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断末魔の残像
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朝の散歩で学校という存在を意識し始めた十也。それから過ごす時間、昼へと時を進めると共に想うこと、感情は大きくなっていく。それは憧れ、それは楽しみ、それは希望。十也は希望に満ち溢れた可愛らしい表情で奈々美に初めてのワガママを言うのであった。
「学校にすぐにでも行けないの? 気になって気になって仕方ないよ」
何も知らない男の子、年相応の無垢な心を見せ付けられて奈々美は頭を悩ませるのであった。
「入学してからでないと……知り合いっぽく言えばお縄にかかってしまうわね。でも、そんな甘い顔! うぅ、私ったらもう我慢することが出来ないわ」
十也を抱き締めて奈々美の身体に擦り付けるように押し当てる。
その行いは年端も行かぬ男の子にとってはあまりにも罪深き甘味。十也は目を回し、恥じらい、フラ付き、動く事が出来なかった。
「あら、いけないわ。十也が高熱を出して倒れ込んでしまいそう。この場合は俗世で言う恋の病と呼ばれるものに入るのかしら?」
全くもって違うものであった。
そんな熱に浮かされたような十也、そんな彼の願いをどうにか叶える為にあるひとつの提案を差し出すのであった。
そう、それは夜の学校への不法侵入。
✡
暗い廊下をゆっくりと歩いていく。十也が思い浮かべていたものとは全く以て異なる顔を持った学校。
夜忍び込むといえばこの前読んだマンガもそうであった。
十也は辺りを見渡し、身体を心を恐怖に震わせる。十也はすぐさまそばに居る自分よりも大きな女性、黒いローブを纏う昏くて妖しい魔女の奈々美の白い手を握る。離れないように、消えてしまわないようにしっかりと握り締める。
「うふふ、こんなにも縮こまってしまって……本当に可愛い子」
その言葉に言葉を返す余裕すらもなく、ただ手を握り締めていた。
歩みは遅く、あまりにも不安定な足取り。とても弱々しくて奈々美はそれをさぞ愛おしそうな瞳で見つめていた。
そして十也があのマンガが原因で最も恐れているであろう理科室、そこを通りかかるその時、心臓は力強く打ち付けていた。その鼓動は素早く訴えかける。心は限界なのだと叫んでいた。
理科室で少年が落としてしまった薬に触れてしまったがために人ではいられなくなった女。想像、追憶から生まれ来る恐怖はあまりにも耐え難く、十也は掴む安心の手すらも振りほどいて逃げ出してしまった。その場にはひとり、奈々美だけが残される。
「そう……流石に耐え切れなかったのね」
残された奈々美はある気配を掴み取っていた。
「これは良くないわ」
✡
恐怖を振り切るべく走って逃れて廊下に立っていた。今はひとり、そう、大切な優しさからすらも逃げてしまった十也はもう、恐怖に支配されて歩くことすらままならなかった。
あの笑顔、妖しい表情、素敵な魔女。
決して離してはならない人と離れてしまってひとりきり。孤独はやはり動くことを許さない。
-ああ、やってしまったんだ-
そんな十也は背後に何かが迫るような気配を感じた。それはしっかりと背後にいて、近づくことも遠ざかることもしない。そして異様な雰囲気がまた恐怖をますます心に塗りつけていく。
-ダメだ、振り返ったら。ダメだ、ダメだ、ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ-
もう限界だった、想いは一色に染め上げられようとしていたが、ここからの想いだけがせめてもの抵抗。思わず言葉が溢れ出すのであった。
「ごめんなさい、手を離してごめんなさい。ひとりだけ逃げ出して……ごめんなさい」
ただ静かに後ろに立っていた気配は更に近付いて、そして。
十也の目を柔らかな手で覆った。
そして、あの艶のある声で耳元で静かに言うのであった。
「勝手に逃げ出して……ダメじゃない。悪い子にはおしおきが必要だったみたいだからやらせていただいたわ」
目を覆う手が離れると共に十也は振り返って、大切な人の名を呼ぶ。
「奈々美!」
「ええ、アナタの彼氏、奈々美さんよ。イタズラなんかしてしまってごめんなさいね十也。帰りましょう」
