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第三戦 VSアルフレシャ 自称王女と螺旋の槍
とある日の掃除
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「随分と、騒がしいな」
『はい、選挙運動に似たものを感じますね』
ワールドが解放されてからすぐにタクマは、ゲームにログインする。
ロビーを抜けてさっさとワールドに侵入したところ、街では多くの日本人と思わしき風貌の人物と王国の平民の人々の議論が飛び交っていた。
内容は、”民主主義”について。
琢磨が聞き耳を立てたところでは一部の入植者、つまり元現代人が言ったのだとか。「自分たちには国に対して何も行動を起こすことはできないようになっている!」と。
状況を考えろとタクマとメディは思う。この国そんなことができるほど余裕があるわけでもないだろう、と。
「そんなにこの国での暮らしに不満があるのか?」
『少しでも自分たちの地位を高めたいという欲求の爆発にも思えますね』
タクマは、メディとそんな話をしながら騎士団詰め所へと向かう。その背後からは多くの憎々し気な目があるが、特に何かをする気にはなれなかった。
「やぁ、こんにちは」
そんなときに声をかけてきたのは、見知った顔だった。
装備は騎士団のモノを着崩しているその青年は、人柄のよさそうな顔立ちに似合わない眼光の鋭さでタクマを見据えていた。
「……こんにちは」
「君は稀人のタクマだよね? 噂は効いてるよ。僕は足柄圭一、よろしくね」
「……はい、よろしくお願いします」
「んで、君なんかやったの? 随分と睨まれているみたいだけど」
その言葉に、どう返せばいいかタクマにはわからない。あなたたちを殺したから。という事実を伝えて良いのか本当にわかっていないのだ。話しかけ方から考えて、タクマとのこと、現実でのことは全く覚えていないようだ。
なので、タクマは沈黙を保った。その様子に何か感じ取ったのか、足柄はこんな提案をしてきた。
「君の目的地ってたぶん騎士団詰め所だよね? 一緒に行くよ。ちょうど警邏からの帰り道だったし」
「……ありがとうございます」
「それが言えるなら、君は血も涙もない殺人鬼ってわけでもないみたいだね」
『どうしてそのような発言を?』
「だって」
「僕たちの大半を殺したのって、君なんだろ?」
そんな呪いを、あっさりと吐いてくる足柄に、タクマの足は完全に止まった。
「一応納得はできてると思うよ。聞いた話を総合すると僕は死体になって操られていたみたいだし。そもそも殺された時の記憶はないしね」
「……それで、いいんですか?」
「いいのいいの。とりあえず今のことに目を向けていないと生きてけないからねー、この詰んでる国ではさ」
そんな言葉が表面上のモノであると気付けないタクマではない。稀人だから意味がない。そんな理由でメイスを振り下ろしていないだけだと分かっている。
敵に対してはどこまでも容赦なく在れる。それがどんなに親しくしていた者や、自ら鍛えた愛弟子であってもその心すら折り砕くのがこの”子育てサイコ”と呼ばれた人物なのだから。
『ところで、詰んでいるとはどういう意味でしょうか?』
メディが、気を使って話題を変える。すると足柄は纏っていた空気を変えてあっけらかんとした言葉を放つ。
「農作物を育てるゲート使いの元騎士が最近民主主義にはまっちゃってさ。王家に対して結構な譲歩を引き出してるのさ。本人は貴族に興味はないんだけれど、皆に発言権があったらいいなってのは前から思ってたんだって」
「……殺してどうにかなる問題じゃないのは、この国では痛いですね」
「よくわかってるね稀人なのに」
「いや、王と王子がアレなんで」
「ついでに言うと宰相様もだいぶアレだよ。可能だったら粛清してやるのに! ってちょくちょく言ってたの聞いちゃったから」
「最悪ですねこの国」
「いや、粛清とかは最後の手段だってわかってるでしょ君。それだけ追い詰められているんだよこの国は」
そう言って、この国の今の街並みを見る。
全体的に汚くなった。タクマはそんな感想を抱いた。よくよく鼻を利かせてみれば、腐臭すら感じられる。
