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ホムンクルス計画

金に目が眩んだ人々

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 闇夜に浮かぶ月が照らすひとつの戦場、そこでは和服を身に纏う少女が薙刀を振るっていた。黒い髪に大きな花のついたかんざし、その姿はまさに美に美を足して美をかけて醜を引いた美しさの化身。
 薙刀はそれもまた月明かりに照らされし澄んだ氷の剣という美しい存在によって受け止められる。
「ヴァレンシア、やってしまいな」
 そんな言葉を放つ氷の剣の持ち主である真昼。しかしその言葉に応えるヴァレンシアはどこにもいなかった。
「一体なぜ?」
「そのヴァレンシアなら月の光が戦意を始末した」
 そう語るのはニヤけ面の少女。
「魔女なのに和服だなんて文化間違えてるんじゃないか?」
 その疑問と共に和服の少女、天草 綾香に対して向けられる万年筆。それはなんと青白い炎、亡霊の魂が受け止めた。その様を見て綾香はさぞかし楽しそうに笑うのであった。
「なに? 世界は広いし和服の魔女がいてもいいと思うよ魔女文化のグローバル化だよ」
 刹菜はニヤけたまま言う。
「天草姓でキリスト教信者じゃないとか郷土愛無いな出身地の選定からやり直すんだな天草から移住せし魔女」
「無神論者が多いこの世の中神への信仰があるだけマシなんだよ」
 刹菜の焚き付けは果たしてどのような目的であっただろう。目論見の外側で都合よく事が動いていた。
 〈亡霊の魔女〉天草 綾香の背後に迫るはある男とビニール傘。
「そいつを生け捕りにしてお嬢様に渡せば500万! やるっきゃない」
 そうして振るわれる傘もまた亡霊によって受け止められる。綾香は薙刀を握る手に力を入れて真昼の剣を夜空へと飛ばした。放物線を描く氷の剣のかけら。それが向かう先に立つのは月を眺めし空色の瞳の少女。
「買って行こう。喧嘩売るなら。それも平和のため」
 褐色肌の少女は月を背に鋭い跳躍を見せて2振りの光の剣をどこからか取り出し構える。
 身が降り落ちていく。
 ヴァレンシアは剣を構え、落ちていく。
 剣は交差するように振るわれて薙刀を叩く。
 すると亡霊たちは消え、一真はビニール傘を思い切り一振する。それを綾香は握り締めて砕く。
 そうして意識がビニール傘から一真に戻ったその瞬間、一真は綾香の身体に強力な蹴りを入れていたのであった。



 戦いが終わった後、ある和菓子屋の店番の少女に一真と真昼が綾香を引き渡す。
「ありがとうございます。とてもステキな真っ赤な化粧が目を引きますね」
 その言葉の真意はふたりには掴めなかったが、少なくともキズものにした事に対して言いたいことがあるのだろう。
「別に生け捕りにすればどうでもいいだろ? 魔女研究所のお嬢さん」
 一真のその言葉に対して少女は笑顔で頭を下げるだけであった。
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