上 下
2 / 122
プロローグ

少なくともプリティではないと思う

しおりを挟む
気が付けばあたしと兄は草原に居ました……近くに村が見えるのでアテもなく彷徨う事はないでしょう。

ああ、それにしても空気が美味しいですね。

出来たばかりの世界とは聞いてますし排気ガスとかがないのでしょう……多分。

「えっと……どうやら転移?は成功したみたいだな」

「そのようですね」

うん、ちゃんと喋れるし意識もハッキリしてますね……

まずは荷物を確認しましょう……

鞄、地図、通貨はハウトというらしいです……良し、全部ありますね。

次に装備……兄は短パンに布製のシャツと革製の胸当て、木製の弓に金属の矢。

あたしは真っ赤な生地でスリットのないチャイナドレスっぽい服にスチールで出来てる様な杖に……あ、パンツとブラは着てましたね。

というかこの世界にも下着があったりするんでしょうか?

「……よし、それじゃ村に行く前に決めておくか」

「決めるって何を……ああ、異世界から来ましたじゃ信じて貰えないから設定を考えるんですね」

「いや、そこは旅人か冒険者で通せばいいだろ……そうじゃなくて名前だよ」

「名前ですか?」

兄が決めたかったのはこの世界で名乗る名前だった様ですね。

普通なら親から貰った名前を大事にする所ですが、あたし達を殺したのがその親ですからね……さっさと変えてしまいましょう。

「じゃあ……兄は弓を使いますし、ロウでどうでしょうか?」

arrow、アローを弄って省略しただけですが人名っぽくなったんじゃないかと思います。

それに暗記が苦手な兄に長い名前なんて付けたらベッドでブツブツ言うだけの機械になってしまいますので、これぐらいの長さで丁度良いでしょう。

「覚えやすくていいな、ならお前はヒーラーだから……キュアってのはどうだ?」

大抵のゲームで回復職が使える魔法の名前ですね。

効果はHPの回復だったり状態異常を直すのだったりと様々ですけど……

「兄に付けて貰えるんならポチでもタマでも構いませんが?」

むしろ1文字でも、何ならあいうえおだって許せます。

「ならキュアで決定な」

「はい」

後から魔法より拳で語りそうな魔法少女っぽい名前になった気がしましたが可愛い名前なので問題ありませんね。

殴殺ヒーラーキュアちゃん……一考の余地はあります。

試しに唱えてみましたが何も起こらないのでこの世界にはないと思って良さそうですし、誤発動の危険はなさそうで安心しました。

因みにあたしは空手を習っていましたので拳と回し蹴りには自信があります。




「じゃ、名前も決まった事だし……」

「そうですね、まずはあの村で情報を」

さて行くかと思ったら唐突に後ろからハグられた……いわゆるあすなろ抱きって奴ですね。

って何故?嬉しいけど!

「まあ何だ……女神様のお陰であの約束も意味なくなったよな?」

約束……あたしと兄はお互いに愛し合っていますが、この関係は中学を卒業するまで、と決めていたのです。

といっても流石に膜を破ったりはしていませんけどね……精々朝と昼休みと寝る前の挨拶代わりにネットリ舌を絡めるキスをする程度でしたが。

実を言うと卒業と同時に兄の寝込みを襲って絞ってから無理心中なんて計画はしてたんですが、徒労に終わってよかったのかもしれません。

「だからこっからは……その、何だ、俺を兄と呼ぶのは禁止な」

それこそ何故ですか!もしかして生まれ変わった途端あたしに飽きたんですか!

あれ?そう考えると涙が……

「何か勘違いしてるっぽいけど……ほらアレだ、俺たち2年後には結婚するんだし」

そういえばトゥグア様とそういう約束をしてました……

そもそもあたしが嫌いならキスに応じてくれてはいませんよね……うん。

「なのに何時までも兄、お前じゃ変だろ?」

言われてみればその通りですね……とはいえ10年近く兄、お前で通してたので簡単に変えられるとは思えませんけれど。

「まあすぐは無理でも意識してれば慣れるだろ……だからな」

ああ……そんな耳元で囁く様に言わないで……内容が頭に入りきりません。

マズイです、このままじゃあたしの心臓が破裂してしまいそうです!嬉し過ぎて!

「これからは俺をロウって呼べよ……お前が、じゃなかった……キュアが俺に付けた名前でな」

「わ、分かりました……ロウ」

こうして始まったあたしと兄……じゃない、あたしとロウの異世界の旅は遠巻きから大勢のモンスターに睨まれながらしたキスから始まったのでした。





尚、がっつりと覗いていたモンスター共は責任を持って殴り倒しておきました。

飛び掛って来るのに合わせて拳を突き出すだけの簡単なお仕事でした。

「ふむ、この世界でも空手が通用しそうで安心しました」

「キュアはヒーラーなのに何で前に出るんだよ……矢の節約が出来たと思えば有難いけど」

こればかりはあたしの性格ですからね……ただ守られるだけなのは性に合わないのですよ。

「何だか逆に俺が守られそうだな……相当鍛えないとならんか」

はい、頑張って強くなりましょうね。

あたしはそれ以上に強くなりますから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

私、実は若返り王妃ですの。シミュレーション能力で第二の人生を切り開いておりますので、邪魔はしないでくださいませ

もぐすけ
ファンタジー
 シーファは王妃だが、王が新しい妃に夢中になり始めてからは、王宮内でぞんざいに扱われるようになり、遂には廃屋で暮らすよう言い渡される。  あまりの扱いにシーファは侍女のテレサと王宮を抜け出すことを決意するが、王の寵愛をかさに横暴を極めるユリカ姫は、シーファを見張っており、逃亡の準備をしていたテレサを手討ちにしてしまう。  テレサを娘のように思っていたシーファは絶望するが、テレサは天に召される前に、シーファに二つのギフトを手渡した。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

〜マリアンヌさんは凶悪令息のお気に入り〜

柚亜紫翼
恋愛
裕福な貴族令嬢マリアンヌ・ボッチさんはお裁縫が趣味の16歳。 上級貴族の令息と政略によって半ば強制的に婚約者にさせられていました、見た目麗しい婚約者様だけど性格がとても悪く、いつも泣かされています。 本当はこんな奴と結婚なんて嫌だけど、相手は権力のある上級貴族、断れない・・・。 マリアンヌさんを溺愛する家族は婚約を解消させようと頑張るのですが・・・お金目当ての相手のお家は簡単に婚約を破棄してくれません。 憂鬱な毎日を送るマリアンヌさんの前に凶悪なお顔の男性が現れて・・・。 投稿中の 〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜 https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475 に登場するリーゼロッテさんのお母様、マリアンヌさんの過去話です。 本編にも同じお話を掲載しますが独立したお話として楽しんでもらえると嬉しいです。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...