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ホムンクルス計画

那雪、みたび呪われ

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 悠菜が綾香を探し始めるその日の昼間、那雪は学校の授業に集中出来ないでいた。
 胃や腸から込み上げてくる不快感、身体のダルさ、頭痛に息苦しさ。それは那雪に対して鈍く重たく抉るように襲いかかっていた。
ー苦しい……もう、いやー
 自身のみすぼらしい身体を抱いてうずくまるように座る那雪。体調不良は誰の目から見ても明らかであった。
 那雪は一真の言葉を思い出していた。愛していることを心に温かく送るあの言葉たちを、そしてあの時の言葉を。夕暮れのアパートで呪いにアテられた那雪の心をほぐしたあの言葉を。
ー安心して、俺がついてる。絶望しても俺が助けるからー
 那雪は気がついていた。自身が呪いをかけられているのだということに。飯塚家なのかサウスステラなのか、はたまた別の人物なのか、それは分からない。だが明らかに呪われている、全身の感覚がそう訴えているのだ。
ーネガティブはいけない、ダメ、私には一真がいる私にはいるの、大切な人が、一真が……ねえ助けてよ一真。私に笑顔を見せてよ、大丈夫? って言葉をかけてよ、その声がいいの、もっと悪くても良くてもダメなのアナタじゃなきゃ嫌なのだからお願いー
 その想いは決して届く事はない。何があっても口に出してはならない。教室にいる人に聞かれてはただ敵を作ってしまうだけなのだから。
 溢れる想いは止まらない。加減などというものを知らない。
ーあの頼りない目で見つめてよ、その耳で私なんかの声を聴いてよ、少しだけ筋肉のついたその腕で抱き締めてよ私の細い腕にに抱かれてよこんなみすぼらしい私を愛してくれるアナタがいいのー
 止まらない、止められない、弱り果てて気怠い身体に弱音を包み込み、隠し続けているだけであった。
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