上 下
81 / 122
図書館と安食堂のスライム騒動

翡翠さんの戦闘を見ました

しおりを挟む
雪に降られた翌朝……って、まだ止んでいませんね。

別に急ぐ必要はないにしろ、こうも動けないのはもどかしいです。

「ナクア、こんなに雪が降ってるのは初めて見たよ!」

「確かにこう長く降ったのは60年振り……まさか」

おや、アプさんが慌てて外に?

「やっぱり……この雪はタクァの仕業かい」

「あらら、こっちの世界にもタクァが居たんだねぇ」

「あの、タクァって何ですか?」

名前的に風属性の邪神っぽいのは解りますが、あの神話通りに考える訳にもいきませんよね。

「タクァは風で雪を運んでくる精霊の一種でね……基本的に無害なんだけど、発情期になるとこんな感じに暴走しちゃうんだよ」

この大雪は精霊が暴走したせいだったんですね。

理由が発情期というのが解せませんけど。

「因みに見た目は凄い美人なんだけど……好みの男を見たらあっという間に連れ去っちゃうから、念のためロウ君は見られない様に注意してね」

邪神というより雪女みたいな奴ですね。

しかしうっすらと見えた姿は透き通る様な白い肌に白い髪と、確かに美人ではあります。

「とりあえず倒した方がいいんでしょうか?」

「基本的に無害って言ったでしょ?たまにこういう事をするけど、普段は氷を売ったりして人間に友好的な存在だよ……様は落ち着かせればいいだけだからね」

成程……言われてみれば氷屋は女性が多かった気がします。

「それにタクァは精霊だけど神格持ちだから人間じゃ勝負にもならないよ、まともに戦えるのはハイドラ様級の神かその眷属……後は人間を辞めた存在だけだね」

あ、翡翠さんも外に……

「という訳だから、ここは私に任せて頂戴」

「確かに以前はあたいとアーチが死にかけたってのに追い払うのが精一杯だったからねぇ、そういう事なら任せるよ」

アプさんとアーチさんのタッグが死にかけて……って、強いなんて次元じゃないですよ!

あ、そういえば翡翠さんが戦うのを見るのはこれが初めてですね……イノシシ狩りの時はピーニャに指示を出していただけでしたし。

ロウと同じ幻獣使いだとは聞きましたがどんな戦い方をするのでしょうか?




「さて、まずはこの雪をどうにかしないとね……スコル、おいで!」

最初に出てきたのは……トウカと同じ水色の体毛をしている狼?

「いきなりスコルか……翡翠さん、ガチでる気か?」

「ロウ、部屋の隅に居ながら解るんですか?」

「今はナクアと視覚と聴覚を共有してるからな……これなら隠れてても解る」

中々便利ですねその技能……

「スコル、【豪雨】!」

「はい!」

うわ……雪と雨がぶつかり合って地面に凄い量の水が!

「スコルはトウカと同じ技能に加えて雨を降らせたり出来てな……威力や範囲もトウカ以上だ」

トウカも凄いと思いますがあの狼はそれ以上ですか……

「因みにスコルは10歳以下にしか興味のない重度のショタコンだ」

あの狼って雌だったんですか!?

「よし次……おいで、クル!ライコ!」

今度は黄色い日本猿と……緑の毛玉?

「ライコは電気を操れる猿で、クルはよく解らんが結界を張るのが得意だな……」

電流と結界……あ、成程。

一応こっちもこの休憩所にシールドを張っておきます。

「クルは私達に【防壁】!ライコ、【落雷】!」

「ウギィッ!」

「キュー!」

うん、大量の雨水に雷が流れてタクァが感電していました。

あれは効きます、というか下手したら死ねます。

「ラスト!おいで、リーア!」

下半身が植物の根な女性……あれは解ります、確かドリアードという種族ですね。

「リーアさんはいわゆる肉食系な百合の聖霊でな……翡翠さんが近くに居れば無害だけど離れてる時は注意しろよ」

……その時は絶対に近付かない様にします。

「リーア、【束縛】!」

「はい、御姉様!」

おお、複数の植物の蔓や根がタクァをふん縛って……

「はぁ、私の蔓や根に縛られた女性……美しいわぁ」

……翡翠さん、ちゃんと監視をして下さいね?

