上 下
49 / 52

第四十九話 トゥーダム神殿 その2

しおりを挟む
 三人は無事に神殿を後にし外で待っていた骸骨騎士たちと合流した。すでに陽が落ち始めていて空は夕焼け色に染まっていた。

 ロランの姿をみた骸骨騎士たちが主の帰りを待っていましたとばかりに整然と並び、出迎える。そしてロランが手に持つ神を殺すことができる聖剣エクスを見て、感動する。多くの骸骨騎士は喋ることができなくなっているが、一部の骸骨騎士はまだ言葉を発することができる者もいる。

「おぉ!! ロラン様、これがあの伝説の武器ですか!!??」

 迫り来る彼らにロランは体が思わず、のけぞってしまう。

「え、あぁ、まぁそうみたいだね……」
「「「「おぉお!!!」」」

 死んで、骨だけになっているのに、表情は豊かで、彼らに熱気を感じる。

「では、これで、憎きソラーナを倒せますね!!」
「我らに勝利を!! 魔王様、万歳!!」
「魔王様、万歳!! 我らが栄光、永遠なれ!!」

 骸骨と成り果てた騎士たちは口々に喜び、舞い上がっていた。ロランも元々は女神ソラーナを倒そうとしていた。魔物が悪という考えを教え、勇者を選び、そそのかして挑ませてくる。

 自分は地上への干渉はできないと言いながら、だ。狡猾にもほどがかる。自分の手は汚さずに、人を死地に追いやるようなことを平気でやる女なのだ。それが本当に女神なのか、と疑問してしまう。

 だが、今となってはもはやどうでもいいことだ。もしも、アトラス帝国のシルビアが世界を支配しようと考えているのなら確実に自分たちにもその影響を受けることになる。嫌々でもだ。そうってくると人間との交流は完全に断たれ、ロランの大好物の『お菓子』が手に入ることができなくなる。

 それは問題だ。死活問題だ。重大だ。

 だから、ロランはシルビアに回収される前に奪い取り、そして、この剣を使ってシルビアと戦うつもりだった。そんな思惑もしらないし、説明していないため、骸骨騎士たちは無邪気に喜んでいる。

 否定するのも面倒なことになりそうなので、何も言わないことにした。今すぐにでも、女神のいる天界に攻め入りましょう!といきり立つ。

 そう。この聖剣エクスは天界に行くための手段でもあるのだ。

 噂によれば、光の階段または虹色の階段が出現し、それを昇っていけば天界の門があると言われている。それを使えば簡単に行くことができる。少し心が揺らいだが、女神との死闘を繰り広げるのも嫌だったので、戦力の不足と夜が来ることを理由に近くで野営することに決める。

 ヨナに野営することを告げる。彼女はすぐさま骸骨騎士たちに命令を下す。後方で待機していた輜重部隊に近くの拓けた平原に野営用の幕舎と食事を用意させるように伝える。また、周辺の警戒のため斥候部隊を出すようにも指示を出していた。ロランはそのヨナの背中を見ながら抜け目がないな、と感じた。足らない部分を追加で伝えようと思っていたが、彼女のほうが一枚上手だったようだ。できる女、とはこういうことなのだろう。

 薪が置かれ、火が焚かれる。大きな鉄製の鍋に輜重部隊の骸骨たちは大急ぎで、夕食の食事を作り始めていた。ジャガイモ、ニンジン、キャベツをざく切りにして、鍋へと放り込む。

 次に兎の肉、牛の乳、塩を入れて煮込んでいく。ぐつぐつと音を立てながら良い匂いが立ち込める。まだ、食事ができるまでに時間がかかりそうだったので、ロランは夜空を見るため、野営地から少し離れた丘の上に腰を下ろした。すると、後ろの方で気配を感じた。振り向くとそこにはレオが立っていた。右手には白い湯気を立てた木製の器を持っている。彼女はロランの隣に座ると器を差し出した中にはいろいろな野菜が入ったシチューが入れられていた。ロランはそれを受け取るとどうも、と頭を下げて礼を言い、木のスプーンを手に取る。一口すくって、口の中へといれた。

