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図書館と安食堂のスライム騒動

セラエに到着しました

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雪女、もといタクァを落ち着かせて6日……ようやくセラエに到着出来ました。

あの後リーアさんは根から水分を吸い過ぎたとかで苦しんでいましたが……多分食べ過ぎみたいな物だろうから大丈夫でしょう。

因みに翡翠さんと契約した幻獣はピーニャを除いた全員が指輪に引っ込んでいました。

何でもこの世界には居ない幻獣だそうですからね……特にセラエはプロフェッサーが多いらしいですし、下手に興味を持たれたら危険なのは確かです。

まあピーニャの尾は注意して見なければ解らないだろうし、トウカは見た目子猫ですから大丈夫でしょう。

ナクアちゃんに至ってはこの世界で生まれましたし、見た目普通の女の子ですからね……むしろ幻獣だって事実を時々忘れてしまうぐらいですし。

「さて、アーチの話だとこの辺りに案内役が来てる筈なんだが……」

そういえばこの町の魔術ギルドに話を通したとか言っていましたね。

それらしい人は見当たりませんが……

「アプ様ですね……お待たせしました、まずは此方へ」

……全く気配を感じませんでした。

この人、只者ではありませんね。




で、案内されるまま向かって着いたのは……宿屋?

その1階の客室……って宿泊中の札が掛かっていますけど。

「どうぞ、この中で支部長がお待ちです」

あたし達に会う為だけに部屋を取ったんですかね?

「ようこそセラエへ……皆様の話はアーチから聞いてるよ」

「あ、どうも……」

何だか物腰が低そうなオバチャンですね……

昭和辺りに連載してた日常系の漫画に出ていそうなオカン、といった雰囲気があります。

「私はこの宿の女将兼、魔術ギルドセラエ支部の支部長をしているウィラコだよ」

思ったより町に溶け込んでいらっしゃいました!

国から独立した勢力とか言っていたし、日の当たらない所で活動しているとばかり思っていたのですが……

「さて、仕事もあるし手短に言うよ……まずコカちゃんはウチの臨時構成員という扱いにする、それでそこらの貴族は黙らせられるからね」

臨時……という事は実際に入る訳ではないのですね。

流石の貴族も国から独立した勢力には無力ですか。

「この指輪が構成員の証明だ、無くさない様にしとくれよ」

「あ、ありがとう……ございます」

これでコカちゃんの安全は保証されましたね。

まあ気付かず襲ってくる輩は全員叩きのめしますけれど。

「次に皆様はこの町に居る間、この宿に宿泊して貰う事になる……というのも基本的に構成員は1ヶ所に集まってなきゃならない決まりだからねぇ、因みにお代はアーチの給金から引いとくから遠慮はいらないよ」

「そういやンガイの件の報酬がまだだったねぇ……ならそうさせて貰うよ」

あ、まだ払われてなかったんですね。

とりあえず1番高い料理でも頼んでみましょうか。

「ただね……1つ忠告と、個人的に頼みがあるんだよ」

忠告と頼み……嫌な予感がします。

「まず忠告だけど、ここ最近ウチの構成員が何者かに襲われている……幸い大した怪我はしてないけど犯人は足取りすら掴めてないんだよ」

「ギルドの情報網があっても見付からないのかい?」

「恥ずかしながらね……だからコカちゃんもこの町に居る間は注意しとくれ」

「は……はい」

ふむ……魔術ギルドの構成員を襲って得をする何者か、でしょうか?

こういう情報集めはミラさんが得意でしょうけど……今は居ませんし。

見付けたら殴って捕縛、まあいつも通りですね。

「それで頼みは……確かキュアちゃんだったねぇ?」

「って、あたしですか?」

何かもう、察してしまったんですが……

「悪いがこの町に居る間はこの宿の厨房で働いとくれ」

やっぱりですか!?

何であたしは行く先々で料理ばかりさせられているんですかねぇ!

別に料理するのは嫌いではないから構いませんけれど!

「そうなるとコカちゃんの護衛は……」

「あたいもいい加減に屋台を出さないと、そろそろ路銀が尽きそうだからねぇ……ロウに頼むしかないか」

ンガイじゃ屋台は出せなかったですからね……

翡翠さんは人間が相手じゃ戦えませんし、ナクアちゃんはロウの声が届く範囲でないと疎通以外の技能が使えませんし。

あたしは宿の厨房で働くのが決まってしまいましたから後はロウしか残っていませんね。

「とりあえずコカちゃんの護衛にクルも同行させとくよ……何だか気が合うみたいだし、ロウ君も一緒なら恥ずかしがって隠れる事はないと思うよ」

クルって確か結界と防御が得意な毛玉カーバンクルですね。

それなら少なくとも怪我をする事はないでしょう。

「ナクアは……そうだな、宿でキュアを手伝ってやってくれるか?」

「わかったー!」

「行くのが図書館だしトウカもナクアと一緒に居てくれ……場合によってはキュアの指示に従えよ」

「ミャッ!」

って宿も接客業だから猫が居着くのはマズいのでは?

