72 / 73
後日談
その12
しおりを挟む
そうなったら、その時はまた考えよう。
一応皇后を辞めて実家に帰る道筋を用意しておけばいい。
でも、皇后を辞めるって、どうやったら辞められるんだろう……?
なーんて思ったのが運のつき。
「『はあ? 辞められると思うなよ!? 少なくとも俺が許可しなければ廃位なんてできないからな! そして俺が許可なんで出すわけねーだろ!』との皇帝陛下からのご伝言でございます」
「李夏さま……なんで白龍に言うかな……ちょっと廃位ってどうやるのって、李夏さまに聞いただけなのに」
「今後皇帝陛下の意向によって方針が変わる恐れもありますため、念のため皇帝陛下に確認いたしました。こういうことは、変わる時にはあっさり変わるものですし」
「とか言って、どうせちゃっかり皇帝に対して点数を稼いでいるだけでしょうが。もう、馬鹿正直に私が聞いたなんて言わなくていいのに……告げ口反対。でも知ってる、李夏さまがそういう人だって!」
色とりどりの花が咲き完璧に手入れをされた後宮の庭を、優雅に女官や宦官を引き連れてする散歩に相応しい話題かどうかは、もうこの際どうでもいいです。
とにかく私は李夏さまに文句を言った。
しかし李夏さまには何のダメージもないのが悔しいったら。
「ふふ……さすがは皇后陛下です。しかし私としましても、こういうことはちゃんとお知らせしておかなければ、いざ皇后陛下が何か困ったことを始めてしまった時は私の首が飛ぶのですよ。そしてやりそうではありませんか。それだけは困ります。やるなら私の知らないところで勝手にやってくださいね」
「わかった。気をつける。こっそりやるわ」
「ああ、でもあちらには白がいますので、こっそりも無理だと思いますよ。念のため」
「ちっ」
と、その時。
てんてんてんてん。
カラフルな、鞠? ボール? 何?
よくはわからないが綺麗な色の何か丸い物が、私たちの前を転がったのだった。
はたと足を止める私。
「申し訳ありません! あっ……皇后さま、ご機嫌麗しゅう」
そう言って目の前に現れて礼をしたのは、楊才人だった。
「楊才人? まあこんにちは」
私がそう言っているうちに、後ろに控えていた宦官の一人がその転がってきたボールを拾って楊才人の女官に渡した。
「大変失礼をいたしました。秋の御前披露にと舞踊の練習をしておりましたら、落としてしまいました」
「まあそうなのですね。練習ぜひ頑張ってね」
「はい! 私、必ずや皇帝陛下がお喜びになるものをご披露いたします! あの、皇帝陛下は、舞踊はお好きでしょうか?」
「さあ、どうでしょう。でも素晴らしいものは舞踊に限らずなんでもお好きなのではないでしょうか」
そういうために作った会ではないのだけれど、とも言えず、私は無難に返事をした。
あいつ、踊りとか好きなのかな? 知らないな?
春の宴の時は普通にのんびり見ていたけれど。
しかしこうして目をキラキラさせて皇帝の目に止まってやるという意気込みを隠さない、美しく、かつ若い女性を見ると、ふと私は将来もずっとこういう人たちとあの白龍を取り合い続けるのだろうかと考えてしまう。
もちろんこれは自分で決めた道だけど、ううむなかなか……。
と、その時。
「ああ、皇后、ここにいたか」
「あっ皇帝陛下……!」
一応皇后を辞めて実家に帰る道筋を用意しておけばいい。
でも、皇后を辞めるって、どうやったら辞められるんだろう……?
なーんて思ったのが運のつき。
「『はあ? 辞められると思うなよ!? 少なくとも俺が許可しなければ廃位なんてできないからな! そして俺が許可なんで出すわけねーだろ!』との皇帝陛下からのご伝言でございます」
「李夏さま……なんで白龍に言うかな……ちょっと廃位ってどうやるのって、李夏さまに聞いただけなのに」
「今後皇帝陛下の意向によって方針が変わる恐れもありますため、念のため皇帝陛下に確認いたしました。こういうことは、変わる時にはあっさり変わるものですし」
「とか言って、どうせちゃっかり皇帝に対して点数を稼いでいるだけでしょうが。もう、馬鹿正直に私が聞いたなんて言わなくていいのに……告げ口反対。でも知ってる、李夏さまがそういう人だって!」
色とりどりの花が咲き完璧に手入れをされた後宮の庭を、優雅に女官や宦官を引き連れてする散歩に相応しい話題かどうかは、もうこの際どうでもいいです。
とにかく私は李夏さまに文句を言った。
しかし李夏さまには何のダメージもないのが悔しいったら。
「ふふ……さすがは皇后陛下です。しかし私としましても、こういうことはちゃんとお知らせしておかなければ、いざ皇后陛下が何か困ったことを始めてしまった時は私の首が飛ぶのですよ。そしてやりそうではありませんか。それだけは困ります。やるなら私の知らないところで勝手にやってくださいね」
「わかった。気をつける。こっそりやるわ」
「ああ、でもあちらには白がいますので、こっそりも無理だと思いますよ。念のため」
「ちっ」
と、その時。
てんてんてんてん。
カラフルな、鞠? ボール? 何?
よくはわからないが綺麗な色の何か丸い物が、私たちの前を転がったのだった。
はたと足を止める私。
「申し訳ありません! あっ……皇后さま、ご機嫌麗しゅう」
そう言って目の前に現れて礼をしたのは、楊才人だった。
「楊才人? まあこんにちは」
私がそう言っているうちに、後ろに控えていた宦官の一人がその転がってきたボールを拾って楊才人の女官に渡した。
「大変失礼をいたしました。秋の御前披露にと舞踊の練習をしておりましたら、落としてしまいました」
「まあそうなのですね。練習ぜひ頑張ってね」
「はい! 私、必ずや皇帝陛下がお喜びになるものをご披露いたします! あの、皇帝陛下は、舞踊はお好きでしょうか?」
「さあ、どうでしょう。でも素晴らしいものは舞踊に限らずなんでもお好きなのではないでしょうか」
そういうために作った会ではないのだけれど、とも言えず、私は無難に返事をした。
あいつ、踊りとか好きなのかな? 知らないな?
春の宴の時は普通にのんびり見ていたけれど。
しかしこうして目をキラキラさせて皇帝の目に止まってやるという意気込みを隠さない、美しく、かつ若い女性を見ると、ふと私は将来もずっとこういう人たちとあの白龍を取り合い続けるのだろうかと考えてしまう。
もちろんこれは自分で決めた道だけど、ううむなかなか……。
と、その時。
「ああ、皇后、ここにいたか」
「あっ皇帝陛下……!」
3
お気に入りに追加
1,772
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔
しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。
彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。
そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。
なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。
その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる