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第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達
剣鬼と剣王
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剣が冴えわたる。
タクマの体は現在泥の鎧にまとわりつかれている。その恩恵により、身体能力、魂、共に出力は上昇している。そして、それに振り回されない殺戮への本能がタクマにはあった。
対してラズワルド王は、疲労を感じさせない剣で戦いを続けていた。悲しそうな顔で、しかし目の奥では楽しそうなものを見せながら。
そうして数合剣を合わせ、目の前のこの敵にはタクマの存在のすべてを懸けるべきだと魂で理解したその時、二人は自然と離れた。
「少年、名前は?」
「タクマ。明太子タクマでも風見琢磨でも、好きに」
そうして、二人は横槍として放たれた闇色の閃光剣を魂を込めただけの剣を同時に合わせることで相殺する。
そのタクマの動きに騎士は驚きつつも自身のポジションを崩していなかった。
ラズワルドが下手に高速戦闘に移行すれば、その隙に後ろの女性を殺すつもりなのだ。それを強制するような命令が泥の鎧から出ている。
「メディ、掌握は終わったか?」
『はい、どの信号が命令であり、シャットアウトすればいいのかは理解できました。魂の逆ハッキングはさすがに不可能でしたが。これより私は妨害に集中します。マスター、あなたのお好きなように』
「……最高だよ、相棒」
そうして、メディによる神経伝達コントロールにより魂からの干渉を肉体の反応でシャットアウトする。これにより、泥はタクマの魂を吸って動くだけの外付けゲートと化した。
そして、タクマはゲートの残り時間や世界の運命など様々なものを天秤にかけた。
その上で、改めて言葉と礼を行った。
騎士には、「手を出すな」という威圧を。
ラズワルドには、最上級の礼を。
礼を終えたタクマはその魂のすべてを使って自身の泥をコントロールする。ただ、最高の技を叩き込むために。
そうして再形成された泥の鎧は圧縮して体を包むものになり、力の流れを妨げない姿になっていた。
そして、剣の構えは脇構え。タクマの体の小ささを活かした、躱したうえで最大の一撃を叩き込むためのもの。
対して、ラズワルドはゲートを開くそぶりを見せず、ただ水面を思わせる正眼の構えにてタクマと相対していた。
決して舐めているわけではない。それは二人の共通認識だ。
出力にすぐ順応できる技術を持っていたとしても、ゲートを発動した瞬間の身体能力のズレは絶対に覆せない。
それだけあれば今のタクマがラズワルドの命を奪うには十分だ。
もちろん、王国最強は伊達ではない。平時ならばそんな隙など存在しないし、したとしたらそれは1000分の1秒を隙と言える人外の何かだ。しかし今のラズワルドは1週間もの間守るために戦い続けた疲れがある。その人間的な部分がタクマの勝機に繋がっていた。
「いざ、尋常に」
「勝負」
その言葉を発しあうと同時にタクマが仕掛ける。そもそもの話、出力が上昇していようとタクマはラズワルドより格下だ。故に攻め続けるか逃げるかの二択以外は屍を晒すだけだ。
だから、タクマは攻め続けることを選んだ。それは、タクマの殺戮本能が導いた答えではない。タクマの戦闘経験の導いた答えではない。
全力でぶつかること以外に、選びたい未来はなかったからだ。
脇構えから素直に放たれる勢いを乗せた横薙ぎ。それは当然のように止められ、その剣ごと力ではじき返される。身体操作を全てを使った技の剛剣だ。だが、それで今のタクマは止まらない。弾かれた力をそのまま体を回転させて肩口を狙っての袈裟切りを放つ。しかしその最短距離での回転剣も当たり前のように全身を使った技の剛剣によって弾かれる。
そして、一度目の反射的な回転ではなく読み切った力のベクトルの操作と、上昇した風の出力、そしてこれまで経験してきた強敵相手の風踏みが、軸を作って空を回る力のコントロールを作りだした。
そして、生命転換の出力ももう全開を超えて放出しているタクマの最後の剣。袈裟切りを弾かれた勢いで作ったエネルギーをさらに回転し解き放つ大上段。見て覚えた全身を使った剛剣技にて。
そして、その大上段はおかしなことに空中で確かに踏み込みがなされていた。それが、タクマが圧縮して作り出した泥の鎧の用途。地面を踏むように足の裏から風を解き放つものだ。
踏み込みは異常だが確かになされ、型は流れこそ異常だが力の無駄はなく、その魂の出力は強力だった。
だが、王国最強はその上を行く。
ラズワルドが行ったのは防御でも回避でもない。後の先を取った必殺の対空剣だ。
「見事だ少年。私の技を見取ったことは驚嘆に値する。だが、その胸にある思いのために命を捨てられないうちは私は殺せないよ。君の剣は、軽すぎる」
それが、泥を両断し、タクマの体に致命傷を与えたただの切り上げを放った後のラズワルドの言葉だった。
一矢報いることもなく、ここで死ぬ。やはり、悔しい。
それがタクマの思う事だったが、泥が魂を使ってタクマを生かそうと侵食を続ける。『すみません』というメディの言葉から、最後の一撃によって力を使い果たしたタクマではもう泥の侵食を抑えられないのだと理解した。
そうしていると、再び泥の戦士や騎士たちの姿が見え始める。あの騎士の”騎士とタクマのチームアップ作戦”が失敗した時点でこの継戦は決まっていたのだろう。
「まだ生きているのなら見ていると良い。君の剣は、かつての私のモノによく似ている。だからこそその延長線上にある私の剣は参考になると思うよ」
そうして、ラズワルド王と泥の騎士たちとの戦いが始まる。
魂が尽きて命が終わるその前に、ひたすらに目に焼き付ける。その美しい剛剣を。その剣理の中には殺戮のためのものと、守るためのものが綺麗に混在していた。
その剣には無駄はなく、しかし目線や殺気などの様々なフェイントにより一撃一撃を丁寧に当てていく。そして丁寧に防御して一撃たりとも貰ってはいなかった。
そして、その剣の全てがコアを潰していた。あいにくとタクマの魂の力は全て泥に吸われてしまっているから魂視はできないが、だからこそ見えるものはあった。それは、泥と筋肉の動きの違和感だ。
戦闘中にそれを見つけるのは相当な観察力が必要だ。しかし、タクマにはそれが可能だと何となく思えていた。
タクマの観る力は、殺すことに通じる天性のものなのだから。
そして50はいた泥の騎士たちを皆殺しにしたラズワルドはタクマと向き合い、介錯のために剣を構える。
タクマは、それを黙して受け入れるのは違うと思い、泥の強制力などを無視して正座をした。
「次は、俺があなたを殺します。守るために、強くなりたいから」
「……タクマ、殺しだけじゃ守ることはできないよ。どんなに強くても守れないものは出てくる。今の私のように」
そうして、ラズワルドは慈愛の一閃を解き放った。
その一閃はタクマの首を綺麗に撥ね飛ばし、しかし痛みなどを感じさせない綺麗なものだった。
タクマがこの日最も見取った価値のあるものはどれかと後から思えば、それはこの剣だったのかもしれないと思うほどに。それは美しかった。
■□■
そうして14時間のデスペナルティをかけられたタクマは、ロビーに居続けることに座りの悪さを感じてログアウトをした。
『マスター、お疲れさまでした。メディカルチェックを行います』
「……頼むよメディ。ちょっと違和感がある」
『どのあたりに?』
「たぶん思考とかのところ。なんかタガが外れた感じがする」
『……明日、病院に行きますか?』
「明日になっても変わらなかったらな」
そんな言葉と共に窓の外を見る。ふと見えた老婆を見て、セキュリティや監視網の確認をし、戦うために拝借していた鉄パイプを握りしめていた。無意識に。
「あ、こういうのか。メディ、心臓止めてもいいから止めてくれな」
「……はい」
そんな殺人衝動をなんのこともないように認識しているタクマに不安を覚えながら、メディはメディカルチェックを行うのだった。
■□■
その日、琢磨は夢を見た。
自身の剣にて、裕司や足柄達を切り刻む夢を。
自身の剣にて、奏を貫き晒す夢を。
自身の剣にて、凪人をバラバラに解体する夢を。
自身の剣にて、氷華を切り殺す夢を。