そんな会話の中、十也は一瞬だけ目の端に捉えてしまった。奈々美の優しい嘘に覆い隠された真実を。
見るからに既に死した者の残骸が黒ずんだ塵となって消えていく様を。
「学校にすぐにでも行けないの? 気になって気になって仕方ないよ」
何も知らない男の子、年相応の無垢な心を見せ付けられて奈々美は頭を悩ませるのであった。
「入学してからでないと……知り合いっぽく言えばお縄にかかってしまうわね。でも、そんな甘い顔! うぅ、私ったらもう我慢することが出来ないわ」
十也を抱き締めて奈々美の身体に擦り付けるように押し当てる。
その行いは年端も行かぬ男の子にとってはあまりにも罪深き甘味。十也は目を回し、恥じらい、フラ付き、動く事が出来なかった。
「あら、いけないわ。十也が高熱を出して倒れ込んでしまいそう。この場合は俗世で言う恋の病と呼ばれるものに入るのかしら?」
全くもって違うものであった。
そんな熱に浮かされたような十也、そんな彼の願いをどうにか叶える為にあるひとつの提案を差し出すのであった。
そう、それは夜の学校への不法侵入。
✡
暗い廊下をゆっくりと歩いていく。十也が思い浮かべていたものとは全く以て異なる顔を持った学校。
夜忍び込むといえばこの前読んだマンガもそうであった。
十也は辺りを見渡し、身体を心を恐怖に震わせる。十也はすぐさまそばに居る自分よりも大きな女性、黒いローブを纏う昏くて妖しい魔女の奈々美の白い手を握る。離れないように、消えてしまわないようにしっかりと握り締める。
「うふふ、こんなにも縮こまってしまって……本当に可愛い子」
その言葉に言葉を返す余裕すらもなく、ただ手を握り締めていた。
歩みは遅く、あまりにも不安定な足取り。とても弱々しくて奈々美はそれをさぞ愛おしそうな瞳で見つめていた。
そして十也があのマンガが原因で最も恐れているであろう理科室、そこを通りかかるその時、心臓は力強く打ち付けていた。その鼓動は素早く訴えかける。心は限界なのだと叫んでいた。
理科室で少年が落としてしまった薬に触れてしまったがために人ではいられなくなった女。想像、追憶から生まれ来る恐怖はあまりにも耐え難く、十也は掴む安心の手すらも振りほどいて逃げ出してしまった。その場にはひとり、奈々美だけが残される。
「そう……流石に耐え切れなかったのね」
残された奈々美はある気配を掴み取っていた。
「これは良くないわ」
✡
恐怖を振り切るべく走って逃れて廊下に立っていた。今はひとり、そう、大切な優しさからすらも逃げてしまった十也はもう、恐怖に支配されて歩くことすらままならなかった。
あの笑顔、妖しい表情、素敵な魔女。
決して離してはならない人と離れてしまってひとりきり。孤独はやはり動くことを許さない。
-ああ、やってしまったんだ-
そんな十也は背後に何かが迫るような気配を感じた。それはしっかりと背後にいて、近づくことも遠ざかることもしない。そして異様な雰囲気がまた恐怖をますます心に塗りつけていく。
-ダメだ、振り返ったら。ダメだ、ダメだ、ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ-
もう限界だった、想いは一色に染め上げられようとしていたが、ここからの想いだけがせめてもの抵抗。思わず言葉が溢れ出すのであった。
「ごめんなさい、手を離してごめんなさい。ひとりだけ逃げ出して……ごめんなさい」
ただ静かに後ろに立っていた気配は更に近付いて、そして。
十也の目を柔らかな手で覆った。
そして、あの艶のある声で耳元で静かに言うのであった。
「勝手に逃げ出して……ダメじゃない。悪い子にはおしおきが必要だったみたいだからやらせていただいたわ」
目を覆う手が離れると共に十也は振り返って、大切な人の名を呼ぶ。
「奈々美!」
「ええ、アナタの彼氏、奈々美さんよ。イタズラなんかしてしまってごめんなさいね十也。帰りましょう」
そんな会話の中、十也は一瞬だけ目の端に捉えてしまった。奈々美の優しい嘘に覆い隠された真実を。
見るからに既に死した者の残骸が黒ずんだ塵となって消えていく様を。
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