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風使いと〈斬撃の巫女〉

天使を蝕む闇

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 図書館の中、薄暗いその部屋の中、薄明るい片翼は黒ずみ散り行く。
 少女は涙を浮かべて自身に死を与えし者たちを見ていた。
「負けた……そっか、もっと生きて本をいっぱい読みたかったな」
 悪魔を宿す男は冷たい目で地に伏す少女を見下ろしていた。あまりに感情の宿らぬ目に見つめられただけで命がすり減ってしまいそうだった。
「お前の感情などいらない、欲しいのは魔力庫を作る計画と天使を創造する計画、それらの情報だけだ」
 男がそう語る傍らでメガネをかけた少女は天使を目にして膝に手を着いていた。苦しそうな表情、悪魔を宿すも支配はできていないようだった。そんな那雪を一真は支えて優しい言葉をかけ続けていた。
「酷いね、あなたさえいなければ穢れに蝕まれても精々一週間倒れる程度だったのに……生命を拳ひとつで弄ぶだけに留まらず心までその目ひとつで踏みにじるんだ」
 男は天使の胸ぐらをつかむ。
「死ぬ前に話せ、でなきゃ今すぐ殺す」
「満明、離してやりなよ。ちゃんと話すよ、天使は正しいことをするだろうから」
 刹菜の言葉、好きな人の言葉、とは言えどもそればかりは首を縦に振って合意することが出来ないでいた。
「さあな、天使にとって正しいことは俺らに情報を話さないことかも知れないぞ」
 天使は満明を見て弱々しく呟く。
「女の子の胸触るなんて……エッチ」
「胸ぐら掴んでんだ」
「胸にも触れてる」
「コイツうぜぇ」
 話は進まない、既に天使の脚はほぼ塵と化していた。消える前に情報を聞き出したい満明はやむを得ず天使を離す。
「ニヤけてる人、あなたに言いたいから耳貸して」
「天使の遺言かぁ。光栄だな」
 そこから天使の囁きを聞き入れる刹菜、本人曰く魔力庫計画は知らないが今の責任者である和菓子屋の娘を潰せば少なくとも一旦は止まる、魔力庫にするための機械でも壊せばいい、憶測だけど。との事。
 天使計画については那雪とどこか似た気配を漂わせた少女が天使を呼び出し憑依させたとの事。一度失敗して呼び出してしまった悪魔は母に取り憑かせたと語った。そしてその少女がいる場所を聞いて刹菜は思わず目を見開き声を上げた。
「あそこ、欠陥じゃなかったのか!」
 次に語られるもうひとつの事実。天使が受けるこの世の穢れは少女に押し付けられるため早く切り離さなければ命が危ないということ。
 そして遂にほぼ全てが消えてしまった天使は最後に、極上の微笑みを浮かべて刹菜に暖かな気持ちで言葉を送った。
「あの戦いと言ってたこと、楽しかったよ。遊んでくれてありがと」
 天使は透き通り、黒ずみ、塵となり散り果ててこの世から消え去った。
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