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第六幕 再会まで
なぜ
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例の国へと足を進め始め、大して変わらない森の景色の中を進み続け、その中で女は川から流れて来た理由を問う。
「元の世界にいる私の仲間が『川から流れて来た人だけど割ったら人出て来るかな』なんてニヤけながら訊ねそうなものだったね」
そういった言葉を添えるように付け加えると共に、幹人はその人物の不在に心の底からの感謝を咲かせていた。冗談といえどもついて行けそうな印象が抱けない。
少しだけ間を置いて、説明が幕を開けた。あの国に入ってからずっと怪しい視線を感じていたことからそれは気のせいなどではなく、信仰者の手によって風の使い手であるということを暴かれて幹人のチカラでは足元にも及ばないほどの実力を持った信仰者に襲われて命からがら逃げだすべく川に飛び込んだのだということまで、包み隠すものなど残すことなく一から十まで必要なものは全て絞りきって。
女は足を止めて、幹人の瞳を覗き込む。風を感じて、風を見つめて。渦巻く感情の中に潜む脅威への想いも大切な感情も、強く伝えられるものの何もかもを味わって。
「風使い? だったら行かない方がいい。味わったのでしょう? 悪夢の夜を」
再び入国すれば忽ち再びあの時の信仰者との戦いが始まってしまうであろう。それを予想できない程の愚か者ではなかった。
女は言葉を続ける。
「なぜ? なぜ行こうとするの? 身をもって体験したはずなのに」
そうした疑問を投げかける声も次第に萎んで行って、女はただ立ち尽くすのみ。対して幹人も返すことのできる言葉を見つけることすら叶わずに立ち尽くして、目の前の同郷と思しき者を見つめるのみ。
「それに、あの信仰者、私の昔の大切な人に似ていて……むやみに争って欲しくもないの」
知り合いの異界での姿だろうか。どのような理由や事情があったとしても幹人がリリと再会するために入国してしまえば争いは決して避けられないだろう。きっと彼女の中には様々な不安や恐怖が渦巻いていて、幹人の思うものの何倍もの高さを誇るそれを小さな心で見上げていて、幹人の思えるものの何倍もの深さのそれを見下ろしているのだろう。様々な心を知るということは、それだけ多くの想いを受け止めるということで、それだけの数の感情を想像できるということ。この女は間違いなく怯えていた。
「仲間があなたのことを想っているなら、きっと向こうから探してくれるはず。風と思想の関係で何かがあったことくらい気が付くはずだもの」
つまり、今の幹人に出来ることは仲間を信じることだけ、そう言いたいようだ。
目はリリがいるはずの国を向いていて、ただただ想像を膨らませていた。リリは今どうしているのだろうか、国民を恐怖の渦に陥れてはいないだろうか。思想による断罪など、あまりにも愚か、きっとそう言って幹人にとって都合の悪い宗教の存在など許さないだろう。
全く異なった意味での心配を掲げながらも、あの国の脅威から遠ざかるべく、女の言う通りに進む通りに従い別の国へと向かうことにした。
「そういえば俺は名乗ってませんでしたね。俺の名前は幹人っていうんです」
名乗りに驚いたのだろうか、女は立ち止まって幹人を見つめた。
「デイドリームさんも本名教えて下さい」
「真昼、本名ではないけど、もう長いことこっちの名しか使ってないから」
白昼夢などではなく真昼と名乗っているのだそうだ。
――でも、それも偽名なんだよな
拗ねてそっぽを向く顔がよほど面白かったのだろうか。真昼は笑っていた。
「カワイイお顔ね、それは仲間の人もお幸せね」
子どもっぽさを気にしつつ、これまで触れて来た女性たちを想いつつため息をこぼした。
――俺の周りの人たち、大体好きなタイプがこういうのばっか
そう、明らかにおかしなことだったが幹人としては現状を認める他なかった。恐らく普通にカッコいい男を好むのは話したこともないミーナくらいなものだろう。
ミーナといえば紘大は今どうしているのだろうか。もしも次に通った国で鉢合わせでもしてしまったら、またしても戦いの法螺が吹かれたなら、それを考えるだけで無限に胃を痛めることができた。
進み続けて、緑の木々に覆われた変わり映えのしない森の中を歩き続けてどれほどの時間が経ったであろうか。やがて木々の彩りもざわめきもなりを潜めて行って、現れ始めたものは遠目に見える港町。竜の少女を信仰するあの王都に似た図書館の存在と郊外に広がる畑、同じ造りはあれども竜の少女を信仰する国のような赤いレンガ造りの建物に無機質な灰色が差し込まれたような印象を受けた。
「所々竜の少女の国に似てますね」
真昼もまた頷いて同意を示した。
「それだけじゃなくて幹人にとっては忌まわしい信仰のあの国らしさも混ざってるの、気づいた?」
はい、言葉で同意するのを確認すると共に真昼は説明を続けた。元々未開の国だったそうで、技術や素材を持った移民たちによって外側から切り開かれた国だそうで、それによってレンガ造りは入ってきた、原住民の歴史自体は長かったものの、特に反発もなく受け入れられて竜を信仰する秘境の者たちもすぐさま受け入れられたようで竜を信仰する国が出来上がってから竜の少女の登場で今の信仰の完成。
原住民の残りも自ら出ることはなかったものの、便利な技術を外から持ち込まれることであの思想を保ったまま発展していったらしい。
「着くまでもう一息、頑張って」
真昼に導かれて、この自然に覆われた景色を一気に駆け抜けた。
「元の世界にいる私の仲間が『川から流れて来た人だけど割ったら人出て来るかな』なんてニヤけながら訊ねそうなものだったね」
そういった言葉を添えるように付け加えると共に、幹人はその人物の不在に心の底からの感謝を咲かせていた。冗談といえどもついて行けそうな印象が抱けない。
少しだけ間を置いて、説明が幕を開けた。あの国に入ってからずっと怪しい視線を感じていたことからそれは気のせいなどではなく、信仰者の手によって風の使い手であるということを暴かれて幹人のチカラでは足元にも及ばないほどの実力を持った信仰者に襲われて命からがら逃げだすべく川に飛び込んだのだということまで、包み隠すものなど残すことなく一から十まで必要なものは全て絞りきって。
女は足を止めて、幹人の瞳を覗き込む。風を感じて、風を見つめて。渦巻く感情の中に潜む脅威への想いも大切な感情も、強く伝えられるものの何もかもを味わって。
「風使い? だったら行かない方がいい。味わったのでしょう? 悪夢の夜を」
再び入国すれば忽ち再びあの時の信仰者との戦いが始まってしまうであろう。それを予想できない程の愚か者ではなかった。
女は言葉を続ける。
「なぜ? なぜ行こうとするの? 身をもって体験したはずなのに」
そうした疑問を投げかける声も次第に萎んで行って、女はただ立ち尽くすのみ。対して幹人も返すことのできる言葉を見つけることすら叶わずに立ち尽くして、目の前の同郷と思しき者を見つめるのみ。
「それに、あの信仰者、私の昔の大切な人に似ていて……むやみに争って欲しくもないの」
知り合いの異界での姿だろうか。どのような理由や事情があったとしても幹人がリリと再会するために入国してしまえば争いは決して避けられないだろう。きっと彼女の中には様々な不安や恐怖が渦巻いていて、幹人の思うものの何倍もの高さを誇るそれを小さな心で見上げていて、幹人の思えるものの何倍もの深さのそれを見下ろしているのだろう。様々な心を知るということは、それだけ多くの想いを受け止めるということで、それだけの数の感情を想像できるということ。この女は間違いなく怯えていた。
「仲間があなたのことを想っているなら、きっと向こうから探してくれるはず。風と思想の関係で何かがあったことくらい気が付くはずだもの」
つまり、今の幹人に出来ることは仲間を信じることだけ、そう言いたいようだ。
目はリリがいるはずの国を向いていて、ただただ想像を膨らませていた。リリは今どうしているのだろうか、国民を恐怖の渦に陥れてはいないだろうか。思想による断罪など、あまりにも愚か、きっとそう言って幹人にとって都合の悪い宗教の存在など許さないだろう。
全く異なった意味での心配を掲げながらも、あの国の脅威から遠ざかるべく、女の言う通りに進む通りに従い別の国へと向かうことにした。
「そういえば俺は名乗ってませんでしたね。俺の名前は幹人っていうんです」
名乗りに驚いたのだろうか、女は立ち止まって幹人を見つめた。
「デイドリームさんも本名教えて下さい」
「真昼、本名ではないけど、もう長いことこっちの名しか使ってないから」
白昼夢などではなく真昼と名乗っているのだそうだ。
――でも、それも偽名なんだよな
拗ねてそっぽを向く顔がよほど面白かったのだろうか。真昼は笑っていた。
「カワイイお顔ね、それは仲間の人もお幸せね」
子どもっぽさを気にしつつ、これまで触れて来た女性たちを想いつつため息をこぼした。
――俺の周りの人たち、大体好きなタイプがこういうのばっか
そう、明らかにおかしなことだったが幹人としては現状を認める他なかった。恐らく普通にカッコいい男を好むのは話したこともないミーナくらいなものだろう。
ミーナといえば紘大は今どうしているのだろうか。もしも次に通った国で鉢合わせでもしてしまったら、またしても戦いの法螺が吹かれたなら、それを考えるだけで無限に胃を痛めることができた。
進み続けて、緑の木々に覆われた変わり映えのしない森の中を歩き続けてどれほどの時間が経ったであろうか。やがて木々の彩りもざわめきもなりを潜めて行って、現れ始めたものは遠目に見える港町。竜の少女を信仰するあの王都に似た図書館の存在と郊外に広がる畑、同じ造りはあれども竜の少女を信仰する国のような赤いレンガ造りの建物に無機質な灰色が差し込まれたような印象を受けた。
「所々竜の少女の国に似てますね」
真昼もまた頷いて同意を示した。
「それだけじゃなくて幹人にとっては忌まわしい信仰のあの国らしさも混ざってるの、気づいた?」
はい、言葉で同意するのを確認すると共に真昼は説明を続けた。元々未開の国だったそうで、技術や素材を持った移民たちによって外側から切り開かれた国だそうで、それによってレンガ造りは入ってきた、原住民の歴史自体は長かったものの、特に反発もなく受け入れられて竜を信仰する秘境の者たちもすぐさま受け入れられたようで竜を信仰する国が出来上がってから竜の少女の登場で今の信仰の完成。
原住民の残りも自ら出ることはなかったものの、便利な技術を外から持ち込まれることであの思想を保ったまま発展していったらしい。
「着くまでもう一息、頑張って」
真昼に導かれて、この自然に覆われた景色を一気に駆け抜けた。
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