あたし、料理をする為に転生した訳ではないのですが?

ウサクマ

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蕎麦粉を求めて

弟子入りしました

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色々ありましたが、ようやくコンテストが始まりました。

流石に参加者が多かったので予選は8日に分けて、1日に10人から1人を選ぶという形式に……まあ、長引けばその分宿屋が稼げるでしょうし。

予選と本戦で2日あればいいんじゃないかと思いましたがそもそも領主が病み上がり、プラトーちゃんが小食だから一度では審査が出来ないそうです……

ついサーグァ様の胃袋を基準に考えてしまいましたが、これは反省しなくてはなりませんね。

まあ分体サーグァ様はコッソリ着いてきていますけど……ちゃんと分けますから睨まないで下さい。

最初の10人の中には何故かお城の厨房に居た変態に、ダニチでサーグァ様に駄目出し喰らって喜んでた変態まで居ましたけど審査に私情は挟みませんよ?

私情を挟んだら食べる前から失格にしてしまいますから。



「ふわぁ……このソバケーキがいちばんおいしーぞ!」

お城の変態はホットケーキに蕎麦粉を使ったのですね……それにイチゴのジャムを合わせるとは。

でも前に見た時はお城の厨房にイチゴはなかったから…多分ンガイで買ったジャムでしょう。

意外と美味しいのに、何で作った人が変態なのでしょうか?

「うぅむ……ダイズ豆の粉末を混ぜたソバダンゴも中々」

ソバがきはソバダンゴと呼ばれているんですね……そういえば王様が発行したあたしのレシピ本には黄粉の作り方も書きましたっけ。

確か青森県では蕎麦のつなぎに黄粉を使うと聞いた事がありますし、不思議な風味ですがこれも美味しいです。

これを作ったのは……ダニチの変態ではないですか!

ロウのお尻を狙ったオークといい、コカちゃんといい……この世界は変態でなければ美味しい料理を作れないのですか?

あたしとデストさんは異世界人だから違いますけど!

「キュアはどれがおいしーとおもったのだ?」

「ふむ……あたしはこのカタソバというのが好きですね」

蕎麦粉にジャガイモのデンプンを混ぜて固めた……いわゆる蕎麦豆腐という料理ですね。

これにみじん切りのタマネギをじっくりと炒めて甘味を出した物に細切りにした人参を甘く煮た物と擂り潰したトウモロコシが乗って……意外と悪くないです。

これが塩味ではなく醤油味ならもっと美味しかったんだろうと思うとかなり惜しいですが……レシピ本が発行されてまだ2ヶ月も経ってないので仕方ありませんね。

「3人とも票が割れてしまったか……」

「こんかいはキュアのいけんをとおしましょう」

今回は……ってどういう意味ですか?

「去年は領主様とプラトー様、それと自分で審査をしていましたから……意見が割れたらジャンケンで決めていたのです」

料理コンテストなんだから味で決めなさいよ!

「カタソバをだしたアーチ、よせんつーかだぞ!」

「ウフフ、やったわ!」

おや、女性の料理人でしたか……って?

「このまま優勝して……絶対にレシピを手に入れてみせるわ!」

あの人はエルフ……ってやけに綺麗な肌とドレスなのに、喉仏が見えますがまさか?

「見た目では信じられませんでしたが、彼はれっきとした男性でした」

呑兵衛な肉食のタンクエルフのお義母さん、百合のハーフエルフのコカちゃん、その次がオカマのエルフ……

あたしの中のファンタジー感が跡形もなく壊されてしまっていますよ……今更ですが。




最初の審査を終えて宿に戻ったらデュロックさんが来ていました。

これで少なくともコンテスト中は安心ですね。

「嬢ちゃんに呼ばれた時は何事かと思ったが、事情は粗方聞かせて貰ったぞ」

「お手数をお掛けしますが、宜しくお願いします」

「そういやヴァレンのオッサンはどうしたんだ?」

「……ヴァレン殿はぎっくり腰を患ってしまってな」

引退したのは腰を痛めたからだと聞きましたがなんと間の悪い……まあ、お大事にと伝えて下さい。

「それと嬢ちゃん、ボリアでは機会がなく諦めたが……少し手合わせをしないか?」

そういえば組手の約束をしていましたが叶いませんでしたね……

確かに良い機会ではありますし、あの魔拳という技能を使った戦い方は気になります。

「受けて立ちましょう」

「やるのは構わないけど、町の中で暴れるのはよしな」

「ま、郊外でった方がいいかもね」

コンテストの最中で人が大勢居ますからね……まあモンスターが減って中々現れないし邪魔が入る事もないでしょう。





何故かロウとコカちゃんにナクアちゃんまで着いて来てしまいましたが、邪魔はしないで下さいね?

