ。
「それなら……【分身】!」
今度は分身の術かよ!
とはいえザトーの動きは目で追えない訳じゃない……背後に陣取ったバイコの方が脅威だったぐらいだ。
回避に専念してれば何とかなる!
「ハー、ハー、しぶとい、いい加減、死んで」
「ゼー、ゼー……まだ、死ぬ訳には、いかないんだよ」
大分長く戦ってる気がするんだが……まだなのか?
そろそろ体力も限界が近いんだけど。
「……でも、最後は、ザトーが勝つ」
……何だ?身体が重い?
いや、違う……身体が動かせない!
「【傀儡】……ようやく、捕まえた」
傀儡……確か初めて会った時に、倒れた貴族の私兵に使っていたアレか!
まさか意識のある者まで操れるとは思わなかった。
「童貞は、ザトーの手で、殺したかった……でも、避けられ続けたから、諦める……だから、自分の手で、死んで」
こいつ、俺を操って短剣を……
ぐっ……駄目だ、自分の意思じゃほんの僅かに動きを遅くするので精一杯か!
後、少しだってのに……
「……さよなら」
「ダメーっ!」
ナクア、危ないから離れてろって言っただろ!
って短剣を俺の両腕ごと粘糸で簀巻き状態に!
「ロウお兄ちゃんは絶対に死なせないもん!」
流石に操られていてもこう縛られたら動かし様がないよな。
まあ……ナクアには色々と言いたい事はあるけど、結果的に助かったからいいや。
「思わぬ邪魔、入った……でも、その状態なら、簡単に、殺せる」
「残念だが……ようやく時間だ」
「時間?……な、何?身体が……熱い?それに、首輪!?」
「【強制契約】……魔力を込めながら触れてから数えて10分で契約が完了する、幻獣使いの禁じ手だ」
本来なら合意の元で、意識を1つにしながら接触する事で契約するべきなんだけどな。
その為の手っ取り早い手段がキスな訳なんだが……ザトーは確実に避けるだろうし、あえて油断させつつ近づいて契約前に刺されてたかもしれないし、最悪自害する可能性もあった。
ザトーの水晶が地の女神の目的の要なのは察していたから倒せないし殺せない、となればこれしか方法がなかった。
とはいえこの強制契約は本来の契約に比べて拘束力が弱いし、ザトーの持っている技能は俺には使えないらしい……忍術はちょっとだけ使ってみたかったが仕方ない。
加えて3回の命令で契約が切れる、というデメリットがある。
つまり俺がザトーに命令を出せるのは2回が限度って訳だ。
「【強制命令・自他の命を奪う事を禁ずる】!」
これでザトーはもう誰も殺せない。
だが契約が切れたらこの命令も解除されるし、再契約は今回みたいに上手く行かないだろうから気を付けないとな……
その場合はキュアが拳で教育するだろうけど。
「くっ……不覚…………クティ……様、ごめん……なさい」
……気を失ったか。
ま、これでもう大丈夫だろ。
でも念の為に指輪の中へ収納しておこう。
「ナクア……そろそろこの粘糸を解いてくれないか?」
「やだ」
何故に?
ってナクア……ナクアさん?
もしかして凄く怒っていらっしゃる?
「ロウお兄ちゃんは危ないって言ったけど、ナクアよりロウお兄ちゃんの方が危なかった!」
まあ、俺自身の命がかかっていたからな。
死ぬ気で戦わざるを得なかったのは解って欲しい。
……本当にこれを戦いと呼んでいいのかは疑問だけど。
「それで、今日のナクアは役に立ったよね?」
はい、滅茶苦茶助かりました。
正直言ってナクアが居なかったら殺されていた可能性が高い。
「だからぁ、ご褒美ちょーだい」
「そういう事か……いいけどその前に、荷物からスクロールを出してくれないか?終わった事を報告しないと」
「うん!これでいい?」
これは翡翠さん宛か……よし、スクロール発動っと。
【ケイヤク、カンリョウ】
コカとアプさんと翡翠さんは……まあ楽勝だろうな。
問題はキュアだが……せめて無事で居てくれよ。
「まあ何だ、イレムまではゆっくり行くか」
「えへへ、ロウお兄ちゃんと2人っきりー!」
トウカとリコッタが居るから2人きりではないと思うんだが……
って誰だ肩を叩くのは……魚人?
「ギョーギョ、ギョー、ギョギョ」
「えっと、ムーまでで良ければ海路を使って送るから翡翠の姉御にこれを渡してくれ、か?」
「ギョ!」
疏通が使える様になってて良かった……
これは前にも貰った乾燥昆布と……樽に摘めた海水か?
まあ渡せと言うなら渡すけど。
そういやムーにはキュアが干しダコとスルメの作り方を教えたドワーフのおばちゃんが居たっけ。
祭りの日にぎっくり腰で倒れた人だとは聞いたけど。
「ムーで水晶を換金して一泊して、釣りをして干しダコ買ってから戻るか?」
「うん!ナクア、またタコ食べたい!」
決まりだな……それじゃお言葉に甘えて送って貰うか。
釣りとタコで時間を取られそうだけど、少なくとも今から歩いて戻るよりは早いしな。
何でこんな所に居るのかは……まあクティの仕業で間違いないとして、何でルルイなんだ?
忍者のザトーと戦うんなら森か山、見通しの悪い岩場辺りかと思ってたんだが……
「あ、ロウお兄ちゃーん!」
「ミャー!」
「ナクア……一緒に来てたのか」
そういえば頭が軽いと思ったらトウカはナクアと一緒に居たんだな。
ってトウカ、早速頭に乗ろうとするのはいいけど爪を立てるな。
「ここに来たのは俺達だけか……そろそろ出てきたらどうだ?」
「……待ってた」
やっぱり俺の相手はザトーだったか……ってオイ!?
「何で紐水着なんだよ!?」
確かに目の前は海だけど、忍者なら黒装束を着ろよ!
「童貞には、これが効果的、理由、童貞だから」
いや、それは例え童貞でなくても大抵の男に効果があるから!
とはいえ俺が直視出来ないのは確かだが……キュアに知られたら絶対殴られるぞこれ。
「……お姉ちゃん、だあれ?」
「グハァッ!?」
あ、やっぱりか……
話を聞く限りだとザトーが最後にナクアと会ったのは7年前……当時3か4歳だったナクアが覚えている可能性は低いよなぁ。
ましてや契約した時に一部の記憶が消えてたから更に低くなるだろうし。
ぶっちゃけナクアはクティの事も覚えてなかったからな、仕方ないだろう。
というかザトー、コカの魔法でもほぼ無傷だったのにナクアの一言が血を吐く程に効いたのか?
気持ちは解らんでもないけどな……俺もキュアに同じ事を言われたら絶対に血反吐を吐く自信がある。
「おのれ童貞、よくもナクアを……絶対殺す!」
酷い言いがかりだな!
まあいい、俺のやるべき事は変わらないし。
「1つだけ聞かせろ……お前、俺を殺した後はどうするつもりだ?」
「ザトーは、最後の鍵……水晶となって、トゥグアの元、向かう」
予想通りか。
アトラさん、ナクアと契約した時に2つの内1つの水晶から感じた何か……
正直最初は気のせいかと思ってたがザトーに再会した時はその何かをより強く感じたし、何かしらあると思ってた。
……自分で言ってて良く解らん説明になったがそうとしか言い様がないんだから仕方ない。
多分、幻獣使いになった事で感じられる様になったんだろうけど……命を狙われるのは予想外だったが、ナクアとアトラさんを救えたから結果的になって良かったと思うよ。
だからって死ぬ訳にはいかないし、あいつは絶対に倒す訳にはいかない。
「お前はトゥグア様の元には行けないぞ……俺が契約するからな」
「童貞……アトラ姉さまと、ナクアだけでなく、ザトーまで、辱しめるつもり?」
俺=性欲の塊、みたいな扱いをするんじゃねぇ!
もしそうならこの世界に来てすぐに童貞を卒業してるわ!
というか、アトラさんを辱しめた覚えはねーよ!?
「ロウお兄ちゃん、どーてーって何?」
「……ナクアがそれを知るのは5年ぐらい早い物だぞ?」
まだお子様のナクアに言える訳がない。
言ったらアトラさんにアプさん、コカとキュアから何をされるか解った物じゃないし……今なら兄貴の折檻まで付いてくるからな。
「……トウカにリコッタ、お前達も教えるんじゃないぞ?」
「ミャッ!」
「ピー!」
本当に頼むぞ?
怒られて殴られるのは俺なんだからな?
「無駄話、ここまで……殺す!」
さて、と……まずはどうにかしてあいつに触る必要があるんだがどうした物か。
「ロウお兄ちゃん苛めちゃダメーっ!?」
「グッ……ナクア、ちょっと、退いて」
ナクア……ザトーがナクアに危害を加えるとは思わないけど、危ないから下がってような?
それと今は一応シリアスな場面だから緊張感を崩す様な事は控えて欲しい。
「ロウお兄ちゃん殺そうとするお姉ちゃんなんてキライ!」
「ガハァッ!?」
おいザトー……今の一言が血反吐に加えて血の涙を流すぐらい効いたのか?
まあ気持ちは解るんだけど……解ってしまう俺もどうかとは思うが。
……あ、そういう事か。
ザトーと戦うと覚悟してからずっと感じていた何とかなるって自信……ようやく理解した。
こいつ、俺の同類なんだな。
それならやり様は幾らでもある。
「おーい、大丈夫か?」
「ナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに……」
こえーよ、でもチャンスだし今の内に触っておこう。
で、肩に触れても反応ないし……どんだけショックだったんだ?
最初はザトーの攻撃を避けつつ隙を見て触れて、そこから10分逃げ回るつもりだったんだけど……
ナクアのお陰で苦労する事なく時間を稼げちまったな。
というか、ザトーはナクア1人で倒せるんじゃないかって気がしてきたんだが?
っと、いつ正気に戻るか解らないし……
「ナクア、【粘糸】」
「はーい!」
「トウカ、【水縛】」
「ミャッ!」
で、青の矢で水縛を氷らせて……これで良し。
仮に正気に戻ってもこれなら更に時間を稼げるだろ。
……本当に緊張感の欠片すらない戦いになっちまったなぁ。
これを戦いと呼んでいいのかは疑問だけど。
とりあえず暇だからナクアと遊んでいたら……ザトーが氷の檻と粘糸を燃やして脱出しやがった。
やっぱりあの糸は火に弱いんだな……知ってたけど。
ってザトーが着てた水着まで燃えてあられもない事になってやがる。
「ゼー、ゼー……やっと、出れた」
「うん、まあ何だ……ナクアの教育に悪いから服は着ておけよ?」
「……ナクアの為、それなら、仕方ない」
お前、ナクアが絡めば素直だな。
っと、大体5割って所か……もう少しかかるな。
「今度こそ……殺す!」
もう着替え終わったのか。
流石に同じ手は通じないだろうし……次はアレで行くか。
「トウカ、ナクアの所に行ってくれ」
「ミャッ」
「ナクア、【融合・トウカ、リコッタ】」
「はーい!」
これぞナクアの戦闘形態、猫耳天使モード(命名・キュア)だ。
ザトーもこの技能については知らなかっただろ。
普通ならビックリはしても惑わされる事はないだろうが……
「ナクアが……余りの可愛さに、天使に、なった?」
俺の同類なザトーになら通じるよな。
これで更に時間を稼げる。
「ナクア、暫く辺りを飛んで回ってくれ」
「解ったー!」
さて、これで6割ぐらいか……後4~5分って所だな。
ピーニャとロシンが居れば確実に戦わず稼げた時間だが……まあ居ない物は仕方ない。
これでナクアの技能は打ち止めだし、後は俺自身で何とかしないとな。
「ナクアの、余りの可愛さに、我を忘れた……でももう、惑わされない、覚悟して」
鼻血を出しながら言ってもなぁ……全然締まらないぞ?
とりあえずナクアにはそのまま飛んでて貰ってるし、ようやくシリアスになりそうだ。
ナクアはおよそ7分も稼いでくれたからな、後3分ぐらいは真面目に付き合ってやるよ。
「【忍術・火遁】!」
やっぱり忍術は使えるのか……粘糸を燃やしたのもあの火遁だろう。
「俺に火は通じないぞ、【水壁】!」
よし、相変わらずナクアの技能は疎通以外が使えないけどトウカの技能なら一通り使える。
付き合いはナクアの方が長いんだけど何でだろうな……まあ俺がトウカと融合したって需要ないだろうし、粘糸は便利そうだけど造るのは生態に関係があるのかもしれん。
「火が通じないのは、知ってる、火遁は囮……【忍術・雷遁】!」
こいつ、電流も使えるのかよ!
電流を避けるなら緑の矢……って、砂浜じゃ植物は育たない!
なら鉄の矢を避雷針代わりに……よし、上手くいった!
「む……なら、【影縛り】!」
影縛り……って確か相手の足を止める術か!?
「そのまま、ジッとしてて……大丈夫、一瞬で、首をはねる」
全然大丈夫じゃねーよ!
えっと確か影縛りの弱点は……黄色の矢!
こいつを俺の影に射てば光で拘束が解ける筈だ!
「……躱された」
危ねぇぇ……後少し遅かったら首と胴体が永遠にお別れする所だったぞ。
「それなら……【分身】!」
今度は分身の術かよ!
とはいえザトーの動きは目で追えない訳じゃない……背後に陣取ったバイコの方が脅威だったぐらいだ。
回避に専念してれば何とかなる!
「ハー、ハー、しぶとい、いい加減、死んで」
「ゼー、ゼー……まだ、死ぬ訳には、いかないんだよ」
大分長く戦ってる気がするんだが……まだなのか?
そろそろ体力も限界が近いんだけど。
「……でも、最後は、ザトーが勝つ」
……何だ?身体が重い?
いや、違う……身体が動かせない!
「【傀儡】……ようやく、捕まえた」
傀儡……確か初めて会った時に、倒れた貴族の私兵に使っていたアレか!
まさか意識のある者まで操れるとは思わなかった。
「童貞は、ザトーの手で、殺したかった……でも、避けられ続けたから、諦める……だから、自分の手で、死んで」
こいつ、俺を操って短剣を……
ぐっ……駄目だ、自分の意思じゃほんの僅かに動きを遅くするので精一杯か!
後、少しだってのに……
「……さよなら」
「ダメーっ!」
ナクア、危ないから離れてろって言っただろ!
って短剣を俺の両腕ごと粘糸で簀巻き状態に!
「ロウお兄ちゃんは絶対に死なせないもん!」
流石に操られていてもこう縛られたら動かし様がないよな。
まあ……ナクアには色々と言いたい事はあるけど、結果的に助かったからいいや。
「思わぬ邪魔、入った……でも、その状態なら、簡単に、殺せる」
「残念だが……ようやく時間だ」
「時間?……な、何?身体が……熱い?それに、首輪!?」
「【強制契約】……魔力を込めながら触れてから数えて10分で契約が完了する、幻獣使いの禁じ手だ」
本来なら合意の元で、意識を1つにしながら接触する事で契約するべきなんだけどな。
その為の手っ取り早い手段がキスな訳なんだが……ザトーは確実に避けるだろうし、あえて油断させつつ近づいて契約前に刺されてたかもしれないし、最悪自害する可能性もあった。
ザトーの水晶が地の女神の目的の要なのは察していたから倒せないし殺せない、となればこれしか方法がなかった。
とはいえこの強制契約は本来の契約に比べて拘束力が弱いし、ザトーの持っている技能は俺には使えないらしい……忍術はちょっとだけ使ってみたかったが仕方ない。
加えて3回の命令で契約が切れる、というデメリットがある。
つまり俺がザトーに命令を出せるのは2回が限度って訳だ。
「【強制命令・自他の命を奪う事を禁ずる】!」
これでザトーはもう誰も殺せない。
だが契約が切れたらこの命令も解除されるし、再契約は今回みたいに上手く行かないだろうから気を付けないとな……
その場合はキュアが拳で教育するだろうけど。
「くっ……不覚…………クティ……様、ごめん……なさい」
……気を失ったか。
ま、これでもう大丈夫だろ。
でも念の為に指輪の中へ収納しておこう。
「ナクア……そろそろこの粘糸を解いてくれないか?」
「やだ」
何故に?
