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第四幕 異種族の人さらい
世界の違い
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空の蒼に沈んだ街―― 船に乗った後だからだろうか、そのような言葉を思わせる。
レンガ造りの街は一夜遡ったあの日に立っていた場所と全く異なる印象を抱かせる。紘大は伸びをして街の空気を味わっていた。
「これもまた旅の醍醐味ってやつだな」
潮の香りは吹き込む風と共にあり。レンガの街はいつもの通りに賑わいを見せていた。
賑わいの中に紛れ込む欲しい情報を探る。紘大が欲しいのは盗賊団関係のことだった。隣の島らしいがそれでも大きな警戒が湧いては止まらず渦巻いている。目は手がかりを探り、耳は情報を探す。
やがて気が付いてしまった。
――商人たちに訊けばいいんだな
今更ながらの気づき、もしもこの街にまで盗賊たちが入ってきていた場合、寝ている間に忍び寄られて眠りの世界に幽閉されてしまうかもしれない。そうした警戒心が正しいのかどうか、確かめる必要があった。貿易商人、彼らがいるのはどこだろうか。木の箱が積まれている場所を探してみれば見つかるだろうか。
船の泊められたレンガの果て、そこに異色を見つけて思わず喜びのエネルギーをガッツポーズに変えていた。
「よし見つけた」
ゲームなどの経験で獲得したこと、詳しそうな人物に話を聞くこと。船の近くまで荷物を運ぶ人々に話しかけ、旅行者であることを告げて始める会話にて特に進展がないことを確かめるまでに長々と話を聞かされていたのだという。
その間、暇そうに目を擦って欠伸をするネコの子と退屈を貌に浮かべていたミーナは互いに顔を合わせて話を始めていた。
「ニャニャちゃん」
「なあに? ミーちゃん」
完全にどちらがネコの子なのか分からない名前が並んでいた。
「ニャニャちゃんの故郷ってどこなの?」
「ここの近くだよー」
どうやら攫われた時にレンガ造りの風景を目にしていたらしい。ケモ耳の国、いったいどのような文化なのだろう、どれほど栄えているのだろう。ふつふつと上がってきた疑問が喉を通り抜けて質問という形を取る。ニャニャは華やかな笑顔と共にネコひげを揺らしながら答える。
「豊かな自然と活気あふれる動物たちの群れが素敵な森の中にあるんだ。そこから色々手に入れて生きてく」
ミーナの想像の中ではふれあい豊かな優しい国として描かれていた。
そうした話が進む隣のセカイで紘大は思わず口や目を開いて驚きの感情を示していた。
「豆とトウモロコシ取って来い? 俺が?」
「頼む、今日のメシおごってやるから」
友人関係のような距離感はこの国の特色なのか貿易商の観察眼が導き出した態度なのか。なにはどうあれ結果として紘大は断ることが出来なかった。
そこからミーナとニャニャを率いて歩きながら考える。豆とトウモロコシ、どちらも共に主食だった。貿易商人の話によれば、孤立しかけている王都から食料の供給を頼み込まれたそうで、主食を輸出する準備をしているらしい。
レンガの街と潮の香りを吸い込み心を振り回しスキップをしながら歩いていた。ミーナもまた、顔を潮騒のメロディーに耳を傾けて気分を上昇気流に喜びの雨を内に振らせながら歩く。ふたりの様子を見つめながらニャニャもまた、耳をぴくぴくと可愛らしく揺らしながら尻尾をゆっくりと振りながらついて行く。故郷の近くの音は格別のようだった。
ドラゴニクス王国にも王都はあって、そうであるならば当然郊外もあって。街を出た途端現れた光景を目にした紘大は心を奪われてしまっていた。
それは海と組み合わされた畑。言葉のみで説明された建物、穀物の倉庫を探していた。迷ったら通りかかった人に道を聞けば、なにもない田舎の中でも数少ない複数人の出入りのある施設として有名なため誰でも答えられるらしい。
