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第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達
封印の間での戦い 後編
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一時の休息の最中、タクマ達はひたすらに魂を休めようとしていた。
ロックスの家に伝わるという、呼吸法を併用しての瞑想だ。
ただし、ちゃんとできているかは疑問であったが。
『マスター、意識をもっと落ち着けて。いくら休めようとしても、そんな殺しのプランニングばかりしている頭では休まりませんよ』
「いやメディさん。人の恥を晒さないで下さいよ」
「タクマ。お前誰か殺したいのか?」
『この場にいる全員に対して個別にプランを練っていますね』
「危険人物すぎないかお前⁉︎」
そんなロックスの叫びに「気付いてなかったの?」と返すイレースとラズワルド王。
「王はともかくイレースは言え!」
思わずロックスがそうツッコミを入れるのはきっと間違ってはいないだろう。
そんなロックスの話を聞き流しながら、タクマ達は雑談を続ける。
「コイツってこういう奴なのは最初からわかってたし、そんなもんじゃない?」
「……結構照れますね」
「照れるで済ませるな! 人としての尊厳とかその辺りを……持っては居ないなタクマは」
「ねぇロックス。あんたさりげ酷いこと言ってない? タクマ内心落ち込んでるわよ」
「いえ、イレースさん。ちょっと傷ついただけです……」
「見え見えの演技で落ち込むな!」
『あ、ロックス様。演じているだけで傷ついているのは本当です』
「……それは、すまなかった」
『まぁ嘘ですが』
「精霊殿⁉︎」
そんなツッコミに翻弄されるロックス。
自虐を入れつつもボケに走るタクマとそれに乗るメディ。そしていつも通り冷静に暴走しているイレースとラズワルド王。こんな面子の中でツッコミ一人でいるのなら大変だと、彼にとても似ているポジションの長親ならば同情するだろう。
というか、上で聞いている長親は内心で「頑張れ」と願っていた。飛び火するのが嫌で黙っているが。
「下の皆さま! お変わりは有りませんかー!」
「駄弁れる程度には平和です! 間違いなく先に地獄が待ってますけど!」
「なら、備えませんとね!」
そうしてわちゃわちゃと
「今メガネさんが宰相様の無事を確認しました! 隠し部屋に居るそうです!」
「そうか、ロドリグは無事か……」
「もっとも、隠し部屋から出られなくなってしまったそうなので早く助けないと大変とのことです」
“うっかりか”と皆が思う。「ロドリグ……」とラズワルドも思わず天を仰ぐ。上には穴の開いた天井しかないが。
「それならロドリグは後回しでいい。早急に敵を探し出してくれ」
「聞こえましたかー?」
「……申し訳ありません。少々お時間を。招かれざる客がわらわらと。雨にお気をつけて下さいな」
などと言い放ったプリンセス・ドリルの言葉とともに響き渡る戦闘音。上で戦いが再開したようだ。
そして、それと同時にタクマ達の前の空間に開いたゲートから現れるのは数多の黒い肉体を持つ魔物達。そしてその中に明らかに格が違うとわかる騎士。
その胸には金の瞳の装飾はもはやなく。ただコアが剥き出しに現れていた。以前見た時より、大きく、強いコアが。
そして、ソイツを見ていると《人魔サビク・■■■■》という名乗りが現れる。
名前が伏せられているのは奇妙だが、コイツが今回のボスなのには間違いがない。
『ラズワルド王、私達は……』
「彼の相手は私がする。申し訳ないけれど君たちは周りの魔物の相手をしてくれないか? そちらもかなり強いけど、どうやらそれしかないみたいだ」
そうして始まるラズワルド王と黒騎士の斬り合い。互いに生命転換を全開にして作った閃光剣を圧縮して切り結んでいる。
光と闇の輝きが周囲を染め上げている様は幻想的ともいえるだろう。
もっとも、そんな感想を持てるのはこの場に居ないで録画だけを見ている者だけだろうが。
「殺気の密度がどうかしてる! 全部飲まれてるぞ!」
