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〈お菓子の魔女〉と呪いの少女

小城 洋子

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 爽やかな風は太陽の優しい光と共に朝を運んでいた。メガネをかけた少女、那雪は学校へといつも通りの生活を送るべく歩いていた。高校生活、それは那雪にとっては決して明るい青春とは言い難いものとなるはずであったが、数日前の生命の危機の訪れと共に運命の出会いをしたのであった。前原 一真、彼との出会いの運命は幸せなものとなるのか試練の一つとなるのか、那雪には未だ想像がつかない。
 歩きながら道路脇に佇む街路樹を眺め、数ヶ月前には桜が咲き誇っていただの緑が美しいだの、ごくごく普通の事を考えていた。また次の街路樹を通り過ぎようとしたその時、制服姿の少女が地面にへたり混んでいた。栗色の髪の美しい少女、那雪と同じ学校の制服を着た少女は何故そんなところで限界を迎えているのであろうか。那雪は栗色の髪の美少女に手を伸ばす。
「大丈夫ですか」
 美少女は顔を上げて那雪の手を取って立ち上がる。
「ありがとう、大丈夫」
 美少女は歩こうとするもフラ付き那雪にもたれかかる。
「本当に大丈夫ですか?」
 病気を心配していた那雪だったが、細い身体にもたれかかる柔らかでスタイルの良い少女は予想外の言葉を口走るのであった。
「……お腹空いた」
 那雪は急いで鞄からパンを取り出して少女に渡したのであった。



 遅刻寸前、2人は走りいつもよりも早く流れ行く景色の中で何も話さずにどうにか学校へたどり着いたのであった。
 少女のところまで付き添う提案を出した那雪であったが、少女は「大丈夫、同じ学年だから近くだよ」と言って那雪が教室へと入って行く様を見て自身も教室へと向かったそうだ。
 面白みもない授業、ただ将来就職するために必要だからとそれだけの理由で赤点を回避するくらいの気持ちで受けた授業、それが一旦終わって始まる昼休み。那雪は鞄を漁りながら朝の事を思い出す。そう、パンは美少女にあげたのであった。そこでパンを買うために教室を出るとそのドアの先にあの少女が待っていた。
「あっ、ええと朝の時の」
「小城 洋子、洋子って呼んでね」
「洋子さん。私は唐津 那雪です。よろしくお願いします」
 洋子はクスクスと笑い、那雪の手を引いて歩き出した。
「タメ口でいいよ、同級生だから」
 そして2人は食堂へと向かうのであった。
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