「イージーモード? んなわけ……」
人に訊けばすぐに分かる簡単なお仕事として紹介されたはずが、訊ねるべき人物がいないという人々の都合が人知れず作り出した罠に嵌まり込んでいた。
「そんなお話、俺は知らない!」
元の世界の学校で密かに流行っていた言い回しで自身の内を這い回る感情を空気に向かって訴えて、辺りを見渡す。田舎生活のために切り開かれた場所で、おまけに作物の芽生えていないこともあって決して自然が豊かだとは思えなかったものの、どこか自然を思わせる美しさがあった。海もまだまだしっかりと確かめたわけではなかったものの、あの世界のようなごみも感じさせない澄んだものだった。
紘大は思う。果たして昔から景色などに心を打たれるような人間だっただろうか。
答えは明らかだった。
――よっぽどやれることがないんだろうな、マンガもゲームも女どもの大好きなスイーツもないし
思うことはあれども、それは仕舞っておいて辺りを見渡し歩き続ける。
ミーナの目は土と雑草に覆われた道路の脇に建てられた木の板に向けられていた。
「二番区画みたいだけど、そもそも一個の区画がどれだけの広さか分からないよ」
木の板は区画を示す看板のようで、二本の線が彫られていた。しかしながら、一番区画の看板を見ていないためにあてにはできなかった。そもそも倉庫がどの区画にあるのかすら教えてもらえていなかった。
気が付くと男が立っていた。
「なんだ坊ちゃん」
男の声は重い響きを持っていたが表情は柔らかい。声質由来だろう。そこから貿易商人に頼まれたと言って倉庫への案内、そして荷車の手配までをいただいてトウモロコシと豆を麻袋に詰めて荷車に積む。
「昔と比べて便利になったものだ。昔は麻袋を抱えて持って行ってたんだ」
それから続けられた世間話はまさに隣の国との交易によってもたらされた便利を讃えるものだった。
明るい話、希望に満ちた文明の混合はどれもいい出来事ばかりだったが、その中には納まり切れない不便というものを紘大は聞き逃さなかった。言葉の端に付け加えたのだった。
カラスに作物を食われにくくしたい、という愚痴を。
レンガ造りの街は一夜遡ったあの日に立っていた場所と全く異なる印象を抱かせる。紘大は伸びをして街の空気を味わっていた。
「これもまた旅の醍醐味ってやつだな」
潮の香りは吹き込む風と共にあり。レンガの街はいつもの通りに賑わいを見せていた。
賑わいの中に紛れ込む欲しい情報を探る。紘大が欲しいのは盗賊団関係のことだった。隣の島らしいがそれでも大きな警戒が湧いては止まらず渦巻いている。目は手がかりを探り、耳は情報を探す。
やがて気が付いてしまった。
――商人たちに訊けばいいんだな
今更ながらの気づき、もしもこの街にまで盗賊たちが入ってきていた場合、寝ている間に忍び寄られて眠りの世界に幽閉されてしまうかもしれない。そうした警戒心が正しいのかどうか、確かめる必要があった。貿易商人、彼らがいるのはどこだろうか。木の箱が積まれている場所を探してみれば見つかるだろうか。
船の泊められたレンガの果て、そこに異色を見つけて思わず喜びのエネルギーをガッツポーズに変えていた。
「よし見つけた」
ゲームなどの経験で獲得したこと、詳しそうな人物に話を聞くこと。船の近くまで荷物を運ぶ人々に話しかけ、旅行者であることを告げて始める会話にて特に進展がないことを確かめるまでに長々と話を聞かされていたのだという。
その間、暇そうに目を擦って欠伸をするネコの子と退屈を貌に浮かべていたミーナは互いに顔を合わせて話を始めていた。
「ニャニャちゃん」
「なあに? ミーちゃん」
完全にどちらがネコの子なのか分からない名前が並んでいた。
「ニャニャちゃんの故郷ってどこなの?」
「ここの近くだよー」
どうやら攫われた時にレンガ造りの風景を目にしていたらしい。ケモ耳の国、いったいどのような文化なのだろう、どれほど栄えているのだろう。ふつふつと上がってきた疑問が喉を通り抜けて質問という形を取る。ニャニャは華やかな笑顔と共にネコひげを揺らしながら答える。
