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第七幕 更に待つ再会
笑顔の眠り
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魔物を倒したあとすぐさま起こった出来事だった。静嬉の身体が輝いて、再び何者にも見通せない光の幕に包まれて。
幹人にはこれから何が起こるのかわかり切っていた。光が収まったそこには力を扱う前の格好に戻された静嬉の立ち姿があって。
幹人は駆け出す。静嬉の元へ。
幹人は人々の波を押しのけ走り抜ける。静嬉を受け止めるため。
静嬉の身体は地へと向かってそのまま倒れ込もうとしていた。
走って、手を伸ばして、受け止めて力を入れて抱き留めて。
「幹人!!」
怒りの棘が飛んできたものの、構わず支えて。勢いに押されて膝を曲げてそれでもどうにか耐え抜いた少年の姿を讃える者たちが手を叩いて祝福を贈っていた。静嬉を、この街の平和のために戦う明るい人気者な英雄を応援していた観衆たちが目の当たりにしていた瞬間はまさに倒れる天使を抱擁する聖者だった。
幹人は歓声上がる人波の中で唯一異なる感情を、嫉妬混じりの怒りを飛ばしていた魔女に目を向ける。好きであるが故の感情の揺れ、負の衝動だったということをしっかりと理解した上で覚悟を即座に決めて。
しかし、目を当てた先にいる魔女は余裕を持った妖しい笑みを浮かべながらただ見つめているだけだった。幹人はリリの元に寄って素直な気持ちで頭を下げた。
「ごめん」
「いいの、私こそごめんよ。優しいキミの邪魔だった」
少しばかり距離を感じる言葉だったものの、隠された本音が隠れきれずに見え隠れしてはいたものの、封をされた感情の紐を解くことだけはやめておくことにした。
そうして危うい感情の交差を行ないつつも取り戻した平穏に戻りつつ、リリは静嬉の安らかな貌を視て、即診断を下した。
「秘術の長時間使用、七つの夜を経るまではまず目覚めないね」
つまり、滞在生活がまたしても幕を開けるようだった。静嬉がナリッシュとどのような生活を送りどのようなやり取りを交わし、如何にして秘術を受け継いだのか、今際の際のその時の『今』に遺した彼女の言葉を、しっかりと知っておきたい。それがリリの意見だった。
そんなリリの想いを幹人は見つめて、尊重することに決めていた。この街、薄桃色の貝の首飾りを婚約の証とするこの国にまで足を運んだのはリリと結婚するためではない。幹人としては結ばれたい想いで心がいっぱいの噴水だったが、今回はリリの友だちとの顔合わせだけでなく、幹人の帰還も目的の中に加えられていた。
つまり、婚約など初めからあり得ない話でしかなかった。
分かってはいた事実を己の中で見つめなおし少しばかりの落胆を抱えた。悲しき感情は変えることも出来ない事実、動くことのないもの。幹人は進まねばと思いつつアナに言葉を掛けようと振り向いた。
「アンタだれ? アタシの知り合いじゃないっしょ」
「いやだから、記憶残ってないんだろ、その空白は俺らとの思い出なんだって」
先ほど静嬉を助けた少年はアナと何やら話し込んでいた。幹人が割って入る。
「やめろよ、アナの迷惑だろ」
それにしても下手なナンパだな、アナにはスピリチュアルは通じないんだ。そう呟きながら仲間一同揃ってホテルへと戻ろうとする。しかし、アナの歩みはすぐさま止められた。しっかりと握られた手は強くはあれど温かく、芯から伝わる優しさは一体何を思っての物だろう。つかむ腕の真の意図がつかめない。
「そっちには帰さない、俺と帰るんだ」
強い意志を感じさせる声からは熱い想いが見え隠れしていて、それが街の程よい温かさと混ざり合って恐ろしく暑苦しい。幹人の中で目の前の男が敵であると断定された。
「行こう、あの人には話が通じない」
「分かってる、行こうぜ」
その言葉と共に生意気そうな目をした少年との繋がりを切って、歩き出そうとする。
「〈創造〉―― 記憶の復元」
記憶の復元というものを使用して復活させたのだそうだ。アナは立ち止まり、流れ込む記憶に対して苦みの視線を向けた。
「なにこれ、これが? うう、紅也……」
頭を押さえつつ、目の前の男を睨みつけ、言葉を続ける。
「何したんアンタ、こんままじゃ……頭壊れ」
「大丈夫だ、壊れることはないから」
一連の流れ全てを静かに追いかけ続けたリリが遂に動き始めた。
「幹人、アナを抱えて。逃げるよ、共に宿まで」
ふたり歩けない人物がいてふたり抱える人物がいて。共に背負い魔力をひねり出し脚に込め、足にまで行き渡らせて駆け出した。
「待てよお前ら! 俺の彼女連れ去ってんなよ」
走り出すものの、追いつけるわけもなく、少年、白水 紅也には創造魔法しか扱えないためか、引き離され続けていた。
「アナ、大丈夫?」
「ん? 多分」
声を掛けながらも全力という限界に身体を擦りつける程の力、限界の臨界で走り続けていた。ぶつからないように、目的地を見失わないように、辺りを見回した。
そこに紅也が立っていた。目を見開いて、湧いてきた疑問を放り込む。
「な、なんで」
「〈創造〉―― 極限速度での追いつき」
それなり程度の物ならば運命すら創造できるのだろうか。アナの苦しそうな顔を見つめながら、紅也は優しい言葉を手渡すように包みかける。
「復元は一回使ったけど、結果まで壊れることはないから、ゆっくりでいいから思い出して、後はお前次第だから……瑠菜」