「熱っ」

 口に含んだシチューをすべて木の器の中へと戻した。舌を出して、涙目になっている。実は猫舌なのである。そんなロランの姿を見て、レオはクスリと笑った。

「なんで笑うんだよ」
「だって、ロランって、魔王ぽくないもん」

 魔王っぽくないと言われ、ロランは苦笑いを浮かべるしかなかった。両肩をすくめる。

 ロラン自身も魔王らしくないことは自覚しているからだ。そもそも魔王になりたくてなったわけでもないし、気が付いたことには魔物を統べる総大将になっていた。弱い魔物たちが助けを求め、ロランはそれに答えた。ただそれだけなのに、彼らはみな口を揃えていう。我らを導く救済者、我らが王であると。

 いやいやながらも頂点に立つが、だからといって魔王らしい振る舞いをすることもない。ロランにとって彼ら魔物たちは家族のような存在だと思っているからだ。

 もちろん、魔王軍の中にはロランを恨む者もいるかもしれないが、それでもみんなを愛している。だから守りたい。それは等しく人間も同じだ。この世界に生きるすべての命を守りたいとロランは思っている。

 ロランがそんなことを考えながら、再びシチューを口の中に入れた。今度は熱くなかった。味わって食べる。ころころとした野菜。少しだけ芯が残っているような気がするが、それはそれでまぁいい。

 それよりも兎の肉だ。ホロホロしていて柔らかい。肉が多めに入っていることにも文句はなかった。ヨナ辺りが給仕係に多めに入れるように言ったのだろう。その心遣いに感謝しながら、食事を続ける。レオはパンを取り出した。この時代のパンは小麦ではなく、大麦とライ麦を混ぜたパンで、とにかく堅い。

 そこで、シチューなどに浸して柔らかくして食べていた。しかし、ロランたちは違う。魔王の支配下にある領地には小麦などが豊富にあり、ハーフの穀物ではないため、ふんわりとした食感を持つパンを作ることができる。それを口に含みながら、満足げな顔をする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

♀→♂への異世界転生~年上キラーの勝ち組人生、姉様はみんな僕の虜~

高嶺 蒼
ファンタジー
痴情のもつれ(?)であっさり29歳の命を散らした高遠瑞希(♀)は、これまたあっさりと異世界転生を果たす。生まれたばかりの超絶美形の赤ん坊・シュリ(♂)として。 チートらしきスキルをもらったはいいが、どうも様子がおかしい。 [年上キラー]という高威力&変てこなそのスキルは、彼女を助けてくれもするが厄介ごとも大いに運んでくれるスキルだった。 その名の通り、年上との縁を多大に結んでくれるスキルのおかげで、たくさんのお姉様方に過剰に愛される日々を送るシュリ。 変なスキルばかり手に入る日々にへこたれそうになりつつも、健全で平凡な生活を夢見る元女の非凡な少年が、持ち前の性格で毎日をのほほんと生きていく、そんなお話です。 どんなに変てこなお話か、それは読んでみてのお楽しみです。 感想・ブックマーク・評価などなど、気が向いたらぜひお願いします♪ 頂いた感想はいつも楽しみに読ませていただいています!!! ※ほんのりHな表現もあるので、一応R18とさせていただいてます。 ※前世の話に関しては少々百合百合しい内容も入ると思います。苦手な方はご注意下さい。 ※他に小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しています。

森に捨てられた俺、転生特典【重力】で世界最強~森を出て自由に世界を旅しよう! 貴族とか王族とか絡んでくるけど暴力、脅しで解決です!~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 事故で死んで異世界に転生した。 十年後に親によって俺、テオは奴隷商に売られた。  三年後、奴隷商で売れ残った俺は廃棄処分と称されて魔物がひしめく『魔の森』に捨てられてしまう。  強力な魔物が日夜縄張り争いをする中、俺も生き抜くために神様から貰った転生特典の【重力】を使って魔物を倒してレベルを上げる日々。  そして五年後、ラスボスらしき美女、エイシアスを仲間にして、レベルがカンスト俺たちは森を出ることに。  色々と不幸に遇った主人公が、自由気ままに世界を旅して貴族とか王族とか絡んでくるが暴力と脅しで解決してしまう! 「自由ってのは、力で手に入れるものだろ? だから俺は遠慮しない」  運命に裏切られた少年が、暴力と脅迫で世界をねじ伏せる! 不遇から始まる、最強無双の異世界冒険譚! ◇9/25 HOTランキング(男性向け)1位 ◇9/26 ファンタジー4位 ◇月間ファンタジー30位

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

処理中です...