上 下
35 / 132
〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

一真の戦い

しおりを挟む
 雨が降る中傘を差さずに傘を振る、或いは傘で刺す。しかしそれらは全て受け止められ、何一つ通らない。
 〈お菓子の魔女〉は口を大きく横に広げて醜い笑みを浮かべて手に持っている金平糖を口の中に放り込んだ。
「くそが」
 一真は走り出した。距離を取り、魔力の通らない傘と右腕ではなくまだ封じられていない左手より光を投げ飛ばした。
 魔力の光弾、〈お菓子の魔女〉は一度地を踏み鳴らす。ただそれだけで飛び散るふたつの黒い星が光弾を喰らって白や桃色の金平糖へと姿を変えていく。その金平糖が〈お菓子の魔女〉の元へと飛んで行こうとしたその時。
「させるか!」
 一真は飛び込みそれを宙で奪い取る。そして左手に金平糖のひとつを握り締め、己の魔力を注いで砕く。その小さな爆発の衝撃、痛みに一真は顔を顰めつつもそれをまた魔力の光弾にして飛ばす。
 先程と同じで〈お菓子の魔女〉は一度地面をつま先で踏み鳴らす。そこで飛ぶ黒い星はひとつだけ。それは光弾を吸い上げて金平糖へと変わる、先程と同じ事。
 一真は左手に先程奪い取ったもうひとつの金平糖を握り締めてそれを砕いて魔力に混ぜる。魔力を注ぐそれだけの事がどれだけ痛いのか、苦しく厳しい力の発動。いつもと変わらない、違う事はただ金平糖を砕く衝撃だけだった。
 それを投げる時、一真は自覚した。
 もう左手で魔力を使う事は危ない、まるで血が滲むような感覚なのだと。
 しかし、そんな事はどうでも良かった。必要な事は今勝つこと。左手の痛みくらい後で治せるのだから。
 投げられた魔力の光は金平糖を砕き、破裂した。
 一真は走り、傘で〈お菓子の魔女〉を叩く。
 それはいとも容易く砕かれて傘は最早使い物にならなくなってしまった。
 一真の首元へと迫る口。〈お菓子の魔女〉は一真を喰らう事で力の回復をはかるも一真の左手は魔女の首を掴み取る。
「させねえよ」
 魔女を放り投げ、一度強烈な蹴りをお見舞いした。魔女の身体は更に遠くへと飛び、地へと叩き付けられる。地へと叩き付けられた身体を動かそうと、 必死に立ち上がろうとするも動かない、抗えない。そんな必死な想いと共に〈お菓子の魔女〉の意識は闇の中へと沈んで行き、身体は力なく地に身を任せたのであった。
 そこにただひとり残された一真。先程よりも強く打ち付けるように降る雨に濡らされながら地に寝転がる少女、那雪の大切な友だちを背負ってそのまま家の中へと入って行った。
 そうして今回の戦いは無事に幕を降ろしたのであった。
しおりを挟む

処理中です...