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菜食主義者と炭酸水

男子達の昼飯 ※ロウ視点

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「……よし、ビフー肉の塊と脂身、ホースラディッシュに鉄板、特製の鉄箱、各種調味料は全部揃ったな」

「まさか5キロの塊を580ハウトで買うとは……もうすぐ結婚するのに金は大丈夫なのか?」

まあ兄貴の屋台は武器がメインで単価も違うからキュアの屋台と比べるのはアレだけど。

「そりゃ結婚に金が掛かるのは承知してるし、節約は大事だがな……最後に食った肉らしい肉はあのイノシシだぞ?ずっと肉が食えないってかなり……精神的にクるぞ?」

「その気持ちは解らんでもないけど……夕飯はクックーの唐揚げ食ったよな?」

「何と言うか……クックー肉も確かに美味いがアッサリしてるというか、サッパリしてるというか、とにかく肉を食ったという感じじゃないんだよなぁ……しかもあの唐揚げはささ身だったし」

「それも解らなくはないな……確かに脂が足りない」

俺も日本に居た頃は給食以外で肉を食えなかったからなぁ……しかも土地柄のせいか魚の比率のが多かったし。

中学に入って弁当になってからはキュアによく入れて貰ってたけど。

家ではどうだったって?

魚を釣らない限りモヤシと豆苗、食パン以外を食えなかった!

「とはいえ流石に1人じゃ食い切れねぇし、姐さんに言ったら殴られるし、お嬢は姐さんに伝えちまうし、嬢ちゃんは確実にジェネに伝える、ナクアは誰に対しても口が軽い……解るな?」

翡翠さんは口が固いけど肉は余り食わないみたいだし……ピーニャはナクアにバラすだろうからな。

因みにトウカはナクアと釣りに行った……久しぶりに頭が軽いんだけど妙な違和感があるのは何故だ?

「男には……一心不乱に肉の脂を貪りたい時がある!」

「付き合うぜ、兄貴!」

「でしたら私も!」

……今、聞こえてはいけない声が聞こえてしまった様な気がする。

「サーグァ様……いつからそこに?」

「デストさんがお肉の塊を買うのが見えたのでコッソリ着いて来ちゃいました」

流石サーグァ様……美味い物に対する嗅覚が半端じゃねぇ。

「心配せずとも美味しければちゃんと黙っておきますよ?私は美味しい物を作れる人の味方ですから」

つまり食わせろ、と……

実にサーグァ様らしい要求だ……ある意味助かったけど。

「まあ、こいつが美味いのは確かだし……正直2人で食い切れるかは微妙だったからな」

「確かにサーグァ様が居れば残る心配はないか……」

「……2人で食べ切れないならどうしてそんな塊を?」

「その場のノリ……かな?」

御相伴に預かる身で言うのはアレだけど、ノリで580ハウトを払えるって……兄貴はどんだけ稼いでるんだ?



「さて、と……まずこいつは5等分に切って塩を振って、ビフーの脂で全面を焼いて鉄箱に入れて……1時間半ぐらい放置する」

「その鉄箱は?」

「これか?こいつは赤の水晶の破片を混ぜて作った炊飯器もどき……の失敗作だ」

便利そうなんだけど失敗作だったのか……

「何度か試してはみたが、飯の保温は可能なんだが炊飯は出来なかった……保温も常に魔力を流さにゃならん上に2時間が限度だったし、それなら食いたい時に炊くんでいいだろ、ってな」

成程……保温してる最中にモンスターにでも襲われたら大変だろうし、納得した。

「その間に……」

あれは拠点で作ってたおにぎりと……茶色の欠片?

「こいつはガリクチップだよ、お湯で戻せば普通のガリクとして使える……まあインスタント麺みたいなもんだ」

水分を飛ばして保存が出来る様にしたのか。

キュアが作ってる干物やスルメみたいな物だな。

「こいつを砕いて戻して、肉を焼いた後の脂で米や刻んだ脂身と一緒に炒めて、塩と醤油で味付けすればガーリックライス……肉と一緒に食うならこれに限るぜ」

ガーリックライス……だと!

テレビでやたらと偉そうなオッサンが、無駄に高そうな店で、スゲー美味そうなステーキと一緒に食っていた、あのガーリックライス!?

「それ、滅茶苦茶高いんじゃないのか?俺みたいな貧乏人が食っていい物なのか?」

「お前はどんだけガーリックライスを神聖視してるんだ?そりゃ産地や品質に拘りゃ幾らでも高く出来るが、普通に食うなら日本でも一人前で300円……6ハウトもしねーぞ」

そんなに安く作れるのか!?

「まあガーリックライスを出すのは大抵ステーキハウスとかだから高いってイメージが根付くのも無理はないが……こう考えてみろ、ガーリックライスはニンニクの入った炒飯、もしくは炊き込みご飯ってな」

ニンニク入りの炒飯……炊き込みご飯?

言われてみれば肉から出た脂で刻んだニンニクと米を炒めて作る……確かに炒飯だ!

「何だろう……途端に身近な料理って思えてきた」

「元はどっかの料理屋で作った賄い飯で、それを客に出したのが広まった、なんて話もあるからな……本当かどうかは知らんし調べ様もないが」

そういや兄貴は肉屋の息子だったっけ……そういう話を聞いてても不思議じゃないか。

「おっと肉もいい感じに仕上がったな……薄切りにして並べて、ホースラディッシュをすりおろして、と」

おお、まさにローストビーフ……流石に5キロもあると圧巻だぜ。

それに出来立てのガーリックライス……生まれて良かった。

「久しぶりに作ってたら思い出しちまったな……園児の頃の話だが、このガーリックライスに合うのはステーキかローストビーフか、で大喧嘩した事がある」

「それ、全く園児らしくない理由なのは気のせいか?」

「今更ながら自分でもそう思う……しかもその相手に謝る前に名古屋へ引っ越す事になっちまってなぁ」

そういや兄貴は兵庫産まれの名古屋育ちとか言ってたか……

「まあ、この世界に来た以上はもう会う事がないだろうからな……お前はこんな後悔をするなよ」

「あ、ああ……解った」




「「「頂きます」」」

ちょこっと醤油を付けてホースラディッシュを乗せて、ガーリックライスと一緒に……美味ぇ!

「こんなに薄いのに肉汁が溢れる様で、なのにくどくないのはこのツーンとする薬味が脂を引き締めているからでしょうか……更にガーリックライスがお肉の美味しさを膨らませて……流石です!」

サーグァ様……食レポは飲み込んでからにしませんか?

ってこうしちゃいられねぇ、早く食わないと食い尽くされちまう!

何せ餅を3升も食えるサーグァ様だからな……肉5キロだって楽勝に決まってる!

「本当に美味しい!また腕を上げたねデストくん!」

「いやそれ程でも……ってツァトゥ様!?」

ツァトゥ様?マジで居たよ……いつの間に来たんだ?

「あら、ツァトゥさん……お久しぶりです、確か姉さんの昇神祝い以来でしたっけ?」

「いやアタシはそれ参加してないよ、仕事中だったし……最後に会ったのはサーグァちゃんがここに降りて来た時だね」

そういやツァトゥ様はトゥグア様の幼馴染だったっけ……それなら妹のサーグァ様とも面識ぐらいあるよな。

って早く食わないと!



何とか満腹になるまで食って、一息ついてる所でツァトゥ様が話を始めたが……

「ちょっと信者の子達の様子を見に来たら美味しそうな匂いがしたからね……つい来ちゃった」

……サーグァ様といいお供え物にリクエストするトゥグア様やトゥール様といい、女神って食いしん坊ばっかなのか?

まあずっとあんな真っ白い空間に居るなら楽しみが少ないだろうし、何かしらの娯楽がなきゃやってられないだろうけど。

それを食事に見出だしたって言うなら納得は出来るか。

「それとね、デストくんにはこれ」

「これは……ダンジョンのマップ?」

これってまさかムーの近くに造ってたあのダンジョンの?

あれから2週間も経ってないのにもう完成したのか。

「アタシからのささやかな婚約祝いだよ、そこで得た物を結婚資金の足しにしてね」

「あ、ありがとうございます」

あそこは確か知力が物を言うダンジョンで戦闘はゴブリン2匹ぐらいだったし、兄貴とジェネさんだけでも攻略は可能だな。

罠らしい罠もなかったし……その代わり宝らしい物もなかったけど。

「えっとロウくん……だっけ?何か面倒事の中心人物になってるらしいね?」

「不本意ながらそうなってしまった様で……」

翡翠さんやハイドラ様から聞いた話だと俺は地の女神の目的を果たすのに邪魔だとか何とか……

今更だけどこういうのって普通はヒロインの立ち位置じゃないのか?

俺、男なんだけど……

「……気に障ったなら謝るけど妙に達観してるというか、落ち着いてるというか、冷めてる様な気配がするね?」

「言われてみりゃそうだな……普通なら死にたくないってかむしゃらに戦うか鍛えるか、あるいは逃げようとすると思うが」

それキュアにも言われたな……不自然に落ち着いてるとか。

「別に死にたい訳でも諦めた訳でもないし、敵を侮ってる訳でもないんだけど……自分でもよく解らないんだ」

死にたくないのは確かだしザトーが俺より強いのも確かなんだけど……何とかなる、って妙な確信があるんだよな。

うん、自分で言うのもアレだけど何を言ってるんだ、って思うわ。

「うーん……確かに本心だね、少なくとも嘘は言ってない」

そういやツァトゥ様も女神だっけ……そりゃ心ぐらい読めるよな。

「とはいえこのままじゃ……ちょっとキミの心の深部を覗かせて貰うね」

「ゑ……深部って」

あれ……急に、意識……が……
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