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後日談
その11
しおりを挟む「私は後宮に残り、妃嬪としての人生を全うしたいと思っております」
そう、まっすぐに宣言した楊才人とか、その他少数とはいえ「妃嬪」希望の方たちをどうするかよね……。
楊才人といえば、この前の後宮での春のご挨拶の時に妃嬪代表で四夫人の私たちに挨拶を奏上した人である。
あの時に感じた「私はいつか挨拶される側になる」という決意は、やっぱり本物だったし、そして今でも揺らいではいなかったのだ。
「そうですか。それでも、気が向いたときにはぜひ楊才人も素晴らしい技能をみなさまにご披露してくださいね」
そうは言ったものの。
「もちろんでございます。しかしあくまでも私の望みは、主上の皇子を産むことでございますので」
と返された。
うん、そうですか……。
まあ、ね。私だって明日ぽっくり逝くかもしれないのだ。なにしろここは陰謀渦巻く後宮。
最高の医療と言ったってレベルは推して知るべし。
出産も女性にとっては命がけの世界である。
もし皇后が亡くなれば、また新たな皇后を決めることになるだろう。政治的な役割として皇后は必要だ。
そんな可能性を考えたら、後宮の妃嬪をあえてゼロにする必要もないのかもしれない。
本人が望んでいるならね。
前世が一般庶民で民主主義の世界だった私や白龍は、つい後宮なんていらないのではと思ってしまうけれど、そんなあれこれを考えてしまった結果、しばらくは無理しないことにした。
まず最初の御前技能披露会という名の発表会を、秋頃に行うことを目標に。
そんな計画を発表をしたら、多くの妃嬪たちがいろいろと準備を考え始めたらしい。
希望者だけで考えていた人数を満たしたので、今回はじゃあその人たちが……なんて思いつつぺらっと発表予定の妃嬪の名簿を見ていたら。
「……楊才人、ちゃっかり入っているじゃあないの」
私がちょっと困惑していると横から李夏さまが、
「どうやら御前での披露ということで、ここで皇帝陛下に見初められるのだと張り切っているようですね」
といつもの天女の微笑みで言うのだった。
「なるほどそう来たか……」
うん、バイタリティというのでしょうか。その上昇志向が素晴らしい……。
「皇后陛下がかつて開発したあの薄衣をまとい、なかなか扇情的な舞踏を計画しているようです」
「なるほど?」
まあ、人の心は縛れないので、そこら辺は白龍に私があれこれ釘を刺す権利はないと思っている。
皇后になったからといってこの国では皇帝は妃嬪に手を出してはいけないはずもなく、だから、単に前世の倫理観に縛られている私たち二人の間では浮気だろうが世間的には問題なし。
ええ、もちろん、文句は言いますよ?
とりあえずは皇后宮には出禁かな?
「まあ皇帝陛下は恐妻家のようですから、心配はないかと」
李夏さま、今微笑みつつ、なんて言ったのかな?
でも毎日のしきたりで必ず朝には顔を合わせている私たち。
なんだかんだと一年を通して一緒に行う行事やしきたりの多いこと多いこと。
そんな毎日何かと顔を合わす正妻に気兼ねしつつも通う妃嬪が出来たとしたら、きっとそれは白龍がその妃嬪に本気になった時だろう。
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