逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花

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後日談

その6

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 最近は、皇帝然とする白龍の態度とか、突然天女の微笑みをなくした李夏さまとかから、実地で偉そうな態度を見習うようになった私です。
 すると。

「……いえ、もののたとえでございます……」

 うーん、チクリとは言っても、さすがに面と向かって喧嘩を売る気はないらしい。
 いっそ堂々と喧嘩を売ってくれた方が侮辱されたとかなんとか騒げるのに。え、もう侮辱されてる?

 私はため息をついた。
 このまま会話を続けても、チラチラと嫌みを言いつつも周充媛の貴妃復帰くらいはしつこく主張してきそうだ。
 でもそんな会話を長々続ける気は私にはなかった。私は忙しいのよ。

 ということで。
 私はにこやかな顔になって言ったのだった。

「……ああ! そういえば、周家といえば『暗心丹』とかいう妙薬があるそうではないか。なにやらあらゆる病気を治すという秘薬で今は亡き周皇太后も愛用していたという。ぜひ私にも欲しいものだね?」

 突然機嫌を直した私を驚いたように見ていた周家の主は、暗心丹と聞いてびっくりした顔をし、そして瞬く間に青くなった。

「……は……それは……はい、たしかに……我が家秘伝の霊薬だったのでございますが、残念ながら今は手に入らない材料がございまして……もう作れないのでございます……」

 突然しどろもどろになる周家の主。
 もちろんそうだろう。暗心丹というのは、あの故周皇太后が先代皇帝を暗殺した時に使った、周家秘伝の毒なのだから。

 そしておそらく、周家もその暗心丹で先代皇帝が暗殺されたことを知っている。

 だからその名を私が出したことで、この周家の主に、その事実を私も知っているのだと暗に伝えたことになる。

 私はさらに、無邪気な笑顔になって言った。

「まあ、そうなのですね。最近はたまに頭痛がするから、ぜひ試してみたいと思っていたのだけど。……ああそうだ、ではその材料を私が用意しよう。ならば作れるであろう?」

 もちろんこれは、お願いではなく、遠回しの命令です。材料を渡すから作ってこい。作れよ?

 しかしもちろん周家としては、私が真相を知っているなら大罪がバレていて、そんな人間の機嫌を損ねたら不味いだろうし、反対にもしも私が何も知らなかったとしても、今度はそれを私が飲んで皇后が死亡なんてことになったら、それもとても不味い。皇后殺しだってもちろん一族根絶やしなのだ。

 つまりは、私はどのみち飲めない命令をしていることになる。
 なので当然反応は。

「いえ……その材料はもう何処にもないのでございます……ええ私どもも探してはいるのですが……」

 まあ、絶対にハイとは言えないね、そうだね。
 だが許さん。

「おや、そんなはずは。故周皇太后が先代皇帝に勧めた薬ではないか。つい数年前のことだ。ぜひ私も使いたい。私でダメなら皇帝陛下にお願いすればよいのか?」

「……! じ、実は……あの時に使った材料が最後だったのでございます……」

「その材料の名は? そなたが無理なら私が用意すればいいことだ。私の義父は優秀な商人だから、私のためなら何でも用意してくれる。今は材料はなくても製法は手元にあるのだろう? 作るのが嫌ならその製法をこちらに教えてくれるのでもよいぞ」
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