あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ

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森とイノシシと奴隷商人

ンガイに到着しました

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牡丹鍋をつついた翌日……マリー様達は先に向かいましたが、あたし達もようやくンガイに到着しました。

ンガイは村というか、半分程森に飲み込まれている様に見えますが……火事になったら大惨事間違いなしですね。

まあ、そうさせない為に来たんですが。

因みに朝食はデストさんが話したからか、マリー様がリクエストなさったモツ煮でした……ちゃんと味噌味にしましたよ。

というか何で朝から内臓の下処理しなきゃならなかったんですかね?

小腸は小麦粉をまぶして揉んで洗って、余分な脂肪はこそげ落として、下茹でして……

膵臓はひたすら水洗いしてから筋を切り取って……と、かなり面倒だったんですが。

まあ面倒なのは覚悟の上で食べたかったし、美味しいからいいんですが……せめて夕飯に作らせて欲しかったですよ。

腐る前に使い切れたからいいんですがね。

「さて、まずはアプさん達と合流しないとな……ピーニャ、翡翠さんの居場所は解るか?」

「ヨユウダゼ」

翡翠さんがピーニャを残したのにはこういう理由もあったのですね。

合流がスムーズに済むなら有難いです。

「あ、その前にあたしとイブは神殿へ向かいますよ……」

一応王様の命令ですし、レンではうっかり忘れてしまう所でしたからね……

今回は先に済ませておきます。




という訳で神殿に着きました。

ンガイの神殿も風の神……つまりトゥール様を崇めていましたよ。

ざっと見た程度ですが特に怪しい所や腐った神官、セクハラ野郎は居ない様ですが……

というか神官も司教も見習いまで含めて全員女性でしたし。

「……こちらがその、書状になります」

「拝見しましょう」

この大神官……年齢は初老に差し掛かった辺りでしょうか?

やけに威圧感がありますが……悪い人ではなさそうですね。

「はぁ、何時かは……と思っていましたが、やはりこうなりましたか」

やはり?

「炎の神殿のプリーストの、名前はキュアさんでしたね……貴方には崇める神は違えど事を知って貰う必要があります、聞いて頂けますね?」

「あ、はい……」

何故かこの大神官には逆らえる気がしませんね。

まあ宗派は違えど、上の立場なのは確かなんですけど。

「自己紹介がまだでしたね……私はラスカ、この神殿で大神官を勤めさせて貰っているモンクです」

貴女はモンクだったのですか!?

というかモンクでも神官になれる物だったのですか?

「いえ、風の神殿にはラスカ様以上の適任者が居ないという理由だった筈です」

あ、そういう……

「正直な所、身内の恥を晒す様で頭が痛いのですが……我が風の神殿に在籍する男性の神官は性欲に忠実な者か、不能な者しかおらず……ここはそんな男性の神官から女性を逃がす為に建てられたのです」

それはレンの神殿にセクハラ野郎ばかりが居たので良く解ります。

「因みにここの神官は全員、他の風の神殿で無理矢理孕まされ捨てられた女性達なのです」

「後程王様に、そいつらを去勢する様に進言しておきましょう」

少なくともレンの神殿はもう大丈夫でしょうが……他の風の神殿も視察しなくてはなりませんね。

後で詳しい場所を聞いておきましょう。

「お陰で風の神殿の風紀が改善される事でしょう……それで、今回の件を見込んでお願いがあります」

お願い……この流れで料理だったら怒りますけど、雰囲気的にそれはなさそうですね。

「1ヶ月程前からでしょうか……実はこのンガイでは時々エルフの子供や年頃の娘が行方不明になっていて……この神殿の見習い達も何人か消えてしまっているのです」

……何やらキナ臭い話が出ましたね。

アーチさんから王様に反旗を企てる連中が居ると聞きましたが……何か関係がありそうですね。

「我々も捜索はしていますがこれといった情報もなく……そこで消えた者達を探す手伝いと、解決の為の力を貸して頂きたいのです」

ふむ……相手の数は不明ですし、味方は多いに越した事はないですね。

それにラスカさんから感じる威圧感と気迫……間違いなくただ者ではないでしょう。

「解りました……協力しましょう」

「ありがとうございます」

さて、話が纏まりましたから……ん?

「……聞きたい事があるのですが、この神殿には天井に張り付く趣味を持つ方が居るのですか?」

「そんな趣味は聞いた事がありませんよ……そういえば最近、他の神官から妙な視線を感じるという話は聞きましたが」

この視線からして天井を掃除している、という訳でもなさそうですし……敵とみて良さそうですね。

「目を閉じて、心を落ち着けて、周囲に意識を向けてみて下さい……ラスカさん程の人なら、感じられる筈です」

「……成程、細かい場所までは解りませんが不快な気配を感じますね」

やはりただ者ではないですね……気配を察知するコツをちょっと説明しただけで物にしてしまいましたか。

「……あたしの真上に1つ、イブの真上に1つ、どうしますか?」

「少なくとも1人は捕まえられますね、やりましょう」

それにしてもこの大神官、中々に血気盛んで頼りになり……ってよく見たらラスカさんの顔はあたしが通っていた空手道場の師範にソックリではないですか!

まさか世界を跨いでソックリさんに会うとは……実力を見るのは今からですが、やられる事はなさそうですね。

「……ホーリーライト、2連打!」

「気弾、二連!」

よし、2つ共落ちてきました。

ラスカさんの気弾……まるで野菜人のグミ打ちみたいな技でしたね。

威力もあたしの魔法より高そうですし……敵にならなくてホッとしました。

とはいえ意識を奪う事は出来なかったみたいだし、向こうも殺る気満々といった感じですが。

「アサシンが2人ですか……どうやらこの事件、貴族が絡んでいる様ですね」

まあ……アーチさんが言う王様に反旗を企てる連中だとしたら間違いなく悪徳貴族は絡んでいるでしょうね。

何か無言のまま武器を構えてますし、とりあえず殴ってからふん縛っておきますか。

「イブ、危険ですがなるべくあたしかラスカさんから離れない様に」

「は、はい!」

もし他にも仲間が居るとしたらイブを拐われる可能性がありますからね……なるべく近くに居て貰った方がいいでしょう。

……いや、だからって抱きつかれると戦い辛いんですけど?

ま、多分一撃で終わるでしょうし問題はありませんが。

「【雷】!」

馬鹿正直に正面から突っ込んで来たので簡単に終わりましたよ……それも左一発で。

「【気弾・通打】!」

ラスカさんは相手のお腹に掌底を叩き込んで、先程の気弾をゼロ距離から打ち込む技で倒した様ですね。

あれは確か日本だと鎧通し、と呼ばれていましたか。

どうやら実力も師範と遜色なさそうですし、揉め事が片付いたら一度組手を頼んでみたい所です。





おっと、騒ぎを聞き付けたのか神官の方々が来てしまいましたね。

別にあたしはやましい事をしてないし、逃げる必要はないんですけど。

「ラスカ様、これは……」

「今回の事件の関係者でしょう、急いで紐を持ってきて下さい」

「は、はい!」

持ってきて貰った紐で縛って、猿轡を噛ませて……と。

これで逃げられる事はないでしょう。

「キュアさん、先程の技……デュロックさんの魔拳とお見受けしますが?」

「知っているのですか?」

「デュロックさんとは以前、手合わせをした事がありましてね……通打はその時の戦いを参考に編み出した技なのですよ」

あ、弟子ではなかったんですね……という事はライバル的な関係でしょうか?

「詳しい話は後程として、この者達をどうしましょうか」

「まずはあたしの仲間達と合流しましょう、同行を願えますか?」

「解りました……行きましょう」

そんなこんなでアサシン共を引きずりながら、迎えに来たピーニャの案内で合流出来ましたよ。

先に向かっていたマリー様達も含めた皆さんはアプさんの実家……キノコ農園に居ましたよ。

両親は所用で出掛けている様ですから後で挨拶するとして、とりあえず宿代は節約出来そうですね。

合流後、イブとラスカさんを紹介して顛末を説明して……何故か2人共マリー様に恐れて、ってよく考えたら王様の第2夫人ですしこれが普通の反応ですよね。

サーグァ様はフレンドリーにご飯をねだるからつい同じ感覚でいました……今後は注意しなくては。

そうこうしてる間にアサシン共が目を覚ましたので、喋らせようとしましたが……一向に吐きませんね。

ならば仕方ありません、何時かの盗賊にやったアレを試してみますか。

「ロウ、黄を出して下さい……実力行使です」

「待て、ナクアとイブにアレを見せるのはマズイだろ」

言われてみれば教育には良くないですね。

ではどうしましょうか……

「ではミラさん、向こうで尋問をお願いします……生きていれば状態は問いません」

「解りました、ジェネも手伝って下さい」

「え、ええ……」

何気にえげつない事を言いますねマリー様……

ミラさんならあのネクロオバサンにやってた様に上手くやるでしょうけど。

「それでマリー様……今回の一件、どう見ますか?」

「恐らく……首謀者は奴隷商、賛同しているのはそれを支援する貴族、でしょうね」

成程……奴隷商が関わっているなら子供や女性が行方不明になっているのにも説明が付きますね。

「ンガイの近くに町はないし、この地の領主は王様と友好関係を結んでいますから……拐われた皆様にはまだ買い手も付いてないでしょうし、まだこの村の近くに居るでしょう」

そういえば領主はエリナ様の弟でしたっけ。

「奴隷商が居るって……ナクアは大丈夫だったのか?」

「うん、アプお姉ちゃんが一緒だったから大丈夫だよ!」

「ま、怪しい奴が何人か近づいては来たけどねぇ……容赦なく叩きのめしといてやったよ」

流石はアプさん……そこらのチンピラじゃ喧嘩にすらなりませんか。

「となると暫くは単独行動を控えた方が良さそうですね……イブは神殿、ラスカさんの側に居た方がいいでしょう」

「は、はい……」

ラスカさんならチンピラ程度軽くあしらえるでしょうからね。

「コカもなるべくあたいかキュアと一緒に居な」

「う、うん……そうする」

「ナクアはアプお姉ちゃんかロウお兄ちゃんと一緒に居るー!」

「まあ、そうなるよな……俺の側だと翡翠さんとも一緒になると思うが」

って、ちょっと待って貰いたいのですが……

「何で誰もあたしを守ろうとしないのですか?」

奴隷商からすればあたしだって商品にされそうな物なのですが?

「そりゃキュアだからねぇ……そこらのチンピラ程度ならどうとでもなるだろう?」

「キュアは俺より強いからな……むしろ俺が守られそうだし」

そう言われると反論の仕様がないのですが……ロウには嘘でも守ってやると言って欲しかったですよ?

「俺はジェネに付いてなきゃならんし、ミラはマリー様の護衛だからな、まあお嬢が一緒なら余程の事がない限りは大丈夫だろ」

……暫くの間はコカちゃんと、ロウにナクアちゃんと一緒に屋台を出した方が良さそうですね。

あ、夕飯はチーズを使って作りましょう……ナクアちゃんとは暫く離れてましたからね。




追伸、ミラさんに尋問を受けていたアサシンの2人は命に別状はないもののモザイクが必要な状態になっていました。

それを見たデストさんが、ミラさんはアプさん同様に絶対怒らせたりはしないと誓っていましたよ……
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