あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ

文字の大きさ
上 下
83 / 122
図書館と安食堂のスライム騒動

いわゆる理科の実験です

しおりを挟む
セラエの魔術ギルドに来て、早くも7日が過ぎました……

コカちゃんはずっと図書館に通いつめて、ロウはその護衛、アプさんは翡翠さんと一緒に屋台を出しています。

ナクアちゃんはトウカやリコッタ、構成員の皆さんと一緒に接客をしていますが中々頑張っていますね。

そしてあたしは……

「キュアお姉ちゃん、唐揚げ5皿追加だよー!」

「キュアさん、串カツ3皿追加でーす!」

「こちらチャーハン8皿追加でーす!」

「はい気分のサラダとビフーシチュー3皿、それとパンが入りましたー!」

何ですかこの忙しさは!?

昼からずっと、熱した油の前から離れられないんですけれど!

ウィラコさんもずっとチャーハンを作り続けるだけになっていますし!

幸いシチューや煮込みなんかは仕込みさえすれば後は皿に盛り付けるだけだから誰でも出来ますし、メイドさんはサラダの盛り付けぐらいなら出来るから何とかなっていますが……

ボリアの行商市も、ンガイ中を巻き込んだイノシシ料理の振る舞いでもこんなに大変ではありませんでしたよ……本当に。

「……おっと、申し訳ありませんが唐揚げと串カツは品切れとなりました」

「「「「「「な、なんだってー!?」」」」」」

「こっちももう米がないから、チャーハンは終わりだよ!」

「「「「「「「チクショーッ!?」」」」」」」

初日から比べると4倍以上も仕込んだというのに……

この町の住民は貴族ばかりとか聞きましたけど、何で安食堂にお客がこんな沢山居るのですか?

いや、図書館目当ての旅人も居るんでしょうけどね。

「いやぁ、流石は噂のシェフだねぇ……こんなに売れるとは思わなかったよ」

「あの……その噂って一体何ですか?」

あたしはプリーストであってシェフではありませんが……

破壊僧シェフ】の称号ならトゥグア様から頂きましたけど。

「曰く【固くて臭いクックー肉を第3夫人が絶賛する料理にした】とか、【塩辛く生臭い魚を絶品に仕上げた】とか、【甘味に五月蝿い第1夫人を唸らせた】とか、【酸っぱいだけの果実で新しい酒を産み出した】とか……他にも幾つかあるけど聞くかい?」

「……遠慮しておきます」

察するにラーメン、干物、ホットケーキ、梅酒の事ですか……

確かに全て事実ではありますけれど!

というか梅酒を作ってまだ2週間も経ってないのにもうここまで広まっているんですか!



営業が終わった辺りでコカちゃんとロウ、アプさんと翡翠さんが帰って来たのでようやく夕飯が食べられます。

売れ残りの野菜スープとパンにクックーの皮をカリカリになるまで焼いて塩を振った物と干物を付けて、と。

後はジャガイモを塩茹でして潰して、同じく売れ残ったサラダを刻んで一緒にマヨネーズを和えたポテトサラダも出しましょう。

「このポテトサラダとやらも美味しいね……これも売れそうじゃないか」

「それは売るなら11ハウトは取らないと採算が合わなくなりますよ?」

ウィラコさんが出した条件は10ハウト以内で出せて利益のある料理ですからね……

この条件がなければラーメンも提案したかった所ですが、あたしが旅立った後でも作れる料理でなければ意味がありませんから。

因みにあたしの作るラーメンの原価は1杯につき5ハウト、それに人件費なんかを足しつつ屋台では14ハウトで売っています。

計算はコカちゃんがやってくれたんですけどね。

それにしても……戻って来てからずっとコカちゃんが元気ありませんね。

心なしか疲れてもいるみたいですし。

「ロウ、コカちゃんは図書館で何を調べているのですか?」

「スライムの生態観察記録とか禁止魔術の研究データとかを片っ端から読み漁っていたが……」

うん、あたしでは力になれないという事だけは解りました。

せめて明日の夕飯に何か甘い物を作ってあげましょう。



「支部長、大変です!」

おや?

あの人は先程まで接客をしていた構成員で、初日に案内をしてくれた方ではないですか。

「どうしたんだい?そんなに慌てて……ってあんた怪我してるじゃないか!」

「俺は後でいい……それより新入り2人が何者かに襲われて、重症です!」

ただ事ではありませんね……

まだ食べてる最中ですが人命には変えられません!

「怪我人はどこに?」

「今、空き部屋に寝かせています!」

「アプさん、黄を1つ借ります」

「あいよ」

急ぎ怪我人の居る部屋に向かいサンクチュアリを発動し、息があるのを確認したら翡翠さんが作った小豆色の回復薬(トマト味)も飲ませて……

よし、呼吸も落ち着いたしもう大丈夫でしょう。

それにしてもこのお2人はほぼ初対面ですが……魔術ギルドの構成員ならば弱くはない筈。

あの人もあたしが気配を察知出来ないぐらいの強者なのに、ここまでやられてしまうとは。

「それで、何があったんだい?」

「それが……今まで見た事がないモンスターが1人のプロフェッサーに連れられて……有無を言わせず襲って来まして」

「これまでの件もそいつの仕業、で間違いなさそうだね……それで?」

「プロフェッサー自体はそんなに強くはなさそうでした……ですが、あのモンスターは……こっちの魔法を取り込んで、この宿ぐらいに巨大化して」

魔法を取り込んで巨大化……つまり魔法を食べる?