それを見た時に琢磨は思った。
”ああ、楽しそうだなぁ……”と。
これまで隠せていた鬼の本能が、現れ始めていた。
タクマの体は現在泥の鎧にまとわりつかれている。その恩恵により、身体能力、魂、共に出力は上昇している。そして、それに振り回されない殺戮への本能がタクマにはあった。
対してラズワルド王は、疲労を感じさせない剣で戦いを続けていた。悲しそうな顔で、しかし目の奥では楽しそうなものを見せながら。
そうして数合剣を合わせ、目の前のこの敵にはタクマの存在のすべてを懸けるべきだと魂で理解したその時、二人は自然と離れた。
「少年、名前は?」
「タクマ。明太子タクマでも風見琢磨でも、好きに」
そうして、二人は横槍として放たれた闇色の閃光剣を魂を込めただけの剣を同時に合わせることで相殺する。
そのタクマの動きに騎士は驚きつつも自身のポジションを崩していなかった。
ラズワルドが下手に高速戦闘に移行すれば、その隙に後ろの女性を殺すつもりなのだ。それを強制するような命令が泥の鎧から出ている。
「メディ、掌握は終わったか?」
『はい、どの信号が命令であり、シャットアウトすればいいのかは理解できました。魂の逆ハッキングはさすがに不可能でしたが。これより私は妨害に集中します。マスター、あなたのお好きなように』
「……最高だよ、相棒」
そうして、メディによる神経伝達コントロールにより魂からの干渉を肉体の反応でシャットアウトする。これにより、泥はタクマの魂を吸って動くだけの外付けゲートと化した。
そして、タクマはゲートの残り時間や世界の運命など様々なものを天秤にかけた。
その上で、改めて言葉と礼を行った。
騎士には、「手を出すな」という威圧を。
ラズワルドには、最上級の礼を。
礼を終えたタクマはその魂のすべてを使って自身の泥をコントロールする。ただ、最高の技を叩き込むために。
そうして再形成された泥の鎧は圧縮して体を包むものになり、力の流れを妨げない姿になっていた。
そして、剣の構えは脇構え。タクマの体の小ささを活かした、躱したうえで最大の一撃を叩き込むためのもの。
対して、ラズワルドはゲートを開くそぶりを見せず、ただ水面を思わせる正眼の構えにてタクマと相対していた。
決して舐めているわけではない。それは二人の共通認識だ。
出力にすぐ順応できる技術を持っていたとしても、ゲートを発動した瞬間の身体能力のズレは絶対に覆せない。
それだけあれば今のタクマがラズワルドの命を奪うには十分だ。
もちろん、王国最強は伊達ではない。平時ならばそんな隙など存在しないし、したとしたらそれは1000分の1秒を隙と言える人外の何かだ。しかし今のラズワルドは1週間もの間守るために戦い続けた疲れがある。その人間的な部分がタクマの勝機に繋がっていた。
「いざ、尋常に」
「勝負」
その言葉を発しあうと同時にタクマが仕掛ける。そもそもの話、出力が上昇していようとタクマはラズワルドより格下だ。故に攻め続けるか逃げるかの二択以外は屍を晒すだけだ。
だから、タクマは攻め続けることを選んだ。それは、タクマの殺戮本能が導いた答えではない。タクマの戦闘経験の導いた答えではない。
全力でぶつかること以外に、選びたい未来はなかったからだ。
脇構えから素直に放たれる勢いを乗せた横薙ぎ。それは当然のように止められ、その剣ごと力ではじき返される。身体操作を全てを使った技の剛剣だ。だが、それで今のタクマは止まらない。弾かれた力をそのまま体を回転させて肩口を狙っての袈裟切りを放つ。しかしその最短距離での回転剣も当たり前のように全身を使った技の剛剣によって弾かれる。
そして、一度目の反射的な回転ではなく読み切った力のベクトルの操作と、上昇した風の出力、そしてこれまで経験してきた強敵相手の風踏みが、軸を作って空を回る力のコントロールを作りだした。
そして、生命転換の出力ももう全開を超えて放出しているタクマの最後の剣。袈裟切りを弾かれた勢いで作ったエネルギーをさらに回転し解き放つ大上段。見て覚えた全身を使った剛剣技にて。
そして、その大上段はおかしなことに空中で確かに踏み込みがなされていた。それが、タクマが圧縮して作り出した泥の鎧の用途。地面を踏むように足の裏から風を解き放つものだ。