『マスター! 勘に頼らずに5感を元にした戦闘を! こんな激流をまともに相手してはいけません!』
タクマはその声に従い少しばかり見に回る。その間にイレースが敵の足止めを狙っているが、敵の表面の硬さにより矢が突き刺さらない。
タクマも用いた、泥を強く固めた時の現象だ。
「……ロックス! アレ使うわよ!」
「ああ、数を減らさないとどうにもならん!」
現在、黒い体のモンスター達の数は20ほど。内訳はゴブリンが10、狼が5、鳥人が3、大蛇、大鬼だ。なお、先程イレースの矢を弾いたのは、この中で最弱のゴブリンだ。信じ難い硬さのモンスター達だ。
そんな彼らに対してロックスの重力場はさほど効果は無い。基本スペックが強すぎるが故に重力を軽く乗り越えられてしまうのだ。
だが、イレースはロックスの重力場を勘で完全に把握できており、ロックスもイレースの必要な重力を経験で知り得ている。
それを合わせた結果が、今から放たれる超質量弾頭だ。
原理は単純だ。イレースの全力の矢が着弾する場にのみロックスの重力場を加えるだけ。
それにより、速度を保ったまま重さが加わり、運動エネルギーの増大がなされるのだ。
その一矢は前衛を張っているゴブリン軍に着弾し、一匹のゴブリンを貫いてみせた。
だが、それから先のゴブリンの動きは常軌を逸していた。
三匹のゴブリンがその着弾に合わせて矢に被さり、衝撃の伝播を妨げたのだ。
そして、最初に着弾して爆散した一体以外まだ生きている。信じがたい頑丈さだとイレースは戦慄したが顔には出さず不適に笑う。
そうして、一瞬で距離を詰めてきた狼に気付かずに命を落としかけた所で、タクマによるインターセプトが入る。
「気を抜かないで下さい! 二人が死んだら俺も死にます! 戦力的に!」
「お姉さんへの感動的な言葉かと思ったじゃない!」
「だが道理だ! 誰が抜けても死ぬぞこの戦場は!」
魂の出力の限界まで切れ味に使用した風の刃ででどうにか狼を殺したタクマ。首の骨が硬すぎて一瞬で切り落とすとはできない。
ロックスは、剣を腰に携えてこそいるがもはや抜いてすらいない。両腕で盾を使わなくては受け流すことすら不可能だからだ。
ここで3人は、根本的な攻撃力の不足という問題に直面したのだった。
「……使うか?」
『ですね。このままロックス様達を巻き込んで死ぬよりも、自爆スイッチを押してから死んだ方が幾分かマシでしょう』
「なんでそんなゲートに対して辛辣なの?」
『私は、それを良いものだとは思えないからです』
そんな会話を一瞬で行い、しかしそれ以外に手はないと諦めてゲートを開くことを決める。
鍵になる感情は、なんてことのない日常のもの。琢磨の殺しの本能が強く出たことで、初めて確かに認識できた彼の薄っぺらな仮面の向こう側。
それを憧れのままにするのではなく、そういうものだと受け入れること。それが琢磨のゲートの鍵だった。
「行くぜ、メディ」
『了解です、マスター』
『「聖剣抜刀!」』
その言葉と共に、現れるゲート。タクマのそれは酷く無機質で、しかし混沌としていた。
そんな君の悪さしか感じない筈のソレを受け入れてくぐり抜けたその先で。
タクマの聖剣が現れる。
アルフォンスやユージのゲートとは違い、容姿の変化はまるでない。
変化は、臆病者の剣が、淡く輝くようになっただけ。
それだけだったが、タクマには充分すぎた。
「何ができるのかが、わかる」
『シンプルな力ですね。どういう理屈かはさっぱりとわかりませんが』
そうして、タクマにおそいかかってくる狼の4匹を見る。
その姿はシリウスの時の郡狼より一回り大きかったし、その身体的な強さはもしかしたら天狼に届いていたかもしれない。
だが、そんな事はタクマの前では関係なかった。
剣を二振り。一振りで2匹を巻き込むその剣は、先程の風の刃なら筋肉や骨の硬さにて止められてしまうだけだったが、今の剣は違った。
硬さや性質、理屈をすっ飛ばして、ただ切れる。タクマのゲートは、剣にそんな性質を付与するものだった。
その光景に集まる視線。黒いモンスター達はその剣に喜びを覚え、しかし警戒を強くした。
ロックスとイレースはその剣に混沌を感じて、タクマの強さを認めつつその人格面をさらに危険視した。
そして、剣を合わせていたラズワルドと黒騎士は、半分の喜びと半分の落胆を覚えていた。
それが聖剣でなかった事に。
「良き目覚めだな!」
「生命の聖剣でないのなら、今更目覚めて何が変わるものか!」
だが、その感じ方は違う。
ラズワルドはやはり騎士の目覚めに喜びを覚え、黒騎士は聖剣の目覚めがない事に憤った。
それが故に剣に感情を込めて、しかし技の冴えを陰らせることなく切り結んでいくのがこの二人だった。
そんな空気の中、タクマはメディと自身のゲートの確認をしていく。
これまで見てきたゲートは少ないが、それでもわかる事はある。
「……魂が燃え上がるような感覚はないな」
『ええ、中期戦、長期戦型のゲートだったのでしょう。ですが、それでもそう長くは持ちません。さっさと片付けましょう』
その言葉をきっかけに、タクマが動き出す。
ゲートの出力はおそらく魂そのものから抜かれている。その為、命を燃料にして戦う力にすは生命転換の併用は可能だった。
故に風を踏みゴブリンの群れに入り、流れるように剣を振るって切り刻んでいく。
そして、それを着実に決めるためのサポートに回るロックスとイレース。
タクマの風踏みの機動力は現在の全ての敵を上回っており、敵は誰もタクマから注意を逸らす事ができていなかった。
ゲートを開こうとすればすかさずそこにタクマは切り込み、囲もうとすれば天井を使ってでも逃げ延びる。そうして1匹1匹殺していくタクマであったが、その動きにはいつもの剣の冴えはなかった。
“切れすぎる”のだ。
力を入れなくても切れてしまうが故に小技の多くが必殺になり、必殺の多くが無意味な大振りになる。
そして、剣の腹が当たった時には切れたりせずに普通の剣としてのものになる。
その挙動の把握振り回されてしまったために、タクマはゴブリンを全滅させるまでに密かに動いていた鳥人達を把握できていなかった。
「「「魔剣抜刀《ゲートオープン》!」」」
その真言と共に引き抜かれる3本の剣。そのいずれも泥に侵食されていたが、その存在感は折り紙付きだ。
そして、一人の剣は伸び、タクマの胸を狙った。一人の剣は消え、その斬撃を隠した。一人の剣はその二本を繋いで、鎖で繋がった三本の剣へと変化させた。
そうする事で鳥人のゲートの力は共有され、見えず、伸びる剣が3本生まれたのだ。
「合体型のゲート⁉︎」
『マスター、警戒を!』
その声に従い風を踏んで離脱するが、その判断が一瞬遅ければタクマは貫かれて死んでいただろう。
伸び縮みする速度が尋常でないせいで、まるでマシンガンに狙われているかのような状態にタクマは陥っていた。
「タクマ! 大鬼と大蛇が!」
「クッ、使われたか!」
「「魔鎧転身」」
そうして二体の魔物が門を潜り現れた時、その姿は巨大な鎧に包まれていた。
黒い鎧は燃えるような魂の力と共に、超高速攻撃を始めてきた。
ここで、タクマとモンスター達のスピードは逆転した。
大鬼と大蛇が高速でラズワルド王が守り、今もなお結界の維持に集中し続けている王妃エリーゼへと襲いかかる。
それにタクマは反応はできたが、見えない剣の嵐から逃れる事はできなかった。
ゆえにロックスとイレースが命を燃やして止めようとするも、元々強い魂を持つ大型の魔物がゲートを使った今では、それを止める事はできない。
そうして、王妃が殺されるその直前に「お待たせしました、父上、母上」と蒼炎が駆け抜けた。
その騎士の光の剣が大鬼と大蛇をはじき返し、次の太刀にてその命を消し飛ばした。
ユージの出力をアルフォンス並みだとタクマは思っていたが、それはどうやら違うようだ。
ゲートを使い鎧を纏った巨大モンスター二体を同時に消し飛ばす力は、ユージのそれとは桁が一つ違った。
「タクマ! 行け!」
「わかってるよアルフォンス!」
そして、アルフォンスの光の剣の余波にて鳥人達は体勢を崩し、そこに踏み込んだタクマがするりと首に剣を走らせる。
その一閃は3匹の鳥人の首を落とした。
それにより、黒いモンスター達は全滅した。
「……おかわり来るか?」
「……来たな」
中空に現れるモンスターが現れるゲート。それに対してのタクマとアルフォンスは、実の所かなり消耗している。タクマはこれまでの激戦の疲れから。アルフォンスは、ゲートの時間を使った大技の二連発によって。
