あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ

文字の大きさ
上 下
75 / 122
森とイノシシと奴隷商人

ある意味近状報告です ※デスト視点

しおりを挟む
「兄貴、話があるって……何かあったのか?」

「ああ、ロウと嬢ちゃんには言っておいた方がいいと思ってな……」

「あの、それって貧血でダウンしてる状態で聞かないといけない内容ですか?」

嬢ちゃんの言いたい事は解るが我慢してくれ……今日を逃したら次の機会がいつになるか解らんからな。

なるべく手短に済ませる。

「アトラが……あの時の事を思い出しちまった」

「……ただ事ではなさそう、というのは伝わりました」



あれはロウ達が立って3日ぐらい、だったかな……

姐さんが行商市で商品を売り尽くしちまったからロウに協力して貰いながら集めた素材を使って、あの家の倉庫で売り物にする武器を作っていてな。

その日はやけに暑かったから上着を脱いでたんだ。

「ふぅ……暑ぃ」

「毎度の事ながら凄い汗ですね……水でも飲んで来たらどうですか?」

「ミラ……いつもの事だが気配を消しながら背後に立つな」

「というか鍛治をするのに上着脱いでたら火傷するわよ?」

「ジェネも居たのか……仕事はどうしたんだ?」

「今日は2人共休みですよ、それで昼食は美味しい物が食べたいと思って寄らせて貰いました」

「俺に作らせる気満々じゃねぇか……まあいい、丁度いい時間だし何か作ってやるよ」

「「やった!」」

まあ、うん……我ながら少し情けないとは思うが本題はここからだから最後まで聞いてくれよ?

