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第六幕 再会まで
街待ち
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それは畑、国を目指して森や平原を駆け抜けて立ち塞がった天然ものの国境線。そこでは豆やトウモロコシを主食としてキャベツやニンジンを栽培しているそうだ。
「ここにはあまりいい食べ物はないわ。ここから出る船に乗って隣の大陸まで渡ればカブだったりアスパラガスだったり玉ねぎだったり、色々食べられるわ」
真昼の話によればこの国で、というよりはこの島サイズの大陸では栽培される作物が限られているのだという。森の動物を狩って木の実を拾いながら豆を育てて生きるのがこの大陸の先住民の主な文化。それを聞いて幹人は納得していた。
――米も見かけないわけだ
そもそも交易ですら入らないのだろう。もしかすると料理人が来て出張料理という形を取っているのかも知れない。
真昼は幹人が寝ている間にクルミを拾っていたらしく、手のひらの上で転がすように揺らして口に放り込む。一連の動作に視線を向ける幹人に目を向けて、真昼は微笑みながらクルミを差し出した。
「ほら食べて、育ち盛りなんだから」
言葉に甘えて幹人はクルミを頬張って噛み締め味わって、リズの気分を味わっていた。
「ふふ、可愛い子。ウチの仲間にも子どもっぽい顔した高校生はいるけど、生意気そうな顔してるからね」
名も顔も知らないただ唯一の評判を聞いただけの少年に向けて、同情の念を込める。
――ああかわいそうに。そんなこと言われてもきっといい相手がいるさ
幹人の心の声を知ってか知らずか、真昼は言葉を続けた。
「しかも顔通り生意気なことに彼女いて『恋人じゃねえし』とか言ってるの」
――うわあ微笑ましい
幹人よりも心が幼いのだろうか、外見通りの人物なのだろうと想像して話を続ける。
「ええと、その人に会えますか」
「ん、運が良かったら会えるんじゃない? 今頃恋人じゃない彼女探してるだろうし」
それを恋人っていうんだよ、指摘したくて堪らない、そんな気持ちを抑え込んで考えを改める。
――もしかして彼女じゃなくて想い人だったり
「そうそう、明らかに両想いなのよね」
――いっそ付き合え
声には出さず、ただ歩くのみ。畑に囲まれて、収穫前の作物や茶色の絨毯を目にしながら歩み続けて特に大きな事件もなく街にたどり着いた。
街に入った途端、出迎えた大きな建物を横目に真昼に質問を授けてみた。
「働ける場所、知りませんか? 旅費が足りなくて」
顎に手を当てて顰めつつ唸りながら過ぎ去った数秒間。その後に真昼の指が示した場所、それは海沿いの通り。そこではテントの群れが展開されていて、とても賑やかな印象を振りまいていた。
「そこで働けばいい、慢性人員不足だから」
紹介して、そこへと進み、ある人物と話して真昼はテントの中へと入って客と向かい合った。
――クルーだ、真昼さんもクルーなんだ
いかにもお金はありますと言いたげな雰囲気を滲ませ余裕をもって接していた真昼だったものの、完全に金欠仲間といったところだった。
幹人は真昼から離れ、他のテント、鮭売りの中年男性の元で頭を下げ、店員として迎え入れていただいた。
鮭売りは痩せこけていてひとりぼっち。そんな彼は幹人の働きたいという真面目な姿勢を見ると共に、肩に手を置いて歓迎してくれた。
そこで幹人の店員としての真面目な働きと噂話を収集するという業務外の会話が始まったのだった。
「どうも、なにかうわさ話は知りませんか」
そう話を振られて露骨に嫌な顔をしながら商品だけを受け取りながら立ち去る者、うわさなんて自分で考えろ、などと話として通じていないがそれでも商品はしっかりと受け取る者、ただ無言で商品だけを受け取り立ち去る者。反応は様々だった。
――なんだこれ、完全におかしいの混ざってるだろ
家の清掃業者やパンと媚を売る甘々の雰囲気だけで胃もたれしてしまいそうなパン屋の乙女はなんだかんだで話をしっかりと聞いて言葉を返していた。
そうして得られた第一の情報、それは獣人族の話だった。どうやら草笛がよく効く、洗脳に使えると知った獣人男性の一部が草笛を使って国内の女性を全てその手の内に収めようとしたらしく反感と争いが発生して国はほぼ解体状態にあるのだということだった。
――数日で国ひとつなくなってる!?