「だが、言わせてくれ────来たのは、私だけではないぞ!」
その言葉とともに、入口から入ってきたプレイヤーとアルフォンス派の騎士達が一斉にモンスターへと襲い掛かる。数は力であることを示すかのような圧倒的な暴力であったが、黒い体に強化されていたモンスターをきっちりとゲートの入り口で嬲り殺していた。
その姿に安心した、アルフォンスとタクマは座り込む。ゲートの時間制限により倒れたアルフォンスと、生命転換の使いすぎでゲートの維持をやめたタクマの限界だった。
そうしていると、天井の穴からボロボロだが誇らしい顔をしているプリンセス・ドリル一行が降りてきた。
「上のは追い払いましたわ! 私たちを褒めてください!」
「褒めろと自分で言うな」
「……まぁ、敵の本丸は逃したけどな」
そうして集まってきた戦力により、中空に現れるゲートからのモンスターは狩られていき、そして、ヒョウカの“秘策”が決まった事でラズワルド王に敵対していた黒騎士の動きは鈍り、ラズワルド王はその鎧と泥の体を大魔サビクのコアごと消し飛ばした。
■□■
「……まさか、稀人に巫女の任を任せるとは思いませんでしたわ」
「私はできると思っていましたよ。生命転換に関しては私は天才のようですから」
ヒョウカの秘策とは、ヒョウカのありあまり過ぎている生命転換を使って封印を強化する事。病院で死戦をくぐった事により、ただでさえ強いヒョウカの魂はさらに強化されたのだ。魂の出力だけで見るならもうラズワルド王を3人分を軽く超えるほどに。
「あら、どうやら時間のようね」
プレイヤーの体が光に消え始める。どうやら、今回の話はクリアできたようだ。そうタクマは思う。
「タクマ、今日の君たちはまるで嵐のようだな」
「まぁ、RTAやってたからな」
「……あーるてぃーえー?」
「急いでたってことさ」
そうしていると、本当にすぐにタクマの体も光に消えていく。
「じゃあ、また今度」
「ああ、またしても黒幕を逃した以上、僕らはまた会うのだろうな。救国の稀人タクマ」
「うっせぇよ剣豪王子アルフォンス」
「……似合わないな」
「お互いにな」
そんな減らず口を叩きながら、剣を合わせて再開の挨拶をする。
二人の奇妙な友情は、そんなものだった。
ロックスの家に伝わるという、呼吸法を併用しての瞑想だ。
ただし、ちゃんとできているかは疑問であったが。
『マスター、意識をもっと落ち着けて。いくら休めようとしても、そんな殺しのプランニングばかりしている頭では休まりませんよ』
「いやメディさん。人の恥を晒さないで下さいよ」
「タクマ。お前誰か殺したいのか?」
『この場にいる全員に対して個別にプランを練っていますね』
「危険人物すぎないかお前⁉︎」
そんなロックスの叫びに「気付いてなかったの?」と返すイレースとラズワルド王。
「王はともかくイレースは言え!」
思わずロックスがそうツッコミを入れるのはきっと間違ってはいないだろう。
そんなロックスの話を聞き流しながら、タクマ達は雑談を続ける。
「コイツってこういう奴なのは最初からわかってたし、そんなもんじゃない?」
「……結構照れますね」
「照れるで済ませるな! 人としての尊厳とかその辺りを……持っては居ないなタクマは」
「ねぇロックス。あんたさりげ酷いこと言ってない? タクマ内心落ち込んでるわよ」
「いえ、イレースさん。ちょっと傷ついただけです……」
「見え見えの演技で落ち込むな!」
『あ、ロックス様。演じているだけで傷ついているのは本当です』
「……それは、すまなかった」
『まぁ嘘ですが』
「精霊殿⁉︎」
そんなツッコミに翻弄されるロックス。
自虐を入れつつもボケに走るタクマとそれに乗るメディ。そしていつも通り冷静に暴走しているイレースとラズワルド王。こんな面子の中でツッコミ一人でいるのなら大変だと、彼にとても似ているポジションの長親ならば同情するだろう。
というか、上で聞いている長親は内心で「頑張れ」と願っていた。飛び火するのが嫌で黙っているが。
「下の皆さま! お変わりは有りませんかー!」
「駄弁れる程度には平和です! 間違いなく先に地獄が待ってますけど!」
「なら、備えませんとね!」
そうしてわちゃわちゃと
「今メガネさんが宰相様の無事を確認しました! 隠し部屋に居るそうです!」
「そうか、ロドリグは無事か……」
「もっとも、隠し部屋から出られなくなってしまったそうなので早く助けないと大変とのことです」
“うっかりか”と皆が思う。「ロドリグ……」とラズワルドも思わず天を仰ぐ。上には穴の開いた天井しかないが。
「それならロドリグは後回しでいい。早急に敵を探し出してくれ」
「聞こえましたかー?」
「……申し訳ありません。少々お時間を。招かれざる客がわらわらと。雨にお気をつけて下さいな」
などと言い放ったプリンセス・ドリルの言葉とともに響き渡る戦闘音。上で戦いが再開したようだ。
そして、それと同時にタクマ達の前の空間に開いたゲートから現れるのは数多の黒い肉体を持つ魔物達。そしてその中に明らかに格が違うとわかる騎士。
その胸には金の瞳の装飾はもはやなく。ただコアが剥き出しに現れていた。以前見た時より、大きく、強いコアが。
そして、ソイツを見ていると《人魔サビク・■■■■》という名乗りが現れる。
名前が伏せられているのは奇妙だが、コイツが今回のボスなのには間違いがない。
『ラズワルド王、私達は……』
「彼の相手は私がする。申し訳ないけれど君たちは周りの魔物の相手をしてくれないか? そちらもかなり強いけど、どうやらそれしかないみたいだ」
そうして始まるラズワルド王と黒騎士の斬り合い。互いに生命転換を全開にして作った閃光剣を圧縮して切り結んでいる。
光と闇の輝きが周囲を染め上げている様は幻想的ともいえるだろう。
もっとも、そんな感想を持てるのはこの場に居ないで録画だけを見ている者だけだろうが。
「殺気の密度がどうかしてる! 全部飲まれてるぞ!」
『マスター! 勘に頼らずに5感を元にした戦闘を! こんな激流をまともに相手してはいけません!』
タクマはその声に従い少しばかり見に回る。その間にイレースが敵の足止めを狙っているが、敵の表面の硬さにより矢が突き刺さらない。
タクマも用いた、泥を強く固めた時の現象だ。
「……ロックス! アレ使うわよ!」
「ああ、数を減らさないとどうにもならん!」
現在、黒い体のモンスター達の数は20ほど。内訳はゴブリンが10、狼が5、鳥人が3、大蛇、大鬼だ。なお、先程イレースの矢を弾いたのは、この中で最弱のゴブリンだ。信じ難い硬さのモンスター達だ。
そんな彼らに対してロックスの重力場はさほど効果は無い。基本スペックが強すぎるが故に重力を軽く乗り越えられてしまうのだ。
だが、イレースはロックスの重力場を勘で完全に把握できており、ロックスもイレースの必要な重力を経験で知り得ている。
それを合わせた結果が、今から放たれる超質量弾頭だ。
原理は単純だ。イレースの全力の矢が着弾する場にのみロックスの重力場を加えるだけ。
それにより、速度を保ったまま重さが加わり、運動エネルギーの増大がなされるのだ。
その一矢は前衛を張っているゴブリン軍に着弾し、一匹のゴブリンを貫いてみせた。
だが、それから先のゴブリンの動きは常軌を逸していた。
三匹のゴブリンがその着弾に合わせて矢に被さり、衝撃の伝播を妨げたのだ。
そして、最初に着弾して爆散した一体以外まだ生きている。信じがたい頑丈さだとイレースは戦慄したが顔には出さず不適に笑う。
そうして、一瞬で距離を詰めてきた狼に気付かずに命を落としかけた所で、タクマによるインターセプトが入る。
「気を抜かないで下さい! 二人が死んだら俺も死にます! 戦力的に!」
「お姉さんへの感動的な言葉かと思ったじゃない!」
「だが道理だ! 誰が抜けても死ぬぞこの戦場は!」
魂の出力の限界まで切れ味に使用した風の刃ででどうにか狼を殺したタクマ。首の骨が硬すぎて一瞬で切り落とすとはできない。
ロックスは、剣を腰に携えてこそいるがもはや抜いてすらいない。両腕で盾を使わなくては受け流すことすら不可能だからだ。
ここで3人は、根本的な攻撃力の不足という問題に直面したのだった。
「……使うか?」
『ですね。このままロックス様達を巻き込んで死ぬよりも、自爆スイッチを押してから死んだ方が幾分かマシでしょう』
「なんでそんなゲートに対して辛辣なの?」
