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第一幕 リリとの出会い
裏側
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幹人が初めて街を訪れた時にナイフを持って髪を切っていた少女はリリたちが鉱石を得るために必死で戦っていたあの時、外から見つめ、危機感を覚えていた。
――このタイミングで食器? 嘘だ、武器を作って私たち盗賊団を潰す気だ
少女は盗賊団の一員で街にとけ込み見張る役割。危険だと思ったらすぐに知らせるようにと言いつけられていた。
洞窟から鉱石を持って出て来たリリを睨みつける。この世のものとは思えない憎悪を込めて睨み続ける。
――母親が死んで気力がなかったんじゃないのか
次に出て来た幹人のことも睨みつけ、気付かれないように立ち去る。あのような弟がいたことなど嘘で、本当はどこかで拾ってきた、それが分かっていた。
リリに拾われて共に笑い合う幹人、一方で盗賊に拾われてこき使われる自身。
幹人に対する憎悪は深く強く闇を滲ませるばかり。
「アイツだけ幸せになりやかがって!!」
この世の不平等を恨み、幹人という不平等の象徴を心の中で呪った。何度も何度も何度も何度も。キリがない感情を幾度となく幾度でも爆発させ、目の前にいない存在を殺し続けて。
盗賊少女は村へ、己をこき使う憎い人々の元へ別の憎しみを底で滾らせたまま向かう。
リリたちが鉱石を採りに動き、これからきっと武器を作って反旗を翻すつもり、といった内容のことを拙い声と言葉で伝えてまたしても立ち去る。
幹人の存在は少女の知り得る範囲の狭さによって普通の少年と認識されていた。
――あのクソ野郎
思い返すだけではらわたが煮えくり返りそうな怒りと憎しみが湧き続ける。
――アイツだけは絶対に
憎悪は言葉を選ばない。手元にある簡単な言葉を選んで己の意志として刻み付けて、暴れ狂う想いは止まらなかった。
――ぶっ殺す
☆
男は動く。リンゴの形のペンダントを首に下げて走り出す。
「リリ、悪いがお前を殺す。なに、大丈夫だ、また会える」
鉱石から武器を作って盗賊団を潰しにかかる。その推測、少女の生んだうわさ話は盗賊団にとっては穏やかなものではなかった。集団でかかって来られては撃退するまでに甚大な被害が想定されるから。
男は村に背を向けて、駆けてゆく。フードを深く被り目を隠し、闇に姿が解けて見えなくなるように溶け込めるように。
森の入り口にたどり着いた頃には日は沈み切って闇が世界を包み込んでいた。暗闇の中、さらなる闇の中へと進んでゆく。足元に散った葉っぱは足音を彩り響かせる。邪魔でしかなかった。
リリを殺すために家の側まで向かう。どれだけ時間が経ったであろう。脚は痛みを叫び始めていた。息を殺そうとするも静寂の中ではどうしても露わになってしまう。
――近くなってきたな
一歩、また一歩、確実に忍び寄る。リリ暗殺計画、リリを殺す。それを思うだけで胸がはち切れてしまいそうなほどに強烈な痛みを発していた。
――大丈夫だ、また会える……また一緒に笑い合えるから
そう言い聞かせて、勇気を振り絞って、また一歩、娘を殺すために近付き続ける。それを追うように響く足音。家はもうすぐそこに、その時、ドアが開く音が男の心を叩いた。
――気付かれたか
音を立てないように慎重に歩いていたつもりが先ほどよりも大きな足音が響いた。動揺は隠せない。
――やれる、大丈夫だ
また一歩、踏み出して。さらに一歩、加速して。
男の身を視えない何かが叩き吹き飛ばした。
――後戻りは、もうできない
呻きながらも立ち上がり、風が襲い掛かってきた方向へ、ナイフを持って駆け出し始めた。もう隠す必要などありはしなかった。ここで決着をつける。
即座に殺すか、近付いて油断させて隙をついて殺すか。
肉薄して腕を大きく振るう。物騒な挨拶だった。
それは躱されまたしても大きな風をぶつけられる。もう一度風をぶつけられ、何かが地に落ちる音が聞こえた。
――そろそろ正体を明かせば冷静に
「誰だよ、リリ姉のとこまで忍び寄るようにきてさ」
森に響いた声、それに驚きを隠すことができなかった。
「リリじゃ……ない」
目の前にいる形までは見えない少年がリリに拾われた人なのだと理解するまで秒を数えるまでもなかった。
意外だったこと、それが口をついて暗い森の中に吐き出されてしまう。
「魔女に拾われたのが魔法使いだったのか……」