『町の清掃などに回す余力すらないのでしょうか?』
「そう、前までは戦士団がやってたんだけど、今は入植者に乗っ取られちゃったからね。国が民主主義を認めるまでのストライキだってさ」
「なんだかダメな部分だけ浸透してる気がしますね」
「あ、それ僕もそう思う」
しかし、そんな中でも、そんな中だからこそその善意の行動は輝くものだった。
「さぁ皆さん! この街をピカピカにして差し上げましょうか!」
「「「はーい!」」」
プリンセス・ドリルと彼女が引き連れている小さな子供たちがゴミ拾いや掃き掃除をして、大人連中が溝さらいなどの作業をを行っていた。
それは、なんだか不思議な光景だった。プレイヤーとしては全く意味のない行動だというのに、彼女は普通に善意からそれを行えている。
そのことが、ひどく眩しかった。
「んー、僕ちょっと野暮用ができたからここで別れる?」
『奇遇ですね、マスターにもたった今野暮用ができたようです』
「意見を聞かずに進めるなメディさん」
『ですが、やるのでしょう?』
「まぁ、やろうとは思ったけどさ」
そうして、タクマの一日目は街の一角をドブさらいして終わった。
それを自主的に行った自分たちを見て、ドリルはとてもうれしそうな笑顔を浮かべていた。
参加したプレイヤータクマとドリルのみ。二人と現地の住人たちによる小さな清掃活動だった。
■□■
そうして、深夜。
多くの者が寝静まったその時に、聖剣についての調査をタクマは始める。
やることは自体はストーカー行為とみて間違いはない。彼女の家を張り込んで、自身の目でその命を知覚することができれば最上だ。まずはそのデータをもとに管理AIに分析をさせるのだと、メディに与えられた情報から理解できる。
なんてことを考えていたら、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「嬢ちゃん、なぁいいだろ? 写真とるぐらいはさ」
「あかんに決まっとるやんか。肖像権の侵害やで」
「……頼むよ、嬢ちゃん! あんたをモデルに彫刻をしたいんだって」
「それが裸婦像の依頼じゃなきゃあ写真くらいは良かったんやけどなぁ」
「じゃあ、裸婦像にはしないから」
「さすがにそれは信じられんわぁ」
「クソ、どうして口を滑らしてしまったんだ5分前の俺!」
「……ナニアレ?」
『さぁ? ですが放置は面倒なことになるかと』
そうして、間に入って止めようとしたその時に突然バン! とドリルの家の扉が開き、飛び出した金髪の彼女が男に対して跳び蹴りを喰らわせていた。
「無事ですか! 美緒!」
「無事やけど……」
「ならばあとはこの狼藉者をぶちのめすだけですわね!」
「……お姉、別になんもされとらんからその辺で」
「なんか収まりそうだな」
『そうですね』
「ふざけるな! 俺は彼女の裸婦像を掘りたいだけなんだ! そのための写真を撮りたいだけなんだ! それを邪魔するのが貴様なら、押して通るさ!」
「上等です、アスファルトを舐める覚悟はよろしいですね!」
そうして深夜の街にて激闘を始める2人。展開が急すぎて意味が分からないし帰ってもいいんじゃないかとは思うが、どうにも座りが悪い。
「すいません、あれ止めたほうがいいですかね?」
「……できるん?」
「たぶんですけど」
「なら、頼むわ」
「了解」
といって、タクマはふわりとその激戦の中に入り込み、二人の間で手を叩く。
すると気配を薄くしていたタクマの存在に二人は驚き、とっさに距離をとる。
それで、戦いは止まった。
そこで少女が、二人を
「写真は失礼ですけど断らせていただきます。けど、お姉が暴力振ったのは謝ります。申し訳ありません」
「……いや、俺も少々暴走していた。すまない」
「……では、今日は見逃して差し上げますわ」
「お姉も謝りんさい」
「……暴力については、謝りますわ」
「じゃあ、これにて」
「はい、今度は謝礼金をもって訪ねてきますね」
「援交の誘いかいな」
「まさか! 美緒の体が目当てで!」
「ああ! その通りだとも!」
「阿保かいな」
そんな喜劇を間近で見た琢磨は、切実にこう思った。
「やっぱ帰ろうか? 俺」
「逃がさへんよ、助けてくれた謎の人」
そんな一幕が、プリンセス・ドリルこと”高砂瀬奈”とその妹の”高砂美緒”の出会いだった。
『はい、選挙運動に似たものを感じますね』
ワールドが解放されてからすぐにタクマは、ゲームにログインする。
ロビーを抜けてさっさとワールドに侵入したところ、街では多くの日本人と思わしき風貌の人物と王国の平民の人々の議論が飛び交っていた。
内容は、”民主主義”について。
琢磨が聞き耳を立てたところでは一部の入植者、つまり元現代人が言ったのだとか。「自分たちには国に対して何も行動を起こすことはできないようになっている!」と。
状況を考えろとタクマとメディは思う。この国そんなことができるほど余裕があるわけでもないだろう、と。
「そんなにこの国での暮らしに不満があるのか?」
『少しでも自分たちの地位を高めたいという欲求の爆発にも思えますね』
タクマは、メディとそんな話をしながら騎士団詰め所へと向かう。その背後からは多くの憎々し気な目があるが、特に何かをする気にはなれなかった。
「やぁ、こんにちは」
そんなときに声をかけてきたのは、見知った顔だった。
装備は騎士団のモノを着崩しているその青年は、人柄のよさそうな顔立ちに似合わない眼光の鋭さでタクマを見据えていた。
「……こんにちは」
「君は稀人のタクマだよね? 噂は効いてるよ。僕は足柄圭一、よろしくね」
「……はい、よろしくお願いします」
「んで、君なんかやったの? 随分と睨まれているみたいだけど」
その言葉に、どう返せばいいかタクマにはわからない。あなたたちを殺したから。という事実を伝えて良いのか本当にわかっていないのだ。話しかけ方から考えて、タクマとのこと、現実でのことは全く覚えていないようだ。
なので、タクマは沈黙を保った。その様子に何か感じ取ったのか、足柄はこんな提案をしてきた。
「君の目的地ってたぶん騎士団詰め所だよね? 一緒に行くよ。ちょうど警邏からの帰り道だったし」
「……ありがとうございます」
「それが言えるなら、君は血も涙もない殺人鬼ってわけでもないみたいだね」
『どうしてそのような発言を?』
「だって」
「僕たちの大半を殺したのって、君なんだろ?」
そんな呪いを、あっさりと吐いてくる足柄に、タクマの足は完全に止まった。
「一応納得はできてると思うよ。聞いた話を総合すると僕は死体になって操られていたみたいだし。そもそも殺された時の記憶はないしね」
「……それで、いいんですか?」
「いいのいいの。とりあえず今のことに目を向けていないと生きてけないからねー、この詰んでる国ではさ」
そんな言葉が表面上のモノであると気付けないタクマではない。稀人だから意味がない。そんな理由でメイスを振り下ろしていないだけだと分かっている。
敵に対してはどこまでも容赦なく在れる。それがどんなに親しくしていた者や、自ら鍛えた愛弟子であってもその心すら折り砕くのがこの”子育てサイコ”と呼ばれた人物なのだから。
『ところで、詰んでいるとはどういう意味でしょうか?』
メディが、気を使って話題を変える。すると足柄は纏っていた空気を変えてあっけらかんとした言葉を放つ。
「農作物を育てるゲート使いの元騎士が最近民主主義にはまっちゃってさ。王家に対して結構な譲歩を引き出してるのさ。本人は貴族に興味はないんだけれど、皆に発言権があったらいいなってのは前から思ってたんだって」
「……殺してどうにかなる問題じゃないのは、この国では痛いですね」
「よくわかってるね稀人なのに」
「いや、王と王子がアレなんで」
「ついでに言うと宰相様もだいぶアレだよ。可能だったら粛清してやるのに! ってちょくちょく言ってたの聞いちゃったから」
「最悪ですねこの国」
「いや、粛清とかは最後の手段だってわかってるでしょ君。それだけ追い詰められているんだよこの国は」
そう言って、この国の今の街並みを見る。
全体的に汚くなった。タクマはそんな感想を抱いた。よくよく鼻を利かせてみれば、腐臭すら感じられる。
『町の清掃などに回す余力すらないのでしょうか?』
「そう、前までは戦士団がやってたんだけど、今は入植者に乗っ取られちゃったからね。国が民主主義を認めるまでのストライキだってさ」
