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第七幕 更に待つ再会
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それは砂の海広がりし灼熱の地。昼間に太陽から容赦なく降り注ぐ熱は砂に着いて跳ね返り、おぞましい暑さを演出していた。冬という季節はこの場所には無いのだろうか。閉じこもって日が沈むまで待ち続ける男女がいた。
「あっついんだけど、どうすりゃいいんだよ」
「どうするもこうするも、待つしかないんじゃないかい?」
男の方は幼くて生意気の感情が似合う灰色の目がよく目立つ顔立ちをした濃い茶髪の少年、女の方はと言えば闇を思わせる紫色の髪に灰色の左目と右目に死そのものの色合いを染み込ませたような顔をした少女。
ふたりはほぼ同じ身長で、少女は少年と同じ目の高さにあることを喜び時として目を合わせて微笑むのが癖になっていた。今、この時も、少年に対して微笑みかけていた。
「紅也は生意気な小学生みたいな顔してていい弟だい」
「言ってること滅茶苦茶な姉ちゃんだな、黒恵」
白水 紅也と白水 黒恵。この姉弟はある目的を果たすためにこの世界に来ていた。危険であるかも知れないこの世界で弟の目的を果たす手伝いをすること、それが黒恵の姉としての役目。
「こんなに待たせて、大丈夫かな、ここらにいるなら熱でやられてるかも知れね」
そんな言葉を放ちながら紅也は立ち上がり、歩き出そうとする。それを気温に負けないほどに冷たい目で優しい手で止めることもまた、姉としての役目でもあった。
「そんなこと言って、紅也が行って死んだらあの子、悲しむよ」
その答えの中に既に助けるべき人物はこのようなところを彷徨うほど愚かではないのだという意見が織り込まれていた。それを知っても尚、紅也は言葉を返す。
「俺の魔法があればどうにでもなる」
そう言って紅也は手を突き出し瞳を閉じる。
「行くぞ、〈創造〉―― 気温の低下」
想像し、創造する。それが紅也の魔法のチカラ。思い浮かべた理想、涼しい世界が創造され、快適な空間が繰り広げられた。
「ほう、凄いじゃないかい。でもさ、それ、いつまで働き続けるかねえ」
黒恵が言葉を終わらせない内に、この世界に根付いている強烈な熱気が帰ってきた。
紅也の魔法は非常に少ない魔力で如何なるものでも創り上げられる。しかし、その効力は非常に短命。物質や魔法ならば一度扱えば壊れてしまい、永続だと思われるものもすぐさま消え去ってしまう。
「そのチカラの限界はそこなんじゃないかい? 強すぎるものにも限度がある。世界の均衡を崩すほどのことはできないんじゃないかい?」
ただうなだれながら、日が沈んで涼しさが顔を出すのを待つだけだった。
☆
魔女と少年の旅は続いて行く。続きを紡ぐのは彼らふたりともうひとり。
「はあ、アンタら早くしねえと船出ちまうぞー」
背の低い少女が幹人の手を取って引いている姿はまるで犬の散歩のよう。その様子を見た彼女な魔女は純度全開の爽やか笑顔を咲かせていた。
「嫉妬もないの!?」
もし幹人が見ている側だったならば確実にリリに対して甘い態度で接する相手に嫉妬していただろう。冷めてしまったのだろうか、想いはもう消えてしまったのだろうか。
「どう見ても恋人っていうより友人だったからね。私の嫉妬の出る幕じゃないね」
幹人の理解の及ばぬ冷静の領域に踏み込んでいたようだった。
走り始める三人、基本的に時間を細かく気にしない世界の中では船の大胆なはずの出航時間が恐ろしく精密に感じられた。
「日が昇ってたから棒立ててみたらあぶねえ時間だったんだ」
「ごめん、そしてありがとう。アナがいなかったら」
確実に遅れていただろう。感謝の想いを込めつつも足を速めて進み続ける。乾いた冬の空気が肺を焦がす。心臓の鼓動は加速を続ける。白い息は生暖かくて外の寒気との差が生々しい嫌悪感を呼び起こしていた。
急ぎ急ぎ、心はどこまでも先へ、身体を差し置いて先へと進もうとして空回りを続ける。想いだけではどうすることも出来ない。出来る限り急いで風と一体になる気持ちで足を進めて。景色はその目に残像を焼き付けて放さない。
急ぎ続けた甲斐あってか大きな体をした船は目の前にて聳え立つように浮かんでいた。船の足元とでも呼べばいいのだろうか。地に立つ小さな影が見えて来た。走って走って近づいて、やがて影は大きくなり、更に近づきようやく人の姿なのだと目で形を捉えることが出来るほどの距離まで迫った。
間に合う、良かった――――
気を緩めかけたその時、船の前にて立っていた船員たちが木の板、船へと繋がる唯一の道へと足を向け始めた。焦り、絶望、悲しみ、諦め。様々な感情が順番に幹人の心を覆い始めた。
昏い想いに憑りつかれた少年のとなりでどこまでも真っ直ぐな意志を胸に宿した少女は諦めの感情ひとつ知らずに迫真の叫びを上げていた。
「間に合えーーー!!」
アナの叫びは空を空気を人々の耳を伝って響いて船員にまで届いて出航のために踏み出そうとしていた足を止める。
「遅れなんて、アタシが許さねえ! お前らの出航を遅らせてでも間に合わせてやるーー!!」
はた迷惑の極限とも呼べる態度だったものの、それを認めないほどに細かな時間を知っているわけでもなく、アナの強い魂の炎を纏った言葉はしっかりと実現された。
船員たちは三人の慌てて駆けつける姿を目にして止まって、船賃がその手に渡されるのを確認した上で乗船を歓迎した。
「あっついんだけど、どうすりゃいいんだよ」
「どうするもこうするも、待つしかないんじゃないかい?」
男の方は幼くて生意気の感情が似合う灰色の目がよく目立つ顔立ちをした濃い茶髪の少年、女の方はと言えば闇を思わせる紫色の髪に灰色の左目と右目に死そのものの色合いを染み込ませたような顔をした少女。
ふたりはほぼ同じ身長で、少女は少年と同じ目の高さにあることを喜び時として目を合わせて微笑むのが癖になっていた。今、この時も、少年に対して微笑みかけていた。
「紅也は生意気な小学生みたいな顔してていい弟だい」
「言ってること滅茶苦茶な姉ちゃんだな、黒恵」
白水 紅也と白水 黒恵。この姉弟はある目的を果たすためにこの世界に来ていた。危険であるかも知れないこの世界で弟の目的を果たす手伝いをすること、それが黒恵の姉としての役目。
「こんなに待たせて、大丈夫かな、ここらにいるなら熱でやられてるかも知れね」
そんな言葉を放ちながら紅也は立ち上がり、歩き出そうとする。それを気温に負けないほどに冷たい目で優しい手で止めることもまた、姉としての役目でもあった。
「そんなこと言って、紅也が行って死んだらあの子、悲しむよ」
その答えの中に既に助けるべき人物はこのようなところを彷徨うほど愚かではないのだという意見が織り込まれていた。それを知っても尚、紅也は言葉を返す。
「俺の魔法があればどうにでもなる」
そう言って紅也は手を突き出し瞳を閉じる。
「行くぞ、〈創造〉―― 気温の低下」
想像し、創造する。それが紅也の魔法のチカラ。思い浮かべた理想、涼しい世界が創造され、快適な空間が繰り広げられた。
「ほう、凄いじゃないかい。でもさ、それ、いつまで働き続けるかねえ」
黒恵が言葉を終わらせない内に、この世界に根付いている強烈な熱気が帰ってきた。
紅也の魔法は非常に少ない魔力で如何なるものでも創り上げられる。しかし、その効力は非常に短命。物質や魔法ならば一度扱えば壊れてしまい、永続だと思われるものもすぐさま消え去ってしまう。
「そのチカラの限界はそこなんじゃないかい? 強すぎるものにも限度がある。世界の均衡を崩すほどのことはできないんじゃないかい?」
ただうなだれながら、日が沈んで涼しさが顔を出すのを待つだけだった。
☆
魔女と少年の旅は続いて行く。続きを紡ぐのは彼らふたりともうひとり。
「はあ、アンタら早くしねえと船出ちまうぞー」
背の低い少女が幹人の手を取って引いている姿はまるで犬の散歩のよう。その様子を見た彼女な魔女は純度全開の爽やか笑顔を咲かせていた。
「嫉妬もないの!?」
もし幹人が見ている側だったならば確実にリリに対して甘い態度で接する相手に嫉妬していただろう。冷めてしまったのだろうか、想いはもう消えてしまったのだろうか。
「どう見ても恋人っていうより友人だったからね。私の嫉妬の出る幕じゃないね」
幹人の理解の及ばぬ冷静の領域に踏み込んでいたようだった。
走り始める三人、基本的に時間を細かく気にしない世界の中では船の大胆なはずの出航時間が恐ろしく精密に感じられた。
「日が昇ってたから棒立ててみたらあぶねえ時間だったんだ」
「ごめん、そしてありがとう。アナがいなかったら」
確実に遅れていただろう。感謝の想いを込めつつも足を速めて進み続ける。乾いた冬の空気が肺を焦がす。心臓の鼓動は加速を続ける。白い息は生暖かくて外の寒気との差が生々しい嫌悪感を呼び起こしていた。
急ぎ急ぎ、心はどこまでも先へ、身体を差し置いて先へと進もうとして空回りを続ける。想いだけではどうすることも出来ない。出来る限り急いで風と一体になる気持ちで足を進めて。景色はその目に残像を焼き付けて放さない。
急ぎ続けた甲斐あってか大きな体をした船は目の前にて聳え立つように浮かんでいた。船の足元とでも呼べばいいのだろうか。地に立つ小さな影が見えて来た。走って走って近づいて、やがて影は大きくなり、更に近づきようやく人の姿なのだと目で形を捉えることが出来るほどの距離まで迫った。
間に合う、良かった――――
気を緩めかけたその時、船の前にて立っていた船員たちが木の板、船へと繋がる唯一の道へと足を向け始めた。焦り、絶望、悲しみ、諦め。様々な感情が順番に幹人の心を覆い始めた。
昏い想いに憑りつかれた少年のとなりでどこまでも真っ直ぐな意志を胸に宿した少女は諦めの感情ひとつ知らずに迫真の叫びを上げていた。
「間に合えーーー!!」
アナの叫びは空を空気を人々の耳を伝って響いて船員にまで届いて出航のために踏み出そうとしていた足を止める。
「遅れなんて、アタシが許さねえ! お前らの出航を遅らせてでも間に合わせてやるーー!!」
はた迷惑の極限とも呼べる態度だったものの、それを認めないほどに細かな時間を知っているわけでもなく、アナの強い魂の炎を纏った言葉はしっかりと実現された。
船員たちは三人の慌てて駆けつける姿を目にして止まって、船賃がその手に渡されるのを確認した上で乗船を歓迎した。
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