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第二戦 VSサビク 騎士の国と聖剣達
戦士ロックスとイレース
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戦いは、シンプル。
敵のスナイパーはあの化け物みたく触れたら死ぬくらいの使い手ではなく、着弾したら発動するタイプの生命転換だ。
風纏で受け流せば致命傷にはならないし、そもそも普通に見えるから躱せる。
どうにも、敵側は強弓を使っているらしく、一射は重いが連射はない。
それに、敵の殺気の隠し方はもう慣れた。どうにも、タクマ自身のように存在感のデコイで殺気をごまかしているようだからだ。
「……だが、迂闊には近寄れないな」
『ですね。あの弓はシンプルに脅威です。躱すことに専念すればどうにでもなりますが、近寄ればその分の動きのロスで撃ち抜かれてしまいますから』
そう思っていると、強弓使いは踵を返して走り去る。
するとそこには風を纏った矢が着弾していた。あの風の感覚は覚えがある。生き残りの戦士団の弓使いの方だろう。
「……どうする?」
『距離を保ちつつ、いつでも攻めも逃げもできるように動くのが良いですね。戦闘中であるのなら横槍はさほど褒められた事ではないでしょう。私たちは今完全な第三者なのですから」
「だな。……って戦士団の方もこっちに狙いつけてるよ」
そうして、風で曲がる矢を弾き、一撃の重い矢を躱して付かず離れずの距離を保ち続ける。
そうしていると、どこからかやってきた盾の戦士団の生き残りと、透過の騎士イービーがタクマの元にやってくる。
「願ったりだが、何でここに?」
「お前が、稀人だからだ」
「誰か敵か分からんのでな。話を聞きにきた」
イービーはタクマと盾の戦士に真っ向から剣を向け、盾の戦士は消極的に、しかし堅実に体勢を整えていた。
そしてタクマは、ふらりと自然体のままに剣を構える。どちらかを切るでもなく、どちらかから守るでなく。
どちらも纏めて、相手をする為に。
「俺は本当に偶然ここに居るだけです。そして、偶然殺されそうになったので全員殺すつもりで相手をさせていただきます」
「気狂いの類か!」
そうして二人の盾と剣がタクマを襲う。その最中に矢の援護はなかったが故に、二人の弓使いは移動したのだろう。
『マスター、魂での感知ができません。隠れる為の技術かと』
「全方位から狙われてると思えば、そう難しくはない」
そう言って、目の前の二人の魂を視る。
盾に込められているのは自分のと同じ込める事で外に影響を与えるタイプの力。記憶が確かなら、重力を操るもの。
そして透過の騎士イービーは既にゲートを発動している。魂の巡りがそうであると示している。
透過範囲は、試してみなければ分からない。
どちらも対異能戦闘、ヒトのカタチをした化け物相手にした戦闘訓練に十分な相手だ。そうタクマは思い、剣をしっかりと握った。
まず仕掛けてきたのは、透過の騎士イービー。
自身に降りかかる全てを透過する力だ。それを持って援護のないタクマに切りかかってきた。
その剣は虚実入り混ざった奇妙なもの。防げばすり抜け、当たれば切り裂く。防御不可能の魔剣だった。
だが、ネタはもう割れている。そして、その弱点も見えている。
タクマは風を踏み、剣が振り下ろされる前にイービーの肺に剣を突き立てる。それは当然透過したが、それでも肺の位置に剣を置き続けた。
生命転換を入れていない、ただの剣を。
イービーは周囲の把握を魂感知で行っているから、魂に映らないステルスに対処できないのだ。
本来ならばその対処のために常にチームで行動しているのだろうが、今回の偶発的な3つ巴であり、バックアップである強弓の騎士はいまイービーを認識できていない。
そうして、そのレンジでタクマは回避を続ける。それは、イービーの、ひいてはソルディアルの騎士の基本剣技の剣理を完全に把握したことであり。
異能以外は上等の域をでないイービーには、その異常に対処することは出来なかった。
そして、イービーは呼吸をする。その瞬間に実体化した肺に対して、タクマが置き続けた地雷が突き刺さる。
それか致命傷となり、騎士イービーは血を吐き命を落とした。
そして、直後に放たれた重力波によりタクマの身体は地に縛り付けられた。機を伺っていた戦士団の男の生命転換だ。
「……躊躇わないな」
「性分なんで」
そうして、盾の男はじっくりと距離を詰めてくる。近づく度に、体にかかる重力の負荷が増していき、さらに身動きが取れなくなる。
故に、タクマは身動きを全くしなかった。
重力により重くなった空気を刃にして、射出する。そのことに全神経を集中させていたからだ。
そうして放たれた刃には鋭さはなかったが、空気の弾丸として盾の男の顔面にぶち当たった。
彼が重装ならばそれでさしたる隙は生まれなかったのだろうが、戦士団の装備はコストのバランスと機動力のために軽装になっている。
それが一瞬の重力の緩みを生み、タクマは重力のテリトリーから脱出した。
そして風を踏み加速した体当たりで盾の戦士を押し倒し、その首に剣を突き付けた。
「一応聞きます。あなたたちの方はどうして俺を狙ったんですか?」
「……俺たちが殺されかけたのは稀人関係だと聞いた」
「んで、話を聞こうとしたら殺す気満々の俺とイービーさんにカチ合ったと。納得しました」
そういってタクマは盾の戦士から体をどける。
なぜなら、これが殺し合いだったのならばタクマは間違いなく死んでいたからだ。
彼の重力場は天狼をわずかに押しとどめた。つまり人の体など容易に潰し殺せるのだ。
そして何より、警戒していたにも関わらずタクマは完全に隙を突かれた。
当てられたこと、当たった後の事、どちらも完全なタクマの敗北であった。だからこそ、タクマは剣を収めたのだ。殺されそうになったから相手をしたのであって、この戦士団の彼にはそのつもりは全くなかったのだから。
「……俺はさっきまで空間を作るゲート使いの元で修行をしていました。なのであなたたちが狙われる理由に心当たりはないです。力になれず申し訳ありません」
「いいや、追手の騎士を一人排除できたのは僥倖だ。……殺したくは、なかったがな」
そんな言葉と共にタクマの足元に矢が突き刺さる。弓の女戦士の風を纏う矢だ。
「改めて。明太子タクマです。また会ったら、その時は手合わせを」
「ロックス・ラッドだ。殺し合いじゃないなら歓迎する」
そんな言葉を交わして、二人は別れた。
スナイパーを排除できなかったのは残念だったが、そういうこともあるだろう。そんな考えで再び魔物の出るあの通路に向かうのだった。
「で、ここどこだっけ?」
『……一度ロビーに戻りましょうか』
そんな締まらない会話をしながら。
■□■
ロックスは、内心驚いていた。
突如自分と相棒のイレース、たった二人生き残った戦士団は実力的には突出しているが未だにゲートを開けない。そのことが原因で未だに騎士になれていないのだから当然だ。
そして、それでもなおゲート使いに食らいつこうとして幾たびも敗れている記憶が根付いている。
それほど、ゲート使いとただの戦士団の差は大きいのだ。ゲートにはゲートを。それが戦いの常識なのだから。
それをあの少年はあっさりと覆した。以前襲撃してきたあの騎士のゲートは透過。自分の生命転換との相性は悪くなかったが、それでも退けることしかできなかった。
それを、特別な生命転換でなく、ただの剣技で殺して見せたあの少年のことを恐怖し、しかしロックスの没落貴族としての誇りがそれを否定するのではなく、その力をどう利用するべきかを考えさせた。
そして、すぐに結論に達した。
「あの手の暴走族は一人で十分だな。王になりたいわけでもなし、過ぎたる力は災いしか生まないか」
そうして相棒の元へと歩いていく。どうにも、あの狙撃手には逃げられたようである。
「ロックス! 生きてる!?」
「ああ、幸いにな。そう慌てるなイレース」
「慌てるわ! 殺されかけてんじゃないのあんた!」
「殺されていない。だから損得では得だ」
「使った矢の分だけ損よバカ貴族!」
そんな愉快な二人は、王侯貴族に古くから伝わる隠し部屋へと向かうのだった。
その先で、誰と出会うかは……
■□■
「あ」
「「あ」」