はて、何処かで聞いた事がある様な……っていつの間にかあたしの手にヌメり?

良く見たら怪我をした皆さんの服、それにあの人の服がテカテカしてますが……治療した時に付いたんでしょうか?

これは……まるでカタツムリの様な臭いがしますね。

「それじゃ、動機なんかは解らないかい?」

「スミマセン、逃げるのに必死で……」

「いや、皆の命があっただけでも良かったよ」

ふむ、とりあえずこのヌメりに塩を掛けて少し放置して、と。

……思った通り、固まって取りやすくなりましたね。

「……犯人の事は解りませんが、そのモンスターはどうにか出来ると思いますよ」

「「……え?」」



残った夕飯を食べて片付けたら作戦会議です。

それと、ちょっと目を離した隙にあたしの分の干物を食べてしまったトウカ……明日は覚悟しておきなさい。

「あたしの故郷にはナメクジという、やり方さえ解れば子供でも倒せるモンスターが居ましてね……」

厳密にはモンスターではなく害虫ですけどね。

説明の為に2人が着ていた服を脱がして、付着していたヌメりに塩をぶちまけておきます。

「この様に、塩を掛けてやれば……ヌメりが固まってしまうのです」

「成程……しかしヌメりをどうにかしただけでは」

「塩の効果はそれだけではありませんよ……身体中の水分を奪ってくれるのです」

「水分を奪う……つまり、身体が……縮む?」

「このヌメりと臭いからして犯人の使役しているモンスターはナメクジに近い性質ではないかと推測出来ます、つまり」

「塩で倒せる、もしくは無力化させられるかも知れない……か」

因みに料理でも塩は味付けだけではなく、余分な水分と一緒に臭みを抜いて旨味を凝縮したりします。

人間も塩は生きていく上で大事な物ですが食べ過ぎると水太りの原因になったり、病気になりやすくなってしまいますからね……程々に摂取しましょう。

「では作戦ですが……モンスターに塩を掛けるのはナクアちゃんにお願いします」

「はーい!」

話を聞く限りかなりの魔法を取り込んで大きくなっている様ですからね……塩は頭から掛けなければ効果が薄いとなれば、空を飛べるナクアちゃんにしか出来ません。

「ウィラコさんや他の構成員の皆さんは塩の調達と付近の方々を避難させて下さい」

「はいよ」

「ロウとコカちゃんはナクアちゃんに塩を中継して下さい」

「解った」

「そしてモンスターの足止めはあたしがやります」

魔法が効かないとなれば、魔法以外の攻撃で戦うしかありませんからね。

あたしの雷なら取り込まれる事だけはない筈です。

「キュアは怪我人の治療に専念しな、足止めはあたいがやるよ」

アプさんが……なら、お任せします。

「それならスコルも連れて行って、スコルは魔法なしでも戦えるから」

スコル……水の技能が使える狼でしたっけ。

確かアプさんにお腹を見せるぐらいには信頼していましたね。

「決行は明日の夜……それに備えて早目に休んでおくよ」

さて、これはあくまでもナメクジみたいなモンスターと想定しての作戦ですが……

ハズレてたらご免なさい。

その時は何としても犯人だけはふん縛っておきます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダークナイトはやめました

天宮暁
ファンタジー
七剣の都セブンスソード。魔剣士たちの集うその街で、最強にして最凶と恐れられるダークナイトがいた。 その名を、ナイン。畏怖とともにその名を呼ばれる青年は、しかし、ダークナイトをやめようとしていた。 「本当に……いいんですね?」 そう慰留するダークナイト拝剣殿の代表リィンに、ナインは固い決意とともにうなずきを返す。 「守るものができたからな」 闇の魔剣は守るには不向きだ。 自らが討った聖竜ハルディヤ。彼女から託された彼女の「仔」。竜の仔として育てられた少女ルディアを守るため、ナインは闇の魔剣を手放した。 新たに握るのは、誰かを守るのに適した光の魔剣。 ナインは、ホーリーナイトに転職しようとしていた。 「でも、ナインさんはダークナイトの適正がSSSです。その分ホーリーナイトの適正は低いんじゃ?」 そう尋ねるリィンに、ナインは平然と答えた。 「Cだな」 「し、C!? そんな、もったいなさすぎます!」 「だよな。適正SSSを捨ててCなんてどうかしてる」 だが、ナインの決意は変わらない。 ――最強と謳われたダークナイトは、いかにして「守る強さ」を手に入れるのか? 強さのみを求めてきた青年と、竜の仔として育てられた娘の、奇妙な共同生活が始まった。 (※ この作品はスマホでの表示に最適化しています。文中で改行が生じるかたは、ピンチインで表示を若干小さくしていただくと型崩れしないと思います。)

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

処理中です...