「なんだかダメな部分だけ浸透してる気がしますね」
「あ、それ僕もそう思う」
しかし、そんな中でも、そんな中だからこそその善意の行動は輝くものだった。
「さぁ皆さん! この街をピカピカにして差し上げましょうか!」
「「「はーい!」」」
プリンセス・ドリルと彼女が引き連れている小さな子供たちがゴミ拾いや掃き掃除をして、大人連中が溝さらいなどの作業をを行っていた。
それは、なんだか不思議な光景だった。プレイヤーとしては全く意味のない行動だというのに、彼女は普通に善意からそれを行えている。
そのことが、ひどく眩しかった。
「んー、僕ちょっと野暮用ができたからここで別れる?」
『奇遇ですね、マスターにもたった今野暮用ができたようです』
「意見を聞かずに進めるなメディさん」
『ですが、やるのでしょう?』
「まぁ、やろうとは思ったけどさ」
そうして、タクマの一日目は街の一角をドブさらいして終わった。
それを自主的に行った自分たちを見て、ドリルはとてもうれしそうな笑顔を浮かべていた。
参加したプレイヤータクマとドリルのみ。二人と現地の住人たちによる小さな清掃活動だった。
■□■
そうして、深夜。
多くの者が寝静まったその時に、聖剣についての調査をタクマは始める。
やることは自体はストーカー行為とみて間違いはない。彼女の家を張り込んで、自身の目でその命を知覚することができれば最上だ。まずはそのデータをもとに管理AIに分析をさせるのだと、メディに与えられた情報から理解できる。
なんてことを考えていたら、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「嬢ちゃん、なぁいいだろ? 写真とるぐらいはさ」
「あかんに決まっとるやんか。肖像権の侵害やで」
「……頼むよ、嬢ちゃん! あんたをモデルに彫刻をしたいんだって」
「それが裸婦像の依頼じゃなきゃあ写真くらいは良かったんやけどなぁ」
「じゃあ、裸婦像にはしないから」
「さすがにそれは信じられんわぁ」
「クソ、どうして口を滑らしてしまったんだ5分前の俺!」
「……ナニアレ?」
『さぁ? ですが放置は面倒なことになるかと』
そうして、間に入って止めようとしたその時に突然バン! とドリルの家の扉が開き、飛び出した金髪の彼女が男に対して跳び蹴りを喰らわせていた。
「無事ですか! 美緒!」
「無事やけど……」
「ならばあとはこの狼藉者をぶちのめすだけですわね!」
「……お姉、別になんもされとらんからその辺で」
「なんか収まりそうだな」
『そうですね』
「ふざけるな! 俺は彼女の裸婦像を掘りたいだけなんだ! そのための写真を撮りたいだけなんだ! それを邪魔するのが貴様なら、押して通るさ!」
「上等です、アスファルトを舐める覚悟はよろしいですね!」
そうして深夜の街にて激闘を始める2人。展開が急すぎて意味が分からないし帰ってもいいんじゃないかとは思うが、どうにも座りが悪い。
「すいません、あれ止めたほうがいいですかね?」
「……できるん?」
「たぶんですけど」
「なら、頼むわ」
「了解」
といって、タクマはふわりとその激戦の中に入り込み、二人の間で手を叩く。
すると気配を薄くしていたタクマの存在に二人は驚き、とっさに距離をとる。
それで、戦いは止まった。
そこで少女が、二人を
「写真は失礼ですけど断らせていただきます。けど、お姉が暴力振ったのは謝ります。申し訳ありません」
「……いや、俺も少々暴走していた。すまない」
「……では、今日は見逃して差し上げますわ」
「お姉も謝りんさい」
「……暴力については、謝りますわ」
「じゃあ、これにて」
「はい、今度は謝礼金をもって訪ねてきますね」
「援交の誘いかいな」
「まさか! 美緒の体が目当てで!」
「ああ! その通りだとも!」
「阿保かいな」
そんな喜劇を間近で見た琢磨は、切実にこう思った。
「やっぱ帰ろうか? 俺」
「逃がさへんよ、助けてくれた謎の人」
そんな一幕が、プリンセス・ドリルこと”高砂瀬奈”とその妹の”高砂美緒”の出会いだった。
応援ありがとうございます!
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