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第一章 始まりは、いつも唐突に

第一話 夢

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「なんで……おきてよ……」

 女の声。可愛らしい。
 彼女がまだ年端もいかない少女だと、そういう印象を与える声だった。
 しかしその声は、なぜか少し震えていた。

 ……誰だ……この声……。
 少女の儚い声に応えるように、眠っていた俺の意識が浮上した。
 まず見えたのは、大きな目を赤く染める少女。
 誰もが将来を期待してしまう小さく可愛らしい顔が、小さな鼻から流す涙と鼻水で汚れてしまっている。
 その表情には心が抉られるような喪失感と一握りの希望が入り交じり、膝にのせている俺の顔を涙で濡らしていた。

 ……なにこの状況……。
 同時に身体に感じたことのない激痛が走る。

「――っ⁉」 

 言葉ですらないただの声を上げさせられていた・・・・・・・
 違和感を覚える。
 目の前の状況が自分の意思とは関係なしに進行する様はさながら――4D映画。
 それも、再現すれば反感を買ってしまうだろう強烈な痛みオプション付きだ。

 映画はまだ始まったばかり。

 次に目に映ったのは激痛の正体、それを俺は直ぐに理解する。
 ――自分の身体は四肢を失い、周囲に大量の血をまき散らしていたからだ。
 少年・・は理解した。
 少女の涙の原因を――

 場面シーンが切り替わる。

 今度は立っていた。 
 映像が幾許か巻き戻されているようだ。
 日はすでに落ちていたが仄かに明るい。

 少年は眺めていた。
 淡く揺らめく赤々とした炎を光源に周囲を照らす様を。
 倒壊した家から立ち上る煙が焦げた匂いと共に風に乗って虚空へと舞う様を。

 乾いた音が鳴り響く。

 その地で何が繰り広げられていたのだろうか。
 地面には抉られた大小まばらな穴や鋭利な刃で刻まれたかのような跡が幾か所にも見える。
 赤い液体の付いた・・・・・・・・生ゴミ・・・が、そこかしこに捨てられていた。

 少年は胸に痛みを覚えて走り出す。

(どこだ⁉)
(どこにいる⁉)
(お願いだ!)
(どうかあいつだけでも!)

 記憶にない感情が次々と湧き上がる。

 目に映る何もかもが懐かしい。
 半壊した建物、地面に転がる人の顔の数々。
 どこを走っているかも分かってしまう。
 そう、そこの角を曲がれば……

 家が建っていた。
 自分の家だ。
 でもそんなはずはない。
 見たことも住んでた記憶もない。
 でも自分の家だと確信するほどに懐かしい。

 口は勝手に開く。

「どこにいる⁉ 返事をしてくれ! 
 エスタ――――」
 ……あ、ちょっ、待っ! あーー。
 
 ゲーム途中にコンセントを引っこ抜かれたような気分だ。

 微かに声が聞こえてくる。
 すでに場面シーンは別のものに変わっていた。

 目に映る少女にはもやがかかって、もはや誰かは分からない。

「ねぇ……私、生き――……。――んだよ……。私の――教えたことあったでしょ? 異界――いうんだ。どんなのって? へへ、――に行け――。すごいでしょ? だから……ね、生きてた。うん、助――。でも……でもママと――は! ――は! ……――の時間が、間に合――――。ごめん、ね……ご――――。これからは……いい子にす――……、だから……――までいなくならないで……、一人にしないでよぉ……」


 ……あー、くそ! はっきり聞こえん!

 ……でもこの声……聞き慣れた声だな……。
 ……あー、確か――そうだ、あの子の――
 
 ……………………………

 ……あれ、なにが・・・

 意識が遠のいていく。
 今まで何を見ていたのか、霞んでいく。

 これが最後か、と思える最後の場面ラストシーン
 既に映画というよりはラジオ。

「さぁ、――――ましょう」

 相変わらずの雑音ノイズ
 見知らぬ女性の声、としか分からなかった。
 
 その声に応えるように、ああ、と頷く少年。
 
 妙に最後だけは、いつも俺の頭にこびりつく。
 それは静かな声で唱える少年の台詞セリフ

『共に奏でよう――終焉と開闢の鎮魂歌カタストロフ・レクイエム
 
 そこで俺の意識は完全に途絶えた。
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