逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました

吉高 花

文字の大きさ
上 下
65 / 73
後日談

その5

しおりを挟む
 なぜか威圧的に、怒りを隠そうともしないでそう言うのは、周家の主らしい壮年の男だった。
 身なりも金持ちらしい大変高級なものをお召しで、その服装以外にも高そうな宝石をじゃらじゃらと身につけている男だ。

 あらあ、ちょっと下品……。
 そしてその高圧的な態度。
 なるほど、これがあの故周皇太后を生み出した土壌なのだろうと私も納得の態度なのだった。

 なにしろ正式に皇后になった私に対して、暗にとはいえ私の育ちを揶揄するとは。

 これは……卑しい育ちの女がただ皇帝の寵愛を盾に皇女だったと嘘をついてちゃっかり立后しただけ、という一部の噂を信じて私を侮っているな?
 もしくはその噂を広めた張本人か?
 
 まあそんな考えも出るだろうとは思っていたから驚かないが、しかし本人に面と向かって言う人がいるとは私も随分舐められたものだ。

「周充媛の処遇は全て、皇帝陛下がお決めになったことですので。別にこれが私の意向というわけではありません」

 まあ私は淡々と返すだけなのだけれど。
 おそらく、この周家というのは、非常にプライドが高いお家なのだろう。皇族を嫁にもらうくらいのお家なのだから、きっととても偉くて有名なお医者様なのだ。
 だけれど、ここでそんな態度がとれるとはなかなか大胆である。

 もしかして、私が皇帝にたいして大切にされていないと思っているのかしら?
 それとも、皇帝のことも侮っているとか?
 身内に故自称皇太后と皇女がいたら、そういう態度になるものなのだろうか。

「皇帝陛下は桜花さまを幼少の頃から大変可愛がっておられました。なのにまさか皇帝陛下がそのようなご判断をされるはずはありません。もしや皇帝陛下をそそのかした者がいるのではないですか? この世には親兄弟を大事にするどころか、妬むような人間もいるそうではありませんか」

 うーんそれは、周皇太后のことかな? まさか私のことを言っているわけじゃあ、ないよね……?
 私が異母妹を妬んで皇帝をそそのかし、異母妹を九嬪に追いやって皇后の座についたと、そう言っているわけでは……あるんだろうな。

 きっと同じ思考回路なんだろう、あの周皇太后と。なるほど、周家では、妬んだら相手を追いやったり殺したりしてもいいのね?
 
 やだ物騒~。

 しかしこれでわかったけれど、どうやら私には、皇后としての威厳が足りないようだ。
 私がにっこりしているからって、まさかこのようなことを言われるなんて。

 どうやら周家は、私を皇后とは認めないと言いたいらしい。

 それとも普段からこんな風に偉そうにしているその地が出ただけなのかしら?

 ……もういっそ、真実を言うべきか?

 とはちらりと思ったものの、周充媛を死罪にはしたくないと思っている白龍の意向に逆らうのもなあ……。

 しょうがないので、私は出来るだけ偉そうに、周家当主を睨みつけて言った。
 ええむかつく奴なので、あまり演技力はいらなかったです。

「それは、誰のことを言っている……?」
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...