逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花

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後日談

その7

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「ああ……いえ……その……あれは門外不出でございますゆえ……あの、皇后陛下には、我が家特製の改心丹という女性に大変好評いただいている高価で貴重なお薬もございまして、その方がお体に合うのではと思います。そちらをぜひお試しいただけたらと」

 わかりやすく突然揉み手をしても、もう遅いのよ。
 一応これでも皇后という立場だから、私を貶めるような言葉を見過ごすわけにはいかないのよね。

 それともまさか私が何も知らないとでも思っていたのか?
 知らなければ私を丸め込めるとでも?

 甘いわね。

「いいえ、私は暗心丹が欲しいのよ。それに皇帝陛下も飲める方がいいじゃない。めんどくさい話は嫌いよ。なにしろ私、あたなが言うように庶民育ちですからね。次、後宮に来るときには暗心丹かその製法を持っていらっしゃい。材料ならいくらでも渡すから」

「は……御意……」

 つまりもうここには二度と来るな。そのメッセージは伝わったかしら?

「まあ嬉しい。今はもう亡き周皇太后が残したものが残り少ないから、助かるわ~」

 こっちには本物の暗心丹があるからね? 違うの持ってきてもバレるよ? 

 という私の意図を、どうやら正しく理解したらしい周家の主は、さらに青くなってその後は慌てて帰って行った。

 はあやれやれ。
 まあなんだ、なんだかんだ言ってこういう時は地位というのは便利ではある。チクチク言えるだけでも随分ストレスが軽減されていいね。

 しかしあの暗心胆という毒は、ある意味先代皇帝が毒殺されたことを、あの告白がなければわからなかったほどには毒殺がわかりにくい優秀な毒だった。
 なので、もちろん残っていたその毒を皇宮で密かに分析したのだけれど、残念ながら材料や製法が全てはわからなかった。

 だから、本当に製法を持ってきたらいいんだけどな。まあ無理だろうけれど。
 あれはきっと周家の秘伝中の秘伝だろう。今回その存在が知られてしまっただけでもきっと周家にとってはたいへんな痛手に違いない。

 そんなことを考えていると、李夏さまがいつもの天女の微笑みで言った。

「では今後周家から周充媛への面会の申し込みがありましたら、お知らせしますね。皇后さまとのお約束を、ま さ か 忘れるようなことはないとは思いますが」

 この人も、結構良い性格をしているよなとしみじみ思う。まあ知っていたけどね!
 
 李夏さまは、後宮の総元締めの地位を確保しつつ、私が立后してからは、皇后専属の宦官も兼ねるようになっていた。おかげでしょっちゅう一緒に行動するようになってしまった。
 理由はもちろん、その方が李夏さまの権力を誇示できて、より自由に采配が出来るからだと思っている。

 なにしろ皇后が味方だということが、誰の目にも明らかになるのだから。
 そして私も、忙しい公務の傍らで後宮の妃嬪や女官をしっかり把握なんてしきれないので、李夏さまに完全委託しているような状況なのだった。

 そう、持ちつ持たれつ。



 そんなことがあった数日後。

「そういえばお前、周家の当主に何を言ったんだ?」
「は? なに、白龍の方に何か文句が行ったの?」
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