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第二幕 時渡りの石
糸
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明るい繭、それを明かりにしてリリは周りを見渡した。目に入るものは繭を中心に立つ白い物体の数々、物体の白の隙間をのぞき込んだ幹人はその正体に素直な驚きの叫びをあげていた。
「しししし……死体!」
「そうね、これは」
心ひとつ乱さずに観察していたリリ、糸は骸骨をしっかりと縛り付けて放すことがない。いくつかの死体を見ていたがどれもこれも人の骸骨ばかりでそれ以外が見当たらない。
「できればきれいな状態の死体が見たいのだけど」
願うリリ、敵かもしれないモノの情報を知るためにも必要なものだった。
それから進展が一切ない虫の観察、大切なものはリズが聞き入れた。リリの肩に飛び移り、短い手である方向を指し示す。耳を澄ましたその先から届くは低く力のないうめき声。
「そう、リズ。キミは本当に耳が良いんだね。私も欲しいな」
うめき声の方、繭へと近づいてゆく。辺りには骸骨が糸を巻かれて立てられており、その姿はまさに繭の眷属のようにも見えた。
「眷属ね、私に言わせれば墓標のようだけど」
うめき声の元へとたどり着いて、そこに立つ肉のついた白い物体、巻き付いた糸を手に取って剝がそうとするも中身が出てくることはなく代わりに力なき呻きのような悲鳴が出てきた。
「これは……同化しているようだね」
既に繭の一部となってしまっているようで助けることなどできなくて。
足元を見てみると糸の塊が地面に突き刺さっていた。その姿はまさに地面に深く根を張る木のよう。それがどこにつながっているのか、先ほどのリリの言葉がそのまま答えとなっていた。
観察終了、どれだけ考えたところで人類にとって有害な一面を持つ生物であることは疑う必要性もなかった。
観察者の元に彼女よりも少しばかり小さな少年が駆け寄ってきた。
「リリ、大丈夫?」
必要以上に大きな声で呼ぶさまに、リリはただ慌てた。
「幹人、いけないわ」
明るい繭から何かが目にも止まらない速さで飛んできた。幹人に向かって飛んでくるものをどうにか見て、かばうべく寸でのところで右腕で受け止めた。
リリの右腕を目にして幹人は目を丸くした。
「リリ姉」
「コイツは起きていたんだよ、そしてあの骸骨たちはきっと」
繭のエサ、そう考えて間違いはないだろう。幹人に指示を出す魔女、早く繭から糸を回収するようにと行動の道を示されてそれに従って走る。
繭の眷属、その噂の真相は迷ったわけでもなく、繭から糸を採るための犠牲、生贄だった。
リリは感じていた。繭から伸びた糸が体の奥を目指そうとしていることと、魔力を吸い上げていることに。
「やれやれだね、リズ、そろそろ焼いてはくれないかな」
頼まれごと、種族は違えども言葉は通じたようでしっかりとそれを理解し耳を揺らしながら火を吹き糸を焼き払う。
解放されたリリだったが繭から再び糸が伸び、リリを捕えようとする。空気をも引き裂くようなその速度で迫り、標的を食い尽くすべく飛ぶ。一方でリリはと言えば上品に足を閉じてしゃがみ込んで地面に手をついていた。
飛んでくる糸は目と鼻の先、気配で見ていたのだろうか、突然地面についていた手を挙げて立ち上がる。
糸は何を捕えたのか、地面に落ちていった。
「さて、身を守るための盾が手に入ったみたいだね」
そう呟いて走り出した。糸が飛んでくる度に手に持っている物、木の枝を投げて身代わりにしては枝を地面から拾い上げて幹人の元に追いついて。
「糸は採れたかな」
幹人が頷くと共にリリは右手に持っている枝を左手で擦って魔法をかけた。暗闇の中で妖しい光を放って瞬く間に木の色をした剣に姿を変え、リリに扱われるままに糸を裂いて採取されて。
「さあ逃げよう、危険すぎる相手といつまでもにらめっこしてられる程人間って生き物は暇人じゃないのだから」
リリの言葉にただただ同意の思いを込めて頷いて、ふたりで逃げる。リズはいつの間にやら幹人の頭に再び乗っていた。
飛んでくる糸を枝の剣で切り裂いて、そこで剣は折れてしまった。
「そう何度もはもたないか」
さらに飛んできた糸に対して折れた剣を投げつけて、ふたりはさらに加速してゆく。
輝きは遠く小さくなり、広がる暗闇と静寂に溺れながら再び訪れた安息に緊張を奪われて。
「逃げ切った」
「まったく、どのような文化なのだか」
肩で息をしながら疲労を感じて木に身を預けてしゃがみ込む。
リリは湧いてきたひとつの疑問を幹人に与えてみることにした。
「ところでひとりだけ糸に巻かれていない死体があったけど、どうしたものか」
