あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ

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蕎麦粉を求めて

ンガイに向かいます

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コンテストの本戦が終わりました……あの襲撃以降は特に問題は起こらず、一安心です。

明日には集計して、結果を発表した後あたしがレシピを渡せばンガイへ向かえます。

幸い醤油と魚醤はこの村の神殿で作り始めましたからね……一応確認しましたが、ちゃんと出来ていましたよ。

崇める女神は違えど神に仕える者同士、喧嘩は避けましょう。

クティだけは例外ですけどね。

「それで……何か御用ですかセバスチャンさん?」

「ええ、プラトー様がキュアさんに話したい事があるそうで……御足労願えますか?」

プラトーちゃんの話ですか……

物語なんかの定番なら部下になってくれ、とか結婚して下さい、辺りでしょうが……プラトーちゃんはまだ5歳だし結婚はないでしょう。

まあ余程の無茶でなければ無下にするつもりはないですが。

という訳で再び領主邸ボロやしきに来ましたよ。

あの後再びミラさんがネクロオバサンを尋問に掛けたらお金は1ハウトたりとも貸していないと自白したので……今後は牢屋の中で内職しながら強奪したお金を返済させる事になりましたし、その内新築同然になるでしょう。

「よくきてくれたな!」

「呼ばれましたからね……今は集計で忙しいのでは?」

「しゅーけーならセバスチャンがいっしゅんでおわらせてくれたぞ!」

本当に有能過ぎる!

「それで……キュアにおねがいがあるのだ!」

「あ、立ったままでいいですからね?」

言わないとまた土下座しかねませんからね……





「わたしは……なぜかここでしかそだたないソバを、もっとおおくのひとにたべてもらいたいのだ、そうすればきっとせんそーなんかもなくなるとおもうのだ」

蕎麦で戦争が無くせるかどうかは疑問ですが気持ちは解りますよ、蕎麦は美味しいですし。

そういえばプラトーちゃんの理想はトゥール様の理想と似てるとかセバスチャンさんは言っていましたが……成程、実現は難しいでしょうが良い理想です。

サーグァ様の本体がここに居れば即座に協力してたでしょうし。

それにしてもこれは……

プラトーちゃんが女神級の大物なのか、トゥール様の思考が5歳児並なのか……現状では判断が付きませんね。

ンガイの揉め事を解決すれば接触してくるとか言ってましたからその時解ると思いますが。

「さいしょはキュアにもわたしのぶかになってもらいたかったけど、それはぜったいことわられるとおもったから……だからわたしに、ソバりょーりをおしえてください!」

そんな深々と頭を下げなくても、聞いてくれれば幾らでも教えますってば……

確かに部下になれと言われたら断っていたでしょうけれど。

しかしプラトーちゃんの熱意は本物……ならばあたしも応えましょう。





「まず最初に言っておきます、今から教えるのは……あたしでも上手く作れた事がない物です」

「キュアでもつくれないりょーりがあったのか!?」

そこ、そんなに驚く事ですか?

本当にこの世界に来てから過大評価が過ぎてますけど、あたしは至って普通な14歳の女の子なんですよ?

「最初に蕎麦粉をふるいながらボウルに入れて、水を真ん中から少しずつ、そうしたら指で全体に周す様に……」

おからみたいになったらこれを纏めて、よく捏ねて……と。

「ふぅ……後はこうして伸ばして切って、大量のお湯で茹でれば出来上がりです」

「これはキュアのやたいでうってたらーめん、みたいなかたちだな」

「とりあえずこれとは別に、小麦粉を混ぜた蕎麦も打っておきます……」

さて、試食といきましょう。

ツユは醤油と魚醤と水を同量混ぜて、更に少量のお酒を加えて半分になるまで煮詰めた物を使います。

鰹節があればもっと手早く、美味しく作れたのに……ツユを作ってくれたのはセバスチャンさんなんですけどね。

「まずは蕎麦粉だけで打ったのから試して下さい」

(ズルズル)

「ふわぁ……ちょっとボソボソしてるけど、こなにしたばかりのよーなソバのかおりがくちじゅうにひろがるぞ!」

うん、そのボソボソが最大の悩みなんですよね……

何故かあたしが打った十割蕎麦はそうなってしまうのですよ。

水を増やしてみたり、捏ねる時間を増やしたりと……色々試したんですけどね。

「次に小麦粉を混ぜた方を試して下さい」

「これは……ソバのかおりはうすいけど、はごたえとのどごしがけたちがいだぞ!むしろ、ボソボソしてないぶん、こっちのほーがおいしいかも!」

それにしてもプラトーちゃん……やけに鋭い味覚を持っていますね?