「ん、何時でもいいですよ」

「よし、なら行くぞ」

さて、パッと見ただけではボクシングの構えに似ていますが……

「【魔拳・雷】!」

やはりデュロックさんの拳に目に見える程の強い電流が走ってる……

「これは俺が長年掛けて編み出した技能【魔拳】、己の気、または魔力を拳に纏わせる事であらゆる属性攻撃が出来る……といっても俺は雷の他は地と風しか使えんがな」

戦い方を見たいとは思っていましたがまさかこれ程凄い技を編み出したとは……というか魔法のある世界なのに気って概念あったんですか?

まあ、やる事は変わりませんけど。

電流が流れているのは拳のみですから、肘から捌けばダメージはありません。

といってもデュロックさんの力強さでは反撃に出るのが難しいですね……トゥグア様の補正があるにしても、あたしの耐久力は紙装甲ですから。

一撃でも受けたらそれで終わってしまいます。

「ほう、早速この技能の弱点を見付けるとはな……だが捌くだけでは勝てんぞ!」

速度が上がって、手数が増えたぁ!

見た目はバリバリのパワータイプなのに速いなんて反則じゃないですか!?

ですが見たままのボクシングスタイルと解ったのは有難いですね……さっきから足はフットワークやステップにしか使っていませんし。

拳では潜り混むのが難しくて当たる気がしませんが蹴りならギリギリ届きます!

ストレートを何とか避けつつ渾身の回し蹴りがお腹に当たった……のですが?

「流石だな……やはり嬢ちゃんは接近戦のセンスがある様だ」

くぅ……やはり耐久力も高い、あの筋肉は伊達ではありませんね。

……って、追撃が来ると思ったら膝が落ちた?

「ふぅ、ふぅ……実を言うと俺はこれでも今年で86でな……全力を出すと4分しか持たんのだ」

確かオークの寿命は長くても100歳までと聞きましたから……完全に高齢者ではないですか!?

「普通なら引退して余生を過ごすでしょうに……何でまた」

「生憎俺は独り身でな……孫も子も居ない、というか嫁どころか恋人すら存在した事がない……当然、余生の為の蓄えはしていない」

つまりデュロックさんは童……いや、止めておきましょう。

というか貯金ぐらいしておきましょうよ!




「今までは独り身でもいいと思っていたんだが……長年掛けて編み出した技を誰かに受け継いで欲しいと思う様になってしまってな、これまでに7人ほど育ててはみたが、習得出来た者は1人しか居ない」

つまり後継者が欲しかったのですね……日本に居た時に通っていた道場の師範も似た様な事を言ってましたよ。

「嬢ちゃんなら1週間もあれば習得出来るだろう……どうだ?」

「ですがあたしはプリーストですよ?」

「職業は関係ない、要は魔力か気があればいい……かくいう俺も職業的に気しか使えんし、唯一習得した1人は従者だったが魔力しか使えなかった」

この世界の従者って実は強いのですか?

セバスチャンさんは護身術ぐらいなら身に付けているとか言っていましたが、マリー様付きのメイドさん達は戦えませんでしたね。

アトラさんとナクアちゃんは幻獣だったから除外すると……その従者が特別だっただけですね、うん。

とはいえこの話は有難いですね。

ロウは幻獣使いという才能を開花させつつありますし、コカちゃんは知識欲が増えた結果、魔力が跳ね上がっていますし。

あたしはジェネさんから聞いた祈り方のお陰か魔力は増えていますが、2人みたいな結果が出ていませんからね。

ほんの少しでも強くなれる可能性があるのならば……

「……是非とも教えて下さい」

「ああ、いいだろう」

暫くはコンテストの審査とデュロックさんの指導が続きそうですね……

皆の食事はコカちゃんに任せるとして見返りが怖いのですが……せめて今のあたしに出来る事でお願いしますよ?
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