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女子高生『川海 晴香』の夜
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空は幕を下ろし、飲み交わしていた相手の天狗はいつ満足したのだろうか、その姿はどこかへと消え去っていた。キヌもニヤつきながら「楽しい夜を過ごしてね」などと言葉を残してドアから出て行ってしまった。残されたふたり、酒の飲み過ぎでさぞかし気怠いのだろう、ソファに寝転がり手で顔を覆っている天音と久しぶりにふたりきりになったように感じてどこか気恥ずかしい晴香。会わなかったのは一週間足らずであるにも関わらず、一か月も二か月も会っていないような気がしてこれまでの寂しさが沸騰して爆発してしまいそうだった。口は震えてうまく言葉が出なくて、想いはあまりにも強くてでもそれは声にならなくて。
――しばらく遠くにいたような、不思議な感覚
晴香にとって天音がいないこと、それは家から長い間出て行ってしまうような寂しさを感じさせるものだと気が付いて。思わず天音の方に視線は流れて微笑みが溢れ出す。
晴香の寂しさを知らずの内に埋めている天音は今日もまた気が付かないまま相変わらず手で顔を覆ったままソファで寝ていた。きっとその手の下には愛おしい寝顔が眠っているのだろう。宝がすぐ目の前で待っているような心のきらめき、それに身を任せて晴香は天音の手に触れて、優しく包み込む。ほんのりとした柔らかさと温もりが晴香の大好きな人の手から伝わってきて、それがただ嬉しかった。手を抱きしめて天音の顔を見て、晴香は目を見開いた。酒に中てられて弱った表情に微笑みが混ざっていた。つまり起きていた。
顔を赤くして口を震わせる晴香に対して天音は語りかける。
「ふふ、どうだい高校最後の夏休みは。受験勉強大変かも分からないけど今日くらいはだらりと過ごして休みな」
天音とふたりきりで目を合わせてしまった、きっと天音は晴香の悩みも見透かすことなく見つめ続けるだろう。晴香は顔を赤くして目を逸らした。見つめられるのも見つめ続けるのも恥ずかしかった。
「その……あんまり見ないで。私さ、また太っちゃって」
「受験生だもの、仕方ないものよ」
ファイト。声援を送り、しばらく天井を眺めていたが、やがて起き上がりふらつきながらメモ紙とペンを取り出してなにかを書き始めた。
「正直アタシはアンタがいなきゃ寂しいものでさ、毎日でも会いたいのだけど」
言葉を続ける。
「運動不足も気になってたわけだし毎日夕方一緒にランニングでも行きませんこと?」
気分転換、運動不足の解消、断る理由など見つかるはずもなく、晴香は天音の小指と自分の小指を絡め合った。
「指切りだなんてえらく懐かしい」
「絶対明日から始めようね」
誓いは夜闇の中の星のように地上で微かに輝く星となった。
――しばらく遠くにいたような、不思議な感覚
晴香にとって天音がいないこと、それは家から長い間出て行ってしまうような寂しさを感じさせるものだと気が付いて。思わず天音の方に視線は流れて微笑みが溢れ出す。
晴香の寂しさを知らずの内に埋めている天音は今日もまた気が付かないまま相変わらず手で顔を覆ったままソファで寝ていた。きっとその手の下には愛おしい寝顔が眠っているのだろう。宝がすぐ目の前で待っているような心のきらめき、それに身を任せて晴香は天音の手に触れて、優しく包み込む。ほんのりとした柔らかさと温もりが晴香の大好きな人の手から伝わってきて、それがただ嬉しかった。手を抱きしめて天音の顔を見て、晴香は目を見開いた。酒に中てられて弱った表情に微笑みが混ざっていた。つまり起きていた。
顔を赤くして口を震わせる晴香に対して天音は語りかける。
「ふふ、どうだい高校最後の夏休みは。受験勉強大変かも分からないけど今日くらいはだらりと過ごして休みな」
天音とふたりきりで目を合わせてしまった、きっと天音は晴香の悩みも見透かすことなく見つめ続けるだろう。晴香は顔を赤くして目を逸らした。見つめられるのも見つめ続けるのも恥ずかしかった。
「その……あんまり見ないで。私さ、また太っちゃって」
「受験生だもの、仕方ないものよ」
ファイト。声援を送り、しばらく天井を眺めていたが、やがて起き上がりふらつきながらメモ紙とペンを取り出してなにかを書き始めた。
「正直アタシはアンタがいなきゃ寂しいものでさ、毎日でも会いたいのだけど」
言葉を続ける。
「運動不足も気になってたわけだし毎日夕方一緒にランニングでも行きませんこと?」
気分転換、運動不足の解消、断る理由など見つかるはずもなく、晴香は天音の小指と自分の小指を絡め合った。
「指切りだなんてえらく懐かしい」
「絶対明日から始めようね」
誓いは夜闇の中の星のように地上で微かに輝く星となった。
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