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始まり

なゆき

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 学校の授業は終わり、人々は自由を得た。高校、義務教育。その先で行われる教育は難しいばかりで中学の時からの呪縛感が一切消えていなかった。
 唐津 那雪、高校2年生。そんな彼女もまた、学校という名の鎖に自ら縛られに行った人物の一人。あと1年耐えなければならないという事実に打ちのめされていた。特に学校では友だちがいるわけでもなく、ただ1人で生きる事しか出来ない虚しい少女。その人生は始まりから終わりまでもが沈み行く夕陽のように寂しいものなのかも知れない。
ーそんなのイヤだなぁー
 メガネ越しの景色は本物でありながらもレンズ越しに見える偽物。やせ細った身体は色気の一つも備えていなかった。
 那雪は茜色の空の下を歩き続けて行く。いつもと同じ生活を繰り返して行くため。寂しさは次に見える景色によって爆発する事となる。
 その瞳が捉えたのは肩を寄せ合って歩く男女。女はソフトクリームを食べながら彼の話に耳を傾けていた。
【あんな人……不幸になればいいのに】
 人の幸せを妬み恨みそして薄く味気ない唇から溢れ出た小さな呟き。するとどうであろう。女は突如躓き男に寄りかかる。男は顔を青くしていた。
「服が……」
 那雪は男の服が汚れた事、そして女が愛する人の姿を台無しにした事を見届けて微笑み歩いて行く。
ーこれでいいの、それが私だからー
 那雪は家へと向かって再び歩みを進める。父は仕事で常に留守、母は数年前に妹を連れて出て行ってそれ以来。思い出も顔も不自然な程に思い出せないでいた。
 そんなことを考えていると次に見かけたそれは男が3人。大きく下品な笑い声を上げる2人が地面にへたり込む1人から奪い取ったと思しき財布から金を取り出してポケットに仕舞っているところであった。その隣りは車道で当然ながら車が流れ続けていた。
「撥ねられればいいのに」
 しかし、思い通りには行かない。当然の事であった。
【痛い目見て反省して】
 男たちがはしゃぎながら振り返ると何かにぶつかる。その姿を見て男たちは怯えるのであった。そこにいたのは体格の良い若い男、2人には既に悲劇的な未来が予知などを挟む余地もなく見えていたのだから。
 那雪は既に見えているそんな未来など目に映すまでも無いと言わんばかりの無関心を塗りつけた態度で再び3度、歩き始める。家までもう一息、そんな時に那雪はこれまでとは比にならない程の衝撃的な光景を見た。
 それは那雪の家の近所のある家、その家だけが潰されていたのだ。まるで隕石でも降って来たかのような亀裂、破片。むき出しの木や鉄骨は最早救いようもない程に悲惨な状態で、それこそ家に生命があるとすれば助かりはしない、風前の灯火が見えるまでもなく掻き消えた後、そんなところであった。
 那雪はその家から漂う気配、何か摩訶不思議な力が動いた後だとそれだけを察知して走り出した。
ー嫌だ、怖い、もうそこにいたくないー
 そうして家に駆け込み急いで鍵をかけて蹲る。
ー無理、生きて行ける気がしない、あれを見たならきっともうー
 初めて見るその力は何故だかそう思わせて来る。那雪はそれから暫く床に蹲って怯え震え続けるのであった。
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