そうして、タクマとロックスとイレースは魔物あふれる謎の通路を進んでいくことになった。
敵のスナイパーはあの化け物みたく触れたら死ぬくらいの使い手ではなく、着弾したら発動するタイプの生命転換だ。
風纏で受け流せば致命傷にはならないし、そもそも普通に見えるから躱せる。
どうにも、敵側は強弓を使っているらしく、一射は重いが連射はない。
それに、敵の殺気の隠し方はもう慣れた。どうにも、タクマ自身のように存在感のデコイで殺気をごまかしているようだからだ。
「……だが、迂闊には近寄れないな」
『ですね。あの弓はシンプルに脅威です。躱すことに専念すればどうにでもなりますが、近寄ればその分の動きのロスで撃ち抜かれてしまいますから』
そう思っていると、強弓使いは踵を返して走り去る。
するとそこには風を纏った矢が着弾していた。あの風の感覚は覚えがある。生き残りの戦士団の弓使いの方だろう。
「……どうする?」
『距離を保ちつつ、いつでも攻めも逃げもできるように動くのが良いですね。戦闘中であるのなら横槍はさほど褒められた事ではないでしょう。私たちは今完全な第三者なのですから」
「だな。……って戦士団の方もこっちに狙いつけてるよ」
そうして、風で曲がる矢を弾き、一撃の重い矢を躱して付かず離れずの距離を保ち続ける。
そうしていると、どこからかやってきた盾の戦士団の生き残りと、透過の騎士イービーがタクマの元にやってくる。
「願ったりだが、何でここに?」
「お前が、稀人だからだ」
「誰か敵か分からんのでな。話を聞きにきた」
イービーはタクマと盾の戦士に真っ向から剣を向け、盾の戦士は消極的に、しかし堅実に体勢を整えていた。
そしてタクマは、ふらりと自然体のままに剣を構える。どちらかを切るでもなく、どちらかから守るでなく。
どちらも纏めて、相手をする為に。
「俺は本当に偶然ここに居るだけです。そして、偶然殺されそうになったので全員殺すつもりで相手をさせていただきます」
「気狂いの類か!」
そうして二人の盾と剣がタクマを襲う。その最中に矢の援護はなかったが故に、二人の弓使いは移動したのだろう。
『マスター、魂での感知ができません。隠れる為の技術かと』
「全方位から狙われてると思えば、そう難しくはない」
そう言って、目の前の二人の魂を視る。
盾に込められているのは自分のと同じ込める事で外に影響を与えるタイプの力。記憶が確かなら、重力を操るもの。
そして透過の騎士イービーは既にゲートを発動している。魂の巡りがそうであると示している。
透過範囲は、試してみなければ分からない。
どちらも対異能戦闘、ヒトのカタチをした化け物相手にした戦闘訓練に十分な相手だ。そうタクマは思い、剣をしっかりと握った。
まず仕掛けてきたのは、透過の騎士イービー。
自身に降りかかる全てを透過する力だ。それを持って援護のないタクマに切りかかってきた。
その剣は虚実入り混ざった奇妙なもの。防げばすり抜け、当たれば切り裂く。防御不可能の魔剣だった。
だが、ネタはもう割れている。そして、その弱点も見えている。
タクマは風を踏み、剣が振り下ろされる前にイービーの肺に剣を突き立てる。それは当然透過したが、それでも肺の位置に剣を置き続けた。
生命転換を入れていない、ただの剣を。
イービーは周囲の把握を魂感知で行っているから、魂に映らないステルスに対処できないのだ。
本来ならばその対処のために常にチームで行動しているのだろうが、今回の偶発的な3つ巴であり、バックアップである強弓の騎士はいまイービーを認識できていない。
そうして、そのレンジでタクマは回避を続ける。それは、イービーの、ひいてはソルディアルの騎士の基本剣技の剣理を完全に把握したことであり。
異能以外は上等の域をでないイービーには、その異常に対処することは出来なかった。
そして、イービーは呼吸をする。その瞬間に実体化した肺に対して、タクマが置き続けた地雷が突き刺さる。
それか致命傷となり、騎士イービーは血を吐き命を落とした。
そして、直後に放たれた重力波によりタクマの身体は地に縛り付けられた。機を伺っていた戦士団の男の生命転換だ。
「……躊躇わないな」
「性分なんで」