その言葉を耳にして驚きにあふれる幹人をよそに紅也は頭にぶつけられた衝撃に流されて顔を振り下げられていた。突然のことに幹人の驚きは膨れ上がるばかりだった。
幹人にはこれから何が起こるのかわかり切っていた。光が収まったそこには力を扱う前の格好に戻された静嬉の立ち姿があって。
幹人は駆け出す。静嬉の元へ。
幹人は人々の波を押しのけ走り抜ける。静嬉を受け止めるため。
静嬉の身体は地へと向かってそのまま倒れ込もうとしていた。
走って、手を伸ばして、受け止めて力を入れて抱き留めて。
「幹人!!」
怒りの棘が飛んできたものの、構わず支えて。勢いに押されて膝を曲げてそれでもどうにか耐え抜いた少年の姿を讃える者たちが手を叩いて祝福を贈っていた。静嬉を、この街の平和のために戦う明るい人気者な英雄を応援していた観衆たちが目の当たりにしていた瞬間はまさに倒れる天使を抱擁する聖者だった。
幹人は歓声上がる人波の中で唯一異なる感情を、嫉妬混じりの怒りを飛ばしていた魔女に目を向ける。好きであるが故の感情の揺れ、負の衝動だったということをしっかりと理解した上で覚悟を即座に決めて。
しかし、目を当てた先にいる魔女は余裕を持った妖しい笑みを浮かべながらただ見つめているだけだった。幹人はリリの元に寄って素直な気持ちで頭を下げた。
「ごめん」
「いいの、私こそごめんよ。優しいキミの邪魔だった」
少しばかり距離を感じる言葉だったものの、隠された本音が隠れきれずに見え隠れしてはいたものの、封をされた感情の紐を解くことだけはやめておくことにした。
そうして危うい感情の交差を行ないつつも取り戻した平穏に戻りつつ、リリは静嬉の安らかな貌を視て、即診断を下した。
「秘術の長時間使用、七つの夜を経るまではまず目覚めないね」
つまり、滞在生活がまたしても幕を開けるようだった。静嬉がナリッシュとどのような生活を送りどのようなやり取りを交わし、如何にして秘術を受け継いだのか、今際の際のその時の『今』に遺した彼女の言葉を、しっかりと知っておきたい。それがリリの意見だった。
そんなリリの想いを幹人は見つめて、尊重することに決めていた。この街、薄桃色の貝の首飾りを婚約の証とするこの国にまで足を運んだのはリリと結婚するためではない。幹人としては結ばれたい想いで心がいっぱいの噴水だったが、今回はリリの友だちとの顔合わせだけでなく、幹人の帰還も目的の中に加えられていた。
つまり、婚約など初めからあり得ない話でしかなかった。
分かってはいた事実を己の中で見つめなおし少しばかりの落胆を抱えた。悲しき感情は変えることも出来ない事実、動くことのないもの。幹人は進まねばと思いつつアナに言葉を掛けようと振り向いた。
「アンタだれ? アタシの知り合いじゃないっしょ」
「いやだから、記憶残ってないんだろ、その空白は俺らとの思い出なんだって」
先ほど静嬉を助けた少年はアナと何やら話し込んでいた。幹人が割って入る。
「やめろよ、アナの迷惑だろ」
それにしても下手なナンパだな、アナにはスピリチュアルは通じないんだ。そう呟きながら仲間一同揃ってホテルへと戻ろうとする。しかし、アナの歩みはすぐさま止められた。しっかりと握られた手は強くはあれど温かく、芯から伝わる優しさは一体何を思っての物だろう。つかむ腕の真の意図がつかめない。
「そっちには帰さない、俺と帰るんだ」
強い意志を感じさせる声からは熱い想いが見え隠れしていて、それが街の程よい温かさと混ざり合って恐ろしく暑苦しい。幹人の中で目の前の男が敵であると断定された。
「行こう、あの人には話が通じない」
「分かってる、行こうぜ」
その言葉と共に生意気そうな目をした少年との繋がりを切って、歩き出そうとする。
「〈創造〉―― 記憶の復元」
記憶の復元というものを使用して復活させたのだそうだ。アナは立ち止まり、流れ込む記憶に対して苦みの視線を向けた。
「なにこれ、これが? うう、紅也……」
頭を押さえつつ、目の前の男を睨みつけ、言葉を続ける。
「何したんアンタ、こんままじゃ……頭壊れ」
「大丈夫だ、壊れることはないから」
一連の流れ全てを静かに追いかけ続けたリリが遂に動き始めた。
「幹人、アナを抱えて。逃げるよ、共に宿まで」
ふたり歩けない人物がいてふたり抱える人物がいて。共に背負い魔力をひねり出し脚に込め、足にまで行き渡らせて駆け出した。
「待てよお前ら! 俺の彼女連れ去ってんなよ」
走り出すものの、追いつけるわけもなく、少年、白水 紅也には創造魔法しか扱えないためか、引き離され続けていた。
「アナ、大丈夫?」
「ん? 多分」
声を掛けながらも全力という限界に身体を擦りつける程の力、限界の臨界で走り続けていた。ぶつからないように、目的地を見失わないように、辺りを見回した。
そこに紅也が立っていた。目を見開いて、湧いてきた疑問を放り込む。
「な、なんで」
「〈創造〉―― 極限速度での追いつき」
それなり程度の物ならば運命すら創造できるのだろうか。アナの苦しそうな顔を見つめながら、紅也は優しい言葉を手渡すように包みかける。
「復元は一回使ったけど、結果まで壊れることはないから、ゆっくりでいいから思い出して、後はお前次第だから……瑠菜」
その言葉を耳にして驚きにあふれる幹人をよそに紅也は頭にぶつけられた衝撃に流されて顔を振り下げられていた。突然のことに幹人の驚きは膨れ上がるばかりだった。
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