ってナクア……ナクアさん?
もしかして凄く怒っていらっしゃる?
「ロウお兄ちゃんは危ないって言ったけど、ナクアよりロウお兄ちゃんの方が危なかった!」
まあ、俺自身の命がかかっていたからな。
死ぬ気で戦わざるを得なかったのは解って欲しい。
……本当にこれを戦いと呼んでいいのかは疑問だけど。
「それで、今日のナクアは役に立ったよね?」
はい、滅茶苦茶助かりました。
正直言ってナクアが居なかったら殺されていた可能性が高い。
「だからぁ、ご褒美ちょーだい」
「そういう事か……いいけどその前に、荷物からスクロールを出してくれないか?終わった事を報告しないと」
「うん!これでいい?」
これは翡翠さん宛か……よし、スクロール発動っと。
【ケイヤク、カンリョウ】
コカとアプさんと翡翠さんは……まあ楽勝だろうな。
問題はキュアだが……せめて無事で居てくれよ。
「まあ何だ、イレムまではゆっくり行くか」
「えへへ、ロウお兄ちゃんと2人っきりー!」
トウカとリコッタが居るから2人きりではないと思うんだが……
って誰だ肩を叩くのは……魚人?
「ギョーギョ、ギョー、ギョギョ」
「えっと、ムーまでで良ければ海路を使って送るから翡翠の姉御にこれを渡してくれ、か?」
「ギョ!」
疏通が使える様になってて良かった……
これは前にも貰った乾燥昆布と……樽に摘めた海水か?
まあ渡せと言うなら渡すけど。
そういやムーにはキュアが干しダコとスルメの作り方を教えたドワーフのおばちゃんが居たっけ。
祭りの日にぎっくり腰で倒れた人だとは聞いたけど。
「ムーで水晶を換金して一泊して、釣りをして干しダコ買ってから戻るか?」
「うん!ナクア、またタコ食べたい!」
決まりだな……それじゃお言葉に甘えて送って貰うか。
釣りとタコで時間を取られそうだけど、少なくとも今から歩いて戻るよりは早いしな。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

ダークナイトはやめました
天宮暁
ファンタジー
七剣の都セブンスソード。魔剣士たちの集うその街で、最強にして最凶と恐れられるダークナイトがいた。
その名を、ナイン。畏怖とともにその名を呼ばれる青年は、しかし、ダークナイトをやめようとしていた。
「本当に……いいんですね?」
そう慰留するダークナイト拝剣殿の代表リィンに、ナインは固い決意とともにうなずきを返す。
「守るものができたからな」
闇の魔剣は守るには不向きだ。
自らが討った聖竜ハルディヤ。彼女から託された彼女の「仔」。竜の仔として育てられた少女ルディアを守るため、ナインは闇の魔剣を手放した。
新たに握るのは、誰かを守るのに適した光の魔剣。
ナインは、ホーリーナイトに転職しようとしていた。
「でも、ナインさんはダークナイトの適正がSSSです。その分ホーリーナイトの適正は低いんじゃ?」
そう尋ねるリィンに、ナインは平然と答えた。
「Cだな」
「し、C!? そんな、もったいなさすぎます!」
「だよな。適正SSSを捨ててCなんてどうかしてる」
だが、ナインの決意は変わらない。
――最強と謳われたダークナイトは、いかにして「守る強さ」を手に入れるのか?
強さのみを求めてきた青年と、竜の仔として育てられた娘の、奇妙な共同生活が始まった。
(※ この作品はスマホでの表示に最適化しています。文中で改行が生じるかたは、ピンチインで表示を若干小さくしていただくと型崩れしないと思います。)


出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

RD令嬢のまかないごはん
雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。
都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。
そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。
相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。
彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。
礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。
「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」
元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。
大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる