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御璽
しおりを挟む「ああ……そういや説明の途中だったな。じゃあ話を戻すとだな、なんだっけ、ああ……あの白虎の白が俺に憑いていたから、俺は強気に先代皇帝の桜花との結婚の命令を拒否し続けた。すると必ず結婚させるために、あの先代は死ぬ直前になって、御璽を俺に渡さずに桜花の母の周皇太后に預けたんだ。そして俺が皇帝に即位し、同時に桜花を娶ったら御璽を返すと言われた」
「え、御璽って、皇帝の判子じゃないの?」
「そう。もう先代皇帝の子供は桜花しかいなかったから、先代もやたら必死でな。だからダメ押しに官吏たちの前で、皇女を娶らなければ皇帝位は認めないと勅命まで出しやがったんだ。厄介なことにそれが正式な勅令としていまだ生きている」
「皇帝に即位してから取り消すことは出来なかったの?」
「その取り消しをするのにも御璽が必要なんだよ」
「もしや周貴妃を貴妃にしても、御璽が返ってきていない?」
「そのとおり。皇后しか認めないと周皇太后が言い張っている」
「なるほど。でもそれじゃあ普段の仕事はどうしているのよ」
良くは知らないけれど、皇帝のお仕事って判子を押すことじゃあないの?
と思ったら。
「普段の仕事では御璽は使わない。だから大抵のことは出来る。だが、たとえば国の軍隊を動かすとき、勅命を出すとき、あとはたとえば次の皇帝や皇后を指名するときなんかには必要だ」
「皇后の指名」
「そう。だから周皇太后には、桜花を皇后にする指示書を書けば喜んでそれに押してから返すと言われている。が、それは俺がずっと拒否している」
「でもそれ、誰かが勝手に書いて勝手に判子を押されたら」
「俺もそれが怖いから、できるだけ複雑な署名を作って俺の直筆の証明にしている。あと筆跡の鑑定士も複数雇った」
「ああ……大変ねえ……」
「もう白状すると、桜花のところにお茶に呼ばれて行くのも周皇太后の命令だ。最近はしびれを切らしたのか、これ以上桜花を放っておくなら御璽を捨てると言い出している」
なるほど、だから周貴妃をないがしろにできないのか。
「その周皇太后、どうにか出来ないの?」
「御璽を人質にとられているからなあ……しかも公ではないが、実は名実ともに一番力のある楊太師を味方につけているから、少しでもご機嫌をそこねると政務にも影響が出るんだ。周皇太后は昔から気が強い上に策略家でな」
「あー……」
「なにしろ先代の生き残っている唯一の子の母だからと勝手に皇太后を名乗って呼ばせているような人で、楊太師の実の姪でもあるからもう好き勝手だ。傍流だった俺のことなんて完全に見下しているから、すぐにいろいろ命令してくるぞ」
「あーそれは手強い……」
皇帝でいるのも大変なんだね。
だけれど。
考えてみればこの人、前の人生では皇帝になってないよね?
前回の人生ならこんな悩みもなかったのでは?
今回と前回の人生では何が違うのだろう。
と思って聞いてみたら。
「前の人生の時は先代皇帝がもっと長生きしたんだよな。なぜかはわからない。どちらも同じ病気のように見えたが、前回は死ぬほどではなかった」
「同じ病気ではあったの? 前回の時は先代皇帝が崩御した後は、誰が皇帝になるはずだったのよ」
「俺だ。前回も俺に白が憑いていたからな。だが、即位する前に馬車の事故で死んでしまった」
「え……?」
「……あの最初のトラックの時と全く同じ年の同じ日だったから後から驚いたんだが、その日は甲陽市で俺が乗っている馬車が突然暴走して、どうやらそのまま壁かなんかに激突したらしい」
「……私、もしかしてその馬車に轢かれて死んでるかも」
「はあ?」
「だって同じ日に同じ場所で複数の馬車が暴走するとはあまり思えないでしょう。甲陽でしょ?」
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「私たち、多分、また一緒に死んだのね」
私たちはそのまま無言でお互いの顔を見合わせたのだった。
「もしかしたら、これ不味いんじゃないか?」
白龍が言った。
「奇遇ね。ちょうど私も同じ事を思っていたのよ」
私も顔を引きつらせながら言った。
これは、またループする可能性がある?
私たち、またあの年のあの日に一緒に死ぬかも?
「待て待て待て。それはいい加減にやめよう。断ち切らないと」
「でも、ループしないための条件なんてわからないのにどうするの」
「条件ははっきりとはわからないが、なにか理由はあるだろう」
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すでに一回、ループした。
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「それか!? そういうことか!? じゃあ今度こそお前とちゃんと添い遂げれば……」
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「はあ? もちろんダメに決まってるだろうが! お前に指一本触れられないでなにが夫婦だ! だがループした原因が俺の後悔だとしたら話は簡単だ。今度こそお前とちゃんと結婚して所帯を持てばいい。もうお互いの気持ちもはっきりわかったことだし、これからはお前、俺の夢を叶えてくれるんだよな?」
「それとこれとは別だわね」
「おい」
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