フリーター、魂を刈る。

なつかしすと

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第24話 死神失踪事件

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 ――モネが死んでから数日が経った。

 伝説のアイドル騒動は落ち着き、町はいつもの日常に戻っていた。



 モネを助けてやれなかった後悔は消えないが、下手に動けば俺だけでなくコユキが危なかっただろう。

 悔しいが何もしなかったことが正解だと思う。

 いや、思わないと後悔に押しつぶされてしまいそうになる。

 コユキには、ヤバそうなやつには近づくな、何かあったらすぐに逃げろと嫌というほど言い聞かせてある。



 カルディナにも、あの後、事が落ち着いてからこの件について話した。

 ハデスへ報告しておいてくれると言ったが、それ以上の反応はなく話したがる様子もなかった。

 モネについて何か隠しているのか、ただ単に話したくないだけなのかよく分からないが……。



 その後、またもや嫌な噂が流れ始めた。今度はヘヴンタワー内部、そして死神関係者がざわついているようだ。

 ヘヴンタワー内部を散策していると、こんな話が聞こえてくる。



「おい、聞いたか? どうやら最近、死神失踪事件が増えているらしいぜ」

「あの伝説のアイドルの件か?」

「いや、関係あるかどうかは知らないけどよ。ここ最近、姿を消したまま帰ってこない死神が多いらしいんだ」

「うわ、こえー。俺たちも気を付けないとな」



 死神がいなくなる……? 確かに死神は危険な職業ではある。普通の会社のような保険はない。

 かと言って、対立関係にある悪魔との戦闘は、俺やカルディナのような戦闘もこなせる死神がやる。

 万が一、バイトの戦闘経験もない死神が襲われた場合でも、スマホや他の所持しているデバイスから緊急信号が発信される。

 最悪、魂は後で回収してくれるはず……なんだが。



 ヘヴンタワー内で、噂に気を取られているとハデスから呼び出しの放送があった。

 緊急の要件らしく、急いで向かった。

 社長室へ着くと、カルディナの姿もあった。

 どうやら、カルディナに先に話をしていたようで、あと頼れるのは俺とのこと。

 嬉しい気持ちよりも不安が……って今のは無し。全力でやるって決めてるからな。



「フブキ、なぜ呼ばれたか大体予想はついているな?」

 ハデスはいつになく真剣な表情だ。やはり緊張してしまう。

「え、えっと。モネ……のことですかね」

「モネの魂が回収できておらず行方不明のまま。それもあるが、今回は死神が失踪している件だ」

「あぁ、噂になってますね。タワー内でも耳にしました」

「今までも仕事が嫌になったなどの理由で逃走、ほかに悪魔に捕食されるなど少なくはなかった。しかし、最近になって行方の分からない死神が急増している」

「で、俺とカルディナに捜査ってことですね」

「ああ、そうだ。話が早いな。フブキには『おとり調査』をしてもらおうと考えている。カルディナにはすでに指示はしてあるから気にしないでくれ」



 ……おとり調査って、不安しかないんだがなぁ。

 危険は伴うが、成功すれば報酬は弾むって言うし。まぁ、その大半はハデス社への返済に充てることになるんだが。

 それに、カルディナを気にするなってどういうことなんだ。



 大まかな作戦はこうだ。

 警戒されないように、一般的な黒いローブに着替えておく。安全のために鎌は携帯しない。

 そして、なるべく自然に犯人をおびき出す。それだけだ。



 深夜、言われた通りに、暗く人通りの少ない路地を一人寂しく歩き回る。



 ――歩く、ひたすら歩く。



 疲れたらちょっと休憩。人もいないし目立つ建物もない。

 そもそも暗くてここが何処だか把握できていないんだが。

 この時間、幼女がうろついてたらモチロン警察に補導されちまうだろうな。

 でも、ローブのおかげで視認し辛くなってるから、その心配は無いんだけどな。



 しかし、怪しいやつが現れる気配がない。警戒しているのだろうか。

 すると、カルディナからの連絡があった。

「どうやら相手は随分と察しがいいようね。私は一度この場所を離れるわ」

「ちょ……、何かあったらどうすんだよっ」

「大丈夫、安心しなさいって。何かあっても絶対に助けるから」



 それからしばらく経過。本当にそんなヤツ現れるのか、と疑ってしまう。

 はぁ、とため息をつく。そろそろ帰ろうかと思った、その時。



 ――ドッ!

「うぐっ!」


 鈍い打撃音と共に、後頭部に強烈な衝撃が走る。

 ――ドサッ……。

 俺はワケが分からないまま、気を失い地面に倒れた。



 …………。



 あれからどれぐらい時間が経ったのだろうか。

 まだ意識がもうろうとしているが、背もたれのある椅子に座らされているのが分かる。

 ――手に力を入れるが動かない。手は後ろで縛られている。

 足も動かない、椅子の足にそれぞれ縄で固定されてしまっている。



 機械音らしきものが聞こえる。薄暗い部屋の中で眩しい光が見えた。

 目を開けるのもまだ辛く視界がぼやけているが、パソコンや何かの設備の画面がいくつか並んで見えた。

 部屋はあまり広くはないようだが、人の姿は見えない。機械が電源をつけて動いているなら、誰かいるはずだが。



 ここはオフィスか? にしては、ワケのわからない機械がそこら中で動いている。

 そして、デスクの上には乱雑に置かれた書類。床にまで散乱しているし、片付けが苦手だとかそういうワケではないように見える。





 まもなく、ドアが静かに開く音がする。

 そして、何者かの足音が聞こえ、こちらへ近づいてくる。



「……おや、目を覚ましたようだね。小さい死神さん」
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