「豊かな自然と活気あふれる動物たちの群れが素敵な森の中にあるんだ。そこから色々手に入れて生きてく」
ミーナの想像の中ではふれあい豊かな優しい国として描かれていた。
そうした話が進む隣のセカイで紘大は思わず口や目を開いて驚きの感情を示していた。
「豆とトウモロコシ取って来い? 俺が?」
「頼む、今日のメシおごってやるから」
友人関係のような距離感はこの国の特色なのか貿易商の観察眼が導き出した態度なのか。なにはどうあれ結果として紘大は断ることが出来なかった。
そこからミーナとニャニャを率いて歩きながら考える。豆とトウモロコシ、どちらも共に主食だった。貿易商人の話によれば、孤立しかけている王都から食料の供給を頼み込まれたそうで、主食を輸出する準備をしているらしい。
レンガの街と潮の香りを吸い込み心を振り回しスキップをしながら歩いていた。ミーナもまた、顔を潮騒のメロディーに耳を傾けて気分を上昇気流に喜びの雨を内に振らせながら歩く。ふたりの様子を見つめながらニャニャもまた、耳をぴくぴくと可愛らしく揺らしながら尻尾をゆっくりと振りながらついて行く。故郷の近くの音は格別のようだった。
ドラゴニクス王国にも王都はあって、そうであるならば当然郊外もあって。街を出た途端現れた光景を目にした紘大は心を奪われてしまっていた。
それは海と組み合わされた畑。言葉のみで説明された建物、穀物の倉庫を探していた。迷ったら通りかかった人に道を聞けば、なにもない田舎の中でも数少ない複数人の出入りのある施設として有名なため誰でも答えられるらしい。
「イージーモード? んなわけ……」
人に訊けばすぐに分かる簡単なお仕事として紹介されたはずが、訊ねるべき人物がいないという人々の都合が人知れず作り出した罠に嵌まり込んでいた。
「そんなお話、俺は知らない!」
元の世界の学校で密かに流行っていた言い回しで自身の内を這い回る感情を空気に向かって訴えて、辺りを見渡す。田舎生活のために切り開かれた場所で、おまけに作物の芽生えていないこともあって決して自然が豊かだとは思えなかったものの、どこか自然を思わせる美しさがあった。海もまだまだしっかりと確かめたわけではなかったものの、あの世界のようなごみも感じさせない澄んだものだった。
紘大は思う。果たして昔から景色などに心を打たれるような人間だっただろうか。
答えは明らかだった。
――よっぽどやれることがないんだろうな、マンガもゲームも女どもの大好きなスイーツもないし
思うことはあれども、それは仕舞っておいて辺りを見渡し歩き続ける。
ミーナの目は土と雑草に覆われた道路の脇に建てられた木の板に向けられていた。
「二番区画みたいだけど、そもそも一個の区画がどれだけの広さか分からないよ」
木の板は区画を示す看板のようで、二本の線が彫られていた。しかしながら、一番区画の看板を見ていないためにあてにはできなかった。そもそも倉庫がどの区画にあるのかすら教えてもらえていなかった。
気が付くと男が立っていた。
「なんだ坊ちゃん」
男の声は重い響きを持っていたが表情は柔らかい。声質由来だろう。そこから貿易商人に頼まれたと言って倉庫への案内、そして荷車の手配までをいただいてトウモロコシと豆を麻袋に詰めて荷車に積む。
「昔と比べて便利になったものだ。昔は麻袋を抱えて持って行ってたんだ」
それから続けられた世間話はまさに隣の国との交易によってもたらされた便利を讃えるものだった。
明るい話、希望に満ちた文明の混合はどれもいい出来事ばかりだったが、その中には納まり切れない不便というものを紘大は聞き逃さなかった。言葉の端に付け加えたのだった。
カラスに作物を食われにくくしたい、という愚痴を。
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