で、鍛治も一段落してたし昼飯を食いながら雑談していたんだが……その時アトラが俺の古傷を見ちまってな。

「傷……じゃあ、あの夢は……本当に」

まあ、今思えば上着を着てなかった俺の不注意のせいなんだが……そのまま郊外に向かって走って行っちまったんだ。

慌てて追いかけて、幸いモンスターが少なくなっていたから襲われる事もなく、何とか見つけられたんだが……半狂乱で泣きっぱなしだった。




とりあえず連れて帰って、翡翠さんがくれた鎮静剤を飲ませてようやく聞き出した話によると……

・ある日から自分が蜘蛛みたいなモンスターになる夢を見る様になって

・最近ではモンスターになった自分が誰かを殺している所まで映って

・そんな時に俺の古傷を見て、自分が付けてしまったのではないかと思い

・あれは夢ではなく現実で、自分が何の為に作られたかを思い出してしまった

まさか夢と、俺の古傷からこんな結果が出来上がるとは思わなかったよ……

「アトラ、この傷は以前ダンジョンで負った傷だ……お前が付けた訳じゃねぇ」

「ええ、その時は私達も一緒でした……」

「ですが私は人間じゃない事に変わりはっ!」

正直女神のいざこざにミラとジェネまで巻き込むのは気が引けたが、この場で言わなきゃアトラを救えない……そう思った。

「安心しろアトラ、お前とナクアがアルラの眷属が生み出した存在なのは知ってるし、実際に戦いもした」

「え……」

あれは戦いだったのか?とか聞かれると言葉に詰まるが……そういう事にしておいた。

「でもな……ロウも嬢ちゃんも、お嬢や俺も、それを知った上で今まで通りの関係である事を望んだんだよ……そうでなきゃ絶対に後悔すると思ったしな」

で、そのまま抱き締めつつ頭を撫でてやりながら……

「お前は誰も殺しちゃいないし、暴走したら俺が必ず止めてやる……だから安心しろ」

「デスト様……」

これで一段落……なら良かったんだけどな。

「さて、アトラが落ち着いた所で……」

「デスト、説明……してくれるわよね?」

この時程、笑顔の2人が怖いと思った瞬間はなかったよ……




まあそんなこんなで説明せざるを得なくなって……晩飯の前にオヤツを食いに来たサーグァ様(本体)にも話をして貰った。

この辺を詳しく聞きたいならサーグァ様(分体)に聞いてくれ。

「納得出来かねる所はありますが……事情は理解しました」

「言ってくれれば協力したのに……」

「あー……まあ、何だ……俺と違って自由が少ない2人を巻き込みたくなかったんだよ」

というか女神のいざこざとか途方もない事言ったのに、すんなり信じてる2人が誰かに騙されないか心配になったのは内緒にしといてくれ。

「それに……またあの時みたいな事になったら」

何故かこの瞬間ミラとジェネが纏わり付いてなぁ……

「女を犠牲にしてまで生き延びたくはない、でしたね……それは私達だって同じです」

「私達もデストを犠牲にしてまで生きるつもりはないわよ」

流石にその意味が解らない程バカじゃない、と思っていたんだが……

「私達はもう、自分の身を何とか出来ない程弱くはありませんよ」

僅か2年で、2人が強くなった事にも気付けなかった……

どうやら俺は筋金入りのバカだったらしい。

何て考えてたらアトラまで纏わり付いてきた。

「それより……あの時の返事、まだかしら?」

「出来れば……私への返事も」

少なくともアトラに告白された記憶がないんだが……もうヤケクソだった。

3人に返事を返した所で王様、エリナ様、マリー様、ヴァレンのオッサンが入って来てドンチャン騒ぎが始まったよ。

余談だがその翌日はヴァレンのオッサンに丸1日、酒の相手をさせられて……更に翌日は二日酔いに苦しんだぜ。




「まあそういう訳だから……ロウが注意してればアトラが暴走する事はないだろ」

「た、大変だったな兄貴……それと、おめでとう」

「確かアトラさんの技能は【暴走】というらしいのですが……というかサーグァ様の話を聞いていたのにナクアちゃんの事は知らなかったみたいですが?」

「ああ……どうも濁しながら説明してたら2人はアトラとナクアを神の落とし子だと勘違いした様でな」

神の落とし子とはどこぞの聖母みたく、相手が居ないのに妊娠して生まれた子供の事だな。

これは訂正した方が面倒になると思ってそのままにしたが、我ながら英断だったと思う。

「確かバカップルがイチャつく為の口実にされてしまった誕生日の偉人みたいな生まれと勘違いしてしまったのですね……」

「あれって諸説あるけど実際はどうなんだろうな?」

「まあ、この世界にはそういう習慣がないから安心しろ」

奇しくも同じ日はバカップルが町や村でイチャついてたら襲撃しても許される日、になっているけどな。

これはその時になるまで黙っておこう。

「えっと……この場合は義弟として言った方がいいのかマスターとして言った方がいいのかは解らんけど」

「言いたい事は解る……完全に勢いに流された様な物だが口にした以上はしっかりと責任は取る、アトラは俺が守ってやるさ」

「……なら任せた!」

ふぅ、これで残るは……ジェネの両親への挨拶と式の費用を稼ぐだけか。

因みにナクアには先に話したが二つ返事でオーケーが出た……というか喜んでた。

話を半分も理解してなくて、姉が結婚するという事を喜んでるだけな気もするが……まあいいか。





「ねえロウお兄ちゃん、デストお兄ちゃんがお姉ちゃんとけっこんするなら、デストお兄ちゃんがナクアの義理のお兄ちゃんになるから……これからは何て呼べばいーのかな?」

「あー、今のままでも大丈夫だぞ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダークナイトはやめました

天宮暁
ファンタジー
七剣の都セブンスソード。魔剣士たちの集うその街で、最強にして最凶と恐れられるダークナイトがいた。 その名を、ナイン。畏怖とともにその名を呼ばれる青年は、しかし、ダークナイトをやめようとしていた。 「本当に……いいんですね?」 そう慰留するダークナイト拝剣殿の代表リィンに、ナインは固い決意とともにうなずきを返す。 「守るものができたからな」 闇の魔剣は守るには不向きだ。 自らが討った聖竜ハルディヤ。彼女から託された彼女の「仔」。竜の仔として育てられた少女ルディアを守るため、ナインは闇の魔剣を手放した。 新たに握るのは、誰かを守るのに適した光の魔剣。 ナインは、ホーリーナイトに転職しようとしていた。 「でも、ナインさんはダークナイトの適正がSSSです。その分ホーリーナイトの適正は低いんじゃ?」 そう尋ねるリィンに、ナインは平然と答えた。 「Cだな」 「し、C!? そんな、もったいなさすぎます!」 「だよな。適正SSSを捨ててCなんてどうかしてる」 だが、ナインの決意は変わらない。 ――最強と謳われたダークナイトは、いかにして「守る強さ」を手に入れるのか? 強さのみを求めてきた青年と、竜の仔として育てられた娘の、奇妙な共同生活が始まった。 (※ この作品はスマホでの表示に最適化しています。文中で改行が生じるかたは、ピンチインで表示を若干小さくしていただくと型崩れしないと思います。)

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...