まあ、これは蕎麦に限った話ではないのですが……麺の美味しさで重要なのはコシと喉越しです。

どれだけツユやスープに工夫を凝らしても、具を豪華にしても……麺がふにゃふにゃボソボソしてたら全てが台無しになります。

やはり日本に居た時もっと真剣に習っておくべきでしたね……

通っていた空手道場の師範が打っているのを1度見ただけで、後はネットで打ち方を流し見してただけではこれが限度でしょうか?

「あたしが2種類の蕎麦を打ったのは……麺の美味しさを理解させる為、そしてプラトーちゃんに宿題を与える為です」

「しゅくだい?」

「ご覧の通りあたしでも打てない、蕎麦粉のみで打った……通称十割蕎麦というのですが、これをこの小麦粉を混ぜて打った四六蕎麦と同様のコシと喉越しを出すのです」

「ふぇっ!?」

ぶっちゃけ無茶を言ってるのは承知していますが……

「プラトーちゃんが本気で夢を叶えたいのなら、必ず打てる様になれる筈ですよ」

「………わかった!かならずつくってみせるぞ!」

何故かは解りませんがプラトーちゃんならいつか打てる様になる……そんな気がします。

それまでに……あたしも魚で節か煮干しを作ってみましょう。

蕎麦は鰹でなくても、魚の出汁があった方が美味しいですからね。





で、コンテストの結果ですが……予想外な事に極一部の工夫をしていたソバがきを出していた方が優勝してしまいました。

あの人は確かソバがきをトマトソースで煮込んだ物を出していましたが……名前を忘れてしまいました。

因みに準優勝はアーチさんでしたよ。

「惜しかったですねミラさん……あたしの予想なら上位はミラさんとアーチさんになると思っていたのですが」

とは言ってもアーチさんとはビスケット6枚分の差でしたからね……値段で言えば3ハウトです。

「まあ、付け焼き刃のお菓子でしたからね……空き家は残念ですが賞金が貰えただけでも良しとしますよ」

ジェネさんと一緒に行う結婚式の予算になるんですね、解ります。

2人分のドレスを仕立てるならそれなりにするでしょうし……

この世界の結婚式にウェディングドレスがあるのかは知りませんけど。

「では、私はアーチさんと共に一旦ボリアに戻ります……ンガイでまた会いましょう」

「ええ、道中お気を付けて」

マリー様がンガイに来るなら確実にミラさんも来るでしょうからね……

「ってアーチさんもボリアへ向かうのですか?」

「ミラちゃんとお話してたらデストに会いたくなっちゃったのよ、ついでにもう2人のお嫁さんに挨拶しようと思って」

成程、ジェネさんとアトラさんに会うのですか。

アーチさんは見た目かなりの美人だし、勘違いしなければ良いのですが……

まあデストさんなら前もって説明すると思いますけど。




「さて、これでようやくンガイへ向かえますね」

「ボリア程じゃないにしても結構長居しちまったな……宿代と買い込んだ食料で屋台の儲けがほぼ消えちまったぞ」

「コンテスト、あったからね……それに、キュアちゃんのレシピ……教えなきゃいけなかったし」

まあ、幸い物覚えが良い人で助かりましたけどね……

更にあの人は風の女神の信者だったから神殿で売っている醤油や魚醤を贔屓にしてくれそうですし。

「……で、何でイブもここに居るのですか?」

「えっと、キュア様達がンガイへ向かうと聞いて……私もンガイの神殿へ書状を届けに行く事になりまして、出来たらご一緒したいと」

書状……それ、かなり重要な事が書かれているんじゃないですか?

何でそんな大事な物を駆け出しのヒーラー1人に任せるんですかね?

あたしのせいで人手が足りないって言われたら反論が出来ませんけど。

「まあいいんじゃないか?ヒーラー1人で道中モンスターや盗賊に襲われたりなんかしたら寝覚めが悪い」

「うん……ヒーラーが皆、キュアちゃんみたいに……強くはないからね」

ちょっとコカちゃん、まるであたしが普通じゃないみたいに言うのは止めてくれませんかね?

とはいえ2人が構わないならあたしが反対する理由はないですが……こう畏まられると息苦しいんですよ。

「風の神殿の規律がどうかは知りませんが、あたしは炎の神殿のプリーストです……何度も言いましたが、あたしに敬語は必要ありませんよ」

「で、でも……」

「とにかく、あたしは呼び捨てか、せめてさん付けで……道中を共にするならそれが条件です」

「わ、解りました……キュアさ……ん」

ちょっとたどたどしいですが、様付けされるよりはマシになりましたね。

はぁ……出発前からこれでは先が思いやられますよ。
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