リリを殺せない、確実に返り討ちにあってしまう。考えるまでもなく行き着いた答え。それを抱えて回れ右、駆け出して盗賊団の元へと戻って行った。
――このタイミングで食器? 嘘だ、武器を作って私たち盗賊団を潰す気だ
少女は盗賊団の一員で街にとけ込み見張る役割。危険だと思ったらすぐに知らせるようにと言いつけられていた。
洞窟から鉱石を持って出て来たリリを睨みつける。この世のものとは思えない憎悪を込めて睨み続ける。
――母親が死んで気力がなかったんじゃないのか
次に出て来た幹人のことも睨みつけ、気付かれないように立ち去る。あのような弟がいたことなど嘘で、本当はどこかで拾ってきた、それが分かっていた。
リリに拾われて共に笑い合う幹人、一方で盗賊に拾われてこき使われる自身。
幹人に対する憎悪は深く強く闇を滲ませるばかり。
「アイツだけ幸せになりやかがって!!」
この世の不平等を恨み、幹人という不平等の象徴を心の中で呪った。何度も何度も何度も何度も。キリがない感情を幾度となく幾度でも爆発させ、目の前にいない存在を殺し続けて。
盗賊少女は村へ、己をこき使う憎い人々の元へ別の憎しみを底で滾らせたまま向かう。
リリたちが鉱石を採りに動き、これからきっと武器を作って反旗を翻すつもり、といった内容のことを拙い声と言葉で伝えてまたしても立ち去る。
幹人の存在は少女の知り得る範囲の狭さによって普通の少年と認識されていた。
――あのクソ野郎
思い返すだけではらわたが煮えくり返りそうな怒りと憎しみが湧き続ける。
――アイツだけは絶対に
憎悪は言葉を選ばない。手元にある簡単な言葉を選んで己の意志として刻み付けて、暴れ狂う想いは止まらなかった。
――ぶっ殺す
☆
男は動く。リンゴの形のペンダントを首に下げて走り出す。
「リリ、悪いがお前を殺す。なに、大丈夫だ、また会える」
鉱石から武器を作って盗賊団を潰しにかかる。その推測、少女の生んだうわさ話は盗賊団にとっては穏やかなものではなかった。集団でかかって来られては撃退するまでに甚大な被害が想定されるから。
男は村に背を向けて、駆けてゆく。フードを深く被り目を隠し、闇に姿が解けて見えなくなるように溶け込めるように。
森の入り口にたどり着いた頃には日は沈み切って闇が世界を包み込んでいた。暗闇の中、さらなる闇の中へと進んでゆく。足元に散った葉っぱは足音を彩り響かせる。邪魔でしかなかった。
リリを殺すために家の側まで向かう。どれだけ時間が経ったであろう。脚は痛みを叫び始めていた。息を殺そうとするも静寂の中ではどうしても露わになってしまう。
――近くなってきたな
一歩、また一歩、確実に忍び寄る。リリ暗殺計画、リリを殺す。それを思うだけで胸がはち切れてしまいそうなほどに強烈な痛みを発していた。
――大丈夫だ、また会える……また一緒に笑い合えるから
そう言い聞かせて、勇気を振り絞って、また一歩、娘を殺すために近付き続ける。それを追うように響く足音。家はもうすぐそこに、その時、ドアが開く音が男の心を叩いた。
――気付かれたか
音を立てないように慎重に歩いていたつもりが先ほどよりも大きな足音が響いた。動揺は隠せない。
――やれる、大丈夫だ
また一歩、踏み出して。さらに一歩、加速して。
男の身を視えない何かが叩き吹き飛ばした。
――後戻りは、もうできない
呻きながらも立ち上がり、風が襲い掛かってきた方向へ、ナイフを持って駆け出し始めた。もう隠す必要などありはしなかった。ここで決着をつける。
即座に殺すか、近付いて油断させて隙をついて殺すか。
肉薄して腕を大きく振るう。物騒な挨拶だった。
それは躱されまたしても大きな風をぶつけられる。もう一度風をぶつけられ、何かが地に落ちる音が聞こえた。
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「リリじゃ……ない」
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意外だったこと、それが口をついて暗い森の中に吐き出されてしまう。
「魔女に拾われたのが魔法使いだったのか……」
リリを殺せない、確実に返り討ちにあってしまう。考えるまでもなく行き着いた答え。それを抱えて回れ右、駆け出して盗賊団の元へと戻って行った。
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