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第二十五話

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 二人はそのまま森を抜け、舗装された道を出る。そこでは木柵が建てられてた。

 なんの為に建てているのか。魔物が道に出てこないようにしているらしいが、こんなちんけな木柵なんて、すぐに破壊されてしまうだろう。

 そんな木柵を大柄の男冒険者は開いてしまった隙間から通り抜ける。

 女冒険者は嬉しそうにニッと笑うと助走をつけて、木柵を飛び越えた。

 上手く着地したのを自慢げに連れの男に視線を送る。

「どう? カッコいい?」

 思った以上にうまく着地できたのが、嬉しくて思わずニヤけてしまう。

 それにカイラスは冷めた目で見つめる。

「アホか」

 心のない言葉に心を痛めた。

「そこはさ……褒めろよな……」

 彼女の態度にまったく、とカイラスは呆れ声を漏らし、手を顔に当てる。

 女冒険者は気持ちを切り替えて、辺りを見渡した後、身体に入っていた力を抜いた。
 
「あー、やっと安心できるわ~」  

 森の中では一瞬の気の緩みが命取りになる。熟練の冒険者になると神経を尖らせて、森を進むため精神的に体力を使う。

 無事に何事も無く森を出たとなると気が緩み、彼女のように安堵してしまうのだ。彼女は眠そうに涙を浮かべながら欠伸をし、両腕を上げて、背伸びした。

「くぅ~ぅー疲れたよぉー」 

 懐に隠し持っていた水袋を取り出し、飲もうとする。それに隣を歩くカイラスが呆れたと言う顔をし、横目で彼女を注意した。

「ニーナまだ気を抜くな。街に入ってからにしろ」

 カイラスの忠告に耳を貸そうとせず、手の平をひらひらさせ、三口ほどグビッと飲む。

「うめぇ……やっぱ、これだわ~」

 口から滴り落ちた赤い液体を腕で拭い取る。それが単なる水では無く、酒類だとカイラスは見抜いていた。

 カイラスは目を細める。彼が怒っていることを察したのか、ニーナは軽く弁解した。
 
「大丈夫~大丈夫~だって。どうせ、ここらに現れるのは低級の魔物だけだし、恐れるほどじゃないって」

 少し間を開けて、カイラスは口を開く。

「さっきみたいなイレギュラーが発生してもか?」

 カイラスのイレギュラーとは立ち去って行ったカイ達のことだ。

 カイ達が魔物を連れているとは思っていないようだが、最初は最上級魔物だと勘違いしてしまった。

 カイラスは内心、かなり、ヒヤッとしていたのだ。

「あれは別にイレギュラーには入んないでしょ?」
「……俺は助けんぞ」
「え、助けてくれないの??」
「当たり前だ」

 即答する。続けて答える。

「お前の為に俺は死ねない。それだけのことだ。それに俺の助けなんて必要ないだろ」
「なんで? 酷くない? か弱い少女よあたし?」
「どこがだ。嘘をつくな。お前は中級冒険者だろ。グリフォン討伐したことあるだろうが」

 ニーナは以前、カイラスと他の仲間たちで空を舞うグリフォンを討伐したことがある。

 その時はかなり苦戦を強いられた。仲間の二人が鋭いかぎ爪によって餌食になり、もう一人は空高く放り飛ばされた。

 なんとか弱らせて、最後のとどめを刺したのがニーナだった。仲間内では彼女の手柄と思っている者も少なくないのだ。

「そ、そりゃあそうだけどさ……男としてはさ、俺がお前を守ってやる!っとかそういう言葉を送るべきじゃない? それが普通じゃない、の?」

 上目遣いでカイラスを見る。カイラスは完全に無視し、逃げるように歩調を速めた。ニーナと呼ばれた女冒険者は無視されたことに対してムッとする。

「何よっ!! 可愛くしたのに!! って聞いてんの??」
「遊んでないでさっさと帰るぞ」

 カイラスを追いかけようとした時、ニーナは腕の辺りに何か違和感を感じた。

 よく見ると蜘蛛の巣が腕にまとわりついているのだ。思わず声が出る。
 
「うわぁ、マジキモ」

 ニーナは必死になって取る。

 二人は舗装された道を跨ぎ、その先に居る男たちの方へと向かう。

 視線先に大きな木があり、その日陰で二人の男が馬の世話をしていた。

 カイラスらの姿を視野に入れた瞬間、騎士の身なりをした壮年の男が腕組をしたまま、顔を上げた。

 見た目は同じぐらい大きな体躯をし、全身に白銀の鋼鉄の防具をまとう。鎧はきれいに磨かれ、光沢を放つ。

 髪はオールバック、眉には白い眉毛が混ざっていた。歴戦の強者という貫録を醸し出す。

 表情が固い壮年の騎士はカイラスに尋ねた。

「状況は?」

 カイラスが腰ベルトに付けている革袋を取り外し見せる。壮年の騎士がそれを受け取り、閉じられた紐を解き、中身を確認した。

「グールが三、それにオークが四、あとゴブリンが六だ」

 中には、グールだとわかる指、オークの牙、ゴブリンの耳が入れられていた。それが討伐したことを証明する。

「顔に傷があるグールは? 仕留めたか?」
「あぁ、間違いなく仕留めた」

 騎士の身なりをした壮年の男が満足げな顔をして頷く。

「対象の魔物を討伐できたようだな――――だが、少し遅くなかったか? 手こずったのか?」

 それにニーナが両肩を上げ、手のひらを広げた。

「ま、帰り道にな」
「何があった?」
「可哀そうな姉弟と出会ったんだよ」

 カイ達の遭遇したことを壮年の騎士に伝える。それに壮年の騎士が何か怪訝したように顎に手を添えて、考え始めた。

「……妙だな」

 何がだ? とニーナが尋ねる。

「行動が怪しすぎな気がする。村人が好んで森の中を進むとは思えん」
「確かにそれはあるが……人目に付きたくなかった、と言っていたぞ?」

 それに壮年の騎士はしばらく考えるが、確かな理由が見つからず、勘違いか、とボソっという。


「……まぁいい。そろそろ帰る。 ブライアン、手綱を」
「はい!」

 ブライアンと呼ばれた少年が壮年の騎士に馬の手綱を渡す。

 手綱を受け取った壮年の騎士は馬に跨る。それにならうように三人も自分の馬に乗り、近くにある村へと向かうのであった。
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