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ホムンクルス計画

魔女たちの戦い

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 奈々美は植物の種を取り出して力を注いで放り込む。それはやがて膨らみ芽を出して大きな樹へとなり実を付けて落とし、更に実から樹が生えていく。
「なにしてもどうせ植物なの。単純過ぎて面白みがないの」
 そう言ってエレンはフラスコを樹に放り込む。ガラスの身体は砕けて中の液体が樹に染み込んでいく。そこから少しづつ、木々を赤く染め上げそして奈々美の方へと火を吹き始めた。
「火は使えない落ちこぼれならこれで十分なの」
 しかし、火が襲いかかって来る中、奈々美は妖しい笑みを浮かべていた。
「どうしたの。とち狂ったの」
 エレンの声が意味を乗せている内に奈々美は手を掲げていた。
 木々は萎み、皮はひび割れ、実は萎れていく。
 そうして集まった水は身を削って火を消していくのであった。
「流石に四大元素マイナス1には簡単には勝てないの。じゃあこれはなの」
 続いてエレンはフラスコを奈々美本人に放り投げる。その瞬間、奈々美の笑みが妖しいものから勝利を確信したものへと変わっていった。
「どうしてそんな笑いするの」
 奈々美は手を突き出し、力強く地を踏み駆け出す。足は地を離れて伸ばした手は更に高く遠くへ、そして手にフラスコが触れたその瞬間、フラスコは一見何の変化も起こさずに奈々美の手にあった。
「どういうことなの」
 奈々美はフラスコを持ったまま言った。
「私の力で十也を攫ったのだけれども、それと同じ力よ。所詮は砂を溶かして作ったもの、何か加わっていたところですぐに割れてしまうような不安定な結び付きなら〈東の魔女〉の四大元素の力でも操る事が出来てしまうものよ。地の力で」
 手に付いた時点で質を変えられて頑丈になったガラスは割れずに手の中に着いてそのままの姿を保っていた。
 奈々美はそのフラスコを放り投げる。
 エレンはフラスコが描くはずの放物線を頭脳で視ていた。きっとエレンの肩にかかるのであろう。そう予想してエレンは 構えていた。
 しかし、フラスコが元の状態よりも不安定でいまにも壊れてしまいそうになっている底の部分をエレンに見せ付けているのを見て目を見開く。
「計算通りならそこまで飛ばないの」
 奈々美は計算しか視ていないエレンに対し、軽蔑の眼差しを向ける。
「地の力で弱らせたフラスコの底が見えた? 風で飛んでいるのよ」
 そうしてフラスコはエレンの背中にぶつかり割れる。液体はエレンの背中に、白衣に染み込み火を起こす。
「ぎゃああああああ」
 激しく燃えて叫び暴れるエレンを殴り、地に転ばせて奈々美は白衣のポケットを探り、生命維持の薬の成分表とレジュメをローブのポケットに突っ込んで背を向けて立ち去るのであった。
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