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風使いと〈斬撃の巫女〉

慢心

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 お嬢さまを中心に迫り来るナイフは全てたどり着く順番をお嬢さまに見抜かれていた。最初に来るナイフを肘で弾く。肘から流れる血はナイフのズレる軌道を描いていた。
 異なる場所へと飛ぶナイフ、それが進む場所にあるのは二番目にお嬢さまにたどり着くはずだったナイフと衝突事故を起こす。
 三番目のナイフはお嬢さまの指に弾かれ四番目のナイフへ、五番目は膝を軽く裂きながら六番目へ。奇数番に到着するナイフだけがお嬢さまの身体に血の華を咲かせながら偶数番のナイフを自らの身を犠牲に撃墜していく。
「先程より少しだけ……冷りとしましたわ。まあちょうど良い温度ですわね」
 余裕を見せて髪を掻きあげて片目を閉じるお嬢さま。
「余裕あり過ぎ、でもこれは?」
 少女が投げたナイフ、三本を考えなしに投げたようにも見えるそれを観察してお嬢さまは思い切り地を蹴り回るように宙を舞う。ドレスが靡いてあまりにも美しい光景。
「優雅に躱すな毒ナイフ」
「違和感があると思ったら毒でしたのね」
 再び床を捉えた足。お嬢さまのあまりの余裕に少女は苛立ち思わず声を荒らげる。
「どこまでも余裕ぶりやがって!」
 少女は目を閉じて数秒、動かずにただ何かに集中し、そして目を開いた。その目はあまりにも邪悪な笑みを剥き出しにしていた。
「ひとりなら慢心してようが関係なかっただろうな」
 少女は魔力を練り込み始めた。お嬢さまはただそれを見ているだけであった。
「気配的にあそこのアイツがいいな」
 その言葉と共に魔法は放たれた。



  刹菜と仲良くじゃれ合っていた那雪、そんな那雪が突然苦しみ始めた。滲み出る冷や汗、倒れ込み自らの身体を抱いて縮こまっていた。
「もしかして……また呪われた? やっぱ那雪ちゃんの人生は呪いに祝われてるな」
 口では軽い冗談を叩きつつもそれどころではないことを刹菜は分かっていた。
 一真は那雪の身体をさすり、ベッドへと運んで行った。
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