それは息をも詰まらせるほどに胸を締め付ける情報だった。
二つ目に得られた情報は、甘々な女性のほうから提供されたものだった。その話が、これだ。
「今まで出てなかった新しい船が出てるの。でも乗せる人はよほどの実力者だけなんだって。行き先は『悪魔見つめし自由の国』なの、出資者っていうの? あの人に見つめられていたいわ」
出資者? 幹人は疑問をそのまま口に出してしまっていた。それを聞くと共に乙女は顔を赤くして熱っぽくも色気のある表情で、胃もたれしそうなほどに甘く煮詰めて作ったような声で答える。
「そう、霧に覆われし眠らぬ国の王様のランス様がお金を出して作ってくれたの」
恍惚とした表情で気分を無駄以上に上昇させるその姿に困惑していた。
「私のことを『王の権限だ』って言って攫って行かないかな。ああ、ランス様」
好み全開で語り始めたこの乙女はいつまで話すのだろう。他の客の相手をしながらそこそこの時間、乙女の妄想話に付き合わされることとなった。
「ここにはあまりいい食べ物はないわ。ここから出る船に乗って隣の大陸まで渡ればカブだったりアスパラガスだったり玉ねぎだったり、色々食べられるわ」
真昼の話によればこの国で、というよりはこの島サイズの大陸では栽培される作物が限られているのだという。森の動物を狩って木の実を拾いながら豆を育てて生きるのがこの大陸の先住民の主な文化。それを聞いて幹人は納得していた。
――米も見かけないわけだ
そもそも交易ですら入らないのだろう。もしかすると料理人が来て出張料理という形を取っているのかも知れない。
真昼は幹人が寝ている間にクルミを拾っていたらしく、手のひらの上で転がすように揺らして口に放り込む。一連の動作に視線を向ける幹人に目を向けて、真昼は微笑みながらクルミを差し出した。
「ほら食べて、育ち盛りなんだから」
言葉に甘えて幹人はクルミを頬張って噛み締め味わって、リズの気分を味わっていた。
「ふふ、可愛い子。ウチの仲間にも子どもっぽい顔した高校生はいるけど、生意気そうな顔してるからね」
名も顔も知らないただ唯一の評判を聞いただけの少年に向けて、同情の念を込める。
――ああかわいそうに。そんなこと言われてもきっといい相手がいるさ
幹人の心の声を知ってか知らずか、真昼は言葉を続けた。
「しかも顔通り生意気なことに彼女いて『恋人じゃねえし』とか言ってるの」
――うわあ微笑ましい
幹人よりも心が幼いのだろうか、外見通りの人物なのだろうと想像して話を続ける。
「ええと、その人に会えますか」
「ん、運が良かったら会えるんじゃない? 今頃恋人じゃない彼女探してるだろうし」
それを恋人っていうんだよ、指摘したくて堪らない、そんな気持ちを抑え込んで考えを改める。
――もしかして彼女じゃなくて想い人だったり
「そうそう、明らかに両想いなのよね」
――いっそ付き合え
声には出さず、ただ歩くのみ。畑に囲まれて、収穫前の作物や茶色の絨毯を目にしながら歩み続けて特に大きな事件もなく街にたどり着いた。
街に入った途端、出迎えた大きな建物を横目に真昼に質問を授けてみた。
「働ける場所、知りませんか? 旅費が足りなくて」
顎に手を当てて顰めつつ唸りながら過ぎ去った数秒間。その後に真昼の指が示した場所、それは海沿いの通り。そこではテントの群れが展開されていて、とても賑やかな印象を振りまいていた。
「そこで働けばいい、慢性人員不足だから」
紹介して、そこへと進み、ある人物と話して真昼はテントの中へと入って客と向かい合った。
――クルーだ、真昼さんもクルーなんだ
いかにもお金はありますと言いたげな雰囲気を滲ませ余裕をもって接していた真昼だったものの、完全に金欠仲間といったところだった。
幹人は真昼から離れ、他のテント、鮭売りの中年男性の元で頭を下げ、店員として迎え入れていただいた。
鮭売りは痩せこけていてひとりぼっち。そんな彼は幹人の働きたいという真面目な姿勢を見ると共に、肩に手を置いて歓迎してくれた。
そこで幹人の店員としての真面目な働きと噂話を収集するという業務外の会話が始まったのだった。
「どうも、なにかうわさ話は知りませんか」
そう話を振られて露骨に嫌な顔をしながら商品だけを受け取りながら立ち去る者、うわさなんて自分で考えろ、などと話として通じていないがそれでも商品はしっかりと受け取る者、ただ無言で商品だけを受け取り立ち去る者。反応は様々だった。
――なんだこれ、完全におかしいの混ざってるだろ
家の清掃業者やパンと媚を売る甘々の雰囲気だけで胃もたれしてしまいそうなパン屋の乙女はなんだかんだで話をしっかりと聞いて言葉を返していた。
そうして得られた第一の情報、それは獣人族の話だった。どうやら草笛がよく効く、洗脳に使えると知った獣人男性の一部が草笛を使って国内の女性を全てその手の内に収めようとしたらしく反感と争いが発生して国はほぼ解体状態にあるのだということだった。
――数日で国ひとつなくなってる!?
それは息をも詰まらせるほどに胸を締め付ける情報だった。
二つ目に得られた情報は、甘々な女性のほうから提供されたものだった。その話が、これだ。
「今まで出てなかった新しい船が出てるの。でも乗せる人はよほどの実力者だけなんだって。行き先は『悪魔見つめし自由の国』なの、出資者っていうの? あの人に見つめられていたいわ」
出資者? 幹人は疑問をそのまま口に出してしまっていた。それを聞くと共に乙女は顔を赤くして熱っぽくも色気のある表情で、胃もたれしそうなほどに甘く煮詰めて作ったような声で答える。
「そう、霧に覆われし眠らぬ国の王様のランス様がお金を出して作ってくれたの」
恍惚とした表情で気分を無駄以上に上昇させるその姿に困惑していた。
「私のことを『王の権限だ』って言って攫って行かないかな。ああ、ランス様」
好み全開で語り始めたこの乙女はいつまで話すのだろう。他の客の相手をしながらそこそこの時間、乙女の妄想話に付き合わされることとなった。
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