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第5話 死神の同業者
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ついに、完全に幼女の姿になったまま戻れない俺。
いつものように、メフィストに高齢者の魂を納品しに来た。
しかし、本当の目的は交渉だ。
「ありがとうございます、昨日も一人バイト君がやめてしまったので助かりますよ」
俺のようにこのバイトを続けるやつは少ないんだろう。
むしろ人が減ったのがチャンスだと思った。
「お願いがあるんだけど、もっと報酬のいいターゲットを任せてもらえないだろうか」
メフィストは少し驚いた顔をした。
「もっとお金がほしいと……、ローブ代の返済や生活費などを考えても、今の報酬でやっていけると思うのデスが。金遣いが荒いのか、それとも何か事情が?」
あまり話したくなかったが、このままでは仕事を貰えないと思い、事情を話すことにした。
「実は、父親が残した6億の借金があるんだ。それを返済するためにお金が必要なんだ」
メフィストは借金の額に目を丸くした。
「ワタシも6億の借金をした人を知っていますよ。一年ほど前に亡くなったと聞いていますが、まさか……ね。短期間で二人もそれほどの額の借金をしている人を見ることになるとは、ハッハッハ」
俺の父さんも一年ほど前に亡くなっている。
こんな偶然に二人もいるわけがない、と思いつつも口には出さなかった。
「その人は、なんで6億もの借金を……?」
聞いてはいけないと思いつつも、ガマンできなかった。
「詳しく話すことはできませんが、あの女……じゃなくて、病気の奥さんを助けたかったらしいデスよ」
話している時、メフィストの目つきが変わった気がした。まるで憎悪のような、どす黒い気を感じた。
「――さて、本題に戻りましょうか。借金返済のためにお金が必要、と。人手も余裕ないデスし、今までも十分働いてくれている……」
手をアゴに当て、唸りながら考えている。
「分かりました、チャンスをあげましょう」
「本当か!?」
「隣町にある一番大きな病院に、寿命の近い人間が今までにないほどいます。その方々をリスト化しておきますので、そのリストに書いてある人間の9割の魂を納品していただけたら、これからもっと良い案件をアナタに依頼します」
どうやら、病院とはいえ大勢の人間の寿命が近いのは珍しいらしく、他の死神も目を付けているらしい。
「そうデス、その隣町ではよく『鮮血の薔薇』や『紅蓮の死神』と呼ばれる紅いローブを着た死神が活動しているみたいデス」
『鮮血の薔薇』……?
聞いたことはないが、どうやらこの界隈では超の付くほど有名で、いくつもの異名が付けられるぐらい恐れられているらしい。
「他の死神がその病院で、いつ活動するか分かりません。十分注意してください」
「同業者なのに、魂を取り合ってるのか?」
「……同業者だからデスよ、バイト君が気にすることではありません」
少し腑に落ちない部分があったが、やることは変わらない。
明日の夜、病院での大量魂刈りを行う。
――次の日、隣町の病院に到着。
病院の周りにはビルも多いので、夜でも結構明るい。
まず、気を付けなければならないのは『鮮血の薔薇』の存在。
実力は死神の中ではトップクラス。
その紅いローブは、ターゲットの返り血で染まったとか……って、死神の鎌で斬っても血は出ないんだけど。
そして、気に入らないやつは紅蓮の炎で焼き尽くされる……怖すぎだろ。
そんなやつがこの街を中心に活動している。
できれば遭遇したくない、そう思いながら病院に侵入する。
……さすがに夜の病院はいい気分がしない。
消灯時間はとっくに過ぎ、薄暗く静かな廊下を歩く。
照明は付いているので、不自由はなく、たまに見回りに来た看護師とすれ違う。
それに比べ、患者の部屋の中はとても暗い。
廊下で、メフィストから貰ったリストを確認してから部屋に入り、一人、二人と魂を刈る。
――ここまでは順調だった。
「……次は、このお爺さんか」
仰向けになっているお爺さんに鎌を縦に振るう。
……おかしい。
いつもなら、魂が身体から浮き上がるはずなのに。
もう一度、確認するように鎌を振るう。
「魂が……ない。すでに刈られたのか?」
お爺さんはすでに息を引き取っており、魂がなくなっていた。
よく見ると、お爺さんの近くに綺麗な紅い花びらが少しだけあった。
「まさか、『鮮血の薔薇』に先を越されたのか。」
その花びらに見覚えがある。確か、一年前、父さんが亡くなった時にも同じように……。
関係があるのか確信はない、だが、妙に気になってしまった。
俺は、次のターゲットの元へ急いだ。
しかし、次のターゲットの魂もすでになくなっている。
さすがに焦る。さらに次のターゲットの部屋……。
ドアの前でわずかに、患者ではない何かの気配を感じる。
……まさか、『鮮血の薔薇』なのか?
恐る恐る静かにドアを開け、部屋に入る。
ターゲットのベッドの前に黒い影、いや、黒いローブの存在を確認した。
紅くないということは『鮮血の薔薇』ではない。
「うわああ!? すみませんすみません!!」
いきなり大声で謝られた。
黒いローブを着た普通の死神……だろうか。
すぐに逃げて行ってしまったが、ターゲットの魂はまだ残ったままだった。
その後も、すでに魂が刈られているターゲットが何人かいて、目標数に到達できるか怪しい。
最後のターゲットは90代のお婆さんか。
大量の魂で重くなった袋を担ぎながら、部屋を確認し、ドアの前まで来た。
ドアの向こうから熱気……暖房が付いているのか、いや、この季節に暖房なんてありえない。
まさかと思いながらもドアをゆっくり開けた。
――紅いローブ、『鮮血の薔薇』だ。
いつものように、メフィストに高齢者の魂を納品しに来た。
しかし、本当の目的は交渉だ。
「ありがとうございます、昨日も一人バイト君がやめてしまったので助かりますよ」
俺のようにこのバイトを続けるやつは少ないんだろう。
むしろ人が減ったのがチャンスだと思った。
「お願いがあるんだけど、もっと報酬のいいターゲットを任せてもらえないだろうか」
メフィストは少し驚いた顔をした。
「もっとお金がほしいと……、ローブ代の返済や生活費などを考えても、今の報酬でやっていけると思うのデスが。金遣いが荒いのか、それとも何か事情が?」
あまり話したくなかったが、このままでは仕事を貰えないと思い、事情を話すことにした。
「実は、父親が残した6億の借金があるんだ。それを返済するためにお金が必要なんだ」
メフィストは借金の額に目を丸くした。
「ワタシも6億の借金をした人を知っていますよ。一年ほど前に亡くなったと聞いていますが、まさか……ね。短期間で二人もそれほどの額の借金をしている人を見ることになるとは、ハッハッハ」
俺の父さんも一年ほど前に亡くなっている。
こんな偶然に二人もいるわけがない、と思いつつも口には出さなかった。
「その人は、なんで6億もの借金を……?」
聞いてはいけないと思いつつも、ガマンできなかった。
「詳しく話すことはできませんが、あの女……じゃなくて、病気の奥さんを助けたかったらしいデスよ」
話している時、メフィストの目つきが変わった気がした。まるで憎悪のような、どす黒い気を感じた。
「――さて、本題に戻りましょうか。借金返済のためにお金が必要、と。人手も余裕ないデスし、今までも十分働いてくれている……」
手をアゴに当て、唸りながら考えている。
「分かりました、チャンスをあげましょう」
「本当か!?」
「隣町にある一番大きな病院に、寿命の近い人間が今までにないほどいます。その方々をリスト化しておきますので、そのリストに書いてある人間の9割の魂を納品していただけたら、これからもっと良い案件をアナタに依頼します」
どうやら、病院とはいえ大勢の人間の寿命が近いのは珍しいらしく、他の死神も目を付けているらしい。
「そうデス、その隣町ではよく『鮮血の薔薇』や『紅蓮の死神』と呼ばれる紅いローブを着た死神が活動しているみたいデス」
『鮮血の薔薇』……?
聞いたことはないが、どうやらこの界隈では超の付くほど有名で、いくつもの異名が付けられるぐらい恐れられているらしい。
「他の死神がその病院で、いつ活動するか分かりません。十分注意してください」
「同業者なのに、魂を取り合ってるのか?」
「……同業者だからデスよ、バイト君が気にすることではありません」
少し腑に落ちない部分があったが、やることは変わらない。
明日の夜、病院での大量魂刈りを行う。
――次の日、隣町の病院に到着。
病院の周りにはビルも多いので、夜でも結構明るい。
まず、気を付けなければならないのは『鮮血の薔薇』の存在。
実力は死神の中ではトップクラス。
その紅いローブは、ターゲットの返り血で染まったとか……って、死神の鎌で斬っても血は出ないんだけど。
そして、気に入らないやつは紅蓮の炎で焼き尽くされる……怖すぎだろ。
そんなやつがこの街を中心に活動している。
できれば遭遇したくない、そう思いながら病院に侵入する。
……さすがに夜の病院はいい気分がしない。
消灯時間はとっくに過ぎ、薄暗く静かな廊下を歩く。
照明は付いているので、不自由はなく、たまに見回りに来た看護師とすれ違う。
それに比べ、患者の部屋の中はとても暗い。
廊下で、メフィストから貰ったリストを確認してから部屋に入り、一人、二人と魂を刈る。
――ここまでは順調だった。
「……次は、このお爺さんか」
仰向けになっているお爺さんに鎌を縦に振るう。
……おかしい。
いつもなら、魂が身体から浮き上がるはずなのに。
もう一度、確認するように鎌を振るう。
「魂が……ない。すでに刈られたのか?」
お爺さんはすでに息を引き取っており、魂がなくなっていた。
よく見ると、お爺さんの近くに綺麗な紅い花びらが少しだけあった。
「まさか、『鮮血の薔薇』に先を越されたのか。」
その花びらに見覚えがある。確か、一年前、父さんが亡くなった時にも同じように……。
関係があるのか確信はない、だが、妙に気になってしまった。
俺は、次のターゲットの元へ急いだ。
しかし、次のターゲットの魂もすでになくなっている。
さすがに焦る。さらに次のターゲットの部屋……。
ドアの前でわずかに、患者ではない何かの気配を感じる。
……まさか、『鮮血の薔薇』なのか?
恐る恐る静かにドアを開け、部屋に入る。
ターゲットのベッドの前に黒い影、いや、黒いローブの存在を確認した。
紅くないということは『鮮血の薔薇』ではない。
「うわああ!? すみませんすみません!!」
いきなり大声で謝られた。
黒いローブを着た普通の死神……だろうか。
すぐに逃げて行ってしまったが、ターゲットの魂はまだ残ったままだった。
その後も、すでに魂が刈られているターゲットが何人かいて、目標数に到達できるか怪しい。
最後のターゲットは90代のお婆さんか。
大量の魂で重くなった袋を担ぎながら、部屋を確認し、ドアの前まで来た。
ドアの向こうから熱気……暖房が付いているのか、いや、この季節に暖房なんてありえない。
まさかと思いながらもドアをゆっくり開けた。
――紅いローブ、『鮮血の薔薇』だ。
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