「さてさて、ここで取り出しますは私お手製の鎮静剤(リンゴ味)、さあお飲みなさい!」

黄土色をした鎮静剤をタクァ……それとリーアさんにも飲ませるんですか!?

飲ませるというよりは瓶を無理矢理喉の奥に突っ込んだという感じですけど。

「ちょ、待っ、気管に入っ、ゴボォッ!」

「ンブッ、御姉さ、ゴボォッ!」

噎せて吐き出す事すら叶わず流し込まれ続けるってある意味拷問なのでは?

まあタクァが落ち着いた様だからいいでしょう。




落ち着いたタクァに温かい飲み物を出して、昼食を一緒に食べたら元気になった様で……翡翠さんにお礼を言って去って行きました。

あのタクァは普段ムリアで氷屋をしているそうですから見掛けたら買ってあげましょう。

「リーア、出てくる度に欲情するの止めてって何度も言ったでしょ?次はその根っこを熱した油でカラッと揚げるからね」

「お、御姉様!それだけはお許しを!」

ドリアードの土下座って中々レアな映像ですね……

「さて、それじゃ改めて……この子はドリアードのリーア、植物を操ったり出来てね……貴重な薬草を栽培してくれたりするからアルケミストの私には有難い幻獣だね」

デメリットの塊だと思いましたが、一応メリットはあるんですね。

「因みに御姉様の指示がなくても、種さえあればあらゆる野菜をその場で、収穫まで育てる事も可能です」

成程……ジャガイモの芽さえ残しておけば旅の途中で食料が尽きる事はないですね。

性癖的に余り関わりたくはないですが。

「次にこの子はスコル、水の魔狼で雨を降らせる事も出来るよ」

「よろしくね」

先程見せて頂きましたが凄い力でしたね……

「因みにスコルとリーアは野菜しか食べないから」

狼……なんですよね?

ドリアードが野菜しか食べないのはまあ解りますが、狼が野菜しか食べないって……ええ?

「次は雷猿らいえんのライコ、雷や電流を使えるよ」

「ウギィッ!」

あ、この子は喋れないんですね……

「ライコは気性が荒いけど根は良い子だから……後リンゴしか食べない」

ある意味あたしの知ってる猿のままでした……

バナナでもあればあげてみたかったですね。

「それとこの子がクル……ちょっと恥ずかしがり屋だけど防御は凄いよ」

「キュー……」

「因みに種族はカーバンクルって言ってね……今の所心を開いてるのは私とロウ君ぐらいかな」

翡翠さんの後ろに隠れてるのはそういう事ですか……

それを手懐けたロウも凄いです。

「ついでだし他の子も紹介しちゃおっか……ロシン、バイコ」

「くぉん!」

「お呼びで?」

本当に燃えてる狐と角がある馬、あの馬はファンタジーならお馴染みのユニコーンですね。

「この子は狐火のロシン、人懐っこくて可愛いよ」

「なくあ、あそぼ!」

「遊ぼー!」

確かによく懐いてますね……毛が炎だからうかつには触れませんけど。

ってナクアちゃん普通に触っていますが熱くないんですか?

「あれは炎に見えるだけの体毛だからね……実際に燃やす事も出来るけど」

成程……オンオフの切り替えが可能なんですか。

「で、最後にこの子がバイコ……種族はユニコーンだよ」

「よろしく頼む、という訳で少年……やらないか?」

「やらねえよ!?何度も言わせんな!」

最後に出てきたのが同姓愛者の馬……本当にロウはお尻ばかり狙われてますね。

ってユニコーンは確か……

「あの……ユニコーンって清らかな乙女を好むのでは?」

「それは偏見という物だ……確かに気を許した人間に性癖を暴露してしまった同族が居て、その時の話が後世にまで伝わったという笑い話はよく聞いたが全てのユニコーンがロリコンの処女房という訳ではない」

あの話は確か神聖な話として伝わっていた気がしますが……ユニコーンにとっては笑い話なんですね。

それは死ぬまで知りたくなかったです。

「それなら何で女性の翡翠さんと契約を?」

「戦いに負けてその強さに惹かれたのだ……だから今はここに居る、因みにスコルとライコも同じ理由で主に仕えているぞ」

喧嘩をした後は友達になる、的なアレでしょうか?