『私は、それを良いものだとは思えないからです』
そんな会話を一瞬で行い、しかしそれ以外に手はないと諦めてゲートを開くことを決める。
鍵になる感情は、なんてことのない日常のもの。琢磨の殺しの本能が強く出たことで、初めて確かに認識できた彼の薄っぺらな仮面の向こう側。
それを憧れのままにするのではなく、そういうものだと受け入れること。それが琢磨のゲートの鍵だった。
「行くぜ、メディ」
『了解です、マスター』
『「聖剣抜刀!」』
その言葉と共に、現れるゲート。タクマのそれは酷く無機質で、しかし混沌としていた。
そんな君の悪さしか感じない筈のソレを受け入れてくぐり抜けたその先で。
タクマの聖剣が現れる。
アルフォンスやユージのゲートとは違い、容姿の変化はまるでない。
変化は、臆病者の剣が、淡く輝くようになっただけ。
それだけだったが、タクマには充分すぎた。
「何ができるのかが、わかる」
『シンプルな力ですね。どういう理屈かはさっぱりとわかりませんが』
そうして、タクマにおそいかかってくる狼の4匹を見る。
その姿はシリウスの時の郡狼より一回り大きかったし、その身体的な強さはもしかしたら天狼に届いていたかもしれない。
だが、そんな事はタクマの前では関係なかった。
剣を二振り。一振りで2匹を巻き込むその剣は、先程の風の刃なら筋肉や骨の硬さにて止められてしまうだけだったが、今の剣は違った。
硬さや性質、理屈をすっ飛ばして、ただ切れる。タクマのゲートは、剣にそんな性質を付与するものだった。
その光景に集まる視線。黒いモンスター達はその剣に喜びを覚え、しかし警戒を強くした。
ロックスとイレースはその剣に混沌を感じて、タクマの強さを認めつつその人格面をさらに危険視した。
そして、剣を合わせていたラズワルドと黒騎士は、半分の喜びと半分の落胆を覚えていた。
それが聖剣でなかった事に。
「良き目覚めだな!」
「生命の聖剣でないのなら、今更目覚めて何が変わるものか!」
だが、その感じ方は違う。
ラズワルドはやはり騎士の目覚めに喜びを覚え、黒騎士は聖剣の目覚めがない事に憤った。
それが故に剣に感情を込めて、しかし技の冴えを陰らせることなく切り結んでいくのがこの二人だった。
そんな空気の中、タクマはメディと自身のゲートの確認をしていく。
これまで見てきたゲートは少ないが、それでもわかる事はある。
「……魂が燃え上がるような感覚はないな」
『ええ、中期戦、長期戦型のゲートだったのでしょう。ですが、それでもそう長くは持ちません。さっさと片付けましょう』
その言葉をきっかけに、タクマが動き出す。
ゲートの出力はおそらく魂そのものから抜かれている。その為、命を燃料にして戦う力にすは生命転換の併用は可能だった。
故に風を踏みゴブリンの群れに入り、流れるように剣を振るって切り刻んでいく。
そして、それを着実に決めるためのサポートに回るロックスとイレース。
タクマの風踏みの機動力は現在の全ての敵を上回っており、敵は誰もタクマから注意を逸らす事ができていなかった。
ゲートを開こうとすればすかさずそこにタクマは切り込み、囲もうとすれば天井を使ってでも逃げ延びる。そうして1匹1匹殺していくタクマであったが、その動きにはいつもの剣の冴えはなかった。
“切れすぎる”のだ。
力を入れなくても切れてしまうが故に小技の多くが必殺になり、必殺の多くが無意味な大振りになる。
そして、剣の腹が当たった時には切れたりせずに普通の剣としてのものになる。
その挙動の把握振り回されてしまったために、タクマはゴブリンを全滅させるまでに密かに動いていた鳥人達を把握できていなかった。
「「「魔剣抜刀《ゲートオープン》!」」」
その真言と共に引き抜かれる3本の剣。そのいずれも泥に侵食されていたが、その存在感は折り紙付きだ。
そして、一人の剣は伸び、タクマの胸を狙った。一人の剣は消え、その斬撃を隠した。一人の剣はその二本を繋いで、鎖で繋がった三本の剣へと変化させた。
そうする事で鳥人のゲートの力は共有され、見えず、伸びる剣が3本生まれたのだ。
「合体型のゲート⁉︎」
『マスター、警戒を!』
その声に従い風を踏んで離脱するが、その判断が一瞬遅ければタクマは貫かれて死んでいただろう。
伸び縮みする速度が尋常でないせいで、まるでマシンガンに狙われているかのような状態にタクマは陥っていた。
「タクマ! 大鬼と大蛇が!」
「クッ、使われたか!」
「「魔鎧転身」」
そうして二体の魔物が門を潜り現れた時、その姿は巨大な鎧に包まれていた。
黒い鎧は燃えるような魂の力と共に、超高速攻撃を始めてきた。
ここで、タクマとモンスター達のスピードは逆転した。
大鬼と大蛇が高速でラズワルド王が守り、今もなお結界の維持に集中し続けている王妃エリーゼへと襲いかかる。
それにタクマは反応はできたが、見えない剣の嵐から逃れる事はできなかった。
ゆえにロックスとイレースが命を燃やして止めようとするも、元々強い魂を持つ大型の魔物がゲートを使った今では、それを止める事はできない。
そうして、王妃が殺されるその直前に「お待たせしました、父上、母上」と蒼炎が駆け抜けた。
その騎士の光の剣が大鬼と大蛇をはじき返し、次の太刀にてその命を消し飛ばした。
ユージの出力をアルフォンス並みだとタクマは思っていたが、それはどうやら違うようだ。
ゲートを使い鎧を纏った巨大モンスター二体を同時に消し飛ばす力は、ユージのそれとは桁が一つ違った。
「タクマ! 行け!」
「わかってるよアルフォンス!」
そして、アルフォンスの光の剣の余波にて鳥人達は体勢を崩し、そこに踏み込んだタクマがするりと首に剣を走らせる。
その一閃は3匹の鳥人の首を落とした。
それにより、黒いモンスター達は全滅した。
「……おかわり来るか?」
「……来たな」
中空に現れるモンスターが現れるゲート。それに対してのタクマとアルフォンスは、実の所かなり消耗している。タクマはこれまでの激戦の疲れから。アルフォンスは、ゲートの時間を使った大技の二連発によって。
「だが、言わせてくれ────来たのは、私だけではないぞ!」
その言葉とともに、入口から入ってきたプレイヤーとアルフォンス派の騎士達が一斉にモンスターへと襲い掛かる。数は力であることを示すかのような圧倒的な暴力であったが、黒い体に強化されていたモンスターをきっちりとゲートの入り口で嬲り殺していた。
その姿に安心した、アルフォンスとタクマは座り込む。ゲートの時間制限により倒れたアルフォンスと、生命転換の使いすぎでゲートの維持をやめたタクマの限界だった。
そうしていると、天井の穴からボロボロだが誇らしい顔をしているプリンセス・ドリル一行が降りてきた。
「上のは追い払いましたわ! 私たちを褒めてください!」
「褒めろと自分で言うな」
「……まぁ、敵の本丸は逃したけどな」
そうして集まってきた戦力により、中空に現れるゲートからのモンスターは狩られていき、そして、ヒョウカの“秘策”が決まった事でラズワルド王に敵対していた黒騎士の動きは鈍り、ラズワルド王はその鎧と泥の体を大魔サビクのコアごと消し飛ばした。
■□■
「……まさか、稀人に巫女の任を任せるとは思いませんでしたわ」
「私はできると思っていましたよ。生命転換に関しては私は天才のようですから」
ヒョウカの秘策とは、ヒョウカのありあまり過ぎている生命転換を使って封印を強化する事。病院で死戦をくぐった事により、ただでさえ強いヒョウカの魂はさらに強化されたのだ。魂の出力だけで見るならもうラズワルド王を3人分を軽く超えるほどに。
「あら、どうやら時間のようね」
プレイヤーの体が光に消え始める。どうやら、今回の話はクリアできたようだ。そうタクマは思う。
「タクマ、今日の君たちはまるで嵐のようだな」
「まぁ、RTAやってたからな」
「……あーるてぃーえー?」
「急いでたってことさ」
そうしていると、本当にすぐにタクマの体も光に消えていく。
「じゃあ、また今度」
「ああ、またしても黒幕を逃した以上、僕らはまた会うのだろうな。救国の稀人タクマ」
「うっせぇよ剣豪王子アルフォンス」
「……似合わないな」
「お互いにな」
そんな減らず口を叩きながら、剣を合わせて再開の挨拶をする。
二人の奇妙な友情は、そんなものだった。
応援ありがとうございます!
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