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第三幕 竜の少女を信仰する国
農家
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過去に流れた時間を惜しみつつも幹人はふたりと二匹とともに歩いて遂にこの辺りでの畑を耕す農家に会うことができた。農家もまた、都の方の服装の人々に気が付いたようだ。端が破れて土埃に汚れ切った色付けすらされていない麻の服。この辺りでは麻が採れるのだろうか。
「どうも、都から来たんだよな」
農家の質問にリリは笑顔で答える。
「ええ、旅行者でして。ここの作物はとても質がいい、日頃から作物と向き合い続けてるとても真面目で素敵な農家たちみたいね」
人格ごと丸ごと褒めちぎるオンナを前に農家は破裂したような満面の笑顔で答えた。
「ありがたやありがたや、救われた気分だ。しかし本心かな。言葉だけならお金はかからないからな」
「ええ、この女、森で植物と触れ合いながら生きてきた魔女が保証しますとも」
「ま……魔女さま」
言葉を一瞬詰まらせ驚きに満ち溢れた様子の農家の男。その顔からにじみ出ていた感情、青ざめるような恐怖の色は本物であること間違いなしだった。一方でリリの方はというと。
「はあい、魔女さんですよー」
軽すぎるよリリ姉―― 幹人の言葉は声にもならない。隣で微笑みながら手を開いて閉じて繰り返してぱくぱくさせるオンナから魔女の威厳など微塵にも感じられなかった。
噂には聞いてる、そんな切り出しから男は魔女について知っていることをあふれ出る勢いで話し始めた。その男の中では人が触れることすら憚られるようなおぞましい生物や危険な物質、簡単に人を殺すことのできる魔法を研究しているのだという。物騒な想像からは恐怖しか産み落とされない。
それは負の風聞。リリは果たしてどのように立ち向かうのだろうか。その答えとして口を開いた。
「そうね、偉大な魔女ほど人から離れた心を持ったような研究をしているわ」
完全に一部を救うことを放棄していた。
「強烈な実験や研究をする魔女ほどうわさ話に乗りやすいものでねえ、私も困ったものさ」
そこから続けられる言葉によれば、大半の魔女は精々自然霊に可愛らしい肉体を与えたりそれぞれの得意分野に従った研究を進めるだけなのだそう。リリもまた、魔女の中では人に近しい部類だと語っていた。
そこからリリの質問。訊ねることはもちろん竜の神話のこと。男は魔女の問いかけの真意が分からずに訊ね返す。
「本当にそれでいいのか」
「ええ、自然を知るためなら必要なことだもの。森の魔女、自然の研究をする私には過去に流れた神話、無知から生まれた事実と想像の産物の噂話から気候や作物、当時の自然災害も押さえる必要があるわ」
納得、これ以上深く探る理由も転がっているわけでもないためそのまま男は語り始めた。
あるところに森にて食料を探す竜がいたそうだ。
竜は近場の山の洞窟にて暮らしているためしばしば森に降りては食べ物を探しているとのことであった。
己の寿命が尽きるまでそう遠くない、実感していた。
そこでしばらく歩いていて見かけた世にも珍しい光景、それは動物たちの交尾。
命のつなぎ方を見た竜は己の寿命の限界はそうやって紡げばよいのだと学び、急いで食事を済ませて山へと帰りました。
ごくごく普通の方法では対となる竜がいない。
打破すべく取った方法、それは己の血と魔力で産み落とす方法。
竜の首を洞窟へと突っ込んで、頭から血をまき散らして新たなる生命を創り出す。
そうして竜は増えました。
そこで疲れた竜だったものの、洞窟から首を出して驚き慌てた。
人の里が燃えていた――
急いで人の里へと向かった。
竜と人、いったいどのような関係があるのだろうか。
竜が住む洞窟はかつて人が住んでいた複数の洞窟のひとつだったのだ。
近場の国から移り住んだ人々。
理由は飢饉だった。
人の匂いを知っていた竜は人々に洞窟を掘ってくれたことを感謝していた。
人々を救うために里へと向かって、飛んで行った。
里に着いた竜が取った行動、それは強大な水魔法による消火活動。
最後の力を振り絞り、命尽きるまで絞り出し、里を守ったのだった。
人々は竜の行ないを讃えて神としてここに信仰を産んだのだった。
そこで話は終わり。リリは礼を言って幹人たちと共に彼から少し離れたところで妖しく微笑んだ。
「さっきの話、最初の部分は完全に作り話みたいだね」
「え? それってどういう……」
幹人には分からない、疑問符を浮かべ続けて黙っていた。言葉のひとつも出ない、なぜ作り話だと分かったのだろうか。
「竜は死んでるし、生きてたとしても言葉を交わすことができるかどうか……魔力があれば出来るかも知れないけど」
ひと息おいて紡ぎ続けられる言葉。
「神話的に死んでるから」
そこからリリが導き出した推測は、竜の命創りは小さな子に性教育の前準備を仕込むものだという。子に叩き込んでいざその時が来たらば竜のように行えと言って簡単に叩き込む簡単な手段。身近な会話にあったからこそ初めから違和感なく受け入れられる。抵抗感を初めから持たせない教育方針といったところだった。
それを聞いてこれまで何も言うことのできなかった幹人はただ黙り続けて納得する他なかった。
「どうも、都から来たんだよな」
農家の質問にリリは笑顔で答える。
「ええ、旅行者でして。ここの作物はとても質がいい、日頃から作物と向き合い続けてるとても真面目で素敵な農家たちみたいね」
人格ごと丸ごと褒めちぎるオンナを前に農家は破裂したような満面の笑顔で答えた。
「ありがたやありがたや、救われた気分だ。しかし本心かな。言葉だけならお金はかからないからな」
「ええ、この女、森で植物と触れ合いながら生きてきた魔女が保証しますとも」
「ま……魔女さま」
言葉を一瞬詰まらせ驚きに満ち溢れた様子の農家の男。その顔からにじみ出ていた感情、青ざめるような恐怖の色は本物であること間違いなしだった。一方でリリの方はというと。
「はあい、魔女さんですよー」
軽すぎるよリリ姉―― 幹人の言葉は声にもならない。隣で微笑みながら手を開いて閉じて繰り返してぱくぱくさせるオンナから魔女の威厳など微塵にも感じられなかった。
噂には聞いてる、そんな切り出しから男は魔女について知っていることをあふれ出る勢いで話し始めた。その男の中では人が触れることすら憚られるようなおぞましい生物や危険な物質、簡単に人を殺すことのできる魔法を研究しているのだという。物騒な想像からは恐怖しか産み落とされない。
それは負の風聞。リリは果たしてどのように立ち向かうのだろうか。その答えとして口を開いた。
「そうね、偉大な魔女ほど人から離れた心を持ったような研究をしているわ」
完全に一部を救うことを放棄していた。
「強烈な実験や研究をする魔女ほどうわさ話に乗りやすいものでねえ、私も困ったものさ」
そこから続けられる言葉によれば、大半の魔女は精々自然霊に可愛らしい肉体を与えたりそれぞれの得意分野に従った研究を進めるだけなのだそう。リリもまた、魔女の中では人に近しい部類だと語っていた。
そこからリリの質問。訊ねることはもちろん竜の神話のこと。男は魔女の問いかけの真意が分からずに訊ね返す。
「本当にそれでいいのか」
「ええ、自然を知るためなら必要なことだもの。森の魔女、自然の研究をする私には過去に流れた神話、無知から生まれた事実と想像の産物の噂話から気候や作物、当時の自然災害も押さえる必要があるわ」
納得、これ以上深く探る理由も転がっているわけでもないためそのまま男は語り始めた。
あるところに森にて食料を探す竜がいたそうだ。
竜は近場の山の洞窟にて暮らしているためしばしば森に降りては食べ物を探しているとのことであった。
己の寿命が尽きるまでそう遠くない、実感していた。
そこでしばらく歩いていて見かけた世にも珍しい光景、それは動物たちの交尾。
命のつなぎ方を見た竜は己の寿命の限界はそうやって紡げばよいのだと学び、急いで食事を済ませて山へと帰りました。
ごくごく普通の方法では対となる竜がいない。
打破すべく取った方法、それは己の血と魔力で産み落とす方法。
竜の首を洞窟へと突っ込んで、頭から血をまき散らして新たなる生命を創り出す。
そうして竜は増えました。
そこで疲れた竜だったものの、洞窟から首を出して驚き慌てた。
人の里が燃えていた――
急いで人の里へと向かった。
竜と人、いったいどのような関係があるのだろうか。
竜が住む洞窟はかつて人が住んでいた複数の洞窟のひとつだったのだ。
近場の国から移り住んだ人々。
理由は飢饉だった。
人の匂いを知っていた竜は人々に洞窟を掘ってくれたことを感謝していた。
人々を救うために里へと向かって、飛んで行った。
里に着いた竜が取った行動、それは強大な水魔法による消火活動。
最後の力を振り絞り、命尽きるまで絞り出し、里を守ったのだった。
人々は竜の行ないを讃えて神としてここに信仰を産んだのだった。
そこで話は終わり。リリは礼を言って幹人たちと共に彼から少し離れたところで妖しく微笑んだ。
「さっきの話、最初の部分は完全に作り話みたいだね」
「え? それってどういう……」
幹人には分からない、疑問符を浮かべ続けて黙っていた。言葉のひとつも出ない、なぜ作り話だと分かったのだろうか。
「竜は死んでるし、生きてたとしても言葉を交わすことができるかどうか……魔力があれば出来るかも知れないけど」
ひと息おいて紡ぎ続けられる言葉。
「神話的に死んでるから」
そこからリリが導き出した推測は、竜の命創りは小さな子に性教育の前準備を仕込むものだという。子に叩き込んでいざその時が来たらば竜のように行えと言って簡単に叩き込む簡単な手段。身近な会話にあったからこそ初めから違和感なく受け入れられる。抵抗感を初めから持たせない教育方針といったところだった。
それを聞いてこれまで何も言うことのできなかった幹人はただ黙り続けて納得する他なかった。
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