「大丈夫だよ、ウチの客に猫の10匹や20匹が居るからって嫌な顔する奴なんて居やしないからね」

そこまで行ったら逆に猫との触れ合いを売りにした方がいい様な……

猫カフェならぬ猫宿……アリかも?

むしろ存在するならあたしが泊まりたいぐらいですね。

屋台や神殿を引退した後の商売として候補に入れておきましょう。



という訳で早速厨房で働きましょう。

滞在期間は15日程ですが一緒に働く皆さんには挨拶しなくては……

「って誰も居ないですね?」

「そりゃこの宿の従業員は私とメイドが3人だけだからねぇ……しかも料理が出来るのは私だけなのさ」

それでよく今まで経営が出来ましたね!

「それだと構成員の皆さんは何をしていらっしゃるのですか?」

「普段は宿の宣伝とか、昼と夕飯時は食堂も兼ねてるから接客をさせてるよ」

食堂もやってたんですね……

成程、あたしが働く羽目になったのは食堂の経営があるからですか。

「一応これがウチで出してるメニューだよ、キュアちゃんなら問題ないだろう?」

ふむ……ビフーのステーキ、ビフーとダイズ豆の煮込み、ビフーシチュー、野菜スープに女将がその日の気分で選ぶ野菜のサラダ、と。

これなら余裕で作れますね。

「それと何か新しいメニューを考えてくれないかい?安食堂だから1皿10ハウト以内で出せて利益の出る料理って制限があるんだけど」

10ハウト、日本円なら500円以内でかつ大量に仕込めて、手早く出せて、味付けは塩に限定された料理となれば幾つかありますが……

とりあえず作ってから意見を聞いてみますか。




「炊いて冷やした米を、みじん切りのタマネギと卵を一緒に強火で炒めて、味付けして最後に千切りにしたグリンを加えたチャーハンという料理です」

材料費だけなら1人前5ハウトも掛かりませんし、これなら7ハウトで出せます。

「へぇ……確かに簡単に作れて美味しいねぇ、採用」

よし、幸先の良い出だしになりました。

「1口大に切ったビフー肉とタマネギを交互に串に刺して、小麦粉、溶き卵、パン粉を纏わせて高温の油で揚げた串カツです」

お肉のサイズにもよりますが、1皿5本として10ハウトで出せる筈です。

「これは何故か食事より酒と一緒に食べたくなるねぇ……夕飯時だけのメニューになりそうだよ」

確かにこれはお酒のオツマミとしても優秀ですが……

というかウィラコさんもお酒飲むんですね。

「クックー肉を串かフォークで細かく穴を開け、リンゴの絞り汁に漬けて、1口大に切って、塩を混ぜた小麦粉を纏わせて2度揚げした唐揚げです」

いわゆる塩唐揚げという奴ですね。

この世界の鶏肉は人気がないからやたらと安いし、胸肉2枚分を1皿に盛り付けて、かつ人件費を加えたって8ハウトで利益まで出てしまいます。

「クックー肉がこんなに美味しく、柔らかくなるなんて……これも採用させて貰うよ」

流石は王様すら虜にしてしまった唐揚げ……ここでも人気が出そうですね。

ただ売る時はクックー肉という事は伏せておいた方が良いですよ。

「それとこれは料理ではありませんが……唐揚げにこのマヨネーズかタルタルソースを付けてから食べてみて下さい」

はい、久しぶりに作りました……流石に味付けが塩だけなのは寂しかったので。

マヨネーズは塩とレモン果汁に油があれば作れますし、タルタルソースはマヨネーズにみじん切りのタマネギと茹で卵、酸味のあるハーブで作れますからね。

1度ピクルスを自分で作ろうと思いましたが……肝心のキュウリがないから諦めました。

「これは……2つ共犯罪的な美味しさじゃないか、幾らでも食べられちまうよ!」

ってタルタルソースの減りが早過ぎますが?

「この串カツとやらにも、タルタルソースってのが合うじゃないか!」

串カツにまでタルタルソースを!

やはりタルタルソースと揚げ物は最高の組み合わせでした……カロリー?知らない子ですね。

揚げ物をバクバク食べているウィラコさんを見てたら白身魚のフライが食べたくなってしまいました……

次に海辺へ行ったら絶対に作らなくては。

「あの、とりあえずマヨネーズとタルタルソースのレシピは差し上げますから……そろそろ仕事をしませんか?」

「待って、せめて後3皿食べるまでは!」

それは食べ過ぎですよ!?
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