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後日談
その9
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「でも、周充媛の親戚でしょう?」
「それで桜花からの嘆願があったから今回は当主だけにしたんだよ。が、今後はもうこれ以上あの家に配慮する気はない。昔からこっちを軽んじていたから今回はちょうどいい口実になった」
どうやら今までもいろいろあったようだ。
でもなー、あの程度の失言で死罪はなー……。
と、こういうときに元々は一般小市民だった自分の感覚がつい蘇ってしまう。
「あーうーん……それ、周家の全ての薬の調合レシピと財産を引き換えに命を助けるってのはダメかな? 医者や薬師としての知識を皇宮にもらえたらかなり利益になると思うのよね」
「お前……甘いな、相変わらず。でもたしかにあの家の知識が全て手に入るなら、ちょっと考えてみるのもいいか」
そしてその結果、過酷な牢獄生活に疲れ、迫る死の恐怖にあっさりと負けた周家の当主は、助命の代わりに全ての薬の情報と巨額の財産を皇帝に譲渡することを了承し、ただちに官吏たちが周家の全ての情報を押収したのだった。
もちろん当主やその他の人たちには調合の知識があるから、この先も今まで通りに医者や薬師としては生きていけるかもしれない。
しかし大半の財産を没収され、皇帝から罰せられたという汚名を得た今、これからはただの一介の医者や薬師として生活していくしかないだろう。
そして皇宮は、周家の秘伝とされた薬や医術の情報を手に入れたのだった。
「次反抗したら医師と薬師の資格を取り上げると言っといたから、あの家にはもう当分は悩まされないな!」
晴れ晴れとそう言う白龍に、
「でも毒薬を作る知識はあるから、そのうちお金のために毒の闇販売とか始めないといいけれど。何しろあの周皇太后の家族だし、貧乏には耐えられないでしょう、あの人……」
つい私がそう呟くと。
「もちろんそれを待ってまたしょっ引くに決まっている。監視しないとは言っていないからな! だから今度は当主だけじゃなくて他の奴らもあくどい奴らはみんなしょっぴけるだろう。はっはっは楽しみだな!」
そう楽しそうに言う白龍に、あれこんな人だったかな、と、かつてのもう少し平和主義だった頃の奴と見比べてしまったのだった。
皇族として生きて行くには、私はまだまだ甘いようである。
目の前のこの人は、どうやら二度の皇族生活でいろいろとたくましくなったのだと私は驚いていた。
黒い世界を見て育つと、こうなるのね。
もしかして私を庶民育ちだと言ったあの周家の主、真実を突いていたのでは?
ははは……。
でもそんな時には容赦ない皇帝陛下は、それでも傍目には見目麗しく、若い男性で。
後宮縮小計画のために妃嬪たちと面談をしていく課程で、思っていたより白龍が人気だということがわかり始めた私である。
そう、思っていたより後宮に残留したい人が多かったのだ。
なので、帰郷を希望した人を即刻退職金付きで解放したというのに、後宮の人数は最初に皇帝が希望した半分には全然足らなかった。
妃嬪たちに言われて考えてみれば、この国での若い女性はだいたいが親の決めた好きでもない男と結婚させられ、その嫁いだ家ではあくせく働かされ、その傍らで子を産み育て、とにかくよほど裕福ではない限りはひたすら一生忙しく働く人生が待っている。
そう考えるとそんな人生よりは上等な衣食住が保証され、自分の私室と小遣いまでもが与えられ、全く働かなくてもいい環境の方がいいという考えの人がいるのは理解出来た。
でも、最終的には限りなくゼロにすることも考えているらしい皇帝の意向とは合わないので、どうにかする必要があるのだった。
そういうところは、前世の倫理観に引きずられているのは私だけではなかったのだ。
その結果しょうがないので、私は公務の傍らうんうん考えて、出した結論は。
「それで桜花からの嘆願があったから今回は当主だけにしたんだよ。が、今後はもうこれ以上あの家に配慮する気はない。昔からこっちを軽んじていたから今回はちょうどいい口実になった」
どうやら今までもいろいろあったようだ。
でもなー、あの程度の失言で死罪はなー……。
と、こういうときに元々は一般小市民だった自分の感覚がつい蘇ってしまう。
「あーうーん……それ、周家の全ての薬の調合レシピと財産を引き換えに命を助けるってのはダメかな? 医者や薬師としての知識を皇宮にもらえたらかなり利益になると思うのよね」
「お前……甘いな、相変わらず。でもたしかにあの家の知識が全て手に入るなら、ちょっと考えてみるのもいいか」
そしてその結果、過酷な牢獄生活に疲れ、迫る死の恐怖にあっさりと負けた周家の当主は、助命の代わりに全ての薬の情報と巨額の財産を皇帝に譲渡することを了承し、ただちに官吏たちが周家の全ての情報を押収したのだった。
もちろん当主やその他の人たちには調合の知識があるから、この先も今まで通りに医者や薬師としては生きていけるかもしれない。
しかし大半の財産を没収され、皇帝から罰せられたという汚名を得た今、これからはただの一介の医者や薬師として生活していくしかないだろう。
そして皇宮は、周家の秘伝とされた薬や医術の情報を手に入れたのだった。
「次反抗したら医師と薬師の資格を取り上げると言っといたから、あの家にはもう当分は悩まされないな!」
晴れ晴れとそう言う白龍に、
「でも毒薬を作る知識はあるから、そのうちお金のために毒の闇販売とか始めないといいけれど。何しろあの周皇太后の家族だし、貧乏には耐えられないでしょう、あの人……」
つい私がそう呟くと。
「もちろんそれを待ってまたしょっ引くに決まっている。監視しないとは言っていないからな! だから今度は当主だけじゃなくて他の奴らもあくどい奴らはみんなしょっぴけるだろう。はっはっは楽しみだな!」
そう楽しそうに言う白龍に、あれこんな人だったかな、と、かつてのもう少し平和主義だった頃の奴と見比べてしまったのだった。
皇族として生きて行くには、私はまだまだ甘いようである。
目の前のこの人は、どうやら二度の皇族生活でいろいろとたくましくなったのだと私は驚いていた。
黒い世界を見て育つと、こうなるのね。
もしかして私を庶民育ちだと言ったあの周家の主、真実を突いていたのでは?
ははは……。
でもそんな時には容赦ない皇帝陛下は、それでも傍目には見目麗しく、若い男性で。
後宮縮小計画のために妃嬪たちと面談をしていく課程で、思っていたより白龍が人気だということがわかり始めた私である。
そう、思っていたより後宮に残留したい人が多かったのだ。
なので、帰郷を希望した人を即刻退職金付きで解放したというのに、後宮の人数は最初に皇帝が希望した半分には全然足らなかった。
妃嬪たちに言われて考えてみれば、この国での若い女性はだいたいが親の決めた好きでもない男と結婚させられ、その嫁いだ家ではあくせく働かされ、その傍らで子を産み育て、とにかくよほど裕福ではない限りはひたすら一生忙しく働く人生が待っている。
そう考えるとそんな人生よりは上等な衣食住が保証され、自分の私室と小遣いまでもが与えられ、全く働かなくてもいい環境の方がいいという考えの人がいるのは理解出来た。
でも、最終的には限りなくゼロにすることも考えているらしい皇帝の意向とは合わないので、どうにかする必要があるのだった。
そういうところは、前世の倫理観に引きずられているのは私だけではなかったのだ。
その結果しょうがないので、私は公務の傍らうんうん考えて、出した結論は。
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