「持って帰る?」
「そうだね」
リリは幹人をその場に残して繭に再び襲われないようにそっと近づき死体を回収して戻ってきたのだという。
「しししし……死体!」
「そうね、これは」
心ひとつ乱さずに観察していたリリ、糸は骸骨をしっかりと縛り付けて放すことがない。いくつかの死体を見ていたがどれもこれも人の骸骨ばかりでそれ以外が見当たらない。
「できればきれいな状態の死体が見たいのだけど」
願うリリ、敵かもしれないモノの情報を知るためにも必要なものだった。
それから進展が一切ない虫の観察、大切なものはリズが聞き入れた。リリの肩に飛び移り、短い手である方向を指し示す。耳を澄ましたその先から届くは低く力のないうめき声。
「そう、リズ。キミは本当に耳が良いんだね。私も欲しいな」
うめき声の方、繭へと近づいてゆく。辺りには骸骨が糸を巻かれて立てられており、その姿はまさに繭の眷属のようにも見えた。
「眷属ね、私に言わせれば墓標のようだけど」
うめき声の元へとたどり着いて、そこに立つ肉のついた白い物体、巻き付いた糸を手に取って剝がそうとするも中身が出てくることはなく代わりに力なき呻きのような悲鳴が出てきた。
「これは……同化しているようだね」
既に繭の一部となってしまっているようで助けることなどできなくて。
足元を見てみると糸の塊が地面に突き刺さっていた。その姿はまさに地面に深く根を張る木のよう。それがどこにつながっているのか、先ほどのリリの言葉がそのまま答えとなっていた。
観察終了、どれだけ考えたところで人類にとって有害な一面を持つ生物であることは疑う必要性もなかった。
観察者の元に彼女よりも少しばかり小さな少年が駆け寄ってきた。
「リリ、大丈夫?」
必要以上に大きな声で呼ぶさまに、リリはただ慌てた。
「幹人、いけないわ」
明るい繭から何かが目にも止まらない速さで飛んできた。幹人に向かって飛んでくるものをどうにか見て、かばうべく寸でのところで右腕で受け止めた。
リリの右腕を目にして幹人は目を丸くした。
「リリ姉」
「コイツは起きていたんだよ、そしてあの骸骨たちはきっと」
繭のエサ、そう考えて間違いはないだろう。幹人に指示を出す魔女、早く繭から糸を回収するようにと行動の道を示されてそれに従って走る。
繭の眷属、その噂の真相は迷ったわけでもなく、繭から糸を採るための犠牲、生贄だった。
リリは感じていた。繭から伸びた糸が体の奥を目指そうとしていることと、魔力を吸い上げていることに。
「やれやれだね、リズ、そろそろ焼いてはくれないかな」
頼まれごと、種族は違えども言葉は通じたようでしっかりとそれを理解し耳を揺らしながら火を吹き糸を焼き払う。
解放されたリリだったが繭から再び糸が伸び、リリを捕えようとする。空気をも引き裂くようなその速度で迫り、標的を食い尽くすべく飛ぶ。一方でリリはと言えば上品に足を閉じてしゃがみ込んで地面に手をついていた。
飛んでくる糸は目と鼻の先、気配で見ていたのだろうか、突然地面についていた手を挙げて立ち上がる。
糸は何を捕えたのか、地面に落ちていった。
「さて、身を守るための盾が手に入ったみたいだね」
そう呟いて走り出した。糸が飛んでくる度に手に持っている物、木の枝を投げて身代わりにしては枝を地面から拾い上げて幹人の元に追いついて。
「糸は採れたかな」
幹人が頷くと共にリリは右手に持っている枝を左手で擦って魔法をかけた。暗闇の中で妖しい光を放って瞬く間に木の色をした剣に姿を変え、リリに扱われるままに糸を裂いて採取されて。
「さあ逃げよう、危険すぎる相手といつまでもにらめっこしてられる程人間って生き物は暇人じゃないのだから」
リリの言葉にただただ同意の思いを込めて頷いて、ふたりで逃げる。リズはいつの間にやら幹人の頭に再び乗っていた。
飛んでくる糸を枝の剣で切り裂いて、そこで剣は折れてしまった。
「そう何度もはもたないか」
さらに飛んできた糸に対して折れた剣を投げつけて、ふたりはさらに加速してゆく。
輝きは遠く小さくなり、広がる暗闇と静寂に溺れながら再び訪れた安息に緊張を奪われて。
「逃げ切った」
「まったく、どのような文化なのだか」
肩で息をしながら疲労を感じて木に身を預けてしゃがみ込む。
リリは湧いてきたひとつの疑問を幹人に与えてみることにした。
「ところでひとりだけ糸に巻かれていない死体があったけど、どうしたものか」
「持って帰る?」
「そうだね」
リリは幹人をその場に残して繭に再び襲われないようにそっと近づき死体を回収して戻ってきたのだという。
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