霞の森の魔女

焼魚圭

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アーシャ

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 退屈な揺りかご列車、その移動も終わり、リリアンヌは右腕を思い切り伸ばしながら気怠さを露わにした瞳で列車が去って行く様を見届けて改札口を抜ける。
 鞄から例の手紙、集合場所と時間が書かれた別紙を取り出して目を通し、次に見上げて路線図に目を通して顔をしかめた。
「また結構遠い」
 リリアンヌは肩を落としながら切符を購入し、異なる方向へと向かう列車へと乗り込むのであった。


  ☆


 流れる景色は緩やかで、先ほどのような退屈さも感じさせない自然を眺めるリリアンヌの瞳は快晴の空のように美しかった。窓の向こうは自然が多く美しく、心を豊かに彩っていく。
 そんな愛しの時間はすぐに溶けて流れて過去へと消えて行ってしまう。
 あと2駅で到着することを確かめて鞄を上の荷物置きから降ろす。リリアンヌの臆病な心は『忘れ物をしないように早く降ろせ』と叫んでいた。
 列車は止まり、少しの時を置いて再び動き出した。そこで窓の向こうに瞳の中に映る景色は白い森だった。白くて深い霞に覆われた森。それは霞というにはあまりにも狭く、しかし明らかに霞そのもの。それを見てしまったリリアンヌの意識の中に得も言えぬ危機感が芽生え始める。心を強く打ち付ける。焦りを鳴らし始める。
-ただの霞じゃない-
 それが分かったところで今は何もどうすることも出来やしない。リリアンヌが次に取ることが出来た行動は目的地へとたどり着いた列車から降りることだけ。
 自然を楽しむ余裕すら失ってしまったままリリアンヌは改札口を出る。その先の石の椅子に座って待つ少女。銀髪にも見えるくせの強い金髪、くねっている髪が可愛らしい少女の元へと歩み寄る。少女はとびきりの笑顔を浮かべていた。
「おはぁ、リリアンヌ。会いたかったよ」
「私も会いたかった」
 空色の瞳は目の前の金髪の少女、アーシャの灰色の瞳を覗き込む。リリアンヌのアーシャに対する確かな愛情を注いだ視線、アーシャは顔を赤らめて目を逸らす。
「もう、そんなに見ないで恥ずかしいよもう」
 それでもリリアンヌはアーシャを見つめることをやめない。この白衣を着た白い肌の異邦人といるだけでクリーム色の地味なセーターを着た褐色肌の大人な女性の恐怖は何処かへと潜んで行くのであった。
「リリアンヌの目は綺麗でカッコよくて嫉妬してしまう」
 空色の美しい瞳はとても優しくて気高い色をしていた。
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