踏み込みは異常だが確かになされ、型は流れこそ異常だが力の無駄はなく、その魂の出力は強力だった。
だが、王国最強はその上を行く。
ラズワルドが行ったのは防御でも回避でもない。後の先を取った必殺の対空剣だ。
「見事だ少年。私の技を見取ったことは驚嘆に値する。だが、その胸にある思いのために命を捨てられないうちは私は殺せないよ。君の剣は、軽すぎる」
それが、泥を両断し、タクマの体に致命傷を与えたただの切り上げを放った後のラズワルドの言葉だった。
一矢報いることもなく、ここで死ぬ。やはり、悔しい。
それがタクマの思う事だったが、泥が魂を使ってタクマを生かそうと侵食を続ける。『すみません』というメディの言葉から、最後の一撃によって力を使い果たしたタクマではもう泥の侵食を抑えられないのだと理解した。
そうしていると、再び泥の戦士や騎士たちの姿が見え始める。あの騎士の”騎士とタクマのチームアップ作戦”が失敗した時点でこの継戦は決まっていたのだろう。
「まだ生きているのなら見ていると良い。君の剣は、かつての私のモノによく似ている。だからこそその延長線上にある私の剣は参考になると思うよ」
そうして、ラズワルド王と泥の騎士たちとの戦いが始まる。
魂が尽きて命が終わるその前に、ひたすらに目に焼き付ける。その美しい剛剣を。その剣理の中には殺戮のためのものと、守るためのものが綺麗に混在していた。
その剣には無駄はなく、しかし目線や殺気などの様々なフェイントにより一撃一撃を丁寧に当てていく。そして丁寧に防御して一撃たりとも貰ってはいなかった。
そして、その剣の全てがコアを潰していた。あいにくとタクマの魂の力は全て泥に吸われてしまっているから魂視はできないが、だからこそ見えるものはあった。それは、泥と筋肉の動きの違和感だ。
戦闘中にそれを見つけるのは相当な観察力が必要だ。しかし、タクマにはそれが可能だと何となく思えていた。
タクマの観る力は、殺すことに通じる天性のものなのだから。
そして50はいた泥の騎士たちを皆殺しにしたラズワルドはタクマと向き合い、介錯のために剣を構える。
タクマは、それを黙して受け入れるのは違うと思い、泥の強制力などを無視して正座をした。
「次は、俺があなたを殺します。守るために、強くなりたいから」
「……タクマ、殺しだけじゃ守ることはできないよ。どんなに強くても守れないものは出てくる。今の私のように」
そうして、ラズワルドは慈愛の一閃を解き放った。
その一閃はタクマの首を綺麗に撥ね飛ばし、しかし痛みなどを感じさせない綺麗なものだった。
タクマがこの日最も見取った価値のあるものはどれかと後から思えば、それはこの剣だったのかもしれないと思うほどに。それは美しかった。
■□■
そうして14時間のデスペナルティをかけられたタクマは、ロビーに居続けることに座りの悪さを感じてログアウトをした。
『マスター、お疲れさまでした。メディカルチェックを行います』
「……頼むよメディ。ちょっと違和感がある」
『どのあたりに?』
「たぶん思考とかのところ。なんかタガが外れた感じがする」
『……明日、病院に行きますか?』
「明日になっても変わらなかったらな」
そんな言葉と共に窓の外を見る。ふと見えた老婆を見て、セキュリティや監視網の確認をし、戦うために拝借していた鉄パイプを握りしめていた。無意識に。
「あ、こういうのか。メディ、心臓止めてもいいから止めてくれな」
「……はい」
そんな殺人衝動をなんのこともないように認識しているタクマに不安を覚えながら、メディはメディカルチェックを行うのだった。
■□■
その日、琢磨は夢を見た。
自身の剣にて、裕司や足柄達を切り刻む夢を。
自身の剣にて、奏を貫き晒す夢を。
自身の剣にて、凪人をバラバラに解体する夢を。
自身の剣にて、氷華を切り殺す夢を。
それを見た時に琢磨は思った。
”ああ、楽しそうだなぁ……”と。
これまで隠せていた鬼の本能が、現れ始めていた。
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