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後日談
その8
しおりを挟む「周家から、皇宮で兵士が使う一年分の傷薬と大量の改心丹とかいう、たしか周家が万能薬だとやたら高く売りつけている薬が山ほど、あと俺に大量の精力剤が金と宝石で出来た入れ物に入って届いたぞ。で、皇后にくれぐれもよろしくってよ」
「えー? なにそれ。そんなものより暗心丹の製法よこせって言っといて」
「それは出さないだろうさすがに。高麗だっけ? あの女官が最後まで隠そうとしていた毒だぞ。まあお前に対して何か随分まずいと思ったようだから、これであの煩い周家も少しは大人しくはなるといいが。今頃はこっそり暗心丹の製法を捨ててるかもしれねえな」
「それかいっそ私たちに使うかね」
そう考えると、ほんと皇宮とか後宮とか、物騒な場所よねえ。
「きゅっ?」
足下でくつろいでいたバクちゃんが、私の視線に気がつくと私を見上げて可愛らしく鳴いた。
皇宮も後宮も物騒なところ。
だから、神獣が味方していないとなかなか長生き出来ないところでもあった。
実は、神獣はその主に危機が迫ったとき、それをいち早く察知して教えてくれるということを私は最近知った。
白龍が皇帝になった時も、それを良く思わない人たちからの様々な陰謀があったらしいけれど、すべて白虎の白が看破して白龍に知らせたそうだ。
そういえば私も、かつて皇后になる前、周貴妃からお菓子をいただいたことがあったのだけれど、その全てにバクちゃんが激しく反応して食べるなと騒ぐので、女官に言って全て秘密裏に捨てるように言ったことがある。
あれは、きっと周貴妃ではなくて周皇太后からの贈り物だったのだろう。そして、食べなくて正解だったのだ。
ほんと、後宮は怖いところだ。
「まあ暗殺や謀略については神獣は敏感に察知するから、お前もそのバクちゃんには従えよ? しかしあの周家、一体お前に何をしたんだ」
「えー? 私が庶民育ちだから血の繋がった姉妹を妬んで、皇帝をそそのかして周充媛を追いやらせて皇后になったんだろうって、やんわり言われたのよ」
「なに? 本当にそんなことを言ったのか?」
「言ったわね」
「なるほど。それは許せんな」
その時は単に、あら久しぶりにこの人が不機嫌になるところを見たな、と思っただけだった。
でもまあ実質後宮を出禁にしたし、なんて私は思っていたのだけど。
なんとその直後、皇帝が周家の当主を皇后への侮辱罪で投獄したのには驚いてしまった。
そして、
「当然だろう。皇后を侮辱したなら皇帝を侮辱したも同然だ。夏南にも周家当主のお前への態度を確認した上での判断だ。当主の首だけで済ませるのも腹立たしい」
と、言ったのだった。
「首!? うーん、でも私への失言で人が死ぬのはちょっと……」
「はあ? お前、皇后だぞ。もっと怒ってもいいくらいだ。そろそろ立場を自覚しろ。ま、今回は良い見せしめになっただろうから、これからはもうそうそうああいうやつも出ないだろうが」
あー、そうですね、きっとこれで皇后を軽んじたら皇帝が怒ると知れ渡ったに違いない。
しかし私より白龍の方が怒るとは。
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