46 / 244
第二幕 時渡りの石
手段
しおりを挟む
今いるこの場、無償の宿泊と化した地下室にて、ふたりは見渡していた。他の人々の内の一部もここに泊まるのだそうだ。
「数人が消えるって噂の真相はここにあったみたいだね」
陽が昇っている内は普通に働いて、労働の時が過ぎ去ってしまえばまるで初めからいなかったかのように姿を消す。その真相はここに寝泊まる人々だったのだという。もちろん王都の法が変わってしまったところで構うこともない、見つかれば捕まること間違いなしだった。この状況の中、リリは幹人と話し合っていた。
「さて、どのようにして忍び込もうか」
王都立図書館、村の伝承を知って時渡りの石を手にするという重たい任務の途中の話。
「どうしよう、窓でも割る?」
するとどうだろう、リリの表情は見る見るうちにイヤらしいニヤけを浮かび上がらせていった。
「それくらいしかないみたいだね、そうしよう」
夜も見回りは厳重なのだろうか。人が寄り付かない時間故に事実は分からなかったが警戒するに越したことはないであろう。
「じゃあ早く行こうよ、こんな何をしようにも窮屈な都市は滅んじゃえ」
「こらこら、よくないね、その考えは」
焦りのせいだろうか、少しばかり苛立っているように映る幹人を宥めていた。
「じゃあリリ姉はどう思ってんだよ、こんなに法律厳しい都市でいいのかな」
少しの間をおいて、口は開かれ災いのような言葉が露呈した。
「同感、正直王にはお役御免していただきたいね」
結局誰もが苦しむ政策は庶民に不満しか植え付けられない。異世界から来たからこそ身に沁みて感じていた。
「じゃあ今夜にでも忍び込もう」
そう、あくまでも寝泊りだけが目的。余った時間を睡眠に回すだけのことだった。幹人はリリに目を向けて、意思を示す。リリは当然のように賛同していた。
そこから続く安らぎのない時間、落ち着かずに震える幹人の雰囲気を感じてかリズも頭の上で落ち着きなく手足をばたつかせていた。
リリは埃っぽい部屋の中で本を眺め、荷物の重さを感じていた。
「はて、荷物の整理が必要かな」
幹人にひとつの指示を出す。
「持ち物は最低限に絞ろう。でなけりゃいざと言う時相手に勝つことも撒くこともできやしないから」
幹人の納得はリリの指示に従う形を取り、ナイフ以外の持ち物は全て床に置かれた。頭の上のリズを降ろして丁寧に優しく言って聞かせた。
「荷物番よろしくね、俺たちは行ってくるよ」
リズはしばらく顔を震わせて不満を露わにして幹人にしがみつこうとしたものの、無駄だと知っていたのだろう、すぐに荷物の上で丸くなって周囲を見渡し始めた。
「ずいぶん懐かれてるみたいだね、連れて行けばいいのに」
幹人はこの地下室の主のことを信用できないと言った。リリはただ目を閉じ頷き「同感」と返すだけだった。
地下より地上へ、上がる身は埃っぽさから解放された。空気は新鮮で、籠り切った空間の窮屈さは嘘のように消えていて、これが同じ世界なのか。幹人は全人で疑っていた。
「その調子だとあんまり地下室住みは向いていないみたいだね」
リリから向けられた言葉は淡々とした声でありながらも暖かみのある想いだけは伝わってきた。
先ほどのわざとらしい声と比べて身が震えるほどに実感していた。
この態度こそがホントウのリリなのだ。
冷たい声のように、淡々とした雰囲気を出しておきながら優しさを忘れない、触れてみるほどに不思議が増してゆく、実に計り知れない女だった。
幹人はそこまで見えたところで、「本性は?」そう訊ねたくなっていた。
「数人が消えるって噂の真相はここにあったみたいだね」
陽が昇っている内は普通に働いて、労働の時が過ぎ去ってしまえばまるで初めからいなかったかのように姿を消す。その真相はここに寝泊まる人々だったのだという。もちろん王都の法が変わってしまったところで構うこともない、見つかれば捕まること間違いなしだった。この状況の中、リリは幹人と話し合っていた。
「さて、どのようにして忍び込もうか」
王都立図書館、村の伝承を知って時渡りの石を手にするという重たい任務の途中の話。
「どうしよう、窓でも割る?」
するとどうだろう、リリの表情は見る見るうちにイヤらしいニヤけを浮かび上がらせていった。
「それくらいしかないみたいだね、そうしよう」
夜も見回りは厳重なのだろうか。人が寄り付かない時間故に事実は分からなかったが警戒するに越したことはないであろう。
「じゃあ早く行こうよ、こんな何をしようにも窮屈な都市は滅んじゃえ」
「こらこら、よくないね、その考えは」
焦りのせいだろうか、少しばかり苛立っているように映る幹人を宥めていた。
「じゃあリリ姉はどう思ってんだよ、こんなに法律厳しい都市でいいのかな」
少しの間をおいて、口は開かれ災いのような言葉が露呈した。
「同感、正直王にはお役御免していただきたいね」
結局誰もが苦しむ政策は庶民に不満しか植え付けられない。異世界から来たからこそ身に沁みて感じていた。
「じゃあ今夜にでも忍び込もう」
そう、あくまでも寝泊りだけが目的。余った時間を睡眠に回すだけのことだった。幹人はリリに目を向けて、意思を示す。リリは当然のように賛同していた。
そこから続く安らぎのない時間、落ち着かずに震える幹人の雰囲気を感じてかリズも頭の上で落ち着きなく手足をばたつかせていた。
リリは埃っぽい部屋の中で本を眺め、荷物の重さを感じていた。
「はて、荷物の整理が必要かな」
幹人にひとつの指示を出す。
「持ち物は最低限に絞ろう。でなけりゃいざと言う時相手に勝つことも撒くこともできやしないから」
幹人の納得はリリの指示に従う形を取り、ナイフ以外の持ち物は全て床に置かれた。頭の上のリズを降ろして丁寧に優しく言って聞かせた。
「荷物番よろしくね、俺たちは行ってくるよ」
リズはしばらく顔を震わせて不満を露わにして幹人にしがみつこうとしたものの、無駄だと知っていたのだろう、すぐに荷物の上で丸くなって周囲を見渡し始めた。
「ずいぶん懐かれてるみたいだね、連れて行けばいいのに」
幹人はこの地下室の主のことを信用できないと言った。リリはただ目を閉じ頷き「同感」と返すだけだった。
地下より地上へ、上がる身は埃っぽさから解放された。空気は新鮮で、籠り切った空間の窮屈さは嘘のように消えていて、これが同じ世界なのか。幹人は全人で疑っていた。
「その調子だとあんまり地下室住みは向いていないみたいだね」
リリから向けられた言葉は淡々とした声でありながらも暖かみのある想いだけは伝わってきた。
先ほどのわざとらしい声と比べて身が震えるほどに実感していた。
この態度こそがホントウのリリなのだ。
冷たい声のように、淡々とした雰囲気を出しておきながら優しさを忘れない、触れてみるほどに不思議が増してゆく、実に計り知れない女だった。
幹人はそこまで見えたところで、「本性は?」そう訊ねたくなっていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる