144 / 244
第六幕 再会まで
街待ち
しおりを挟む
それは畑、国を目指して森や平原を駆け抜けて立ち塞がった天然ものの国境線。そこでは豆やトウモロコシを主食としてキャベツやニンジンを栽培しているそうだ。
「ここにはあまりいい食べ物はないわ。ここから出る船に乗って隣の大陸まで渡ればカブだったりアスパラガスだったり玉ねぎだったり、色々食べられるわ」
真昼の話によればこの国で、というよりはこの島サイズの大陸では栽培される作物が限られているのだという。森の動物を狩って木の実を拾いながら豆を育てて生きるのがこの大陸の先住民の主な文化。それを聞いて幹人は納得していた。
――米も見かけないわけだ
そもそも交易ですら入らないのだろう。もしかすると料理人が来て出張料理という形を取っているのかも知れない。
真昼は幹人が寝ている間にクルミを拾っていたらしく、手のひらの上で転がすように揺らして口に放り込む。一連の動作に視線を向ける幹人に目を向けて、真昼は微笑みながらクルミを差し出した。
「ほら食べて、育ち盛りなんだから」
言葉に甘えて幹人はクルミを頬張って噛み締め味わって、リズの気分を味わっていた。
「ふふ、可愛い子。ウチの仲間にも子どもっぽい顔した高校生はいるけど、生意気そうな顔してるからね」
名も顔も知らないただ唯一の評判を聞いただけの少年に向けて、同情の念を込める。
――ああかわいそうに。そんなこと言われてもきっといい相手がいるさ
幹人の心の声を知ってか知らずか、真昼は言葉を続けた。
「しかも顔通り生意気なことに彼女いて『恋人じゃねえし』とか言ってるの」
――うわあ微笑ましい
幹人よりも心が幼いのだろうか、外見通りの人物なのだろうと想像して話を続ける。
「ええと、その人に会えますか」
「ん、運が良かったら会えるんじゃない? 今頃恋人じゃない彼女探してるだろうし」
それを恋人っていうんだよ、指摘したくて堪らない、そんな気持ちを抑え込んで考えを改める。
――もしかして彼女じゃなくて想い人だったり
「そうそう、明らかに両想いなのよね」
――いっそ付き合え
声には出さず、ただ歩くのみ。畑に囲まれて、収穫前の作物や茶色の絨毯を目にしながら歩み続けて特に大きな事件もなく街にたどり着いた。
街に入った途端、出迎えた大きな建物を横目に真昼に質問を授けてみた。
「働ける場所、知りませんか? 旅費が足りなくて」
顎に手を当てて顰めつつ唸りながら過ぎ去った数秒間。その後に真昼の指が示した場所、それは海沿いの通り。そこではテントの群れが展開されていて、とても賑やかな印象を振りまいていた。
「そこで働けばいい、慢性人員不足だから」
紹介して、そこへと進み、ある人物と話して真昼はテントの中へと入って客と向かい合った。
――クルーだ、真昼さんもクルーなんだ
いかにもお金はありますと言いたげな雰囲気を滲ませ余裕をもって接していた真昼だったものの、完全に金欠仲間といったところだった。
幹人は真昼から離れ、他のテント、鮭売りの中年男性の元で頭を下げ、店員として迎え入れていただいた。
鮭売りは痩せこけていてひとりぼっち。そんな彼は幹人の働きたいという真面目な姿勢を見ると共に、肩に手を置いて歓迎してくれた。
そこで幹人の店員としての真面目な働きと噂話を収集するという業務外の会話が始まったのだった。
「どうも、なにかうわさ話は知りませんか」
そう話を振られて露骨に嫌な顔をしながら商品だけを受け取りながら立ち去る者、うわさなんて自分で考えろ、などと話として通じていないがそれでも商品はしっかりと受け取る者、ただ無言で商品だけを受け取り立ち去る者。反応は様々だった。
――なんだこれ、完全におかしいの混ざってるだろ
家の清掃業者やパンと媚を売る甘々の雰囲気だけで胃もたれしてしまいそうなパン屋の乙女はなんだかんだで話をしっかりと聞いて言葉を返していた。
そうして得られた第一の情報、それは獣人族の話だった。どうやら草笛がよく効く、洗脳に使えると知った獣人男性の一部が草笛を使って国内の女性を全てその手の内に収めようとしたらしく反感と争いが発生して国はほぼ解体状態にあるのだということだった。
――数日で国ひとつなくなってる!?
それは息をも詰まらせるほどに胸を締め付ける情報だった。
二つ目に得られた情報は、甘々な女性のほうから提供されたものだった。その話が、これだ。
「今まで出てなかった新しい船が出てるの。でも乗せる人はよほどの実力者だけなんだって。行き先は『悪魔見つめし自由の国』なの、出資者っていうの? あの人に見つめられていたいわ」
出資者? 幹人は疑問をそのまま口に出してしまっていた。それを聞くと共に乙女は顔を赤くして熱っぽくも色気のある表情で、胃もたれしそうなほどに甘く煮詰めて作ったような声で答える。
「そう、霧に覆われし眠らぬ国の王様のランス様がお金を出して作ってくれたの」
恍惚とした表情で気分を無駄以上に上昇させるその姿に困惑していた。
「私のことを『王の権限だ』って言って攫って行かないかな。ああ、ランス様」
好み全開で語り始めたこの乙女はいつまで話すのだろう。他の客の相手をしながらそこそこの時間、乙女の妄想話に付き合わされることとなった。
「ここにはあまりいい食べ物はないわ。ここから出る船に乗って隣の大陸まで渡ればカブだったりアスパラガスだったり玉ねぎだったり、色々食べられるわ」
真昼の話によればこの国で、というよりはこの島サイズの大陸では栽培される作物が限られているのだという。森の動物を狩って木の実を拾いながら豆を育てて生きるのがこの大陸の先住民の主な文化。それを聞いて幹人は納得していた。
――米も見かけないわけだ
そもそも交易ですら入らないのだろう。もしかすると料理人が来て出張料理という形を取っているのかも知れない。
真昼は幹人が寝ている間にクルミを拾っていたらしく、手のひらの上で転がすように揺らして口に放り込む。一連の動作に視線を向ける幹人に目を向けて、真昼は微笑みながらクルミを差し出した。
「ほら食べて、育ち盛りなんだから」
言葉に甘えて幹人はクルミを頬張って噛み締め味わって、リズの気分を味わっていた。
「ふふ、可愛い子。ウチの仲間にも子どもっぽい顔した高校生はいるけど、生意気そうな顔してるからね」
名も顔も知らないただ唯一の評判を聞いただけの少年に向けて、同情の念を込める。
――ああかわいそうに。そんなこと言われてもきっといい相手がいるさ
幹人の心の声を知ってか知らずか、真昼は言葉を続けた。
「しかも顔通り生意気なことに彼女いて『恋人じゃねえし』とか言ってるの」
――うわあ微笑ましい
幹人よりも心が幼いのだろうか、外見通りの人物なのだろうと想像して話を続ける。
「ええと、その人に会えますか」
「ん、運が良かったら会えるんじゃない? 今頃恋人じゃない彼女探してるだろうし」
それを恋人っていうんだよ、指摘したくて堪らない、そんな気持ちを抑え込んで考えを改める。
――もしかして彼女じゃなくて想い人だったり
「そうそう、明らかに両想いなのよね」
――いっそ付き合え
声には出さず、ただ歩くのみ。畑に囲まれて、収穫前の作物や茶色の絨毯を目にしながら歩み続けて特に大きな事件もなく街にたどり着いた。
街に入った途端、出迎えた大きな建物を横目に真昼に質問を授けてみた。
「働ける場所、知りませんか? 旅費が足りなくて」
顎に手を当てて顰めつつ唸りながら過ぎ去った数秒間。その後に真昼の指が示した場所、それは海沿いの通り。そこではテントの群れが展開されていて、とても賑やかな印象を振りまいていた。
「そこで働けばいい、慢性人員不足だから」
紹介して、そこへと進み、ある人物と話して真昼はテントの中へと入って客と向かい合った。
――クルーだ、真昼さんもクルーなんだ
いかにもお金はありますと言いたげな雰囲気を滲ませ余裕をもって接していた真昼だったものの、完全に金欠仲間といったところだった。
幹人は真昼から離れ、他のテント、鮭売りの中年男性の元で頭を下げ、店員として迎え入れていただいた。
鮭売りは痩せこけていてひとりぼっち。そんな彼は幹人の働きたいという真面目な姿勢を見ると共に、肩に手を置いて歓迎してくれた。
そこで幹人の店員としての真面目な働きと噂話を収集するという業務外の会話が始まったのだった。
「どうも、なにかうわさ話は知りませんか」
そう話を振られて露骨に嫌な顔をしながら商品だけを受け取りながら立ち去る者、うわさなんて自分で考えろ、などと話として通じていないがそれでも商品はしっかりと受け取る者、ただ無言で商品だけを受け取り立ち去る者。反応は様々だった。
――なんだこれ、完全におかしいの混ざってるだろ
家の清掃業者やパンと媚を売る甘々の雰囲気だけで胃もたれしてしまいそうなパン屋の乙女はなんだかんだで話をしっかりと聞いて言葉を返していた。
そうして得られた第一の情報、それは獣人族の話だった。どうやら草笛がよく効く、洗脳に使えると知った獣人男性の一部が草笛を使って国内の女性を全てその手の内に収めようとしたらしく反感と争いが発生して国はほぼ解体状態にあるのだということだった。
――数日で国ひとつなくなってる!?
それは息をも詰まらせるほどに胸を締め付ける情報だった。
二つ目に得られた情報は、甘々な女性のほうから提供されたものだった。その話が、これだ。
「今まで出てなかった新しい船が出てるの。でも乗せる人はよほどの実力者だけなんだって。行き先は『悪魔見つめし自由の国』なの、出資者っていうの? あの人に見つめられていたいわ」
出資者? 幹人は疑問をそのまま口に出してしまっていた。それを聞くと共に乙女は顔を赤くして熱っぽくも色気のある表情で、胃もたれしそうなほどに甘く煮詰めて作ったような声で答える。
「そう、霧に覆われし眠らぬ国の王様のランス様がお金を出して作ってくれたの」
恍惚とした表情で気分を無駄以上に上昇させるその姿に困惑していた。
「私のことを『王の権限だ』って言って攫って行かないかな。ああ、ランス様」
好み全開で語り始めたこの乙女はいつまで話すのだろう。他の客の相手をしながらそこそこの時間、乙女の妄想話に付き合わされることとなった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる