異世界風聞録

焼魚圭

文字の大きさ
上 下
4 / 244
第一幕 リリとの出会い

リリとのこと

しおりを挟む
 その日は身体が素直に疲れを訴えていたため魔女の家であまりにも素早く眠りに落ちてしまった。
 次に目を開いた時、目の前には切れ長の細目が特徴的な女が微笑んで顔を近付けて見ていた。
「おはよう、今日はお元気かな、ふふ、可愛い寝顔だったね」
 この世と意識が再び触れ合って流れ込んできた言葉に頬は熱を帯びる。魔女のリリと行動を共にし始めてから脈が速くなるばかりで流れる想いは止まらない。
「もうみないで、恥ずかしい」
 顔を薄汚れて破れかけた枕に埋めて隠す。そんな様をも魔女は楽しみながら接しているのだろうか。
――イジワル
 恥ずかしさはそんな言葉も声に出すことを許してはくれなくて。


  ☆


 今日も女物の服を、純白の心なしか柔らかなそれを着て、リリとともに歩いてゆく。
「国を出たらこんな服絶対に着ない」
「ええ? 頑張って普通に普通のものを選んでるのに」
 柔らかな服の胸元に、袖に、裾の両脇に、可愛らしいリボンが蝶のように留まっていた。
「髪とかもっと伸ばしたらよくなりそう」
「いやだ、ゼッタイいや! こんなの元の世界のみんなに笑われるよ」
 黒いドレスに身を包んでいるリリは手を口元に当てて妖しく笑っていた。
「この世界でも笑われている!?」
「違う違う、いいなあ、って思っただけさ」
 リリは歩きながら続けた。
「旅先で働きながら稼いだお金でどうにか買った服たちだけどさ、昨日のレースのもの以外はどれも私には似合わなかったもの、魔女には輝き過ぎたものだったんだろう」
 リリにも気にしていることがあるのだろう。リリが話し続ける言葉に耳を傾け心に留める。
「私さ、昔からお父さんはいなかったの。遠出をするような仕事で顔なんて数えられるくらいしか見てない、持って帰ってくる本のおかげで文字はよく読めるのだけどね」
 どうにも事情のありそうな家庭、リリの話に引き続き引き込まれゆく。
「で、男なんてほとんど知らずに生きていてさあ。今ようやく目の前のキミから習ってるわけなの。身近な男の子を」
 明らかに学んでいない、口にはできない。
「話は変わるけど、ある日お父さんを探すために旅に出た。お母さんを置き去りにしてね。まあお母さんも嬉しそうだったし。で、世界中を回って帰ったらあらまビックリ、近くの村が悪魔を狩る正義の戦士から逃げて来た盗賊たちに占領されているのなんの。私よりはるかに強いお母さんはひとりで盗賊に立ち向かおうとして死んでいった。私に『ただいまのひと言が耳に入ったら旅のお話聞かせてね』なんて言葉だけを残して」
 リリの瞳はどこを見ているのだろう。幹人と同じものを見ているのだろうか、きっと異なる時間、追憶の影を見つめているのだろう。
「でも最初は信じられなくてね、死体を見ても絶対に別人だ、リンゴの形の木のネックレスを着けてないじゃあないかって」
 大きく息を吸って言葉を続ける。
「でもさ、幹人に会ったあの日、形見を探していたのだけど。そんなものなくて本当はどこかで生きてるって期待していたのだけど」
 幹人には予想できてしまった、次の言葉が分かってしまった。リリはローブからリンゴの形をした木のネックレスを取り出した。
「見つけてしまったの。お母さんのネックレスとお父さんのペンダントでペアなのだけど、流石にお父さんのものだっていうのはムリがあって」
 リリは影の入った笑みを見せて、言って聞かせた。
「私は待ってる、もう絶対に帰ってこないお母さんを、もう聞けない『ただいま』の言葉を」
 その話、その表情、それらは明るい日差しの中で見つめるにはあまりにも昏すぎた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

処理中です...