そうして、盾の男はじっくりと距離を詰めてくる。近づく度に、体にかかる重力の負荷が増していき、さらに身動きが取れなくなる。
故に、タクマは身動きを全くしなかった。
重力により重くなった空気を刃にして、射出する。そのことに全神経を集中させていたからだ。
そうして放たれた刃には鋭さはなかったが、空気の弾丸として盾の男の顔面にぶち当たった。
彼が重装ならばそれでさしたる隙は生まれなかったのだろうが、戦士団の装備はコストのバランスと機動力のために軽装になっている。
それが一瞬の重力の緩みを生み、タクマは重力のテリトリーから脱出した。
そして風を踏み加速した体当たりで盾の戦士を押し倒し、その首に剣を突き付けた。
「一応聞きます。あなたたちの方はどうして俺を狙ったんですか?」
「……俺たちが殺されかけたのは稀人関係だと聞いた」
「んで、話を聞こうとしたら殺す気満々の俺とイービーさんにカチ合ったと。納得しました」
そういってタクマは盾の戦士から体をどける。
なぜなら、これが殺し合いだったのならばタクマは間違いなく死んでいたからだ。
彼の重力場は天狼をわずかに押しとどめた。つまり人の体など容易に潰し殺せるのだ。
そして何より、警戒していたにも関わらずタクマは完全に隙を突かれた。
当てられたこと、当たった後の事、どちらも完全なタクマの敗北であった。だからこそ、タクマは剣を収めたのだ。殺されそうになったから相手をしたのであって、この戦士団の彼にはそのつもりは全くなかったのだから。
「……俺はさっきまで空間を作るゲート使いの元で修行をしていました。なのであなたたちが狙われる理由に心当たりはないです。力になれず申し訳ありません」
「いいや、追手の騎士を一人排除できたのは僥倖だ。……殺したくは、なかったがな」
そんな言葉と共にタクマの足元に矢が突き刺さる。弓の女戦士の風を纏う矢だ。
「改めて。明太子タクマです。また会ったら、その時は手合わせを」
「ロックス・ラッドだ。殺し合いじゃないなら歓迎する」
そんな言葉を交わして、二人は別れた。
スナイパーを排除できなかったのは残念だったが、そういうこともあるだろう。そんな考えで再び魔物の出るあの通路に向かうのだった。
「で、ここどこだっけ?」
『……一度ロビーに戻りましょうか』
そんな締まらない会話をしながら。
■□■
ロックスは、内心驚いていた。
突如自分と相棒のイレース、たった二人生き残った戦士団は実力的には突出しているが未だにゲートを開けない。そのことが原因で未だに騎士になれていないのだから当然だ。
そして、それでもなおゲート使いに食らいつこうとして幾たびも敗れている記憶が根付いている。
それほど、ゲート使いとただの戦士団の差は大きいのだ。ゲートにはゲートを。それが戦いの常識なのだから。
それをあの少年はあっさりと覆した。以前襲撃してきたあの騎士のゲートは透過。自分の生命転換との相性は悪くなかったが、それでも退けることしかできなかった。
それを、特別な生命転換でなく、ただの剣技で殺して見せたあの少年のことを恐怖し、しかしロックスの没落貴族としての誇りがそれを否定するのではなく、その力をどう利用するべきかを考えさせた。
そして、すぐに結論に達した。
「あの手の暴走族は一人で十分だな。王になりたいわけでもなし、過ぎたる力は災いしか生まないか」
そうして相棒の元へと歩いていく。どうにも、あの狙撃手には逃げられたようである。
「ロックス! 生きてる!?」
「ああ、幸いにな。そう慌てるなイレース」
「慌てるわ! 殺されかけてんじゃないのあんた!」
「殺されていない。だから損得では得だ」
「使った矢の分だけ損よバカ貴族!」
そんな愉快な二人は、王侯貴族に古くから伝わる隠し部屋へと向かうのだった。
その先で、誰と出会うかは……
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「あ」
「「あ」」
そうして、タクマとロックスとイレースは魔物あふれる謎の通路を進んでいくことになった。
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