「で、ロウ君が手懐けたのはバイコ、クル、スコル、ロシンの4体ね」

「少なくともバイコを手懐けた覚えはないけどな……割とマジで」

勝手に懐いたんですね、解ります。

「所で……ライコがあたしの左手にくっついているのは何故でしょう?」

「キュアちゃんは左手から電流を出せるから、力比べでもしたいんじゃない?」

つまり電流の強さを比べたいと……

まあ、ちょっとぐらいなら付き合ってあげますか。

「なら行きますよ……【雷(強)】!」

「ウギィィィッ!」

うわ……電流を流している拳からライコの電流がビリビリ伝わってきますね。

しかしこれは……かなり痺れますが気のコントロールを鍛えるのに最適かもしれません。

最大出力だと30秒が限界ですけど、何度か続ければより長く使えるかも。

「ウギィ……」

おっと、先にライコがダウンしてしまいました。

ふむ、体感で大体31秒ぐらいですか……ちょっとだけ伸びました。

ってライコ、何故あたしの足に手を当てて……いわゆる反省のポーズを?

「おやおや、どうやらライコはキュアちゃんを気に入ったみたいだねぇ」

力比べで勝ったから懐いたという事でしょうか?

よく見たらスコルはアプさんにお腹を見せていて、クルはコカちゃんの肩に乗っていて、ロシンとピーニャはナクアちゃんに抱っこされていて、リーアさんは翡翠さんに抱きつこうとして叩かれていました。

まあ、打ち解けられたなら良しと思っておきましょう。

「俺は全くよくないけどな……」

バイコはロウのお尻を狙っていますからね……

ですがロウの貞操はあたしが守りますから安心して下さい。




「さて、雪はどうにかなったがこの泥濘じゃ荷車を出せないねぇ……」

ある意味積もった雪より厄介ですからね……

少なくとももう一晩はここに留まるしかありません。

「それじゃスコルは残った雪を雨で溶かして、リーアは朝までにあの地面を何とかしておいてね」

「解りました」

「待って御姉様、流石にこの範囲を私1人で何とかするのは厳しいんですけれど?」

「キュアちゃん、料理的な方法で植物が嫌がる事って何かある?」

そこであたしに振るんですか?

まあ幾つか思い付きはしますけど。

「葉に塩を振ってみるか、根に塩水を掛けてみますか?」

「やります!朝までに何とかします!」

リーアさんは弄られキャラらしいので今後は遠慮なく弄らせて貰いましょう。

とりあえず……夕飯は幻獣の皆さんのリクエストに答えつつ作ってあげますか。

ただしバイコ、貴方は唐辛子を山盛りにしておきますからね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

〜マリアンヌさんは凶悪令息のお気に入り〜

柚亜紫翼
恋愛
裕福な貴族令嬢マリアンヌ・ボッチさんはお裁縫が趣味の16歳。 上級貴族の令息と政略によって半ば強制的に婚約者にさせられていました、見た目麗しい婚約者様だけど性格がとても悪く、いつも泣かされています。 本当はこんな奴と結婚なんて嫌だけど、相手は権力のある上級貴族、断れない・・・。 マリアンヌさんを溺愛する家族は婚約を解消させようと頑張るのですが・・・お金目当ての相手のお家は簡単に婚約を破棄してくれません。 憂鬱な毎日を送るマリアンヌさんの前に凶悪なお顔の男性が現れて・・・。 投稿中の 〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜 https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475 に登場するリーゼロッテさんのお母様、マリアンヌさんの過去話です。 本編にも同じお話を掲載しますが独立したお話として楽しんでもらえると嬉しいです。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

僕と精霊

一般人
ファンタジー
 ある戦争から100年、魔法と科学は別々の道を歩みながらも共に発展したこの世界。  ジャン・バーン(15歳)は魔法学校通う普通の高校生。    魔法学校でジャンは様々な人や精霊と巡り会い心を成長させる。  初めて書いた小説なので、誤字や日本語がおかしい文があると思いますので、遠慮なくご指摘ください。 ご質問や感想、ご自由にどうぞ

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...