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ホムンクルス計画

奈々美の独断決行

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 和菓子屋のお嬢様、表ではその様に思われている和服の美人、鹿島 志乃、その正体は19歳の魔法使い。志乃はもう1人の和服の少女、〈亡霊の魔女〉天草 綾香を抱えてある施設へと入って行く。その後ろをある女がついて行っていることも知らないで。後ろを無断でついて行く女は思考を巡らせていた。
ー500万に目が眩んだ人たちのせいでホムンクルス計画が進んでしまうじゃないのー
 ホムンクルス計画、それは魔女たちにとって最も忌むべき存在。
 〈北の錬金術士〉と呼ばれし化学と魔法の手を繋ぎ価値観世界観の橋渡しをした化学魔法の魔女の手によって進められし計画。
「まさか魔女が生まれる仕組みを発表する裏側でこんなふざけた計画を進めていたなんて誰が想像出来るものですかなんて話だわ」
 それに必要な存在は亡霊を操りし者、まさに〈亡霊の魔女〉はうってつけの存在。あとは地獄から魂を呼び出す事の出来る魔法使い。
「刹菜が危ないわね。精霊だけじゃなくて地獄から魂も呼べてしまうもの」
 奈々美は風で門番の首を締め、声も息も出さぬよう意識をも引っ込める。
 研究所の中を歩く。無機質な廊下を歩くローブを着た魔女という姿はあまりにも不釣り合い。
「まるで百合かショタしか好まない私の歪み切った性癖のようだわ」
 自覚している事実を声に出しながら奈々美は歩いていく。
 目的はただひとつ。ホムンクルス計画を失敗させる事。〈亡霊の魔女〉を取り返して守る事でそれは容易くとまでは言えずともどうにか阻止出来るであろう。
「仮に決行されても果たして成功するかどうか分からないのだけれども、万が一成功してしまったらそれはもう生命の冒涜、それに」
 1度、歩みを止めて扉を開ける。
「それに、創造の魔導士を生き返らせるわけには行かないわ。1度使えば壊れるものの少ない魔力で様々な物質を創る事が出来る天才」
 扉の先には大きなガラスのケースがひとつあるだけ。
「あら、いけない。場所を間違えてしまったようね」
 慣れない空間に奈々美は疲れを感じていた。
「低級の魔法レベルの手間と魔力で強力な攻撃魔法を創造されたら厄介。そんな才能だけで知能はそこまで高くない天才魔法使いを生き返らせる為のホムンクルスは製造済みなのね」
 ガラスケースの中は液体で満たされており、そこには1人の少年が入っていた。
 奈々美はガラスケースに手を着いて頬を赤く染めて魅入る。
「いけないわ。可愛過ぎる。目を開けてちょうだい! その目で私を見て。その口を開けて幼い声で私の名前を呼んで。その手で私を抱き締めて。あぁ、いけないわ」
 そうして奈々美はガラスケースを分解する。
「ガラス、強化ガラスとはいえどもガラス。二酸化ケイ素の塊よ。砂を溶かして作った程度のものなら……例え科学側の存在でも手が加えてあるのなら地属性の魔法の力で簡単に崩せるわ」
 分解したガラスケースの中に眠っていた少年を背負って奈々美は立ち去る。
「目的とは違ったけれどもまあいいわ。魔女の代わりにホムンクルスの方を持ち出すと言う事で」
 奈々美は楽しみで仕方がなかった。これからこの少年とどう過ごすのか、それを想像するだけでニヤけが止まらないのであった。
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